世界史の授業理論

T.「理論批判学習」
(1)理論の作成者  原田智仁先生(現在、兵庫教育大学社会・言語教育学系教授)
(2)理論の概要
 ある歴史事象について、まず教師自身その事象を説明する解釈(=理論)を明示する。そのうえで生徒は、その解釈の妥当性を批判的に吟味・検証する。。つまり、教師が問いと資料を提示し、教師の援助のもとで生徒は教師が行った過程を追体験するということである。
(3)この理論の特徴
 歴史事象を説明する科学的理論の習得が可能となる。したがって社会を科学的に認識しようとする態度、あるいは真実を追究していこうとする態度が育成されると考えられる。この点で、森分孝治氏の立場に立つ授業である。ただし批判的な思考力の育成は、まず期待できない。またこの理論にもとづく授業では、現在の状況をまず検討し、「なぜこうなっているのか?」という問題からスタートする。例えば、現在の南北問題からスタートし、ついで19世紀のインドとイギリスにつなげる、など。したがって、現代世界を理解するという目的と、方法・内容に一貫性が認められる。私自身は専門高校に勤務していたころ、「紋章の授業」等この理論にもとづいてつくったこともあり、必ずしも現代社会の理解と結びつける必要はないと思う。
(4)この理論にもとづく授業案
  @原田智仁「『イギリス産業革命』の授業構成」『社会科研究』第32号,1984
  A 〃 「探求的歴史授業の教材開発―7・8世紀の東アジアと日本―」『社会科研究』第38号,1990
  B 〃 「高校世界史単元の開発−小単元「カースト制度の歴史構造」教授計画書試案−」
      『兵庫教育大学研究紀要』第15巻,1995
  ※「理論批判学習」にもとづいた単元開発の試みとして、「高校歴史単元開発の方法−理論の選択と組織を中心に−」
   『カリキュラム研究』第6号,1997  がある。

U.「解釈批判学習」
(1)理論の作成者  児玉康弘先生(現在、新潟大学教育人間科学部教授)
(2)理論の概要
  ある歴史事象に対する異なる解釈(=歴史理論)を子どもに批判検討させ、子ども自身に「どちらの理論がより妥当か」を判断させる。
(3)この理論の特徴
  この理論のベースとなっているのは、原田氏の「理論批判学習」だと思われる。「理論批判学習」は、ある歴史事象を一つの解釈(理論)で説明しようとするものであった。そのため「批判」のプロセスで教師が子どもに与える資料は、すでに教師自身が解釈・判断を行う際に使用した資料である。したがって生徒が行う追究が「批判」的になることはまずありえない。その点で、この「解釈批判学習」は、他者の解釈と自己の解釈を比較・対照することを通じて、一つの味方にとらわれない開かれた歴史認識の育成が可能となる。また、相互に反証を行うことで、生徒の認識も、より科学性が増すと思われる。公民科における授業案も出されており、、汎用性は高いと思われるが、生徒にかなり高いレベルの学力を要求する。
(4)この理論にもとづく授業案
 @児玉康弘「中等歴史教育における解釈批判学習−『イギリス近現代史』を事例として−」,『カリキュラム研究』第8号,1999
 A  〃  「『公民科』における解釈批判学習−『先哲の思想』の扱い」,『社会系教科教育学研究』第16号,2004

V.「日常生活史にもとづく歴史授業」
(1)理論の作成者 梅津正美先生(現在、鳴門教育大学助教授)
(2)理論の概要
 「行為の反省過程」にもとづいて授業は構成される。   @事実認識過程)、A学習者自身が主体の内に行為評価の枠組みを構成する過程、 B行為評価の枠組みを相互評価し、行為の再方向づけをしていく学習過程 である。
(3)この理論の特徴
 過去の人々がその当時の社会の中で行った主体的行為決定と役割を認識することを通じ、現在の可変的な社会との関係性を絶えず吟味しながら、自己の評価基準や行為の選択に対して反省的に意志決定していく能力の育成を目指している。「歴史は何のために学ぶのか?」という問題意識が極めて明確に表れた理論である。また理論の特性上、討論が重要な役割を果たす授業論であり、高校の授業では一般的な内容主義的授業とは一線を画している。しかしその一方では学習者にかなり高い学力と、さらに授業への動機づけを要求する授業であり、また民衆の日常生活における行為を検討するため、史料が多く残っている近現代以外を対象とするのは難しいだろう。
(4)この理論にもとづく授業案
@梅津正美「状況における行為の反省過程としての歴史授業構成−高校地歴科世界史B小単元  『ナチス支配下の民衆生活』の開発を事例として−」、『社会系教科教育学研究』第9号、1997
A梅津正美・平井英徳「行為の反省過程としての歴史学習−高校地理歴史科世界史B小単元『北米植民地における魔女狩りと民衆意識』の場合−」,『社会系教科教育学研究』第13号、2001