紋章の授業

 1999年10月、愛媛県で世界史の先生をなさっている向井先生のご厚意により、
発表させてもらったメルマガをそのまま載せています。
素晴らしいリード文までつけてもらいました。
向井先生発行のメルマガはとても参考になるので、
御講読をオススメします(無料)。
詳しくは文末の向井先生のホームページまで。

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このメールマガジンは、インターネットの本屋さん 『まぐまぐ』
を利用して発行しています。
  なお、購読解除は上記でお願いします。
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コンセプトは違いますが、世界史関連のメルマガを紹介します。
  『世界史講義録』−こんな話を授業でした−
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 『世界史なんか怖くない』特別号(1999.10.10)
  本日のテーマは「紋章」です。
但し、今回の筆者は私ではありません。
後でも自己紹介されていますが、
熊本県の平井先生です。

子供の頃、
洋服の生地についていたプラスチック製の紋章や
洋酒のラベルに描かれていた紋章に
圧倒的な魅力を感じたものです。
遠い昔、夜行列車で東京に行ったとき見た、
山崎の、霧の中から現れたサントリー工場の巨大なエンブレムは、
今も忘れられません。
幸い洋服屋さんの子供が友達だったので、
時々不要になったものをわけてもらいましたが、
宝物として大事にしまったものです。
それが一体何のために、どのような理由で使われるのか
などということはすっ飛ばして、
とにかく文句なしに宝物だったのです。
キラキラと複雑なヨーロッパの紋章は
子供の心をファンタジーの世界に
一気に引き込む魅力を持っています、たしかに。

 その紋章を切り口にして授業を展開されたのが
平井先生です。
私も、紋章に着眼して授業を作りたかった、
という気分です。
まぁ、これを土台にしてもっといい授業を作る
というだけですね。

なお、以下の資料はかなり割愛されたものです。
私が以前平井先生からいただいた資料はもっと
具体的で、かつ詳細なものでした。
つまり、“授業のカンヅメ”でした。
というわけで、関心のある方は是非
平井先生にメールを出し、資料を請求されますよう
お勧めしておきます。


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   1.はじめに
 熊本県の県立高校で世界史を教えている平井英徳と申します。
高校の教師となり今年で11年目になりますが、
現在は徳島県の鳴門教育大学大学院
社会系コース(外国史学・西洋史)に現職派遣され、
勉強させていただいています。
今回向井先生の御好意により、
イギリスの紋章を使った授業を紹介させていただく機会を
いただきました。
紋章の教材化の例としては、
綿引弘先生の『手に取る世界史教材・入手と活用』(地歴社)の
35ページに紹介してあります。
そこで紹介されているのは、
ヨーロッパの都市やギルドの紋章を使用したもので、
「代表的な同業組合の紋章を資料図版に大きく描いたものをつくり、
一枚一枚教室で生徒に示すクイズゲームをしてみる」
という教材化です。
今回はそれとは異なる扱い方を考えてみました。
図版を示すことができればよいのですが、
残念ながら添付できませんので、
文中に示した文献をご参照下さい。
さまざまなご意見を頂ければ幸いです


 オーストリア発行オーストリア成立1000年記念切手

   2.紋章とは何か
 まず紋章とは何かということですが、
日本における紋章研究の第一人者である森護氏によると
一応の定義としては
「中世ヨーロッパのキリスト教支配の貴族社会を背景に、
騎士個人を識別するため、楯に描いたシンボルで、
代々継承された制度」ということになっています。
イギリスでは今でもこの制度が続いており、
よくスコッチウイスキーのラベルについています。
私も授業の導入には、カティサークやブラック&ホワイト、
ホワイトホースなど現在の英女王の紋章がはいっているものを
二本ほど持っていき、
「メーカーが違うのに、同じマークが入っているのはなぜだろう」
という発問からはじめることにしています。
ついでにスコッチとバーボンの違いに触れておくと、
フランスの絶対主義のところでブルボン家との関係に使えると思います。
なお紋章とは何かについて詳しくは、
森護氏による『紋章の切手』(大修館書店)、
『ヨーロッパの紋章』(河出書房新社)、
『西洋の紋章とデザイン』(ダヴィッド社)が参考になります
(後2冊は少々専門的になりますが)。
また、ミシェル=パストゥロー著『紋章の歴史』(創元社)も
図版が多く、日本の家紋にも言及してあり、
読んでたいへん面白い本です。

   3.マンガを使った導入
 授業ではさらに紋章に興味を持たせるために、
マンガ『マスターキートン・6』
(浦沢直樹・画、勝鹿北星・作、小学館)所収の
「アザミの紋章」から、194〜197ページも
読ませることにしています
(浦沢直樹さんは現在『ビッグコミック・オリジナル』に
連載中の『MONSTER』が大好評なので、
生徒にもたいへん受けがよいと思います)。
このマンガを読ませる理由は、
紋章に関する専門用語もかなり詳しく正確に書かれており、
紋章の構成を説明する際に、たいへん役立つからです。
マンガには、コンパートメント、クレスト、モットー、
ヘルメットなどの用語が登場するので、
それらの用語に注意して読み、出てきた用語には線を引かせます。
  さて、マンガの中で主人公が
「アザミと言えばスコットランドの紋章です」と言っていますが、
その理由は、1263年のスコットランドとノルウェーの間で
戦われたラーグズの戦いに由来します。
スコットランド西部のラーグズに
兵員を配置していたスコットランド軍に対し、
ノルウェー軍は夜襲を企図しました。
しかし暗闇のなかで素足のノルウェー兵がアザミを踏みつけ、
刺さったとげの痛みで大声をあげてしまい、
夜襲を察知したスコットランド軍は先制攻撃をかけ
大勝することができました。
これ以来、アザミはスコットランドのバッジとして
定着することになります
(森護著『スコッチ・ウイスキー物語』、
大修館書店、46〜47ページ)。

なお、紋章を構成する部分にサポーターとよばれる部分があり、
『紋章の切手』27ページには、
サポーターが採用されるようになった理由については
定説がないと書かれていますが、
ウォルター=スコット作『アイヴァンホー』(岩波文庫)
376ページの注(113)では、
騎馬槍試合の際の従者の仮装が由来であるとされています。

   4.紋章を授業にどう生かすか
 授業において、具体的にどのよう紋章を使用するかですが、
「紋章は中世を連想させる」(『紋章の歴史』53ページ)もので
、 私もヨーロッパ中世で使用しています。
メインの教材として使用するのは、
現在の英国王エリザベス2世の紋章です。
なお、プリントして配布するには、
『スコッチ・ウイスキー物語』3ページに掲載されている
現国王エリザベス2世の紋章がもっともよいと思います。

    ★百年戦争
 『紋章の切手』82ページには、
英国王(正確にはイングランド国王ですが)の紋章の変遷が
示されています。
これを見ると、1340年頃から英国王の紋章に
フランス国王の紋章が組み込まれているのが分かります。
フランス国王の紋章は同書の72ページにも示されていますが、
それよりも使用している資料集などを探してみると
色々なところに出てきますから、
そちらを示した方がよいかもしれません。
例えば、『世界史写真集』(山川出版社)の
61「カール大帝」の台座の部分や、
教科書『世界史A』(実教出版)37ページの
図版「フランク王クローヴィスの受洗」の中に見ることができます。
資料集によく掲載されいるルイ14世が
羽織っているマントにも見ることができます。
そこで、
「ある時期から英国王の紋章には、
フランス国王の紋章がはいっている。
どの時期からだろう?」と発問し、
その時期に英仏間に起こった事件について、年表で調べさせ、
百年戦争の導入としています。
自分の紋章にフランス国王の紋章を加えたのは、
もちろんエドワード3世です。

  ★プランタジネット朝
 「現在の英国王エリザベス2世の紋章に見られるモットーは、
何語で書かれているのだろう?」と質問してみましょう。
英語ではないことは、一目瞭然なので、
おそらく生徒は「ラテン語」と答えるかもしれません。
しかしこれはフランス語です。
“Dieu et mon droit(神と我が権利)”
という現在の英国王の紋章に見られるモットーは、
リチャード1世(獅子心王)の雄叫びに由来している
といわれています
(紋章に加えられたのはヘンリ6世の時代)
。 彼はプランタジネット朝の王でフランス人だったため、
フランス語しか話せなかったのです。
このことについては、
スコットの『アイヴァンホー』がたいへん参考になります。
また、模範議会との関係で、
英語のparliamentはフランス語の
parler(話す)が語源であることを
紹介しても良いでしょう。

  ★グレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国
 現在の国王であるエリザベス2世の紋章を見ると、
中央の楯の部分が4つに分けられています。
このように複数の紋章を組み合わせることを
クォータリングといいます。
このように複数の紋章を組み合わせる理由は、
個人の紋章は結婚によって、また国王を始めとする主権者の場合には
その支配する領土の増減を紋章に表現したからです。
現在の英国王の紋章では、
四分してある部分の向かって左上と右下が「三頭のライオン」、
右上が「立ち姿のライオン」、
左下が「たて琴(ハープ)」で、
それぞれイングランド、スコットランド、アイルランドの紋章であり、
連合王国の成り立ちを示しています。
 ところで、ウェールズの紋章がないのはなぜでしょう。
手元の副教材『ニューステージ世界史詳覧』(浜島書店)の
80ページと86ページの地図を比べてみましょう。
80ページの地図ではウェールズ地方は
イングランドに含まれていませんが、
86ページの地図ではイングランドに併合されています。
つまりウェールズは独自の紋章が出来る前に
イングランドに併合されてしまったのです。
もっとも、このような事情はユニオン・ジャックを使った方が
分かりやすいかもしれません
(『ニューステージ世界史詳覧』140ページ)。
また『紋章の切手』には
イングランド、スコットランド、北アイルランド、
ウェールズで発行される普通切手は
少々異なることが紹介されています。
私も雑誌『スタンプマガジン』の広告を参考に、
ウェールズとスコットランドの切手セットを購入しましたが、
確かにその通りでした。

  ★ばら戦争
 印刷すると見えづらくなるかもしれませんが、
コンパートメントの部分では花が見えます。
もちろんこれはバラですので、ばら戦争の導入に使えます。
あるクラスでは「さくら」という答えが出ました。
私が「惜しい!他に」と続け、「バラ」という答えが出たとき、
先ほどの生徒が「全然惜しくないやん」と言ったので、
「桜はバラ科だよ」と言ったら皆一様に驚きを示していました。


 以上ですが、いかがでしょうか。
実際では1コマの授業で全てを消化できないので、
幾つかを精選してやることになるかもしれませんし、
2時間でやることも考えられます。
どうぞ忌憚のないご意見をお待ちいたします。

 
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<紋章を扱ったサイトへのリンク>
A GLOSSARY OF TERMS USED IN HERALDRY 紋章用語の解説など(英語)。
総合紋章学サイトHeraldry.8m.com 紋章用語辞典や文献リスト、 アイコンのダウンロードもあります。
College of Arms  英国紋章院(College of Arms)の公式サイト。




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