◆気になる(オールド)ニュース(2005年)
◎表紙ページに随時掲載している「気になるニュース」の2005年分です。
戦後初の人口減(05/12/27)

 27日に報告された2005年国勢調査の速報値によると、日本の総人口は1億2775万6815人で、04年に比べ約1万9000人減少した。総人口の減少は戦後初めてのことである
 日本における出生数は、1973年前後の第2次ベビーブーム世代が出産適齢期を迎えた1990年代には120万人前後を維持していたが、その後、若い女性の絶対数が減るにつれて、20万人/年のペースで減少が続いている。また、合計特殊出生率は、わずかな揺らぎを別にすると、1973年以降、ほぼ一貫して減少しており、2004年には 1.29 と過去最低になった。出生率の低下は世界的な傾向であり、日本を下回る国も稀ではないが、西および北ヨーロッパに出生率低下に歯止めのかかった国が現れていることは注目に値する。合計特殊出生率で見ると、ドイツは、1994年に 1.24 という最低値を記録したが、2003年には 1.34 にまで増やしている。フランス・イタリア・スウェーデンでも出生率は持ち直した。こうした国々では、出産・育児休暇中の所得保証や第3子以降の児童手当の増額など積極的な少子化対策を進めており、婚外子の割合も高い。社会全体が少子化問題に真剣に立ち向かう必要があると言えよう。
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クローンES細胞に捏造疑惑(05/12/17)

 2004年にヒト・クローン胚からES細胞を作ったと発表したファン・ソウル大学教授の研究に対して、捏造疑惑が巻き起こっている。共同研究者が「ES細胞は存在せず、ファン教授は論文の撤回に同意した」と述べたのが発端で、世界トップクラスの研究を巡るスキャンダルに、多くの研究者は衝撃を受けている。
 ヒトES細胞(胚性幹細胞)は、損耗した臓器を甦らせる再生医療の切り札とも言われるもので、通常は、不妊治療のために用意されながら使用されなかった受精卵から作成される。しかし、胚盤胞の段階まで成長した受精卵を破壊するため、安易に作成することに対して生命倫理の観点から批判する人も少なくない。また、ES細胞から再生医療用の組織を培養しても、患者とは異なる遺伝情報を持っているため、移植の際に拒絶反応が生じる。そこで、患者本人の体細胞から作ったクローン胚由来のES細胞を利用することが考案された。クローンES細胞を使えば、移植しても拒絶反応が生じず、また、子供を産むために作った受精卵を破壊する必要もない。
 2004年2月にファン教授らの研究チームがヒト・クローン胚由来のES細胞を作成したという発表は、大きな驚きをもって迎えられた。そもそも、ヒトのクローン胚は作成が難しく、クローン羊ドリーを作ったのと同じ体細胞クローン技術を用いても、卵割が数回行われた段階で細胞が死ぬことが多い。ファン教授らは、世界で数グループしか成功していないヒト・クローン胚の作成を行ったのみならず、このクローン胚を特殊な条件で培養してES細胞を取り出すという技術的難関まで易々と突破したという訳である。さらに、2005年5月には、(クローン作りに向いた乳腺や卵管の細胞ではなく)皮膚細胞を使ってクローン胚を作成、そこからES細胞を得るという離れ業まで行った。これが事実とすれば、クローンES細胞を用いた再生医療に道が拓けたことになり、世界中の研究者が色めき立ったのも当然である。
 ヒト・クローン胚の作成に関しては、フランス・ドイツなどいくつかの国が、倫理的に容認できないとして、法律で禁止している。日本では、法律の条文には規定されていないが、「クローン規制法」の指針で禁止されている。アメリカには法的な規制はないものの、ブッシュ大統領を筆頭に批判者が多く、研究は停滞している。これに対して、ハイテク立国を目指す韓国では、政府支援によって積極的に研究が推進されており、世界のトップに位置すると目されていた。再生医療が実用化すれば、全世界で数十兆円という巨大産業に成長すると目されており、関連特許を押さえておけば、現在、アメリカの多くのバイオ企業が恩恵に浴しているのと同様に、莫大なロイヤリティ収入が期待される。この分野は、バイオテクノロジーの最先端であると同時に、欲望のうごめく生臭い領域でもある。
 ファン教授の業績に最初のけちが付いたのは、今年の11月のことである。クローン胚作りに利用された未受精卵が、部下に当たる女性研究員から提供されたものと判明、入手方法に倫理的問題があったと指摘された。このとき、韓国国内ではファン教授を擁護する意見も少なくなかったが、今回の捏造疑惑が表面化して、擁護派にも動揺が見られる。
 現時点では、ヒト・クローン胚由来のES細胞が実際に作成されたかどうか、判然としていない。ファン教授は、体細胞クローンの作成で卓越した業績を上げており、異種移植用遺伝子操作ブタのクローン作りも行っている。2005年8月には、哺乳類で最も難しいとされたイヌのクローン作りに成功した(捏造でなければ)。クローン動物の作成には、マイクロマニピュレータを巧みに操作する手腕が要求されるので、余人の追随を許さないクローン作りの名人が現れることは、それほど不思議ではない。おそらく、ヒト・クローン胚を作って培養したところまでは、事実なのだろう。その後にES細胞が作られたどうかは、今の段階では、ファン教授本人だけが知っていることである。イルメンゼー──ピペットを用いた核移植に卓越した技術を持ち、1981年に世界初のクローン哺乳類(マウス)作りに成功したと発表したジュネーブ大学教授──は、その後、誰も実験を再現できなかったために、早すぎた天才ともいかさま師とも言われつつ、学界の表舞台から姿を消したが、ファン教授は、どんな運命を辿ることか。
※12月26日、ソウル大学調査委員会は、患者の皮膚細胞から作ったクローン胚によるES細胞は存在しなかったと発表した。当初の報道では、2個しか作らなかったES細胞のデータを11個作成したかのように捏造したとされていたが、これで、研究全体が虚偽だったことが判明したわけである。
【参考】クローン技術人体改造時代の幕開け
みずほ証券、大量誤発注(05/12/09)

 みずほ証券は、東証マザーズに新規上場したジェイコム株の売り注文で、「1株61万円」とすべきところを誤って「61万株1円」と入力する発注ミスを犯し、270億円の損失を出したと発表した。ジェイコム株は、大量の売りが出たことでいったんは急落したが、みずほ証券が自己勘定で買い注文を出したためにストップ高となった。売買が成立した株の大半はみずほが買い戻したものの、一部に買い戻せなかった株も出たもよう。
 コンピュータで発注する際の入力ミスは、これまでもたびたび起きている。以前に東証で「9万株」の売りが誤って「9000万株」と発注されたケースでは、取引そのものが成立しなかったが、今回は、発行済み株式(1万4500株)の40倍もの株が取り引きされてしまった。存在しない株の大量の“空売り”が成立したことに、そもそも問題があると言えよう。証券会社の株式売買システムでは、異常な価格での注文や発行済み株式数を上回る注文に対して警告メッセージが出るとのことだが、みずほの担当者は、これを無視したらしい。警告はかなり頻繁に出るため、作業に慣れた人は、無視して入力を続けることが多いと言われる。警告メッセージの出し方、誤入力に対する修正法などの点で、システムを改良する必要がある。
 2002年には営業を開始したばかりのみずほ銀行で大規模なシステム障害が発生しており、みずほグループにとってコンピュータ・システムは鬼門のようである。

【追記】その後、東証側の発表により、入力ミスによるみずほ証券の誤発注をキャンセルできなかったのは、東証のシステムに不具合があるためだと判明した。東証のコンピュータは、「1円」というみずほの売り注文を値幅制限内に収まるように「57万円」と解釈し直したが、こうした「みなし処理」による取引が続いている間はキャンセルを受け付けない仕様になっていた。
 過去の事例を見ても、入力ミスをキャンセルできなかったためにトラブルにつながったケースは少なくない。1986年に東テキサスがんセンターで起きた放射線治療機による死亡事故は、オペレータが、電子線とすべきところを誤ってX線と入力したことに起因する。オペレータは即座に修正したが、入力してから8秒間は照射準備モードに入って修正を受け付けなかったため、X線用の大量の放射線を電子線照射の設定で照射してしまった。また、1994年に名古屋空港で起きた中華航空エアバス機墜落事故では、降下中にパイロットが誤って「着陸やり直しモード」となるスイッチに触れてしまったことが発端となった。パイロットたちは、着陸態勢の中でモードの切り替えを試みるが、エアバス社が当時の主流であったボーイング社とは異なるインターフェースを採用していたため、モードの切り替えができないまま、着陸しようとするパイロットと着陸をやり直そうとするコンピュータの間でコンフリクトが生じてしまった。一般論を言えば、いつでも入力ミスをキャンセルできるようにするのがプログラミングの鉄則だが、現実には、入力ミスには無数のパターンがあるため、その全てに対応するのは困難である。
【参考】コンピュータ・システム障害
タミフル騒動(05/11/21)

 インフルエンザ治療薬タミフルを巡って、さまざまな報道が現れた。
 厚生労働省は、新型インフルエンザの大流行に備えて、2500万人分のタミフル備蓄を目標とする行動計画を発表した。新型インフルエンザは、従来のインフルエンザと鳥インフルエンザのウィルスが遺伝子を組み換えて発生すると予想されており、ワクチンや免疫が効かないために世界的な大流行(パンデミック)となる危険性が指摘されている。日本で大流行した場合、死亡者は17〜64万人、外来患者は1300〜2500万人に上ると予測される。タミフルは、感染初期に処方すれば、インフルエンザ・ウィルス(A型またはB型)の増殖を抑制し、罹患期間を短縮する効果があるため、新型インフルエンザの流行を抑えるのに有効だと考えられている。
 厚労省の動きと時期を合わせるように、タミフルの副作用に関する報告が相次いでいる。米食品医薬品局は、タミフルを服用した日本人の子供12人が死亡したと発表した。ただし、タミフルとの因果関係は明らかではない。厚労省も13人の死亡を確認しているが、大半はタミフルの副作用によるものではないとしている。このほか、服用後に精神錯乱や幻覚などの精神神経症状が見られた例も32件(うち31件が日本のもの)報告されている。日本のマスコミでは、17歳男子がタミフル服用後に車道に飛び出してトラックにはねられ死亡したケースと、14歳男子がマンション9階から転落死したケースが大きく報じられた。
 タミフルに関しては、「リスクと効能を秤に掛ける」というリスク・アセスメントの基本的な考えを適用すべきである。タミフルの添付文書には、副作用として、肺炎やアナフィラキシー様症状などとともに、「意識障害、異常行動、譫妄、幻覚、妄想、痙攣」があると記載されているものの、頻度は明らかではない。異常行動等については、インフルエンザ脳症との関連も疑われている。服用後の死亡や異常行動の報告が日本に偏っているのも奇妙だが、タミフルの世界総生産量の6〜7割が日本で消費されていること、および、インフルエンザの神経症状に関しては監視体制が比較的整っていることの結果だと見られる。副作用の程度は必ずしもはっきりしないが、これまでの報告例を処方数と照らし合わせると、それほど深刻なものではないと言えよう。一方、タミフルの効能についても、冷静に判断する必要がある。タミフルは、感染初期にウィルスの増殖を抑えるための薬であり、インフルエンザの特効薬ではない。従来型のインフルエンザに関してはワクチンの方がはるかに有効性が高く、また、手洗いやうがいなどの日頃の対策も重要である。こうした点をふまえて、タミフルに対して過大な恐れや過大な期待を抱かず、適切に使用することが望まれる。個人的には、厚労省の行動計画は妥当な線だと考える。
スパイウェアによる詐取で摘発(05/11/11)

 警視庁は、詐取したインターネット決済用のIDとパスワードを使って自分の口座に不正に送金していた男を、不正アクセス禁止法違反と電子計算機使用詐欺の疑いで逮捕した。この男は、ID等を詐取するスパイウェアをメールに添付して送信していたが、その際、送信元を突き止められないように、セキュリティの甘い無線LANに侵入し、それを足場にメール送信を行っていたとされる。また、スパイウェア入りのCD-ROMを銀行名を騙って送付していた容疑も濃厚である。
 スパイウェアの定義は、厳密に与えられているわけではない。ユーザがそれと意識しないうちにインストールされ、訪れたサイトのURLやユーザの入力した情報を無断で外部に送信するものが、「狭義のスパイウェア」と呼ばれるが、これ以外にも、「ポップアップ広告を表示させる」「広告サイトにアクセスさせる」といったアドウェア・タイプのものもスパイウェアに含めることがある。スパイウェアの多くは、顧客の嗜好を調べるマーケティング・リサーチの行き過ぎによるもので、うっとうしいだけで実害はない。しばしばスパイウェアに分類されるクッキーには、サイト内で入力した情報を記録しておき、次に訪れたときにわざわざ入力しなくても済むという“便利な”機能も備わっている。セキュリティの観点から見て問題のない情報送信ツールは、有害なソフトウェア(マルウェア)に含めないとする考え方もある。しかし、こうした機能を悪用して個人情報を詐取することは技術的に常に可能であり、機能をもとに有害性の有無を判別するのは困難である。ユーザに無断で行われる送信は一律にブロックし、知識のあるユーザが許可したときにのみ送信を可能にするような設定が好ましい。
 こんにち、パソコン・ユーザの圧倒的多数は、ITについての専門的知識を持たない一般人であり、顧客からの苦情を装ったメールを受け取れば、添付ファイルをクリックしてしまうのは、ごく自然な行為である。今回のケースでも、スパイウェアをインストールしてしまった被害者を、迂闊と誹るのは適切でない。そもそも、ファイルをクリックしたときの操作をOS全体で共通化するというマイクロソフトの方針は、危険性を助長するものである。メールの添付ファイルのようにユーザから見て“外部”に存在するファイルに関しては、(マクロの実行機能を持たない)ドキュメント・ビューアのような特定のヘルパー・アプリケーションしか起動しないソフトを普及させることが必要である。
東証システム障害で売買停止(05/11/02)

 東京証券取引所は、売買システムのトラブルにより、11月01日午前の全銘柄の売買を全面的に停止した。今年に入ってからジャスダックで3度にわたり売買が停止するなど、証券取引所でのシステム障害に対する懸念が高まっていた中での出来事であり、日本の証券市場に対する信頼性を損ないかねない。
 近年に大規模なシステム障害を起こしたケースとしては、東証株式売買システム(1997)、みずほ銀行決済システム(2002)、航空管制用飛行計画処理システム(2003)などがある。いずれも、プログラムの不具合が障害の引き金になったと考えられるが、必ずしも、システム開発者側に責任があるとは言えない。みずほ銀行の場合、コンピュータ・システムの重要性に対する認識の乏しい経営陣がシステム統合の方針をなかなか決定できず、最終的なシステム案が決定したのが統合直前の2001年暮れであり、プログラム開発の時間的余裕がなかったのが、最大の原因である。一般的に言って、事業の実務とプログラミングの双方に習熟した人材が皆無に等しい状況で、複雑化・巨大化したシステムに対して完璧なプログラムを開発するのは、事実上不可能である。事前に充分なチェックを繰り返して不具合を取り除いていくのだが、準備期間の不足やチェック内容の甘さから、しばしば不具合が残ったままのシステムが稼働することになる。こうした事態を避けるため、今年10月に予定されていた東京三菱銀行とUFJ銀行の合併は、金融庁の指導で充分な準備ができる来年1月に延期された。
 今回の東証システム障害の原因は明らかではないが、インターネット取引の急増に対処するため10月に処理能力の増強を図ったばかりであり、そのときに生じたプログラムの不具合が、月の変わり目のデータ書き換えによって表面化したと推測される。東証での1日当たりの注文件数は、ここ2年間で3倍近くに急増、これに併せてシステムの増強を繰り返している。10月の増強は5月に続く今年2度目のもので、来年も再増強・再々増強が予定されており、充分な時間的余裕のないままでプログラムを更新している現状が、システム障害の背景にあると考えられる。コンピュータ・システムは経済の基幹であり、こうした泥縄的な対策に終始していると、さらなるトラブルを招来する危険性がある。
容器リサイクル法で国を提訴(05/10/19)

 大手スーパーのライフは、回収・再生費用の大半を小売業に負担させる容器リサイクル法は不公正で違憲であるとし、国と日本容器包装リサイクル協会に損害賠償を求める訴訟を起こした。現行制度では、プラスチックトレーを回収する場合、小売業が費用の99.41%、残りをトレー成形業者が負担することになっており、石油関連業界に負担は求められていない。同法を巡っては、イオンやダイエーも費用負担を拒否する姿勢を示す(後に支払い)など、小売業界での批判が高まっていた。
 “持続可能な社会の実現”を合言葉にさまざまなリサイクル法が施行されているが、こうした法制度が有効であるためには、適切なアメとムチの使い分けによって、環境負荷を低減する方向に産業構造をシフトさせるものでなくてはならない。例えば、家電リサイクル法の場合、条文ではユーザがリサイクル費用を負担することになっているものの、実際には、発生コストをかなり下回る負担額に抑えられている。メーカは、廃棄家電を回収した上、かなりの費用を自己負担してリサイクルを行わなければならない。この結果、「リサイクルしやすい」製品を製造することに大きなインセンティブが生じ、リサイクル率の向上と静脈産業の育成が促進されると期待される。
 これに対して、容器リサイクル法は、リサイクル率を高めることにあまり寄与していない。リサイクル費用の負担を軽減しようとする小売業者が、包装を簡素化したり再使用可能な容器を使用したりする動きに出ていれば、この制度は成功だったと言える。しかし、小売業にとって、多少の金銭的負担よりも利便性を求める消費者からの圧力が強い効果を持っていたせいか、容器包装を変えることなく費用負担に応じる結果となった。表だった負担のない消費者の側では、リサイクル法による“痛み”が実感されず、容器包装のあり方を見直そうという機運は生まれていない。プラスチック容器に関しては、国内で再商品化する道筋が充分につけられていなかったため、プラスチック原料として中国に輸出されることが多く、運送と再加工の過程を考えると、環境負荷の低減につながっていない。
 容器リサイクルを実効的なものにするためには、(1)消費者に適度の痛みを感じさせることにより包装の簡素化を求める動きを作り出す、(2)再利用可能な容器(リターナブル・ペットボトルなど)の採用がメリットとなるような仕組みを作る−−などの改善策が必要だろう。
【参考】リサイクルの現状と今後
耐性を持つインフルエンザ・ウィルスが急増(05/10/10)

 安価で多量に使用されているインフルエンザ治療薬アマンタジンに対して耐性を持つウィルスの割合が、アジアを中心に急激に増加している(Science 309(2005)1976)。人間に感染するインフルエンザ・ウィルスにはA型とB型があるが、アマンタジンは、A型ウィルスの持つM2タンパクの機能をブロックし、ウィルスの増殖を抑制する。最も感染数の多いA香港型(H3N2型)に対する耐性ウィルスの割合は、2002年頃までは、どの国でも10%以下に留まっていた。しかし、2003年に中国における耐性ウィルスの割合が60%近くに跳ね上がり、2004年には70%を超えた。2005年のデータによると、韓国やシンガポールでは40%前後、アメリカやヨーロッパでも10%以上の割合で耐性ウィルスが見いだされている。
 中国でアマンタジンに対する耐性ウィルスが急増している理由は、必ずしもはっきりしない。中国の薬局では医師の処方箋なしに薬局でアマンタジンが購入できるため、一種の風邪薬として大量に使用され、耐性ウィルスの発生を招いたとする見方がある。今年6月、米ワシントンポスト紙は、鳥インフルエンザ予防のために鶏の飼料にアマンタジンが混入されているという記事を掲載したが、事実かどうか確認されていない(中国当局は否定している)。いずれにしても、インフルエンザ治療薬としてのアマンタジンの有効性が急速に失われつつあることは間違いない。
 インフルエンザは、1918年のスペインかぜ、1957年のアジアかぜ、1968年の香港かぜのように、数十年に1度の割合で世界的に大流行し、多くの患者を死に至らしめた。こうした大流行を防ぐためには、国際的な協力体制が欠かせない。耐性ウィルスを蔓延させないような抗ウィルス剤の適切な使用も、その重要なファクタであり、地道な啓蒙活動が必要となる。
次世代DVD規格統一できず(05/09/29)

 次世代DVDは、東芝・NEC陣営の「HD DVD」とソニー・松下陣営の「ブルーレイ・ディスク」という互換性のない2方式が併存する見通しとなった。
 2つの方式は、いずれも一長一短で決定的な優位性を持たない。「HD DVD」方式は、現行DVDと互換性があってコストも割安、プレーヤーの販売時期もブルーレイにやや先行するものの、記憶容量は単層で15〜20Gb程度に留まる。一方、「ブルーレイ・ディスク」方式は、高密度化を実現するために青紫色のレーザーを利用しており、記憶容量は2時間のデジタル・ハイビジョン映像が収まる25Gbになり多層化も容易である反面、現行方式と互換性がなく、コストも高くなる。両陣営は、最大のコンテンツ供給源である米メジャー映画会社の取り込みに奔走したが、結局、タイム・ワーナー、パラマウント、ユニバーサルが HD DVD、ディズニー、20世紀フォックス、MGM、ソニー・ピクチャーズがブルーレイと見事に二分され、決着が付かなかった。パソコンの外部記憶用としては、これまで、アップルやサムソンが加わったブルーレイ陣営がやや優勢だったが、先日、マイクロソフトとインテルが HD DVD 方式の支持を表明し、状況はさらに混沌としてきた。
 規格が分裂したために「負け組」となったメーカーや消費者が損をした例としては、家庭用ビデオのベータ方式とVHS方式が有名である。しかし、この分裂は、必ずしも消費者全般に不利益をもたらしたわけではない。劣勢になったベータ方式のテコ入れとしてソニーがハイファイ、ハイバンド化を先んじて打ち出した一方で、VHS陣営がコスト面での有利さを最大限に活用したため、結果的に、予想以上のスピードでビデオデッキの高機能・低価格化が進んだと言える。対立規格のなかったカセット・テープの分野で、巻き込み防止機能すらない粗悪な製品が長く使われたことを考えると、規格の分裂には、技術の進歩をもたらす要因として好ましい面もある。
 次世代DVDの場合、内部での競争だけに留まらない。一時的な記録にはHDレコーダー、人気作品の入手にはインターネット配信が、強力な競争相手となる。こうした激しい争いの中でどのように技術が磨かれていくか、慌てて新製品に飛びつきさえしなければ、面白い見物になりそうだ。
ハリケーンは強くなっている?(05/09/16)

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 過去35年間にわたるハリケーン(最大風速33m/s以上の熱帯低気圧、日本の「強い台風」に相当)の発生数や強さを分析した結果、カテゴリー4〜5の強大なものの発生頻度が増していることが明らかになった(P. J. Webster et al. Science 309 (2005) 1844-)。
 海水の表面温度が26℃以上になると、熱帯低気圧はハリケーンに成長できる。このため、地球温暖化による海水温の上昇が台風の増加を招くとの見方もあるが、1974年から2004年までの35年間に関する限り、平均海水温と台風の年間発生数の間に明確な相関は見られない。例えば、北半球・西太平洋では、海水温が一貫して上昇傾向にあり、35年間で0.5℃上がったのに対して、台風の発生数は90年代前半にピークがあり、その前後でかなり落ち込んでいる。
 一方、台風の強さに関しては、強大化する傾向が明瞭に見て取れる。ハリケーンの強度は、最大風速によってカテゴリー1から5までに分類される。全世界でのハリケーンの発生数を合計すると、過去35年間、カテゴリー1のハリケーンはほとんど一定であり、カテゴリー2〜3のものも変動は小さい。ところが、カテゴリー4〜5の巨大ハリケーン発生数は、1990年代前半に急激に増加したまま、高止まりしている。また、1975〜89年と1990〜2004年の発生数を地域別に集計すると、地域によらず増加している(グラフ参照)。この期間は、人工衛星による観測が行われており、観測方法の違いによる誤差はあまりないと考えられる。
 この傾向が地球温暖化によるものかは明らかでないが、統計データを見る限り、カトリーナ級の巨大ハリケーンが襲来するリスクが高まってきたと言えよう。
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ジャンクDNAが調節RNAをコード(05/09/04)

 マウスのゲノム解析をもとに、これまで機能の不明だったジャンクDNAから、タンパク質合成とは異なる機能を持つRNAが多数作成されていることが、理化学研究所など11カ国の国際研究チームによって明らかにされた(2005年09月02日付毎日新聞朝刊など)。それによると、ゲノムの約7割がRNAに転写されており、作成される4万4147種類のRNAのうち、2万3218種類はタンパク質合成に関与せず、遺伝子の発現などを調節しているという。
 1950年代に確立された分子生物学の「セントラルドグマ」によれば、DNAにコードされている遺伝情報は、まず仲介役のRNAに転写され、これが翻訳によってアミノ酸配列に置き換えられてタンパク質ができるとされる。遺伝情報はタンパク質として発現し、その調節もタンパク質が担うと考えられた。アミノ酸配列の情報がコードされている領域は、エクソンと呼ばれる。しかし、このセントラルドグマに疑わしい点があることは、早くから指摘されていた。タンパク質をコードしていないイントロンと呼ばれる領域は、原核生物では5〜25%程度にすぎないのに、多細胞生物では70%以上、ヒトでは98%以上を占めている。しかも、脊椎動物のゲノムには、何百万年も変化しなかった非コード配列が数千個あることも判明した。こうしたデータは、非コード配列が、複雑な生命活動を維持する上で重要な役割を果たすことを意味する。
 イントロンが遺伝子の発現にかかわっているという見方は以前からあったが、21世紀に入って、RNAが重要な役割を果たしているという説が有力になる。非コード領域を含むDNAから転写されたmRNA前駆体は、スプライシングによってエクソンRNAとイントロンRNAに分割される。エクソンRNAはつなぎ合わされてmRNAとなりタンパク質の合成にかかわる。一方、イントロンRNA(およびエクソンRNAの一部)は、プロセシングされてマイクロRNAとなり、RNA干渉などを通じて遺伝子の発現を調節する。言うなれば、DNAには、タンパク質をコードする遺伝子と、調節用のRNAをコードする遺伝子が存在するわけである。RNAは、タンパク質と異なって、相補的な配列を持つDNAやRNAにしか結合しないため、機能の特異性が高い。この性質を利用すれば、特定の遺伝子の発現を抑制することが可能となり、炎症性疾患などの治療に役立てられると期待されている。
 RNAが単なる仲介役でないことを示すデータは、近年、急速に集まってきている。「マウスで作られる7〜10万個のRNAのうち約半分がタンパク質をコードしていない」というデータは、すでに2003年に得られていたが、今回の報告は、詳細な解析によって、この結論を確実なものにしたと言えよう。
心臓病患者に再生医療(05/08/28)

 埼玉医科大学は、重い心筋梗塞の患者に本人の骨髄細胞を移植する再生医療を施し、心筋に必要な血流を回復させることに成功したと発表した。この患者は、今年の2月に心筋梗塞を発症、酸素供給が減少して心筋が弱る虚血性心筋症に陥ったため、補助人工心臓を装着していた。治療チームが、患者の腰骨から採取した骨髄細胞を冠動脈に注入する治療を5月に実施したところ、心臓のポンプ機能が健常者の2/3程度にまで回復し、6月には補助人工心臓を取り外すことができたという。
 損耗・衰弱した組織を生きた細胞を使って補修する「再生医療」は、21世紀の治療法として期待されており、皮膚や軟骨については実用段階に達しているものの、神経や臓器の再生はいまだ研究途上にある。再生に利用する細胞としては、あらゆる組織に分化できる万能性を持ったES細胞(胚性幹細胞)に注目が集まっているが、必要な組織に誘導する方法が確立されたとは言えず、ガン化や異常増殖などの危険性も払拭されていない。中絶胎児から体性幹細胞(限られた組織に分化する能力を持つ細胞)を取り出して利用する研究も行われているが、倫理的な批判も少なくない。患者自身の体性幹細胞を利用できれば、より安全性が高く、倫理的な問題もない。特に、骨髄は幹細胞が豊富にあり、血球細胞に分化する血液幹細胞に加えて、骨・脂肪・筋肉や血管内壁に分化する間質幹細胞も含まれている。骨髄細胞は、専用の針やカテーテルを使って比較的容易に採取される(ただし、危険性がないわけではない)ので、さまざまな再生医療に利用できる可能性が高い。
 今回のケースでは、冠動脈に注入された骨髄細胞がどのように作用して症状が改善されたか明らかでないが、クローン胚やES細胞を使用しない現実的な再生医療への道が開かれたとすると、喜ばしいことである。
【参考】人体改造時代の幕開け
想定の「宮城県沖」とは違う?(05/08/18)

news009.gif  政府の地震調査委員会は、16日に宮城県沖で起きたM7.2の地震は、発生が想定されていた宮城県沖地震とは異なるとの見解をまとめた。
 同委員会は、2000年に「宮城県沖地震の長期評価」を発表、東北地方の陸側プレートと太平洋プレートの境界面で、M7.5前後(陸または日本海溝寄りの領域が連動して壊れた場合はM8.2程度)の地震が2020年頃までに起きる可能性が高いと予測した。過去の宮城県沖地震のデータを対数正規分布モデルに当てはめて評価すると、2001年から2020年までに地震が発生する確率は約80%、2030年までの発生確率は90%以上になる。今回の地震は、余震の発生域が前回(1978)に比べて狭く、想定される震源域のかなり部分が破壊されずに残ったと考えられるため、宮城県沖を震源とする大地震の危険は去っていないものと判断された。
 地震の確率予知は、近年とみに信頼性が高まってきたものの、まだ不確実な点も多い。今回のケースでも、想定されたプレート境界に震源があり、前回から27年という間隔も、過去200年に6回起きた地震の26.3〜42.4年間隔という範囲内にあるので、37年周期で起きる宮城県沖地震のエネルギーの一部を解放するものと解釈して良さそうな気もする(マグニチュードは、連動のないケースでのM7.3〜7.4よりやや小さい)。ただし、地震によって歪みが隣接地域に移動し、1897〜98年のように3回の地震が立て続けに起きるケースもあるので、うかつな解釈はできない。安全宣言を出した後で大地震が来たときのパニックを考えると、まだ大地震の危険性が残っていると発表する方が無難であり、地震調査委の判断も頷ける。
第10惑星発見?(05/07/31)

 米カリフォルニア工科大学のブラウン教授は、太陽系の第10惑星を見つけたと発表した。暫定的に2003UB313と呼ばれているこの天体は、2003年に撮影された写真から見いだされたもので、その後の調査で惑星であることが明らかにされた。2003UB313は、海王星の外側にある小天体の集まったカイパーベルトに属しており、その明るさから推定される大きさは冥王星の1.5倍に達する。現在は太陽から97天文単位(1天文単位=地球の公転半径)の距離にあるが、離心率の大きい楕円軌道を描いており、これから35天文単位まで太陽に近づくと考えられる。また、軌道面は、他の8つの惑星の軌道面とほぼ45度をなしている。
 新しい天体が第10惑星と認定されるかどうかは、微妙なところ。カイパーベルト天体でありながら冥王星が惑星と呼ばれるのは、発見までの歴史的事情が絡んでおり、天体形成過程や離心率の大きさなど他の8つの惑星とは異なった点が多いことから、惑星とは異なるplanetoid(準惑星?)(*)とすべきだと考える学者も少なくない。カイパーベルト天体には、他に、冥王星の衛星カロン、小天体クアオワなどがあり、海王星の衛星トリトンも、もともとはカイパーベルトに属していたと考えられる。ブラウン教授らは、新天体が冥王星より大きいという理由で惑星と呼びたいようだが、むしろ冥王星を準惑星に格下げした方が、分類としてはすっきりするだろう。
(*)日本語では“asteroid”に小惑星という訳語を当てており、“planetoid”に定訳はない。
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アスベストで?79人死亡(05/07/01)

  機械大手のクボタは、アスベストが原因と思われる疾病で、1978年から2004年までに、元社員の75人、関連会社の4人が死亡していたと発表した。死亡者のうち78人は、毒性の強い青石綿(クロシドライト)を使用した水道管を製造していた工場で勤務した経験があった。
 アスベストは、繊維状のケイ酸塩鉱物で、化学的な性質として、耐久性、耐熱性、耐薬品性、絶縁性を持つ。さらに、繊維状という物理的性質から、内部に空気を多く含み、軽くて断熱性に優れる。このため、断熱材・防音材・耐火材として建築物に用いられたほか、自動車のブレーキパッドや電気製品の絶縁材として多用された。しかし、産業に応用する際に役に立つ性質は、環境中に放出されたときに、災厄をもたらす性質に変じる。耐久性があるために、いつまでも環境中に残留し、生物の体内に入った場合は、酵素などで分解することができない。また、繊維状であるために、吸引すると肺胞に突き刺さり、石綿肺・肺ガン・悪性中皮腫などの健康被害をもたらす。「化学的に安定」という産業にとって有用な性質が、環境中に放出されたときに問題を引き起こすという図式は、PCBやフロンのケースと同一である。
 アスベストの危険性は、1960年代から指摘されていたが、政府による規制は遅れた。1975年に吹き付けアスベストが原則禁止になったものの、それ以前に建てられた多くの建築物には、アスベストが含まれたままである(学校校舎の吹き付けアスベストは、1980年代後半に除去された)。これらの建物は建て替え時期に来ており、杜撰な工事を行った場合、飛散は避けられない。1995年の阪神淡路大震災のときには、倒壊した建物から大量のアスベストが空気中に飛散したことが判明している(同様の現象は、世界貿易センタービル倒壊の際にも報告された)。アスベストが引き起こす悪性中皮腫は、20〜50年の潜伏期間の後に発症し、予後はきわめて悪い。アスベスト問題は、今後も尾を引きそうである。
【参考】PCB
太陽帆船、打ち上げ失敗(05/06/23)

 世界初の太陽帆船「コスモス1」の打ち上げは、船体を地球周回軌道に投入するためのロケットがエンジントラブルを起こし、失敗に終わった。
 太陽帆船とは、表面をアルミ加工したポリエステル製の“帆”で太陽光を受けて進む宇宙船で、原理的には、秒速100km以上に加速することも可能だとされる。コスモス1号には、長さ14mほどの三角帆が8枚搭載されており、ロケットで高度800kmの軌道に打ち上げ、そこで帆を600m2の大きさに展開して、太陽光を受けながら高度を上昇させる予定だった。薄くて巨大な帆を拡げる実験は地上では不可能であり、これまで2度行われた宇宙空間での実験も失敗していたため、帆がきちんと拡げられるか危ぶむ向きも多かったが、今回は、それ以前の段階で躓いてしまった。しかし、太陽帆船が、惑星間無人探査船を派遣する安価な手段として魅力的であることに変わりはない。日本でも、JAXA宇宙科学研究本部が、2004年8月に高度170kmでの帆の展開実験を行っている。
 コスモス1の実験は、NASAが関与せず、非営利の民間団体である米惑星協会が主導し、ロシアの軍事技術を転用して行った点でも注目される。機体や帆はロシアで製作され、弾道ミサイルを改造したロケットをロシアの原子力潜水艦から打ち上げるという方法が用いられた。この結果、開発費は400万ドルと格安になったが、その一方で、技術的な不安も生じることになった。NASAにも太陽帆船の計画があり、ロシア製のものより薄く丈夫な帆の素材も開発されているが、ロシアへの技術流出をNASAの上層部が恐れたせいか、コスモス1には利用されていない。冷戦が終わったとはいえ、宇宙開発に軍事的な思惑が絡む状況は、まだ続いているようだ。
もんじゅ訴訟、住民側が逆転敗訴(05/05/30)

 高速増殖炉もんじゅの設置許可の無効確認を求めて1985年に始まった住民訴訟に対し、最高裁は、国が行った安全審査には重大な過誤はないとして、無効を確認した二審の高裁判決を破棄、住民側の訴えを退ける判決を下した。
 もんじゅは、炉内での核反応によって、核燃料として使えないウラン238から核分裂物質であるプルトニウムを効率的に作り出すことができる新しいタイプの原子炉で、発電しながら核燃料を増やしていくという特性から「増殖炉」と呼ばれる(核反応のタイプからさらに「高速」が冠せられる)。実用化に成功すれば、数百年分のエネルギー源が確保できる「夢の原子炉」である。その一方で、冷却材として水と爆発的に反応する液体ナトリウムを使うこと、毒性が強く原爆の燃料にもなるプルトニウムを作り出すことから、その危険性を指摘する論者も多い。ドイツ・アメリカ・フランスは、すでに高速増殖炉の開発を断念しており、唯一継続していた日本でも、1995年に起きたもんじゅのナトリウム漏れ事故によって、開発計画は頓挫した。政府が掲げる核燃料サイクル政策(炉内で作られるプルトニウムを活用する政策)においても、高速増殖炉の実用化は当面見送り、核燃料節約効果の劣るプルサーマル計画を推進することが決まっている。
 今回の判決を受けて、運転再開に向けたもんじゅの改造工事の動きが加速されると予想されるが、再び高速増殖炉が脚光を浴びる可能性は小さい。もんじゅやスーパーフェニックス(仏)の事故により、技術的なハードルが簡単に越えられないほど高いことが明白になっているからだ。運転再開後のもんじゅは、主に核廃棄物処理などの基礎データを集めるために利用される。建設のために費やされた5000億円以上かけたことを考えると、あまりに高い投資だったと言わざるを得ない。
ITER建設地、フランスに(05/05/06)

 フランスと日本の間で誘致合戦が繰り広げられてきた国際熱核融合実験炉(ITER)の建設地が、南フランスのカダラッシュに決まる見通しとなった(2005年05月06日付日本経済新聞より)。次世代エネルギー開発に向けた実験施設であるITERは、1985年にレーガン・ゴルバチョフ会談で提案され、1988年からアメリカ、旧ソ連、EU、日本の4極協力体制の元に計画が推進されてきた。1999年に計画の実現性に懸念を持った議会の反対にあってアメリカが手を引き、一時、計画全体が頓挫しかねない状況に陥ったが、後にアメリカが復帰、さらにカナダ、中国、韓国なども加わって、国際的な計画として注目を集めていた。
 ITERは、トカマク方式によって1.5〜4億度の高温プラズマを閉じ込め、エネルギー増倍率 Q(プラズマを加熱するための注入エネルギーに対する発生エネルギーの比)が 10 以上となることを目指す。現在、Q=1 となるようなプラズマ状態の実現には成功しているが、実用的なプラントでは、Q が 30 以上での定常運転が要求される。ITERは、このギャップを埋めるのに必要なプラズマ制御の技術を開発するための実験施設として利用される。
 ITERの最大の問題は、果たして莫大な建設・運転費を回収するだけの成果が上げられるかという点である。高温に耐えられる直径約30メートルの頑強なプラズマ容器と、強力な磁場を発生させるための超伝導コイルを必要とし、建設費は現在の見通しで5700億円に上る。総事業費は1兆3000億円と見込まれる。ITERによって実用的核融合炉が建設できるだけの技術が開発されれば投資価値は充分にあるが、その保証はない。実用技術が開発できなかった場合、建設費の半分以上を負担し、放射性廃棄物となる炉を残される誘致国は、巨大な負の遺産を抱え込むことになる。今回の合意は、ITER本体をフランスに建設する一方で、それ以外の国に研究者枠の譲渡や関連施設の建設を認めるというものであり、巨大施設の建設を望む業者の思惑ははずれたものの、日本全体の国益を考えると、むしろ好ましい結果になったと言えよう。
中学教科書にイオン、進化が復活(05/04/07)

 文部科学省が発表した中学校教科書の検定結果によると、理科・数学では、学習指導要領の範囲を超えた「発展的内容」が盛り込まれ、平均で2割以上もページ数が増えた。「発展的内容」としては、前回の2000年度検定で削られたイオンや周期表、進化、2次方程式の解などが中心だが、一部には、3元連立方程式のような高度な内容も含まれている。
 現代社会において正当な判断を下すためには、科学的な素養と思考力が必要となる。最近のニュースでも、全頭検査を行わないアメリカ産牛肉の輸入、ブラックバスのキャッチ・アンド・リリース、地球温暖化防止のための環境税導入など、科学的な理解に基づかなければ、その是非を正しく判断できないものが少なくない。にもかかわらず、適切な科学リタラシーを身につけさせる社会的なシステムは、ほとんど機能していない。それどころか、テレビや雑誌には、血液型性格診断やマイナスイオン健康法、超能力捜査などの非科学的な内容が溢れている。コエンザイムや活性酸素のように、それ自体は科学的な話題だが、きわめてミスリーディングな形で紹介されているものも少なくない。それだけに、学校における科学教育は、きわめて重要である。
 指導要領で定められた学習内容は、あまりに断片的・羅列的で、科学の特色である体系性と厳格な方法論を学ばせるには材料不足である。中学校教科書に、イオンや進化など科学的理解に不可欠の基礎概念が復活したことは喜ばしいが、より重要なのは、無関係に見えるさまざまな現象が普遍的な法則に裏付けられていること、この法則を知るには仮説−検証の方法論が有用であることを実感できるような学習方法の採用である。
メンデルの法則に従わない植物?(05/03/25)

 パーデュ大学の研究チームは、イロイヌナズナ(Arabidopsis)を使った実験を元に、植物には、親から受け継いだ欠陥遺伝子の遺伝情報を修正して、正常に発育するケースがあると発表した(Nature 434 (24 March 2005) 505- )。この結果が正しいとすれば、遺伝情報は親から伝えられた遺伝子によって規定されるとするメンデルの法則に例外があることになる。
 この研究では、突然変異遺伝子HOTHEADによって生じる「ホットヘッド」という花の奇形に関して調べられた。HOTHEADの劣性ホモ接合体を持つシロイヌナズナを両親とする子どものうち、10%が祖父母かそれ以前の世代と同じ正常な花をつけたという。祖父母以前の世代の遺伝情報が染色体のどこかに保持されており、これを鋳型として正常に発育したと解釈することもできるが、こうした遺伝情報が染色体のどこにあるのか、また、遺伝情報を修正するメカニズムがどのようなものかは、全くわかっていない。
 近年のゲノム研究などを通じて、遺伝情報の発現が「DNA→RNA→タンパク質」という一方向的な情報の流れに支配されるとするかつてのセントラルドグマは、大幅な修正を受けている。遺伝子によって完全に規定されない遺伝現象は、「エピジェネティック」と呼ばれており、イントロンやRNAが、以前に思われていたよりも遥かに積極的な役割を果たしていることが明らかにされつつある。例えば、タンパク質をコードしておらず、進化の過程で染色体内に蓄積されたガラクタと思われていた偽遺伝子の1つが、実は、mRNAの分解レベルに関与することによって、本物の遺伝子の発現をコントロールしていたことも判明した。今回の発見が、こうしたエピジェネティックな遺伝現象の1つかどうかは、今後の研究によって明らかにしなければならないが、遺伝学に新たな地平が見えてきたことは歓迎したい。
ソニーに外国人トップ(05/03/08)

 業績不振に苦しむソニーは首脳部を一新し、米CBSなど放送業界での経験が長いハワード・ストリンガー副会長をCEOに起用した。
 井深大・盛田昭夫という二人の創業者が築き上げたソニーの企業風土は、これまで、斬新で面白く、新しい消費行動の流れを作る製品を生み出してきた。トランジスタラジオやウォークマンは、その代表作である。その後も、「パスポートサイズの8ミリビデオ」「パソコンを凌駕する高性能CPUとネットワーク機能を搭載したゲーム機」「世界初のペットロボット」など、プレスリリースの段階で他メーカの技術者が腰を抜かすような新製品の開発に成功した。しかし、ここ数年は、ソニースピリットを感じさせる製品を打ち出せていない。それどころか、他社が先行するパソコン、デジタルカメラ、薄型テレビ、DVDレコーダ、携帯電話などの分野に手を出し、結果的に低価格競争に巻き込まれて業績を悪化させてしまった。利益率は、社外取締役のカルロス・ゴーン日産社長が要求する10%に遠く及ばない1%台に低迷している。
 ソニーは、米映画大手MGMなどを買収して膨大なコンテンツの権利を保有している。しかし、ハードとソフト両方の資産を持ちながら、これらを融合したビジネスを起こすことには成功していない。ウォークマンの市場を奪い取ったアップルの携帯音楽プレーヤーiPodのような製品こそ、ソニーが開発すべき製品だったはずである。しかし、自社が抱える音楽ソフトの著作権が脅かされると二の足を踏んでしまったようだ。ネットワーク機能を持つプレステ2も、スタンドアローンのゲーム機として使われることが多く、宝の持ち腐れ状態になっている。
 首脳陣が交代したからといって、ソニーの業績がV字回復するとは期待できないが、できればもう一度、技術者を驚嘆させる新製品を開発してほしいものだ。スターウォーズに登場する空間投影型立体ビデオのような…。
コーヒーが肝臓ガン抑制?(05/02/18)

 厚生労働省研究班は、コーヒーを多く飲む人ほど肝臓ガンを発症しにくいとの調査結果を発表した(2005年02月17日付日本経済新聞より)。9万人以上を対象とし10年間に及ぶ疫学調査によると、ほとんど/全くコーヒーを飲まない人の肝臓ガン発病率が人口10万人当たり547.2であるのに対して、毎日飲む人では214.6に低下する。毎日5杯以上飲む人では、発病率は1/4以下になるという。一方、緑茶の摂取と肝臓ガンの発病の間には、はっきりした相関関係はない。研究チームは、コーヒーが含有する抗酸化作用のある物質がガン抑制効果をもたらす可能性を指摘している。
 疫学調査によって食品摂取と疾病の間に相関関係が示されることは少なくないが、直ちに因果関係があると結論できないのが悩ましいところである。上のケースでは、肝臓の病気は味覚障害を伴う場合があり、「肝臓を患ったためにコーヒーを飲みたくなくなった」という可能性も否定できない。似たような例としては、1997年に行われた飲酒と乳ガンの関係に関する疫学調査がある。3000人の女性を対象とした調査によると、30歳代では、週14杯以上の飲酒者で乳ガンのリスクが有意に高まるという結果が得られ、血中エストロゲンの上昇が乳ガンを引き起こすのではないかと言われた。しかし、これに対しては、飲酒習慣のある女性はキャリアウーマンに多く、積極的に健康診断を受けるため、近年の乳ガン検診技術の向上に伴って早期の乳ガンが前倒しで発見され、結果的に発病数を押し上げたのではないかとの批判が提出された。データ解釈の難しさを実感させる例である。
 コーヒーと肝臓ガンの関係を報じる記事と並んで、TVアニメ「サザエさん」の視聴率と東証株価指数(TOPIX)の間に連動性があるという大和総研のレポートに関する記事も掲載されていた(毎日新聞など)。こちらも、ランダムな変動を示す2つの量の相関性という解釈の難しいケースである。自然科学分野における経験則によれば、この手の相関(太陽の黒点数と景気変動の関係をはじめ、多くの報告例がある)は、3つ以上のピークが一致する場合は有意で、2つ以下なら偶然の一致と見なした方が良いらしい。かなり厳しいクライテリオンだが、比較する量の選択に任意性があるため、偶然の相関が現れやすいことを踏まえてのものである。この立場からすると、サザエさんのケースは、とりあえず偶然の一致と言っておこう。
京都議定書発効(05/02/16)

 二酸化炭素など地球温暖化ガスの排出削減を先進国に義務づける京都議定書が16日に発効した。最大の排出国であるアメリカが離脱したため、一時は空中分解するのではと危ぶまれていたものの、昨年のロシアの批准により、ようやく発効にこぎ着けることができた。
 日本の削減目標は、2008-12年に1990年比で6%減。EU諸国が順調に排出削減を進めているのに比べて、日本は、2003年で8%増となっており、ここから14%を削減しなければ目標に達しない。不況もあって産業部門で排出量が減少した一方、運輸部門と民生部門で大幅に排出量が増加している。特に、パソコンや温水便座、大型テレビなどエネルギーを消費する家電の普及もあって、家庭からの排出増加に歯止めがかかっておらず、国民の間に省エネ意識が定着していないことが伺える。議定書に加わらなかったせいで何かとアメリカが批判されるが、「守れそうにないから約束しない」よりも「約束しておいて守らない」方がたちが悪いと言えるだろう。
 日本政府は、住民の反対があって原子力発電所の建設が進まないことを言い訳にしようとしているが、国際的には通用しまい。今後は、環境税の導入をはじめ、政府が本腰を入れて対策を進めることが必要である。
【参考】地球温暖化
「一太郎」販売禁止の判決(05/02/02)

 東京地裁は、ジャストシステム社製ワープロソフト「一太郎」が特許を侵害しているとして松下電器産業が製造差し止めなどを求めた訴訟で、ソフトの製造・販売の禁止、在庫の廃棄を命じる判決を下した。仮執行は認めていないため、判決確定まで効力は生じない。ジャスト側は控訴する方針。
 問題となったのは、1989年に出願され1998年に登録された特許第2803236号。請求の範囲には、「アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる…アイコンを表示画面に表示させる表示手段と…アイコンを指定する指定手段…を有することを特徴とする情報処理装置」などとあり、さらに、産業上の利用分野として、「本発明は、日本語DTPやワープロ等の機能説明を行う情報処理装置に関するものである」と記載されている。「一太郎」では、「ヘルプモード」アイコンをクリックした後にメニューバーのアイコンを選択すると、その機能を説明する文章が表示される仕様になっているので、「一太郎」をインストールしたパソコンが、松下の特許に抵触している可能性は高い。ジャスト側は、この技術と同等のものが出願時点で既に公開されており、特許自体が無効と主張していた。
 ソフトウェアと特許権・著作権の関係は、法的に難しい多くの問題を孕んでいるが、今回のケースは、「機能説明を表示させる方法」というインターフェースに関わる技術であり、特に、特許の有効性が争点となる。1987年に、マイクロソフト社がアップル社の技術を流用してウィンドウズ 2.0 を発売したとき、著作権の侵害であるとするアップル側の訴えに対して、マイクロソフト側は、問題となっているGUI(Graphical User Interface)は保護対象にならないと主張した。例えば、自動車で「右側のペダルがアクセルで左側がブレーキ」というインターフェースが知的財産権で保護されると、他の自動車メーカは異なる仕様にしなければならず、ドライバーを混乱させてかえって危険である。このため、「ユーザの慣れを引き起こしやすいインターフェース部分は、知的財産としては保護されない」とする見方が一般的である。これと同様に、「ファイルのアイコンをゴミ箱アイコンにドラッグ&ドロップするとファイルが削除される」といった機能は、インターフェースに関するアイデアなので、著作権では保護されない──というのが、マイクロソフト社の主張だった。1995年、米最高裁でこの主張(およびアップル社の契約の不備)が認められたため、マッキントッシュの模倣であることが明らかなのにもかかわらず、大手を振ってウィンドウズを販売できるようになったわけである。松下は著作権ではなく特許権による保護を求めているため、事情はやや異なるものの、保護対象となっているのは、アイコンを利用した操作法として1980年代後半から開発されたさまざまな技術の1つにすぎない。他の多くはインターフェースとして知的財産権の保護対象となっていないことを考えると、今回の判決は、時流に逆行したものと言えるだろう。
オオクチバス、特定外来生物に指定へ(05/01/23)

 環境省は、「特定外来生物被害防止法」の指定対象として、オオクチバス(ブラックバスの一種)を最初のリストに盛り込むことを決めた。当初、コクチバスやブルーギルのみを指定してオオクチバスは先送りする方針だったが、小池環境相が再検討を促したことで、状況が一転した。
 オオクチバスは、キャッチ・アンド・リリースのスポーツフィッシングを行うために、釣りファンなどが北米から持ち込んで密放流したことによって、国内で急激に増加した。日本魚類学会が2004年11月に行った「オオクチバス等サンフィッシュ科3種による水生生物の被害に関するアンケート調査」によれば、調査対象とした43都道府県761水域のうち703水域でオオクチバスの棲息が確認され、303水域ではメダカやタナゴ類、ゲンゴロウなどの在来種が減少するといった顕著な被害が見られた。うち86水域では、護岸工事などによる環境変化がなく、ブラックバスが個体数減少の主因である可能性が高い。科学的な観点からすれば、生態系の破壊をくい止め、種の多様性を維持するために、オオクチバスの「特定外来生物」指定はきわめて当然である。むしろ、日本釣振興会などの要望に沿う形で指定対象からはずそうとする動きが支配的だったことが、不可解だと言わざるを得ない。信頼できる専門家の調査・研究による客観的なデータは、政策を決定する上で最重要視すべきものであり、科学を無視した行政を強引に押し進めると、巡り巡って国民の利益を損なう結果をもたらすことになろう。
青色LED訴訟和解、対価は6億円(05/01/12)

 青色発光ダイオード(LED)の発明に対して、開発者の中村修二氏が日亜化学工業に200億円の対価を請求していた訴訟は、同社が対価として6億800万円(遅延損害金を加えると8億4000万円)を支払うことで東京高裁で和解が成立した。金額は1審判決での認定額600億円に比べて大幅な減額となったが、それでも確定した発明対価としては国内最高額である。
 特許法35条にある「相当な対価」に関しては、いまだに標準的な算定方法が定まっていない。1審の認定額と今回の和解額の差は、(1)発明によって会社が得た利益、(2)発明への個人の貢献度という2点に対する評価の違いに起因する。会社の得た利益に関して、1審では、将来に予想される分を含めた総売り上げの10%に当たる約1200億円を特許による利益と認めたが、今回は、将来分を少なく見積もり、特許の寄与を3.5〜5.0%としたため、利益は約120億円と算定された。青色LEDの分野で、日亜化学がしばらく売り上げを独占していたこと、この市場独占には特許の効力が重大な役割を果たしていたことを考慮すると、今回の算定額は明らかに過少である。一方、個人の貢献度という点では、1審の50%から2審では5%に変更されている。中村氏の発明が完全に新規なアイデアによるものではなく製造法の改良であること、開発は専ら会社の設備を使って就業時間中に行っていた(しかも、しばしば設備を破損した)ことなどを勘案すれば、50%はやや多過ぎるが、20世紀中には不可能と言われた技術改良を成し遂げたのだから、少なくとも10%は認めるべきである(最近の傾向では、発明者の貢献度として利益の5〜10%を認めることが多い)。対価としては、40〜60億円というのが妥当な線ではないだろうか。6億円という今回の金額は、会社が主張した1900万円と中村氏が請求した200億円の幾何平均値になっており、双方の顔を立てた文字通りの和解案として捻出されたと思われる。
 今回のケースを含めて、発明に関する「相当な対価」を請求する訴訟が相次いでいる現状は、これまで、技術者をあまりに低く評価してきたツケが回ってきたものだと言える。会社の業績を大幅に向上させる貢献を行った技術者は、通常業務をこなしているだけの重役よりも遥かに報酬を手にすべきである。スター技術者をイチローなどのスター選手と同じように厚遇することを当然と見なす雰囲気が醸成されなければ、技術立国もかけ声倒れに終わるだろう。
株式会社大学、学長の半数が反対(05/01/06)

 日本経済新聞社が行った全国の国公私立大の学長を対象とする調査によると、株式会社の大学参入について、「断固反対」が21.8%、「特区以外では反対」が27.8%となり、反対派が「内容により容認」の41.8%を上回った(2005年01月06日付日本経済新聞朝刊より)。反対の理由としては、「利益追求が目的で教育機関になじまない」が最も多いという。また、学長の86.4%が大学数を「多すぎる」と答えており、志願者全入時代に突入すると、「一部有力大学とそれ以外の大学の格差がさらに拡大する」と考えている。
 既存の大学にとっては株式会社参入と志願者全入は大いなる脅威かもしれないが、大学改革を進める上では、むしろ絶好の機会になると考えられる。現在、社会の複雑化に伴って社会人に要求される知識水準は高まっている。こうした社会人のニーズに応えるられる教育を行うことが、(研究中心の大学院大学以外の)一般の大学が果たすべき役割である。知的財産権やPL制度などに関する法令、化学物質や放射線のリスク評価、マーケット・リサーチなどで必要とされる統計処理、消費者の行動を決める社会心理──総合大学ならば、専任教官だけでこうしたさまざまな分野の講義を行うことが可能である。社会人の聴講を容易にするように、ターミナル駅周辺にサテライト教室を設け、ネットを利用したヴァーチャル授業を含む多様なプログラムを用意する。大学が得意とする分野(例えば国際商取引)に関する授業を特定の曜日に集中させ、その曜日だけ1クール受講して試験に合格すれば、その分野に関する基本的知識を習得したことを認める大学独自の認定制度があっても良い。学士取得を目的とする一般学生と、特定科目のみを聴講する社会人学生を区別する必要はない。基本的に1単位の専門講義だけでカリキュラムを構成、修業年限の枠を撤廃し卒業要件を単位数だけにすれば、学習意欲のある学生が自分の考えに則って講義を選択するはずである(その前に文部科学省による規制を緩和することが必要だが)。授業数が増えるために教員の負担が重くなるという心配もあるが、多くの大学教員が学問的価値の乏しい研究を行っている現状を改め、研究能力に欠ける大半の教員を教育に専念させれば、教員数の不足は防げる。
 文部省の庇護の下にぬくぬくとしてきた日本の大学は、厚生省に手厚く保護された製薬会社などとともに、国際競争力が著しく欠けている。大学が互いに競争し、結果的に格差が拡がることは、日本の将来にとって好ましいと言えよう。
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