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★★気になるニュース★★

被曝事故、プルトニウムは検出されず(17/06/18)

 今月6日、日本原子力研究開発機構(原子力機構)・大洗研究開発センターで、放射性物質の容器を開けた際に樹脂製の袋が破裂し、作業員5人が被曝する事故が起きた。幸いなことに、作業員の肺からプルトニウムは検出されず、当初懸念されたほどの体内被曝はなかった。しかし、放射性物質の管理が杜撰だったことは明らかで、機構の責任は免れない。
 今回の事故は、核燃料物質(高速炉燃料の試験などに用いたプルトニウムやウランの酸化物)の移動に先立って、収納容器内の状態を点検する段階で起きたもの。プルトニウムを移動する際には査察官の立ち会いが必要だが、今回は空き容量をチェックするだけだったため、査察官はいなかったという。袋が破裂した原因は、まだ明らかになっていない。核反応によって発生したガスが反応熱で膨張したか、袋が劣化していた可能性がある。事故後、作業員の鼻腔内でα線が測定されるなどの放射能汚染が確認されたが、所持していたポケット線量計の読み取り値は最大で60μSvと、放射線業務従事者の年間被曝限度50mSvの800分の1程度で、今のところ健康被害は見られない。
 なお、当初の報道では、作業員を部屋から出すのに3時間掛かったことが問題視されたが、これは、放射性物質の拡散を危惧した作業員が、自主的に内部から施錠し、事態の進展がないか経過を観察したたためである。
 原子力機構は、2005年、原子力の安全性や放射線医学の研究を行う機関として1956年に設立された日本原子力研究所(原研)と、旧動力炉・核燃料開発事業団 (動燃)が1998年に改組されてできた核燃料サイクル開発機構とを 統合した研究・開発のための組織(その後も改組が行われ、放射線医学などの研究機関が分離された)。事故を起こした大洗センターは、旧原研に設置された研究施設で、原子炉の安全性向上や福島原発の廃炉のための研究を行っている。
 ちなみに、2016年に廃炉が決定された高速増殖炉もんじゅは、もともと原研で研究開発を行う計画だったが、研究所内部で意見がまとまらずに見送られ、その代わりとして1967年に動燃が設立されたという経緯がある。動燃は、もんじゅのナトリウム漏れ事故(1995)や東海村再処理施設での火災事故(1997)の際に、管理の杜撰さが明らかになり(「どうねん、どうねん、どうなってんねん」とは当時の雑誌の見出し)、改組された。もんじゅの廃炉という厄介な業務は、原研の優秀な研究者と動燃の杜撰な体質を併せ持つ原子力機構が取り組んでいる。
大規模サイバー攻撃、150カ国以上で被害(17/05/20)

 今月12日頃から、世界的な規模でランサム(身代金)ウェア「WannaCry(ワナクライ)」によるサイバー攻撃が行われた。150カ国以上にわたり、少なくとも20万台のパソコンが被害にあったとされる。ランサムウェアとは、感染するとデータがロックされて読み出せなくなるウィルスソフトで、ロックを解除するのに身代金が要求される。身代金は数百ドル程度のことが多く、金額が低いために支払いに応じる被害企業も少なくないようだ。
 今回のケースで特徴的なのは、ランサムウェアの感染力がきわめて強く、短期間で広範囲に拡がったこと。これまでのランサムウェアは、メールに添付されて標的に送りつけられ、うっかりクリックすると感染するタイプが多かった。これに対して、今回のサイバー攻撃には、アップデートされていない Windows の脆弱性を突き、ネットに接続するだけで感染するソフトが使われたようだ。こうした攻撃に際しては、米国家安全保障局(NSA)が開発した攻撃ソフトが流出して使われたらしい。また、攻撃が波状的に繰り返される間に、ランサムウェアの変異種が次々に現れたことから、途中から模倣犯が攻撃に参加したと考えられる。こうした「次第に変化する攻撃」は、2007年にエストニアが大規模なサイバー攻撃を受けて金融機関などのサーバがダウンした際にも見られ、犯人の特定を難しくしている。
 被害が大きくなった原因の一つが、多くのユーザがOSのセキュリティパッチを適用していなかった、または、Windows XP などサポートの終了したOSを使っていたこと。マイクロソフトは、WannaCryに備えて、Vista 以降の Windows に適用されるセキュリティパッチを、今年3月に提供していた。イギリス国民保健サービス(NHS)では、診療の予約システムが機能しなくなるなどのトラブルが発生したが、これは、一部のマシンで Windows XP が使われていたためだ。
 ただし、被害者のみを責めるわけにはいかない。特定の業務を行うために独自に開発されたソフトは、しばしば新しいOSでは誤作動するため、多数のパソコンを接続したシステムを長く利用している組織では、即座に全OSを刷新することは難しいからである。それでは、マイクロソフトの責任は問えるのだろうか? 日本のPL法(製造物責任法)では、メーカ側が安全について10年間は責任を負うことが明記されている。OSのようなソフトウェアはPL法の適用外ではあるものの、「少なくとも10年は作った側が安全性の責任を負う」という考えはかなり一般的であり、2010年頃まで販売が続けられた Windows XP については、まだマイクロソフトが責任を負うべきだというのが社会的に見て妥当な見方だろう。PL法が適用されないので賠償などの法的責任を問うのは難しいが、XPに対するパッチを用意していなかったことでマイクロソフトが非難されるのは当然である(XP用パッチは5月15日に公開されたが、自動更新はされないらしい)。
トランプ政権、科学軽視の姿勢あらわ(17/04/10)

 トランプ米大統領は、2018年度の科学予算を大幅に削減する方針を打ち出した。この案に議会がどのように対応するか、多くの科学者が気をもんでいる。
 アメリカの産業保護を掲げるトランプが目の敵にしているのが、エネルギー産業にとって重石となる地球温暖化対策。特に狙い撃ちにされた米環境保護局(EPA)の場合、予算は前年に比べて31%減、人員も2割減らされる。EPAは、気候変動に関する研究を公表する前に、政治的なチェックを受けることになりそう。温暖化による海面上昇への対策を進める米海洋大気局(NOAA)の予算も削られ、革新的エネルギー技術を開発するため2009年に設置されたエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)は廃止される。
 トランプ流の政策が実行に移されると、世界をリードしてきたアメリカの生命科学も大打撃を受ける。米国立衛生研究所(NIH)の予算は18%もカットされ、ガンや幹細胞に関する研究が停滞する恐れが大きい。再生医療の鍵とされるES細胞(胚性幹細胞)は、受精卵を破壊して作成するため、これを用いた研究には、ペンス副大統領が反対している。また、ワクチンの安全性を再検討する委員会を設置するとの報道もあり、「ワクチンが自閉症を引き起こす」という説をトランプが信じているとも噂される。この説は、20年ほど前にLancet誌に掲載された論文で提唱されたものだが、その後、多くの研究によって否定され、原論文も撤回された。生命科学はアメリカのバイオ産業を発展させた原動力なので、なぜこれを軽視するのか不思議だが、オバマ前大統領が力を入れた分野なので、単にそれに反発しているだけかもしれない。
 トランプ大統領が例外的に熱心なのが、宇宙開発。ただし、「今世紀末までに太陽系の全惑星を有人探査する」といった実現可能性の低い目標を掲げる一方で、温暖化対策にも有用な地球観測衛星など人工衛星の計画は中止する方針。エネルギー分野では、ネバダ州ユッカ・マウンテンにおける使用済み核燃料の最終処分場建設が再開される。この処分場は、レーガン政権下で認可された後、ネバダ州民の反対運動が起きオバマ大統領が建設中止を決定していた。
豊洲から有害物質再検出(17/03/22)

 豊洲市場予定地の地下水調査で、環境基準の100倍を超えるベンゼンの他、毒性の強いシアン化合物も検出されたことで、市場移転問題がさらに混迷しそうな様相である。
 今回の地下水調査は、昨年11〜12月に行われた第9回調査の結果が、それまでの8回に比べて大幅に悪化したのを受けて、1〜3月に掛けて再実施したもの。ベンゼンとシアンのデータは、第9回の結果とコンシスタントである。ただし、この結果が、必ずしも危険性を示すものでないことに注意を要する。
 「基準の100倍」と報じられた「基準」とは、あくまで地下水を飲み水にする場合の「地下水基準」であり、「70年間、毎日2リットル飲み続けても健康に悪影響がない」ことを示す。豊洲移転の計画が持ち上がった段階では、有害物質を「下水に放流できる濃度」にまで軽減するという方針だったが、2009年、技術会議がより厳しい「地下水基準」の採用を提言、当時の石原都知事によって認められた(石原氏は、今になって「ハードルが高すぎたかもしれない」と言っているようだ)。市場開設には農水省の認可が必要だが、豊洲新市場で地下水を飲み水などに利用する予定はなく、「地下水基準」が満たされていなくても安全上の問題は生じないと考えられるので、今回の有害物質検出は、認可の障害にはならないと予想される。
 気になるのは、それまでの8回の調査結果と異なって、なぜ第9回と今回の調査で多量の有害物質が検出されたかという点。専門家会議では、昨年8〜9月に地下水管理システムが稼働し始めたことが影響していると見ている。豊洲では、かつてガス製造工場が操業していたため、2008年の時点で、多量の有害物質が残存していることが確認された。そこで、表土を取り除いて盛り土をするなどの対策を行い、土壌の浄化が進められた。しかし、これだけでは、どうしても地下の所々に有害物質を濃縮した溜まり水が残ってしまう。地下水管理システムは、地下ピットの排水を行い地下水の水位を低下させるものだが、このシステムを稼働させたことにより、点在していた溜まり水が移動して、第9回と今回の結果をもたらしたと推測される。水位の低下が順調に進めば、溜まり水による危険性は払拭できるはずである。
 もっとも、「科学的に見て安全」であることが判明しても、「市民の安心」が得られるとは限らない。豊洲移転を巡っては、東京ガスが土壌汚染に関する瑕疵担保責任を負わない契約になっていたなど、有害物質以外にもさまざまな問題が噴出しており、そもそも豊洲移転ができるかどうかも予断を許さない。
米科学アカデミー、生殖細胞のゲノム編集を容認(17/02/23)

 米科学アカデミー(NAS)は、重篤な遺伝病治療を行う場合に限って、ヒトの生殖細胞(精子・卵子・受精卵)に対するゲノム編集を容認する報告書をまとめた。
 クリスパーに代表されるゲノム編集技術は、ここ数年で急速な進歩を遂げている。コーエン=ボイヤー法などの古典的な遺伝子操作技術を用いて遺伝子を挿入する場合、染色体上のどこに挿入するかコントロールできず、周囲の遺伝子にいかなる影響を与えるかについては、ほとんど運まかせという状況だった。農作物で遺伝子組み換えを行う際には、多数の組み換え組織を作成しておき、順調に生育するものだけを選び出していた。これに対して、近年のゲノム編集では、狙った遺伝子をピンポイントで改変することができる。この技術を用いて、難病の遺伝子治療や農作物の品種改良を進めようとする動きも加速しつつある。
 そうした中で、生殖細胞に対してゲノム編集を行うことで、「生まれる前に遺伝病を治す」可能性も見えてくる。2015年には、中国の研究グループが受精卵に対するゲノム編集を行ったと発表、科学界に衝撃を与えた。同年開催された国際会議「ヒトのゲノム編集に関する国際サミット」では、生殖細胞に対するゲノム編集は、基礎研究に限って許されるものであり、胎内に戻して出産させることに対しては、「無責任」という見方が示された。
 科学者が、ゲノム編集技術による出生前遺伝子治療に対して慎重なのは、いまだ遺伝子発現のメカニズムが完全に解明されたとは言えないからである。確かに、膨大な研究データが蓄積され、以前に比べて知識量は格段に増大したが、それでも、不明な点があまりに多い。遺伝子とは、一般の人が思い描く「人体の設計図」ではなく、細胞がある環境下に置かれたときにどのように応答するかを示す指示書のようなものである。したがって、さまざまな細胞間相互作用が起こり得る現実の環境下で、あらゆる可能性を網羅的に調べることは不可能である。そもそも、ゲノム編集に関して莫大な量の論文が執筆されているという現状は、多くが未知の段階に留まっていることを示す。この段階で、子々孫々に影響が及ぶ生殖細胞の遺伝子を改変することは、時期尚早と見られてもしかたない。ただし、その一方で、医療技術の進歩によって重篤な遺伝病の患者の多くが長期にわたって生存できるようになっており、このままでは、遺伝病の遺伝子が拡散するおそれも否定できない。
 今回のNSAの報告書は、遺伝病の遺伝子が広まることを防止するという観点から、「疾病要因である…(中略)…と確実に示された遺伝子の編集に限る」などのきわめて厳しい制限を付ければ、生殖細胞に対する遺伝子操作も容認されるべきだとの見解を示したものである。この問題には、正解はない。「遺伝病の遺伝子は人類にとってマイナスの要素しか持たないのか」といった論点も含めて、今後、さらに議論を深めていく必要がある。
独バイエル、米モンサント買収で合意(16/09/25)

 今月14日、ドイツの化学・製薬大手バイエル社は、遺伝子組み換え作物の最大手であるモンサント社の買収に関して合意が成立したと発表した。買収額は約6兆8000億円。両社を併せると、農薬・種子市場での売上高は2兆円を大きく超え、日本企業(住友化学やサカタのタネなど)は、到底太刀打ちできない。農業部門に関しては、昨年、米ダウ・ケミカルと米デュポンが経営統合して新会社を設立することを決めたほか、今年2月には、中国の中国化工集団が農薬最大手のスイス・シンジェンタ社の買収を決めており、今後は、バイエル・モンサントを加えた3強の争いとなりそう。ただし、EUなど各地域における独占禁止法違反の疑いもあり、すんなり統合できない可能性もある。
 世界の大企業が農業に目を向けているのは、食糧需要の急増と技術面での伸びしろの大きさから言って、この分野が投資効率の高い成長産業だと考えられるため。生産性を高める主要なファクターが、バイオテクノロジーとITである。
 遺伝子組み換え(ゲノム編集を含む)を利用した作物に対しては、市民団体などの批判が厳しく、日本とヨーロッパではあまり普及していない。しかし、世界的に見ると、南北アメリカ・中国・インドなどで作付け面積が増大し、広く流通している。現在、主流になっているのは、殺虫剤成分を自分で分泌する、あるいは、除草剤耐性を持つ(すなわち、多量の除草剤を散布すれば、雑草が一掃されて自分だけが生き残る)作物だが、これらに関しては、生態系への悪影響が懸念されるため、批判的な科学者が少なくない。一方、研究進行中の塩害や干魃に強い植物ならば、不毛な土地を植生で覆い土壌流出や紫外線による有機物の分解を防げることから、環境改善のために積極的に導入すべきだとの見方もある。また、感染症予防の効果のあるワクチン成分を含んだ作物に対しても、期待が大きい。
 一方、ITによる農業改革は、バイエルなど欧米勢が積極的に進める手法。衛星写真に基づく土壌データをディープラーニングの手法で解析し、最適な農薬散布や灌漑法をはじき出し農家に提供するサービスなどが考えられる。経験をベースにした勘をAIによって獲得された知識に置き換えることができれば、一般労働者による効率的な営農が可能になるかもしれない。
 農業の効率化という点で、日本は欧米に比べて大幅に遅れている。現状からどのように巻き返すか、政府の決断も必要になる。
豊洲移転、「盛り土」問題で大幅遅延必至(16/09/18)

 小池百合子都知事は、11月に予定されていた築地市場の豊洲移転を当面延期すると発表した。汚染土壌対策として専門家会議で提言された盛り土が、水産卸売場棟や青果棟など主要建物の地下で実施されず、空間のまま残されていたことが理由である。青果棟地下では、かなりの部分でコンクリの床がなく、砕石層が剥き出しになっているという。
 豊洲市場予定地(40ha)には、以前、東京ガスのガス製造工場が操業していたこともあって、土壌または地下水に7種類の汚染物質(ベンゼン、シアン化合物、ヒ素、鉛、水銀、六価クロム、カドミウム)が含まれる。東京都が約4000箇所で行った調査によると、観測点の36%で環境基準を超える汚染が見つかり、基準の1000倍以上の汚染が検出された地点が、土壌で2地点、地下水で2地点あった。特に、ベンゼンは、基準の4万3000倍に達する土壌が見つかっている。ただし、汚染は表面近くに限られ、深くなるにつれて汚染物質濃度が低減する。
 こうした状況に対処するため、都は、まず、有害物質、水質、土質、環境保健各分野の専門家1名ずつ計4名から成る「豊洲新市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議」を07年5月から08年7月まで9回開催して取るべき対策を提言してもらい、続いて、「豊洲新市場予定地における土壌汚染対策工事に関する技術会議」を08年8月から10年8月まで14回にわたって開催、専門家会議の提言を実行に移すのに必要な具体的方法を策定した。
 専門家会議は、土壌汚染の状況から、まず地面から2メートルの表土を取り除き、その上に4.5メートルの盛り土をすることを提言した。表土を取り除くことで汚染物質の大半は除去されるが、一部は残存すると予想される。このため、主に遮蔽効果を狙って、土を盛ることにしたわけである(ベンゼンなどの揮発性有機汚染物質に関しては、土壌バクテリアによる分解も期待できる)。ところが、技術会議では、専門家会議のメンバーに諮ることなく、建物の地下を空洞にする工法を提言、これを受けて、都が地下空間を含む設計図を作成した。日経新聞の報道によれば、都はもともと地下の利用に積極的であり、07年の専門家会議で雨水貯留槽などに利用する方法を提案したものの、亀裂から揮発性汚染物質が漏出する可能性があると批判されたという。08年11月の技術会議でも、都の側から地下に空洞を残す案を提示したようだ。
 工事は14年に完了しており、今から建物地下に盛り土を搬入するのは困難。汚染土壌が取り除かれているので、盛り土がないからといって直ちに危険というわけではないが、汚染物質が残存している可能性もあるため、環境基準に適合しているか調査をする必要がある。都が採取した水からは微量のヒ素と六価クロムが検出されたが、いずれも環境基準以下に留まった。
 なぜ、建物地下に空間を残したか、理由は不明である。基礎工事のためにある程度地面を掘り下げなければならず、そこに再び土を運び込む“二度手間”を嫌がった可能性もある。豊洲は埋め立て地なので、固化材を用いて地盤を固めるなどの液状化対策が必須であり、その工事との兼ね合いがあったのかもしれない(専門家会議のメンバーは、建築の専門家ではない)。コストの問題が絡んでいたとも考えられる。汚染対策には、もともと670億円を予定していたが、土の入れ替えなどを完全に行うと1300億円ほどに膨れ上がることが予想され、当時の石原都知事が自ら代案を持ち出すなど議論が紛糾したようだ(石原案は、さらに金が掛かるということで却下された)。結局、汚染対策に850億円が使われたとされるが、地下空間を残したことでコストがどうなったか、今後の報道が待たれる。
抗菌せっけん、米で販売禁止(16/09/06)

 米食品医薬品局(FDA)は、殺菌剤のトリクロサンなど19種類の化学物質を含む抗菌せっけんを販売禁止にすると発表した。通常のせっけんより有効だという根拠がなく、さらに長期的に見てメリットよりもデメリットが大きくなる可能性があるためである。メーカーには、1年間の猶予期間が与えられる。
 医療目的ではなく日常的に使用する石けんに殺菌剤を添加するのが好ましくないことは、以前から科学者が指摘していた。まず、人体の細菌叢に悪影響を与える懸念がある。人間は多くの微生物と共生関係にあり、皮膚には皮膚常在菌と呼ばれる細菌が生息している。こうした常在菌は、皮膚を弱酸性に保つ作用があり、また、コロニーを作って皮膚を覆うことで他の悪玉菌が増殖するのを防いでくれる。抗菌石けんを使用すると、常在菌の多くがいったん死滅し、短期間のうちに別の細菌が繁殖するが、新たな細菌が悪玉菌の場合は、健康に悪影響をもたらすこともあり得る。つまり、抗菌石けんを使用するほど、ばい菌にさらされる危険が増すのである。
 また、殺菌剤が環境中に残留すると、耐性菌が増えて殺菌効果が薄れてくるおそれがある。細菌の場合は、突然変異だけではなく、プラスミド交換によって耐性遺伝子を他の細菌(必ずしも同種とは限らない)に伝達することができるので、耐性菌の増加速度は多細胞生物よりも遥かに速い。殺菌が必要なときには、残留性のない熱湯、アルコール、酢などを使用した方が、耐性菌を増やさず安全性が高い。そもそも、日常的な洗浄のためには、微生物の栄養となる汚れを落とす通常の石けんだけで充分である。
 トリクロサンの化学構造はダイオキシンに似ているが、急性毒性は充分に弱く、直ちに健康上の危険があるというわけではない。しかし、非水溶性であり体内に蓄積された場合には排出できないため、長期的に見て悪影響がないとは言い切れない。発ガン性や環境ホルモン作用(内分泌攪乱作用)の有無については、議論が分かれている。こうした点に関して、今後の研究が待たれる。
 トリクロサンの問題点は数年前から指摘され、FDAが禁止に向けた動きを見せていたので、アメリカの大手ですでに販売を止めたところも多い。日本では、トリクロサン入りの石けん・歯磨き・シャンプーなどがかなり販売されているが、各メーカーがどのような対応を示すか、注目したい。
高額な画期的新薬をどう使うか?(16/07/31)

 厚生労働省は、治療費が年3500万円掛かると言われるガン治療薬「オプジーボ」(および、高脂血症薬「レパーサ」)を主な対象として、高額薬の適正使用に向けたガイドライン作りに着手する。
 オプジーボは、免疫機能に関与する分子標的薬で、京都大学の本庶佑が中心となって開発したもの。動物の免疫機能には、暴走を防ぐためのブレーキ機構が組み込まれており、その1つが、92年に本庶研の大学院生だった石田靖雅が発見したPD-1による免疫抑制の作用である。2000年には、京大と米Genetics Instituteなどとの共同研究で、PD-1と特異的に結合する物質PD-L1が見つかった。本庶は、ガン細胞の表面にPD-L1が発現し、PD-1と結合して免疫機能を抑制すると推測、両者の結合を阻害する構造を持つ抗PD-1抗体を投与すればガン細胞を攻撃する免疫力が高まるとの見通しから動物実験を行い、02年に、実際にマウスの抗ガン能力が高まることを示す論文を発表した。さらに、抗PD-1抗体を利用したガン治療薬の開発を提案したが、国内の製薬会社はガン免疫療法に懐疑的で乗り気でなく、いったんはアメリカのベンチャー企業に話を持ちかけまとまりかけたものの、土壇場で小野薬品が自社開発を決断したという(nippon.comコラム「脚光を浴びる新たな「がん免疫療法」:小野薬品のオプジーボ」2015.04.22)。小野薬品は、2014年に悪性黒色腫(メラノーマ)治療薬として、世界に先駆けて抗PD-1抗体薬オプジーボを発売した。
 オプジーボには、費用が高額になることに加えて、治療効果が限定的だという課題がある。ただし、これは、全てのガン治療薬に共通する。外部から侵入する病原体をターゲットとする抗生物質などとは異なり、ガン治療薬は、増殖・代謝・免疫といった生物がもともと保有する機能に関わるため、薬効や副作用に個体差が大きい。オプジーボの場合、奏効率(ガンが消失または一定割合以上縮小した人の割合)は、肺ガンでは15-20%、メラノーマや腎細胞ガンでは30%近くだという。また、劇症1型糖尿病や重症筋無力症などの重篤な副作用が10%の患者で見られ、別のガン治療薬と併用したケースでは間質性肺疾患による死亡例もある。日本臨床腫瘍学会は、オプジーボに対する過大な期待から個人輸入し添付文書と異なる用法・用量で使用するケースがあることに対して、警鐘を鳴らしている。
 抗ガン剤による副作用事件としては、2002年に間質性肺炎による死亡例の報告が相次いだイレッサのケースが有名である。イレッサも過大に期待された分子標的薬で、発売直後から数万人の患者にいっせいに投与されたため、厚労省による情報収集が充分に行われないうちに副作用が多発し、適切な対策が講じられないまま数百人(末期ガンの患者が多いため、イレッサの副作用が主因のケースがどれくらいあるかはっきりしない)が死亡した。その後、ガン細胞の遺伝子検査を行うことで、イレッサが有効な患者を選別できるようになったと言われる(ただし、作用機序には不明な点が多い)。この事件は、新薬の使用法に関して、多くの教訓を残した。
 オプジーボが画期的な新薬であることは間違いないが、高額な費用をどうするかという点を含めて、適切な使用法に関して検討する必要がある。
ソニー、ロボットの夢再び(16/07/02)

 ソニーは、5月に出資を決めた米Cogitai社と共同開発する人工知能(AI)を活用して、ロボットビジネスに再参入することを明らかにした。Cogitai社は、「アルファ碁」で有名になった深層学習や強化学習の分野におけるトップ研究者3人によって2015年に設立されたベンチャー企業。平井社長は、「ハードとサービスを組み合わせて感動体験をもたらす新しい事業モデルを提案する」と語っている(2016/6/29付日本経済新聞夕刊)。
 ソニーのロボットビジネスは、1999年に発売されたペットロボットAIBOに始まる。AIBOは、視覚・聴覚・触覚センサーを介して外部からの刺激に反応する自律型4足歩行ロボットで、長期間稼働させるうちに反応パターンに個性が表れるようにプログラムされており、1台25万円という高価格ながら、発売開始20分で用意された3000台が完売するほどの人気を呼んだ。しかし、ネットワークビジネスへの転換を目指す当時の出井社長は、開発当初から乗り気でなく04年に撤退を宣言、ものづくりに興味のなかった後任のストリンガーCEOによって06年に生産中止にされた。
 今回の発表は、一度は消滅したソニー製ロボット復活の狼煙となるかもしれない。しかし、近年流行の深層学習に過剰なまでに肩入れしているのは気になるところ。AIBOは、音声認識などAI技術を取り入れていたものの、それ以上に重要だったのがエンジニアリングの面白さ(この点は、ホンダのASIMOと同じである)。ベースになったのは、米マサチューセッツ工科大学で開発された6足歩行の自律型ロボット。その昆虫のような動きに興味を覚えた土井利忠(後のAIBO開発責任者)が、周囲の批判を無視して開発を進めた。初代AIBOは遊び心満載で、ブラブラ動く大きな耳やピンと立った尻尾は、故障の原因にもなる不要なパーツであるにもかかわらず、あった方がリアルだという理由で採用された。平井社長が想定するAIメインのロボットが、こうした技術者の遊び心をどこまで引き出せるか、少々心許ない。
 AIに詳しくない人は、深層学習のことを人間的な知性の現れと錯覚するかもしれないが、実際には、読み込ませるビッグデータの範囲をあらかじめ定め、ニューラルネットにおける結合強度の変化方法を指示しておく必要がある。このため、(猫の画像を識別する、囲碁の試合に勝利するといった)特定の目標がある場合には効果を発揮するものの、何を目標にすべきかはっきりしないときには、必ずしも有用ではない。今後、入浴介助のように体力と気配りが必要とされる分野に、AI搭載ロボットが導入される可能性が高いが、「感動体験」などという古臭いお題目を唱えるソニーにこうした役に立つロボットが作れるかどうか、お手並み拝見といった所である。
Win10 へのアップグレードに不満噴出(16/06/20)

 米マイクロソフト(MS)社製OSのアップグレードを巡って、国会でも民進党参院議員による「パソコンの基本ソフトウェアの半強制的アップグレードに関する質問主意書」が提出されるなど、さまざまな議論が巻き起こっている。
 MS社は、経営の軸足をOSの販売から「Windowsストア」などのネット事業に移そうと画策しており、OSのメジャーバージョンアップは、PC・タブレット端末・スマホで操作性を共通化したWindows 10で打ち止めにする予定。事業転換に備えて、OSごとのサポート(Win7は2020年、Win8は2023年まで)に伴う負担を早めに軽減するとともに、Windowsストアとの連携性の良いWin10を普及させるべく、Win7/Win8.1ユーザに対してWin10への無償アップグレードを勧めているが、そのやり方がやや強引にすぎ、OSを変更する意志のないユーザの不満が大きくなった。
 アップグレードの勧めは、Windows Updateで「Get Windows 10 アプリ」がインストールされると頻繁に繰り返されるようになり、ファイルをダウンロードするなど勝手に準備を進める。ユーザがこのアプリをアンインストールし、再インストールを拒否する 「非表示」設定にしても、なぜか自動的に設定が変更される。無償アップグレード期限の7月29日が近づいた今年2月からは、アップグレード予約プログラムが Windows Update の「オプション」から「推奨」に格上げされたため、設定がデフォルトのままでは自動的に予約され、ユーザがキャンセルしないとアップグレードされる可能性がある。キャンセル方法は(マシン環境によるのか予約プログラムのバージョンによるのか不明だが)一貫しておらず、最もわかりにくいケースでは、「次の予定でアップグレードされます」という文言の下にある「予定の変更」をクリックし、「アップグレードの日時を選択してください」で予定日時を延期すると、新しい予定日時の下に、漸く「アップグレードの変更または取り消し」という項目が現れる。場合によっては、「今すぐアップグレード/今夜アップグレード」という冗談のような二択しかない告知画面となる。この状態からキャンセルする方法もあるが、手順がややこしく、ふつうの人はまず気付けない。
 半強制的なアップグレードによって、古い周辺機器やソフトが使用不能になったり、業務中にアップグレードが始まって時間を奪われたりするなど、損害が発生する場合もある。それでは、こうした損害について、MS社に損害賠償を請求することは可能だろうか? 問題は2つある。1つは損害の証明ができるかどうかで、「古いソフトが使えなくなった」という程度ならば、元のOSに戻す方法が用意されているため、損害とは認められないだろう。データが消失したという声もあるが、以前に確かにデータが存在し、アップグレードのせいで失われたことを証明しなければならない。業務が邪魔された場合でも、あらかじめアップグレード予定時刻が告知されていたので、予定を変更しなかった合理的な説明が必要となる。
 もう1つの問題は、Windows の使用を開始する際に、「いかなる損害 (逸失利益、直接損害、結果的損害、特別損害、間接損害、付随的損害を含みます) の賠償またはその他の請求を行うこと」ができないという免責条項を含むライセンス契約に同意させられる点である。ただし、この免責条項は絶対的ではない。免責条項の存在がユーザに周知徹底されていないこと、OSのアップグレードの際に不具合が生じやすいのはIT業界で周知の事実であること、一般ユーザにとってOSはPCとパッケージになった製造物の一部である(したがって、PL法が適用されるはずだというのが実感である)こと−−などの点を鑑みれば、民法第90条「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」という規定に従って、免責条項は無効で損害賠償が認められる可能性は小さくない。
 無償アップグレード期限の7月29日までにさらに一波乱あるかどうか、しばらく目が離せない。
【補記】筆者は、メインとなるデスクトップ(Win7)をはじめ、AV・ゲーム用デスクトップ(WinXP)、ネット動画用スティックPC(Win10)、補助用ノートPC(Win2000)の計4台を使用しているが、メインマシンは、前世紀製(!)のものを中心とする古いソフト、フリーソフトや自作のスクリプトを多用してギリギリまでカスタマイズしているので、アップグレードする気はない。Win10は、スティックPCで使用した限りで言えば、プリインストールアプリにサインインを要求するものが多い(しかも、アンインストールできない)、カスタマイズの自由度が小さい、Win7に比べてデザインの洗練度が落ちる−− などの理由で、魅力が感じられないOSである。
老朽原発も運転延長へ(16/06/04)

 原子力規制委員会は、6月2日の会合で、関西電力高浜原発1、2号機(それぞれ、1974年、75年に営業運転開始)の運転延長に関する公開審査を終えた。福島第1原発事故を契機として、原発の運転期間は原則40年に制限されたが、規制委が認めた場合には、例外的に最長60年まで期間延長ができる。認可には、安全対策が新規制基準を満たしていることを確認する安全審査と、設備の劣化状況を調べる運転延長審査の2つにパスすることが必要。高浜原発は、今年4月に、電気ケーブルの不燃化(計画)などが基準に適合すると認められ安全審査に合格しており、今回、原子炉強度にはまだ余裕があるとする関電の報告が了承されたことから、期限となる7月7日までに延長手続きが完了する見通し。延長が認められる最初のケースとなる。
 稼働40年前後の原発のうち、出力60万kW以下の小型原発に関しては、基準に適合させるための安全対策費がかさむため、廃炉にする動きが目立つ。例えば、四国電力は、今年5月に伊方原発1号機(77年運転開始)を廃炉にすると決定したが、これは、電源ケーブル不燃化などの安全対策に1700億円が必要となり、56万6千kWの出力では投資に見合う収益が得られないと判断されたから。ただし、廃炉にも、30年程度の期間と400億円超の費用が掛かるという(2016年5月10日付日本経済新聞より)。これに対して、高浜原発は出力が80万kW以上あり、安全対策費を上回る収益が見込める。
 老朽原発が危険だとされる理由は、主に2つある。1つは、古い原発の安全対策が不十分であること。福島第1原発(最も古い1号機は71年運転開始)では、経済性を優先して原子炉建屋をコンパクトにし、安全上の要となる非常用ディーゼル発電機を強度の劣るタービン建屋内部に設置するという設計ミスが、全電源喪失のきっかけとなった。実際、東日本大震災で被災した4つの原発のうち、女川原発・福島第2原発・東海第2原発は、非常用発電機を原子炉建屋内部に設置して津波による冠水を防いだ(一部は冠水)ため、外部電源が全て断たれた東海第2を含めて、大きな事故には至っていない。原発の安全対策は、1979年のスリーマイル島原発事故をきっかけに大幅に強化されており、スリーマイル以前か以後かが安全性を考える上での目安となる。
 もう1つの理由は、運転中に浴びる中性子によって原子炉鋼材が脆弱化するなど、さまざまな経年劣化が起きること。ただし、この点に関しては、必ずしも深刻ではなく、小さな亀裂が生じても適宜補修すれば、それほど問題にならないという見方がある(原発推進派の意見なので、どこまで信用できるかは不明)。
 原発の再稼働に対しては、周辺住民の反対が運転差し止め訴訟を起こすケースも多い。以前ならば、政府の決定に「待った」を掛けることに対して司法は及び腰で、特に、原発のように高度な技術に関しては、専門家による安全審査の結果を追認する判決が多かったが、福島事故以降は、積極的に自分の判断を打ち出す裁判官が増えてきたようだ。関電高浜原発3、4号機は、規制委の審査に合格していったん再稼働したが、運転差し止め仮処分申請に対する大津地裁の判断により、今年3月に運転を停止した(福井地裁・大津地裁による判断は二転三転しており、関電が不服申し立て中)。関電大飯原発3、4号機は、福井地裁から運転差し止め判決が出され、名古屋高裁で係争中。九州電力川内原発1、2号機に対する運転差し止め請求は、鹿児島地裁・福岡高裁とも却下。伊方3号機は、小型の1号機と違って出力89万kWの大型炉で収益が見込めるため、四国電は再稼働を狙っているが、住民訴訟の対象となっており早期の稼働は難しそうだ。
ルールを探るゲノム編集(16/05/01)

 高度な遺伝子操作を可能にするゲノム編集技術「クリスパー/キャス」が実用段階に入り、適切なルール作りを巡る議論が盛んになりつつある。内閣府の生命倫理専門調査会は、先月22日に、ヒト受精卵に対するゲノム編集を基礎研究に限って容認する見解をまとめた。受精卵へのゲノム編集は、先天性免疫不全症候群などの遺伝性疾患を遺伝子レベルで治療する方法の開発につなげられる一方で、ゲノム編集した受精卵を子宮に戻すとデザイナーベビーの誕生につながる危険性もある。生命倫理専門調査会の見解は、基礎研究や認めるが子宮に戻すことは容認できないとするもので、すでに基礎研究が実施された中国や研究計画が認可されたイギリスのやり方に追随するものだが、ナチスによる人体実験という苦い記憶があるドイツでは、受精卵に対する研究が法律で禁止されており、世界的にも意見が分かれている。
 ゲノム編集は、サイエンス誌によって2015年の "Breakthrough of the Year" に選ばれたもの。コーエン=ボイヤー法など従来の遺伝子操作が外来遺伝子を挿入する地点を選べず、他の遺伝子に影響を及ぼす可能性が大きかった(そのため、遺伝子治療の副作用としてガンが発症することがあった)のに対して、PAM配列と呼ばれる目印さえあれば、染色体の特定の遺伝子を操作することができる。この技術を応用すれば、難病治療法の開発以外にも、家畜や農作物に対する遺伝子レベルでの品種改良が可能にある。 日本では、ゲノム編集で熟成を促進するエチレンガスへの感受性を低減した「日持ちの良い」トマト(筑波大)が開発されている(実用化はまだ)。ただし、ゲノム解読ができたと言っても、ある形質に関連する塩基配列が見つかっただけであり、遺伝子発現のメカニズムが完全に解明されたわけではない。ゲノム編集が、意図したものとは異なる副作用をもたらす可能性は高く、まだ、相当の基礎研究を積み重ねなければ、人間に直接かかわる領域に応用するのは危険すぎる。バイオテクノロジーの最先端に位置する技術で、先行するアメリカをヨーロッパ諸国や日本、中国が追いかけている段階だが、リスクを孕む技術をどこまで認めるべきか、悩ましい問題だ。
熊本地震、震源は布田川・日奈久断層帯(16/04/16)

 4月14日午後9時26分、熊本県益城町で震度7(気象庁震度階級のうち最大のもので、1995年の阪神淡路大震災以来4回目)を観測する大地震(M6.5)が発生した。その後も、震度6前後の揺れが複数回起きたが、気象庁の発表によれば、16日午前1時25分に起きた最大震度6強7の揺れが本震(M7.3)で、それ以前のものは前震とされる。
 熊本で起きている一連の地震は、布田川・日奈久断層帯に起因するものと見られる。最初の震度7の前震は、日奈久断層帯における高野−白旗区間を震源とする。日奈久断層帯は、益城町から八代海南部まで、北東−南西方向81kmにわたる断層帯で、北東部では、阿蘇外輪山の西側斜面から宇土半島に延びる布田川断層帯と接する。M7.3の本震は、2つの断層帯が近接する地域で起きた。地震調査研究推進本部の布田川・日奈久断層帯の評価(2002年発表)によれば、日奈久断層帯の高野−白旗区間に関して、前回の活動時期は1600〜1200年前で平均活動間隔は不明、地震の規模は、この区間が単独で活動する場合はM6.8程度、日奈久断層帯全体が同時に活動する場合はM7.7〜8.0程度と推定される。また、布田川断層帯北部での前回の活動時期は6900〜2200年前。熊本地震とは位置がややずれるが、日奈久断層帯の八代海区間は、文部科学省が発表した主要断層の長期評価(2015年)で30年以内にM6.8以上の大規模な地震が起きる確率が最大16%とされ、全国で最も高い。
 今回の地震の特徴は、広い範囲で同時多発的に地震が続いていること。本震の後も、午前3時55分に熊本県阿蘇地方でM5.8、午前7時11分には大分県中部でM5.3の地震が起きているが、本震が誘因となって別個に発生したとの見方がある。
「ひとみ」復旧は困難か(16/04/09)

 2月17日に打ち上げられたものの、3月26日の運用開始時点から通信が途絶えていたX線天文衛星「ひとみ」は、軌道上で高速回転し機器の一部が分離したことが明らかになり、復旧がきわめて難しい状況にあることがわかった。
 X線天文学は、1979年のX線天文衛星「はくちょう」以来、日本が世界をリードする分野。ひとみは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が中心となり、日米欧の大学や研究機関の協力を得て開発されたX線天文衛星で、2005年に打ち上げられ15年に通信機器の不調などから科学観測を終了した「すざく」の後継機として、主にブラックホールの観測を行う予定だった。ブラックホールに関するデータは、降着円盤の物質が飲み込まれる過程で発する電磁波から得られるが、周囲に分厚いガス雲が存在する場合は、硬X線しか透過できないため、通常の方法では観測が難しい。「ひとみ」は、硬X線領域で「すざく」の100倍もの感度を持ち、銀河の合体などによって誕生するブラックホールのデータを得ることが期待されていた。
 すばる望遠鏡による光学観測によると、ひとみは、軌道上で少なくとも4個のパーツに分かれている(宇宙空間の物体を監視する米戦略軍統合宇宙運用センター(JSpOC)の発表では10個)。また、木曽観測所の広視野高速カメラによる観測では、明暗のパターンが5.2秒の間隔で繰り返されており、この周期で回転していると推測される。ひとみは、最大長14m、総重量2.7トンの大型衛星で、5.2秒という短い周期で高速回転することは想定されておらず、回転の遠心力によって分解した可能性が大きい。当初は、スペースデブリが衝突したとの見方もあったが、直径10cm以上の1万7000個のデブリを観測している JSpOC によれば、ひとみに接近するデブリはなかったという。回転を始めた原因としては、姿勢制御系の異常が考えられるが、いまだ解明されていない。
FBI、iPhone のロック解除に成功(16/03/30)

  iPhone のロック解除問題を巡って連邦捜査局(FBI)とアップル社が対立していた問題は、 FBI 側がアップルの協力なしにロック解除できたことで取りあえず終わりを迎えそうだが、将来に大きな課題を残したとも言える。
 問題の発端は、カリフォルニア州で起きた銃乱射テロ事件の捜査に当たって、容疑者の所有する iPhone のデータを FBI が調べようとしたところ、ロックが掛かってアクセスできなかったこと。誤ったパスワードを10回入力すると自動的にデータが消去される設定になっていたため、FBI がアップルにロック解除を求め、カリフォルニア州地裁も同意して命令を出したものの、アップル側は拒否。さらに、別の事件に絡んでロック解除問題が持ち上がっていたケースでは、ニューヨーク州地裁が「捜査当局がロック解除を強要できる法的根拠はない」と判決を下したことで、司法の判断も分かれる事態となった。
 アップルがロック解除を強硬に拒否したのは、スノーデン事件の教訓があるから。2013年、国家安全保障局 (NSA) が情報収集のためにインターネットと電話回線の傍受を行っていたことが暴露されたが、このとき、アップルをはじめ、マイクロソフト、グーグル、フェイスブックなど名だたるIT企業が NSA に協力したことが明らかになり、市民やマスコミから厳しく指弾された。このため、今回のケースでは、アップルは使用者のプライバシーを優先して解除に応じず、アメリカのIT大手もこぞってアップルの態度を支持した。
 報道によれば、今回 FBI がロック解除に成功したのは、セレブライトというイスラエルの企業(2007年にサン電子が買収して子会社化している)の技術を利用したから。セレブライトは、スマホからデータを抽出する機械を商品化しており、この分野ではトップクラスの企業らしい。ちなみに、イスラエルは、緊迫した国際情勢の中に置かれているため、ITを活用した情報収集技術がきわめて高いと言われる。
 情報通信技術が急速に進展する中で、個人のプライバシーをどのように/どこまで守るかは、難しい問題である。日本の場合、電子メールは法的に信書と認められないので、不正アクセス禁止法や電気通信事業法に抵触しない限り、メールの盗み見は罰せられない。あるいは、ネット検索企業は、やろうと思えば、どの端末からどんな用語が入力されたかを簡単に調査することができるし、それを禁じる法律もない。何が許され何が制限されるべきか、今回の騒動をきっかけに議論を深化させてほしい。
重力波を初観測(16/02/14)

 米LIGO(Laser Interferometer Gravitational Wave Observatory)は、アインシュタインの一般相対論によって100年前にその存在が予言されながら、あまりに微弱なため検出が困難とされていた重力波の観測に初めて成功したと発表した。LIGOでは、2002年から重力波の検出を目指して観測が続けられてきたがうまくいかず、昨年秋、感度を向上させた Advanced LIGO で観測を再スタートしところ、稼働2日後の9月14日9時50分45秒、幸運にもブラックホールの合体によって生じた重力波が到達した。
 フィジカル・レビュー・レター誌に掲載された論文(Phys. Rev. Lett. 116, 061102)によると、観測された振動波は、0.2秒ほどの間に周波数が35Hzから250Hzに上昇、それに伴って振幅が増大した後に急減するというパターンを示している。これは、2つのブラックホールが合体したときに発生する重力波の理論的予測とぴたりと一致するので、信憑性は高い。データを解析した結果、発生源までの距離は410(誤差+160/-180)Mpc(約13億光年)、合体したブラックホールの質量は、それぞれ太陽質量の36(+5/-4)倍と29(+4/-4)倍で、太陽質量の3倍に相当するエネルギー(3.0±0.5Mc^2)が重力波として放出されたという。
 重力波の解は、アインシュタイン方程式から直ちに導かれるため、その存在はほぼ確実視されていたものの、ブラックホールの合体による重力波が観測開始直後に見つかったことは驚きであり、合体頻度が予想よりも高いことを示唆する。1987年、カミオカンデによる観測を契機にニュートリノ天文学が花開いたように、今後は、重力波天文学が盛んになり、宇宙の歴史や銀河の運命が明らかにされていくことだろう。
AIが囲碁のプロ棋士に勝利(16/01/30)

 昨年10月、米グーグル社が開発した囲碁AI「アルファ碁」がヨーロッパ囲碁チャンピオンに5-0で勝利を収め、チェス・オセロ・将棋に続いて、ボードゲームでコンピュータが人間と互角以上に戦えることが示された(Nature 529, 484, 28 January 2016)。アルファ碁は、従来の探索法(可能な打ち方を数手先まで探索して局面が有利になるかを調べる方法)とは異なり、深層学習の結果を基に碁石の配置パターンから次の1手を導き出すもので、人間の直観に近い打ち方を示す。
 深層学習は、1980年代のAIブームの折に多くの研究がなされたパーセプトロン(原型は1957年にローゼンブラットが考案)の延長線上にあると言って良いだろう。80年代にはハードウェアの性能が低く、利用できるデータも少なかったため、大した成果が上げられなかったが、近年における半導体技術の向上とビッグデータの集積によって、より人間的な知性を実現できるようになったわけである。パーセプトロンでは、擬似的な神経ネットワークにさまざまなデータを入力し、出力が望ましい結果となるように、各ノードの結合強度を変化させる。こうした神経ネットワークを何層にも積み重ね、ビッグデータを活用して出力パターンがうまく収束するように学習を行わせるのが、深層学習の手法である。グーグル社は、この手法を使って、まず、アンドロイド端末での音声認識において誤認識率を25%低減、さらに2011年には、膨大な画像データから猫の顔を識別することに成功し、人間独自のものと思われてきた直観的なパターン認識をAIで実現する道を拓いた。アルファ碁では、3000万種類にも及ぶプロ棋士の打ち手を入力して学習させたという。
 もっとも、深層学習によって人間の直観が全てシミュレートできるようになるわけではない。「監視カメラの映像に映った群衆の中から特定の人物を見つける」といった限定的な課題に対しては、近い将来、人間以上の能力を発揮するAIが開発されるだろうが、バックグラウンドとしてさまざまなジャンルにわたる一般教養が必要とされるケースでは、人間の知性に匹敵するものはできないだろう。IBM製の人工知能ワトソンが、2009年に人気クイズ番組ジェパディで人間のチャンピオンを破って優勝したことは有名だが、このとき、ワトソンは、「チリとの国境線が最も長い国は?」という問いに相当する出題に対して、誤ってボリビアと答えている。これは、ワトソンが Wikipedia などネット上にある情報を知識ベースとし、言葉による検索を掛けることで答えを探索していたため、「チリ」「国境線」「長い」などの検索語に対して(19世紀半ば以来、長きにわたって国境線を巡る争いを続けていた)ボリビアがヒットした結果だとされる。南米の地図が思い浮かべられる人間なら、決してしない誤りである。このほか、AIの学習に利用するビッグデータにバイアスが加わっている場合にも、結果は信用できない(人間が犯した誤りだが、リーマン・ショックの原因は、不動産価格が長期低落傾向を示したことがないという90年分の“ビッグデータ”を過大に信用した金融会社が、サブプライム・ローンのリスクを低く見積もったことにある)。アルファ碁の“快挙”は、AIに何ができて何ができないかを真剣に考えてみる良い機会となるだろう。
太陽系に第9惑星?(16/01/25)

 米カリフォルニア工科大学の研究チームは、カイパーベルト天体の運行を基に、地球の10倍程度の質量を持つ惑星の存在が予想されると発表した(Astronomical Journal, 151:22, 2016 February)。
 カイパーベルトとは、海王星以遠で黄道面付近に小天体が密集する領域。2006年に準惑星に降格された冥王星も、カイパーベルト天体の一員と見なされる。冥王星は地球の月よりも小さく、この大きさの天体ならば、2003年に発見されたエリスやセドナをはじめ、カイパーベルト内に数多く存在すると予想される。これに対して、今回の報告にある天体は、冥王星の5000倍の質量を持つとされており、この予想が正しければ、惑星と呼ぶにふさわしい。
 カイパーベルト天体のうち、近日点が海王星以遠にあり軌道長半径が150AU(AUは天文単位で地球と太陽の間の平均距離)以上のものは、近日点が黄道面上に集中し、かつ、黄道面を横切る運行の向きが共通する。軌道長半径が150AU以下の天体にはこうした性質が見られないことから、偶然の産物とは考えにくく、何らかのダイナミカルな要因があると推測される。カルテク・グループは、この性質が巨大な天体との共鳴に起因すると予想してコンピュータ・シミュレーションを行い、質量を地球の10倍、近日点の位置を200〜300AUに設定したとき、データと最もよく一致するという結果を得た(比較したのは、セドナなど軌道長半径が250AU以上の6個の天体)。あくまでシミュレーションに基づく結果なので確実という訳ではなく、また、たとえ実在するとしても、最高性能の望遠鏡で長時間の探索を行わないと観測できないほど暗い天体であるため、数年以内に発見の報を耳にできる可能性は小さいが、第9惑星の存在がにわかに現実味を帯びてきたというだけで心躍るニュースである。
北朝鮮、水爆実験に成功?(16/01/07)

 北朝鮮は、6日、「特別重大報道」として「水素爆弾の実験に成功した」と発表した。韓国や日本でも、自然のものとは異なるマグニチュード5程度の地震波を観測しており、何らかの核実験が行われたことは確実と見られる。ただし、地震のマグニチュードが小さいので水爆実験が成功したとは考えにくく、日本にとって軍事的な脅威が増したと見なすのは早計である。
 水爆とは、核物理学者エドワード・テラーらの指導の下でアメリカが1952年に開発した核兵器で、原爆を起爆装置として水素の核融合による爆発を引き起こし、原爆の数百倍と言われる破壊力を実現する。原爆の技術資料はかなりのものが公になっており、据え置きタイプのウラン型原爆(ミサイル搭載可能な核弾頭ではなく、設置された場所で爆発させるもの)の場合、高濃縮ウランさえ手に入れば、大学工学部程度の施設で製造することも可能(北朝鮮が保有するのはプルトニウム型原爆で、その起爆装置の製造はウラン型原爆よりも難しいが、一流の機械メーカーなら不可能ではない)。これに対して、水爆の技術は最重要軍事機密とされ、設計図のドラフトすら入手困難である。起爆には原爆の爆発力をうまくコントロールしなければならず、その開発には、高度な技術力と潤沢な資金が必要となる。
 北朝鮮は、これまで、核兵器やミサイルの実験を繰り返し行っており、周辺諸国に強大な軍事力をアピールしている。しかし、2006年に行われた最初の原爆実験は明らかな失敗であり、その後、2度にわたる改良によって漸く所期の爆発力が得られたという程度。いきなり水爆の開発に成功することは、ありそうもない。また、長距離ミサイルの実験でも失敗が多く、核弾頭の開発もできていないようで、今のところ、日本が北朝鮮の核ミサイルに狙い撃ちされる可能性は、技術的に見て皆無。北朝鮮にとって、核兵器や長距離ミサイルは、実戦で使用する戦術兵器ではなく、あくまで外交を有利に進めるための戦略兵器にすぎない。このため、その威力に関して虚勢を張ることも多く、今回の発表もブラフと見た方が良いだろう。
"Breakthrough of the Year"にゲノム編集(15/12/20)

 米科学誌サイエンスは、2015年の "Breakthrough of the Year" として、ゲノム編集の技術(CRISPR)を選出した。この技術は、細菌がウィルスから身を守る仕組みを応用して2012年に開発されたもので、従来の遺伝子組み換え技術と異なり、染色体の狙った位置に遺伝子を挿入する。今年、生存不能なヒトの胚を用いたゲノム編集の実験が中国で行われ、技術の可能性とともに潜在的なリスクが示されたことで論議を呼んだ。適切に用いれば、農作物の品種改良や医薬品の開発に利用でき人類の福祉に貢献するが、その一方で、デザイナーベイビー(受精卵の段階で遺伝子操作を行った子供)が誕生するおそれもある。現時点では、遺伝子発現のメカニズムが完全に解明されたわけではないため、胎児の遺伝子操作に対して大部分の医学者が反対しているが、ゲノム編集の技術を用いてピンポイントでの遺伝子操作が可能になると、「致死性の遺伝病を誕生前に治療することは許容されるのでは…」といった主張も出てくると予想される。この問いに対してどのように答えるべきか、科学倫理の観点から議論を煮詰める必要があるだろう。
 次点に選ばれたものには、NASAの探査機ニューホライズンによる冥王星探査(氷の火山と推測される地形や、2つの天体が合体したように見える小衛星が発見された)、ケネウィック人のDNA解読(ワシントン州で発見された8500年前の人骨が北米先住民のものか議論があったが、DNAを調べた結果、周辺5部族の1つと遺伝的に近いと判明、あわせて、北米先住民が15000年前にベーリング海峡を渡ってきたアジア人の子孫であると確認された)、エボラ出血熱ワクチンの開発(カナダ政府が開発したワクチンの治験がWHOなどによってギニアで行われ、患者と接触して感染のリスクが高い4123人に投与したところ、発症者0だった)−−などがある。
COP21、パリ協定を採択(15/12/15)

 第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)でパリ協定が採択されたことにより、ようやく京都議定書に代わる国際ルールが定まり、地球温暖化対策は新たな段階に入った。
 パリ協定は、平均気温の上昇を産業革命前から2℃より充分低く抑えるとともに、1.5℃以内を目指して努力することを目的とする。最大の特徴は、全ての国に対して削減目標の作成を義務づけ、世界全体で5年ごとに進捗を検証するようにしたこと。アメリカが離脱し、中国・インドが削減義務を負わなかった京都議定書に対して、今回はアメリカと中国が積極的に働きかけを行い、条約に加盟する全ての国と地域が参加するパリ協定をまとめるのに寄与した。ただし、途上国に対して先進国が資金支援を行うことは定めたものの、削減目標未達の場合の対処はほとんど議論されず、どの程度の実効性があるかは不透明。国際的な炭素税のような仕組みも考える必要があるだろう。
 パリ協定は、原発が停止され火力発電の比率が一時的に高まっている日本にとって、重い負担を課す。しかし、長期的に見れば、再生可能エネルギー・LED照明・エコカー・高速鉄道網などの分野で新たなビジネスチャンスも生まれるため、マイナス面ばかりではない。
 1980年代後半に多くの科学者が警告し始めてから30年、地球温暖化の実害が少しずつ表面化しつつある。近年、世界的に多発する異常気象が地球温暖化によるものかどうかはいまだ判然としないが、二酸化炭素放出をこのまま放置すると、今世紀末までに、アメリカ中西部の穀倉地帯をはじめ世界各地で農業生産が大きな打撃を受けることは確実。さらに、食料と水の不足によって国際的な紛争が勃発することも予想され、人類にとって大きな災厄となる。パリ協定が災厄回避の第一歩になることを期待したい。
H2A、静止衛星の放出に成功(15/11/25)

 三菱重工業が24日に打ち上げたH-IIA29号機は、カナダ・テレサット社の通信放送衛星を静止軌道へ投入することに成功した。国産ロケットが商業衛星を軌道投入したのは初めてで、宇宙ビジネス参入の第一歩と言える。
 人工衛星と一口で言っても、その高度は用途に応じてさまざまで、国際宇宙ステーションのある地上数百キロメートルの低軌道から、静止衛星(地球の自転周期と同じ周期で公転する衛星)が飛ぶ高度36000km以上の高軌道まである(軍事目的のスパイ衛星は、地上観測のために高度100km程度まで降下することがあるが、この軌道では空気抵抗が大きく、そのままでは墜落する)。H-IIAロケットは、これまで高度300km付近で衛星を放出していたが、これでは、衛星自身がロケット噴射して静止軌道まで上昇しなければならず、軌道を保持するために必要な燃料を使ってしまい衛星の寿命を短くしていた。今回の29号機は、性能を向上させた改良型の機体を採用しており、従来2回だった2段エンジンの噴射を3回に増やし4時間ほど長く飛行することで、静止軌道まで衛星を運ぶことができた。
 衛星打ち上げを中心とする宇宙ビジネスを成功させるためには、成功率とコストという2つの課題をクリアしなければならない。一世代前のH-IIロケットは、7回の打ち上げで2回失敗し、成功率70%台という低い数字に甘んじた(インド以下と言われて、技術者は悔しい思いをした)が、H-IIA(H-IIの部分的な改良機ではなく、設計を根本から見直したもの)になってからは、29回のうち28回成功し、宇宙ビジネスのボーダーラインとされる成功率95%をクリアしている。アメリカのアトラスVとヨーロッパのアリアン5は、H-IIAより高い成功率を誇るが、ロシアのプロトンMは2013年頃から失敗が相次ぎ、成功率90%前後である。
 一方、コスト面で、日本は先行する欧米ロに大きく後れをとっている。H-IIAの打ち上げ費用は100億円程度だが、米スペースXは6120万ドルで、ロシアのプロトンMはさらに安価。日本は、後継機となるH3でコスト半減を目指すが、欧州勢も新型機の構想を打ち出しており、前途は必ずしも明るくない。
国産旅客機、半世紀ぶりに初飛行(15/11/12)

 1962年のYS-11に続く半世紀ぶりの国産旅客機MRJ(三菱重工・三菱航空機が開発・製造)が、11日、YS-11と同じく名古屋空港から初飛行を行った。日本企業によって開発された民間飛行機には、他に、富士重工の小型自家用機FA-200/FA-300やホンダのホンダジェットなどがあるが、富士重工はすでに開発から撤退、また、ホンダはアメリカで開発・製造を行っているので、現在、国内の民間機メーカーは、三菱以外、一人乗りの自家用機を開発した独立系のオリンポスだけである。
 航空機産業が日本で伸び悩んだのは、敗戦後、進駐軍が航空機の開発を7年にわたって禁止し、その間に主流となったジェット機分野で出遅れたことに加えて、日本的なものづくりの手法が通用しにくいせいでもある。旅客機の部品数は100万点ほどに上り、自動車などに比べて桁違いに多い。国内での下請け業者ではまかないきれず、ボーイングやエアバスなどの大手メーカーでも、欧米を中心とする有力部品メーカーから調達するのが一般的である。MRJの場合も、部品の7割は外国製で、心臓部となるエンジンは、米プラット・アンド・ホイットニー社の最新型PW1200Gである。航空機開発のプロジェクトリーダーは、こうした膨大な細部を総合的に俯瞰しながら、何が開発のネックになるか、リソースをどのように再配分すべきかを見いだし、部品メーカーとの間で調整を図らなければならないため、深い技術的知識と高度なコミュニケーション能力が要求される。しかし、日本企業では、往々にして、営業上手な人は技術の細部を知らず、有能な技術者は口べたであり、両方の才能を備えた人材に欠ける(同様の問題は金融業のIT化などにおいても見られ、金融業務とコンピュータ・システムの双方に詳しい人材がいないため、しばしばシステム・トラブルが発生する)。航空機のような複雑なシステムの開発に挑戦するには、丹念なものづくりに専念するだけではなく、総合的能力を有するプロジェクトリーダーを計画的に育成する必要がある。
 MRJはようやく初飛行にこぎ着けたものの、バラ色の未来が用意されている訳ではない。YS-11は、販売やメンテナンスの体制が整えられず、100億円を超える累積赤字を抱えたまま、わずか180機で製造中止となった。MRJが参入を目指すコミューター(数十人乗りの小型旅客機)市場は、ブラジルのエンブラエルをはじめライバルが多く、三菱が掲げる2000機という目標を達成できるかは微妙。今後も、広い視野を持ったリーダーの下で継続的な努力を続けなければならない。
加工肉に発ガン性?(15/11/01)

 世界保健機関(WHO)の外部組織である国際ガン研究機関(IARC)は、ハムやソーセージなどの加工肉を「人に対し発ガン性がある」物質に指定した。IARCは、発ガン性リスクを、「ヒトに対する発ガン性が認められる」グループ1、「ヒトに対する発ガン性があると考えられる」グループ2など4つのグループに分類しており、加工肉はグループ1に分類された。
 ここで注意しなければならないのは、IARCの分類が発ガン性の有無に関するものであり、危険性の大小を表す訳ではない点である。グループ1に属するものとしては、アスベストやベンゼン、喫煙などとともに太陽光曝露もあげられているが、特に紫外線が強い環境でなければ、日常生活で太陽光を浴びることは心配するほど危険ではない。加工肉の場合も同様で、発ガン性があるからと言って直ちに避けるべきだとは言えない。IARCの発表では、加工肉を「毎日食べた場合、50グラムごとに大腸がんを患う確率が18%上昇する」とされており、この数値が正しいならば、毎日大量のハム・ソーセージを食べるのは避けた方が無難かもしれない。ただし、この程度の発ガン性リスクの変動は、野菜不足や塩分の取りすぎでも見られるので、食生活全般を考えて行動しなければ無意味である。
 国立がん研究センターによると、日本人の加工肉の摂取量は1日当たり13グラムと世界的に見ても少ない方で、2011年に日本人を対象として行われた調査では、摂取量が特に多かったグループを除いて大腸ガンの罹患リスク増加は認められないという。日本人の平均的な食生活を送っている人は、さして気にする必要がないだろう。IARCは、(加工されていない)赤身肉についても「おそらく発ガン性がある」物質に指定したが、肉に含有される栄養素のメリットを考えると、(大量の肉ばかり食べる偏食の人を別にすれば)肉の摂取を控える必要はないはずである。
 発ガン性リスクに関しては、確実なデータを得ることがきわめて難しく、管理された動物実験でも、マウスを1万匹くらいは犠牲にしなければはっきりしたことはわからないと言われる。その場合でも、動物に対する発ガン性の有無が確かめられるだけで、ガン発生のメカニズムはほとんどのケースで不明というのが現状。人間に対する発ガン性に関しては、確実性に欠ける疫学調査を積み重ねていかなければならない。IARCは、そうした研究を通じて発ガン性の有無が認められたケースを発表しているだけであり、危険かどうかを判断するには、別の基準が必要となる。
次世代カーの開発競争、熾烈に(15/10/26)

 自動運転と低公害という2つのポイントを巡る次世代カーの開発競争が、熾烈になりつつある。
 自動運転に関しては「Google Car」が話題を集めているが、技術開発自体は、70年代から世界各国で進められてきた。日本では、世界的にも早い70年代半ばから研究開発が行われ、1996年には、AHS(Automated Highway System)の技術に基づいて、上信越自動車道の未利用区間で乗用車11台を最高速度80kmで走らせる自動隊列走行(先頭車は人間が運転し、後続車は指定された車間距離を維持しながら自動走行)の実験が行われた。最近では、センサーや情報通信の技術進歩に伴い、自動車搭載のAIが歩行者や道路標識を認知しながら運転操作を行う完全自動運転の実現が期待されている。すでに、グーグルや日産・トヨタが試作車の公道実験を行っており、グーグルは17年にも出荷開始、日産は16年に高速道路の一定車線に限定した製品を、20年には市街地の一般道に対応したものを販売すると発表している(10月21日付日経新聞による)。また、自動運転車の目となる超小型センサーの覇権を巡る争いも激しさを増し、最大手の独ボッシュを独コンチネンタルなどが追い上げている。
 自動運転の実用化でネックになるのが、法律の整備。現在の道路交通法では、「運転者の義務」として「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し…(中略)…他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」と規定されており、自動走行を想定していない。トヨタが公道試験を行ったときには、運転者が常に運転状況を見守っており、取材スタッフが腕組みをするように頼んでも(道交法違反になるので)応じなかったという。また、事故が起きたとき、誰が責任を負うのかもはっきりしない。限定的な自動走行なら10年代後半にも実用化されようとしているので、法整備を急ぐ必要がある。
 一方、低公害車の動向は、フォルクスワーゲン(VW)社の不正によって流れが変わる可能性がある。次世代低公害車の本命は燃料電池車と電気自動車で、実用化に向けて先行していた前者を、リチウムイオン電池の採用によって軽量化された後者が追い抜こうという状況ではあるものの、両者とも燃料供給のインフラ整備が遅滞しており、普及にはまだ時間が掛かりそう。現時点で販売台数が多い低公害車は、日米ではハイブリッド車、EUではクリーンディーゼル車である。ディーゼル車は、パワフルで低燃費なためトラックやバスなどの大型商用車で使用されるが、NOx(窒素酸化物)とPM(粒子状物質)の排出が多いという欠点がある。しかも、エンジンの構造上、燃焼温度を上げるとPMが減る一方でNOxが増えるという関係にあり、両者を同時に減らすことは難しい。燃焼段階でPMがNOxのどちらかを減らし、後処理で残った物質を削減すると、コストが高くついたり耐久性が損なわれたりして、燃費の良さを相殺してしまう。そうした中で、VWが安価でクリーンなディーゼル車を開発したとされ、売り上げを伸ばしていたが、今年9月に米環境保護局が排ガス試験の際に不正を行っていたと発表、安価なクリーンディーゼル車が幻であることが判明した。VWがなぜ不正に手を染めたのかは明らかでないが、販売台数世界一を目指してトヨタを猛追する過程で無理が生じたと推測される。
 コストや耐久性を犠牲にすれば、ディーゼルエンジンで排ガス規制をクリアすることは可能だが、VWの不正によって先進国におけるディーゼル車の地位が後退することは避けられない。敵失で有利な立場に立ったトヨタは、「2050年以降、ガソリンエンジン単体の車はつくらない」と発表した。2020年までにハイブリッド車の年間販売台数を150万台に、燃料電池車を3万台に拡大する方針で、この12月に発売予定の4代目プリウスでは、燃費が40km/Lと現行プリウスより20%以上も向上する(革新的な技術の導入ではなく、個々の部品を小型化するという地道な努力の成果らしい)。自動車は、個人が所有する製品としては最も環境負荷が大きいものだけに、各メーカーとも低公害車の普及に力を入れてほしいものである(私としては、総重量2〜300kgの超軽量車を開発してほしいのだが)。
ニュートリノ振動の発見にノーベル物理学賞(15/10/16)

 2015年度のノーベル物理学賞は、ニュートリノ振動の発見により、東大・梶田隆章とクイーンズ大学(カナダ)アーサー・B・マクドナルド両教授に授与された。梶田は大気ニュートリノに関する1998年のスーパーカミオカンデ実験を、マクドナルドは太陽ニュートリノに関する2001年のSNO実験を主導し、それぞれニュートリノ振動に起因すると思われる現象を観測した。
 ニュートリノ振動とは、3種類あるニュートリノ(電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノ)が相互に姿を変える現象で、ニュートリノに質量があることを含意する。場の量子論によると、素粒子は古典的な原子論で想定されるような粒子ではなく、場の振動が量子効果によって粒子的な振舞いをしている状態。場同士の相互作用によって、ある場の振動が別の場に伝えられると、素粒子が別の粒子に変わるという現象が起きる。70年代に確立された素粒子の標準模型では、ニュートリノは、ウィークボソンの場を介して対になる荷電粒子との相互作用だけを行うとされており、電子ニュートリノと電子は相互に変わり得るが、電子ニュートリノがミューニュートリノに変化することはない。これは、6種類あるクォークが相互に変換できるのとは異なっており、ニュートリノ場が質量項の存在しない特定の形に制限されることの現れだと見なされていた。しかし、ニュートリノ振動の発見によって、ニュートリノ場同士の相互作用が可能であり、必然的に質量項が現れることが示された訳である。
 ニュートリノに関する研究は、日本のお家芸と言っても良い。ニュートリノ振動の理論は、まずイタリアの物理学者によって提唱されたが、異なる種類のニュートリノの変換という現在の形式にまとめたのは、坂田昌一ら日本人グループ。さらに、ニュートリノは検出しにくい素粒子であるため、精密な観測には専用の巨大検出器と多数のセンサーが必要になる。欧米では(地味な実験なのに金が掛かることもあって)実現できなかった観測装置を、日本では、東大の小柴昌俊が中心となり、岐阜県の神岡鉱山跡地に建設した。83年に完成したニュートリノ検出器カミオカンデでは、当初の目的だった陽子崩壊現象は発見できなかった(単純な大統一理論が誤りであることを実証)ものの、87年に大マゼラン雲に現れた超新星からのニュートリノを検出、この業績が評価されて、小柴がノーベル賞を受賞する。95年にはスーパーカミオカンデが完成、太陽ニュートリノや大気ニュートリノの研究が続けられてきた。スーパーカミオカンデの実験を主導し、ノーベル賞確実と言われた戸塚洋二は、残念ながら2008年に亡くなるが、今回、戸塚とともに実験を行ってきた梶田が受賞することになった。ノーベル賞の3人枠が1つ余っているのは、戸塚の席だと考えたい。
20年以内に地球外生命発見?(15/04/13)

 NASAのチーフサイエンティストを務めるエレン・ストファンは、今月7日にワシントンD.C.で行われたパネルディスカッションで、「10年以内に地球外生命体の有力な兆候がつかめるだろう。20〜30年以内には確実な証拠が得られると思う」と語ったという(CNN 2015.04.09)。
 このニュースに対して、多くの科学者は冷笑的な反応を示すだろう。NASAの科学者による地球外生命に関する発表には、かなり疑わしいものが少なくないからである。1999年、NASAの科学者チームが火星から飛来したSNC隕石に生命の痕跡が見られると発表、大きな話題となったが、生命活動の根拠とされた多環芳香族炭化水素は生物によらない化学反応でも生成できることなどから、現在、火星生命の存在が学界で支持されている訳ではない。2010年には、カリフォルニア州の塩湖でリンの代わりにヒ素を取り込んで増殖するバクテリアが見つかったと報告、DNAのリン酸がヒ素に置き換わっていたことから、リンの乏しい天体でも生命は存在できると主張した(この会見は、NASAが地球外生命に関する重大発表をすると事前にアナウンスされていたため、一般人の注目度も高かった)。しかし、その後の研究で、当のバクテリアはリンが無ければ生命活動を維持できないことが判明し、ヒ素生命に対する関心は急速に低下した。
 NASAが地球外生命に関して怪しげな発表を繰り返す背後には、予算獲得のための深謀遠慮が感じられる。予算配分を決定する立場にある人は必ずしも科学リタラシーが高くないため、こうしたわかりやすいアピールポイントを用意する必要があるのだろう(同じようなアピール戦略は、素粒子実験に必要な巨大加速器の建設を画策する際にも見られ、LHC計画では「ミニ・ブラックホールも作れる」と吹聴して、逆に危険視される結果を招いた)。NASAの科学者は、昨年7月の討論会でも「20年以内に地球外生命体が見つかるだろう」と発言したが、このときには、別の科学者が「そのためには高性能宇宙望遠鏡が必要になる」と言葉を継いでいた。
脳刺激による知覚・記憶の変容(15/04/05)

 脳を直接刺激することで知覚の拡張や連合記憶の形成を実現する実験結果が、相次いで報告された。
 知覚を拡張する実験は東大の池谷祐二らが行ったもので、ラットに人工的な“磁気知覚”を与えるというもの (H.Norimoto and Y.Ikegaya, 'Visual Cortical Prosthesis with a Geomagnetic Compass Restores Spatial Navigation in Blind Rats' Current Biology April 2, 2015)。瞼を縫合して視覚を奪ったラットの頭部に、地磁気の方位を感知して1次視覚皮質に刺激を与えるチップを埋め込み、迷路の中にあるエサを探索する課題を遂行させたところ、数十回の試行で開眼ラットと同程度に素早くエサに到達できるようになったという。一方、チップを埋め込まなかったラットは、同じ課題に対して到達時間の短縮は見られなかった。脳には、感覚入力の変更に対する順応性があり、人間ならば、上下や左右が逆に見える逆転メガネを掛けても、1〜2週間程度でふつうに生活できるようになることが知られている。今回の実験に用いたラットは、地磁気に応じた脳への刺激を新たな方位感覚として役立てられることを学習した訳である。
 連合記憶を形成する実験は、富山大の井ノ口教授らが行った (N.Ohkawa et al., 'Artificial Association of Pre-stored Information to Generate a Qualitatively New Memory' Cell Reports April 2, 2015)。この実験では、コンテクスト記憶(例えば、どんな形に箱に入れられたか)と、電気ショックによる恐怖記憶という2つの個別的な記憶を連合させた。こうした個別記憶は、海馬および扁桃体におけるニューロン集団が活性化されることで形成されると考えられるので、まず、蛍光 in situ ハイブリダイゼーションと呼ばれる手法で、それぞれの個別記憶が形成される際に活性化されたニューロン集団を特定、ついで、2つのニューロン集団を同時に活性化させることで、連合記憶を作り上げた(ニューロン集団の活性化には、遺伝子操作によって発現させた光刺激で開くイオンチャンネルを利用)。実験結果によると、コンテクストB(丸い箱)を覚えさせたマウスにコンテクストA(四角い箱)で電気ショックを与えた場合、通常ならば、コンテクストBに戻しても、身をすくませるなどの怯えの反応はあまり見られない。しかし、コンテクストBの記憶と恐怖記憶のそれぞれに対応するニューロン集団を同時に活性化させると、コンテクストBに置かれただけで怯えの反応を示すようになる。この結果は、連合記憶が記憶をコードするニューロン集団の同時活性化で形成されることを示唆する。
(それにしても、私のような物理屋からすると、最先端バイオテクノロジーを用いた実験は、ほとんど想像を絶する領域に達しているような気がします)
福島原発、ミュー粒子で内部調査(15/03/22)

 東京電力の発表によると、福島第一原発事故でメルトダウンが起きたとされる1号機の内部をミュー粒子によって透視したところ、核燃料がほぼ全て溶け落ちていたことが確認された。この調査は、国際廃炉研究開発機構および高エネルギー加速器研究機構(高エネ研)が宇宙線に由来するミュー粒子を用いて行ったもので、今回発表されたのは、2月12日から3月10日までに得られたデータの解析結果。それによると、測定データと設計図面を比較して格納容器・圧力容器などの境界は判別できたが、核燃料が配置されていた炉心位置に1メートルを超える高密度物質は確認できなかったという。この結果は、「核燃料のほぼ全てが格納容器の底に落下した」というコンピュータ・シミュレーションを裏付ける。また、使用済核燃料プールにはミュー粒子の吸収体が観測され、燃料が存在すると推定された。
 今回の測定で使われたミュー粒子は、電磁気的な性質は電子と良く似ているが質量が電子の207倍ある素粒子で、宇宙から降り注ぐ高エネルギー粒子と大気の反応によって、主に高度約15kmほどの上空で作られる。電子など他の素粒子の大半は途中で大気に吸収されるが、ミュー粒子は大気中でほとんどエネルギーを失わずに地表に到達する。高密度体内部に進入すると特定の法則に従ってエネルギーを失うため、物質を透過したミュー粒子のエネルギー分布を測定すれば、飛行経路上の密度長(密度×経路長)が推測できる。複数の方位でミュー粒子を測定し、データをコンピュータで解析すれば、途中にある高密度物質の形状がある程度わかる(解像度は1m程度)。これまでにも、同じ手法によって浅間山や有珠山などの内部探索が行われ、固結したマグマの密度分布などに関する重要なデータが得られている。
 ミュー粒子を用いて福島原発内部の状況を調査するというアイデアは、東日本大震災の1週間後に高エネ研から提案されたもので、2012年から予備研究が始まった。一時は画像が鮮明でないなどの理由で見送られそうになったが、研究者の働きかけによって実施にこぎ着けたという。今後は、ミュー粒子検出器の位置を変えてデブリの位置を特定し、2021年以降に予定されるデブリの取り出しに役立てる方針。
ホモ属の起源、280万年前?(15/03/08)

 アリゾナ州立大学チームらは、エチオピアのアファール地域で280-275万年前のものとされるホモ属の下顎骨を発見したと発表した(B.Villmoare et al., Science aaa1343Published online 4 March 2015 / E.N.DiMaggio et al., Science aaa1415Published online 4 March 2015)。ホモ属が、脳容積がチンパンジーと同程度だったアウストラロピテクス属から300-250万年前に進化したことはほぼ合意されているが、この時期のホモ属の化石は少なく、これまで見つかった最古のものは、エチオピアのハダールで発見された230万年前の上顎骨だった。
 人類の祖先に関しては、21世紀に入ってから新発見が相次いでいる。従来の学説では、ヒト(亜)族(ヒト科の中でアウストラロピテクス属などチンパンジー属よりもホモ属に近いものを併せたグループ)は440万年以上前、ホモ属は200万年より少し前に東アフリカに登場、100万年ほど前にアフリカから出て世界各地に拡散したとされた。ホモ属の新種であるホモ・サピエンスは、他のホモ属(ネアンデルタール人など)と交わることなく、言語と道具を獲得して高度な文化を獲得したという。しかし、新たな発見によると、ヒト族は、早くも700万年前に西アフリカに進出、さらに、グルジアで発見された178万年前の化石により、この頃にはすでにアフリカを出発していたことが判明する。また、ネアンデルタール人は、動物の骨で作った道具を使用し、身体に化粧を施し死者を悼む風習のある文化的な種族で、その遺伝子の一部は、彼らがホモ・サピエンスと交わったことによって、われわれにも受け継がれている。
 さまざまな新発見があったとは言え、300-200万年前に起きたヒト族の急激な進化については、いまだ不明な点が多い。この時期に精密な道具(剥片石器)の使用が始まり、食性が菜食中心から動物性タンパク質を多く含むものへと変化、さらに、ホモ属が出現して脳容積が急激に増大し始める。人類の起源に関する研究は、目が離せない状況になってきた。
脱ゆとり奏功? PISAの成績向上(13/12/08)

 国際的学習到達度調査PISA(Programme for International Student Assessment)の2012年調査結果が3日に公表された。日本は前回よりも成績が向上しており、学習指導要領の改訂などを通じて「ゆとり教育」から脱却した成果と見る向きもある。
 PISAは、経済協力開発機構(OECD)が2000年以降3年に1度実施している調査で、今回が5回目。15歳の生徒を対象に「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」の3分野で、「知識や技能を生活に生かす能力」の習熟度を調べる。国・地域別の成績順位も発表されたが、これは、各地域の特性に依存しているので、それほど気にする必要はないだろう(例えば、3分野の全てで上海が圧倒的な高得点を上げているが、得点分布の偏りから、優秀な生徒を集める教育特区的な性格の現れだと推察される)。むしろ、成績の経年変化に、各地域の教育事情が反映されていて興味深い。
 PISAの結果は、文部科学省国立教育政策研究所のホームページで見ることができる。ここでは、日本とともに、フィンランド・ドイツ・アメリカの計4ヶ国の成績変化をグラフで示した。
PISA成績

 日本では、1998年に全面改定された学習指導要領に基づく本格的な「ゆとり教育」が02年(小中学校)〜03年(高校)に開始されたが、この時期に教育を受けた生徒のPISA成績が落ち込んだため、「ゆとり教育」の弊害とされ議論を呼んだ(いわゆるPISAショック)。08年の「脱ゆとり」指導要領に基づく授業は11年(小学校)〜13年(高校)に始まるが、教育現場では、その数年前から「脱ゆとり」の動きが見られた。これが、09〜12年のPISAの成績に反映されているかどうかは、見解の分かれるところ。
 フィンランドは、03〜09年の好成績によって教育先進国とされ、特に、落ちこぼれを出さない教育方針は日本でも参考になると言われた。しかし、フィンランド国内では教育行政のさまざまな問題が指摘されており、必ずしも万全とは言えないようである。
 PISAの結果に最も衝撃を受けたのは、おそらく00年のドイツだろう。3分野の成績は、参加32ヶ国中20〜21位。アメリカやフランスよりも遥かに低い成績に、ドイツ教育界は騒然となったそうだ。その後、授業時間の増加、修業年限の繰り上げなどの教育改革が進められたが、そのせいか、PISAの成績は一貫して向上している。
 一方、アメリカは、相変わらずのマイペースぶりである。
アイソン彗星、消滅?(13/12/01)

 29日未明(日本時間)に表面から110万キロの距離まで太陽に接近していたアイソン彗星は、世界中の天文学者が観測する中、予定の時間になっても、太陽の影から姿を現さなかった。直径数kmの核が太陽の熱と潮汐力で崩壊、3000度近い高温にさらされ、大きめの塵を残して消滅したと推測される。長く尾を引く世紀の大彗星の姿を期待していた天文ファンをがっかりさせた。
 アイソン彗星は、2012年に国際科学光学ネットワーク(International Scientific Optical Network)に所属する研究者が反射望遠鏡による観測で発見、所属機関の頭文字を取ってアイソン(ISON)と名付けられた。ハレー彗星のように回帰することはなく、太陽をかすめるように通過する「サングレイザー」と呼ばれるタイプの彗星である。サングレイザーは、観測衛星によって数多く発見されているが、多くの彗星は太陽に近づいた際に崩壊しており、尾を引く姿が視認できるケースは少ない。アイソン彗星は、崩壊しなければマイナス5〜6等星になる可能性もあったが、近日点に接近する前から暗くなり始め、崩壊が進んだようである。
 彗星は、太陽系の外縁に起源を持つ天体で、氷と塵から成る「汚れた雪玉」のような核を持つ。太陽に接近すると、表面が蒸発するために核の周囲をガスや塵が覆い、イオン化されたガスからの放射や塵による光の反射によって明るく輝く。さらに接近した場合、潮汐力や蒸気圧によって分裂・崩壊することもある。ただし、彗星がどの程度明るくなるか、崩壊・消失するかどうかを理論的に予測することは難しい。アイソン彗星は、氷の割合が通常より多かったと言われており、これが、崩壊を早める結果につながったようである。
洋上風力発電向け買い取り価格を設定(13/10/27)

 政府は、再生可能エネルギーの買い取りに「洋上風力」の枠を新設、価格を高めに設定することで、洋上風力発電の育成を目指す(10月26日付日本経済新聞)。
 地球温暖化の脅威は深刻さを増しており、今世紀後半には、秒速67メートル以上の暴風を伴うスーパー台風が日本を直撃する確率が高まると予想されている(今年の猛暑と台風の多発が温暖化と関係しているかは不明)。温暖化ガスの排出削減には火力発電を補う新たな電力源を確保する必要があるが、福島第1原発事故以来、原発の増設は難しくなった。このため、再生可能エネルギーに対する期待が高まっているが、育成政策は必ずしもうまくいっていない。昨年後半から住宅向け太陽電池の設置容量は大幅に増加したものの、これは、買い取り価格が高い間に発注する太陽光バブルだと見られる(2012年度は1kWh当たり42円でヨーロッパ主要国の2倍以上だったが、段階的に引き下げており、13年度は36円、14年度は30円台前半になる見込み)。こうしたバブルは、太陽光発電の増設を目指して高めの買い取り価格や助成金を設定した国で次々と発生しており、多くの業者が参入して供給過剰になった結果、Qセルズやサンテックパワーなどの大手メーカが経営危機に陥るという事態を招いた。
 世界的に最も設備容量の大きい再生可能エネルギーは風力発電だが、これは、風況の良い平坦な場所に向いた発電方法である。山間部は風速が急激に変化し、突風によって羽が脱落したり支柱が折れたりする危険があるため、風力発電には向かない。また、住宅地の近くでは、低周波騒音による公害を引き起こす。日本で大規模な風力発電を行うには、洋上に風車を設置するのが好ましいが、建設とメンテナンスのコストが陸上よりもかなり高くなるため、なかなか普及しない(このほかにも、漁業権との兼ね合いという問題がある)。政府の方針では、12年度に陸上・洋上を問わず1kWh当たり22円だった風力の買い取り価格を、洋上発電に関して30〜40円台にするという。しかし、この程度で洋上発電が盛んになるかどうかは、難しいところだ。
「水俣条約」採択(13/10/14)

 熊本市で開催された水俣条約外交会議で「水銀に関する水俣条約」が採択された。この条約は、水銀による健康被害や環境汚染を防ぐために、世界規模で水銀の使用を規制することを目的とする。具体的には、水銀を含む製品の製造・輸出入の原則禁止、製造プロセスにおける水銀の使用削減、環境中への放出削減の実施と放出限度値の設定を各国に義務付ける。
 水銀による環境被害としては、1950年代に熊本県水俣市で健康被害が発生した水俣病が知られる。当初、原因物質がなかなか特定されず伝染病も疑われたが、1959年に熊本大学が有機水銀が原因だと発表、1968年にメチル水銀と特定された。メチル水銀は疎水性が強く体外に排出されにくいため、生物の脂質に蓄積される性質を持ち、食物連鎖を通じて濃縮が進みやすい。水俣病では、メチル水銀が蓄積された水俣湾の魚介類を多量に摂取した住民に被害が現れた。脂溶性のメチル水銀は、血液脳関門を通過して脳に蓄積されるので、中枢神経系が傷害される。主な症状は感覚障害や運動失調で、国が認定した患者(死亡者を含む)は約3000人。このほかにも水俣病が疑われるケースは多く、今年4月には、「症状の組み合わせがない場合でも総合的に検討して水俣病として認定する余地はある」として、国が認定しなかった患者を水俣病と認める最高裁判決が出された。
 水俣病以降にも、環境中に放出されたメチル水銀が原因となる公害は何度も発生している。国内では、1960年代に新潟県阿賀野川流域で第2水俣病が発生。国外では、中国の松花江流域やブラジルのアマゾン川流域などで、水銀による環境汚染が報告されている。
 先進国では水銀の使用規制が進んでいる。EUでは、RoHS指令によって1000ppm以上の水銀を含む電気機器は販売できない。水銀電池も、日本・アメリカを含む多くの国で販売中止になっている。水銀を利用する場合でも環境中への放出を避け、使用後は管理型処分場での埋設処分やリサイクル(水銀蒸気を精製・濃縮して再利用)を行うのが一般的である。しかし、開発途上国では、製造工程などで利用した水銀が環境中に放出されることが稀ではない。こうした現状を改善するのが水俣条約の役目だが、被害が発生した場合の「汚染者負担の原則」が明記されないなどの不備もあり、今後の動きを見守る必要がある。
IPCC、温暖化に関する最新報告書を発表(13/09/29)

 ストックホルムで開催された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の作業部会で、07年の第4次報告書以降の知見を含む報告書が了承された(以下の引用は、経済産業省 9月27日付け News Release より)。特に強調されているのが、「気候システムの温暖化については疑う余地がない」こと。これを裏付ける観測事実として、「1880〜2012年において、世界平均地上気温は0.85[0.65〜1.06]℃上昇しており、最近30年の各10年間の世界平均地上気温は、1850年以降のどの10年間よりも高温である」ことが上げられた。海洋に関しては、水温上昇が上部(水深0〜700メートル)にとどまらず、3000メートル以深の深層でも温度が上昇している可能性の高いことが、新たに付け加えられた。温暖化の原因が人間活動である可能性は「きわめて高い」という。
 今世紀末までの変動に関しては、第4次報告書と大きな相違はない。温室効果ガスなどの影響で温度上昇のバイアスがどう変わるかに基づいて4つのシナリオが掲げられているが、2100年以降も温度上昇バイアスが継続するという RCP8.5 シナリオと、2100年以前にバイアスがピークに達した後に減少するという RCP2.6 だけ記そう。今世紀末までの世界平均地上気温の変化は、RCP8.5シナリオでは2.6〜4.8℃、RCP2.6シナリオでは0.3〜1.7℃。また、世界平均海面水位の上昇は、RCP8.5シナリオでは0.45〜0.82m、RCP2.6シナリオでは0.26〜0.55mとなる(気温・海面水位とも、「この範囲に入る可能性が高い」という意味)。また、「世界平均気温の上昇に伴って、中緯度の大陸のほとんどと湿潤な熱帯域において、今世紀末までに極端な降水がより強く、頻繁となる可能性が非常に高い」ことが指摘された。
 1980年代には、科学者の間でも地球温暖化に関する懐疑論がかなりあったが、現在では、大半の科学者が、温室効果ガスの排出による温暖化が進行中であり、今世紀末に向かってさらに深刻化することを認めている。しかし、温暖化を食い止めようとする政府の動きは、どこの国でも鈍い。日本政府は、主に原子力発電の推進によって温室効果ガスの排出を抑制する計画だったが、福島第1原発の事故以来、原発の増設は難しくなっている。一方、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの普及も、助成金や買い上げ制度が不十分であるなどの理由であまり進んでいない。一時期に比べて地球温暖化の話題は下火になっているが、深刻さは決して小さくなっていないことを認識してほしい。
リニア新幹線、ルート決定(13/09/19)

 JR東海はリニア中央新幹線のルートと中間駅の概要を発表、2027年の品川−名古屋間の営業開始を目指して、環境アセスメントなどの詰めの作業に入る。東京・名古屋・大阪を結ぶ新・新幹線の構想は、東海道新幹線開業前の62年頃から持ち上がっていたが、半世紀以上を経て実現に向けて動き出した背景には、掘削技術の進歩と大深度地下利用に関する法律の整備がある。
 カーブの多いルートは、単に距離が伸びるだけでなく、遠心力(速度の2乗に比例)の悪影響を避けるための減速が必要になる。このため、時間短縮を実現するためには、新たな新幹線のルートはできる限り直線にすることが望ましい。だが、東京・名古屋間の直線ルートは、二重に困難だと考えられていた。第1に、東京と名古屋を結ぶ直線上には南アルプスが存在するため、南か北に迂回せざるを得ない。第2に、都市部の近くにはすでに建物が密集しており、用地取得の際の障碍が大きい(2000年に全線開通した都営大江戸線は、用地問題を避けるために道路の下を走る部分が多く、地上に交差点がある箇所では、地下鉄路線も直角に近いカーブを描いている)。このまま中央新幹線を建設すると、ターミナル駅は空港と同様に都心から遠く離れアクセスの悪い地点になる上、南アルプスを迂回するせいで時間も掛かり、莫大な用地買収費の回収のために料金も高額になることから、利用客は伸び悩むことが予想された。
 しかし、こうした障碍は、技術開発と法整備によって取り除かれていく。
 掘削技術に関しては、シールドマシンやTBM(トンネルボーリングマシン)などが開発され、短期間で大規模なトンネルを掘削することが可能になった。ナポレオン時代から計画と挫折を繰り返していたドーバー海峡トンネルは、TBM工法を採用することにより、1986年から90年までの工事で開通できた。アルプス山脈を貫くスイスのゴッタルドベーストンネルは、TBM工法によって建設中であり、全長57kmのトンネルが完成すれば、青函トンネルを抜いて世界最長の鉄道トンネルとなる。南アルプス基部に関しては、湧水が多くかなり難しい工事になりそうだが、技術的には不可能ではないと考えられる(環境破壊の問題については、今後の論点になるだろう)。
 さらに、2001年に施行された「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」によって、三大都市圏の地下40m以深を道路・鉄道などの公共の目的で利用することに対する規制緩和が進んだ。大深度地下は通常は利用されない空間だとして、使用権の設定に対して原則的に補償の必要がないことが明確にされている。リニア中央新幹線の場合、東京から神奈川県に掛けての区間は、大深度地下にシールド工法で建設されるようだ。
 東京側のターミナル駅は、既存の品川駅新幹線ホームの下に建設される予定。品川は、山手線の主要駅があるにもかかわらず、新宿・渋谷・池袋・有楽町に比べて都市開発が遅れていたが、2003年に東海道新幹線が停車するようになったのを契機に港南口側の再開発が進み、現在では(羽田空港があるためにやや低めの)超高層ビルが林立する。さらに、隣接する田町駅との間にあるJR品川車両基地の再開発計画も始動しており、一気に副都心へと変貌しつつある。
カネボウ、美白化粧品回収(13/07/06)

 カネボウ化粧品は、同社と子会社が販売する美白化粧品54品目を自主回収すると発表した。手や顔に白い斑点が現れる「白斑」の症状が確認されたためで、これまで39件の報告があったという。カネボウのホームページによると、該当する化粧品に配合されていたのは、医薬部外品有効成分「ロドデノール( 4-(4-ヒドロキシフェニル)-2-ブタノール)」。ロドデノールは、安全審査を経て厚生労働省より薬事法に基づく承認を得た成分だが、白斑との関連が疑われるため、自主回収に踏み切った。
 シミやくすみは、過剰に生成されたメラニンの沈着によって生じる。メラノサイトにおけるメラニンの生成過程は何段階かにわたるが、その最初の段階は、チロシン(アミノ酸の一種)がチロシナーゼという酵素によって酸化され、ドーパに変化すること。ロドデノールは、チロシナーゼに結合して活性を阻害することで、メラニンの生成を抑制するほか、チロシナーゼ関連酵素の活性も抑制し、2種類あるメラニンのうち、シミやくすみの原因となる黒色メラニン(ユウメラニン)を選択的に減少させる。
 ロドデノールに肌を白くする効果があることは確かなようだが、問題は、それによって美しい肌になるかどうかという点。動物のまだら模様は、主に、色の発現をコントロールする生化学物質の濃度勾配によってもたらされているので、酵素活性を阻害する物質を部分的に注入すると、同じようなまだら模様が生じても不思議はない。今回のケースについては詳細がわかっておらず、使用法に問題があったのか、個人的な体質によるのか判然としないが、カネボウには、ぜひ原因を解明してほしいところだ。
BSE全頭検査、全国一斉に廃止へ(13/06/29)

 BSE予防対策として自治体が行っている全頭検査が、来月から全国一斉に廃止されることが明らかになった。食肉処理場を持つ自治体のうち、唯一態度を明らかにしていなかった千葉県が廃止の意向を厚生労働省に伝えたことで、全自治体の足並みがそろった。来月以降は、月齢48ヶ月以上の牛に限って検査が行われる。
 全頭検査は、国内でBSE感染牛が見つかった2001年から実施されてきた日本独自のBSE対策である。BSE大量感染の主要原因国であるイギリスをはじめ、食の安全に厳しいEU諸国でも全頭検査は行われておらず、72ヶ月齢以上の牛を対象とするだけである。全頭検査が不必要だとされる根拠は、2つある。
(1)全頭検査を行っても、幼い牛では感染の有無を決定できない。BSEの原因物質である異常プリオンは加齢とともに蓄積が進むため、月齢24ヶ月に満たない牛では、たとえ感染していても、通常は検出限界以下になる(稀に検出されるケースもある)。
(2)より効果的な方法がある。BSE予防には、飼料としての肉骨粉の使用を禁止するとともい、脳や脊髄などの危険部位の除去を徹底させることが効果的である。欧米でBSEが人間に感染したのは、牛の脳を食用にする習慣があったためで、脳を食べない日本人には、もともと感染の危険性は小さかった。危険部位を取り除けば、リスクは実質的に無視できるレベルになる。
 全頭検査を行っても効果が乏しいことは、2005年に食品安全委員会が指摘したが、消費者の不安が増大することを恐れた自治体が自主的に行っていた。
 そもそも、BSE問題は、牛に「共食い」をさせたことが原因となって起きた。多くの哺乳類は、病気の感染を回避するため、本能的に共食いをしない。ところが、牛に牛を食べさせると肉付きが良くなることに気がついた畜産業者が、牛の飼料に牛の肉骨粉を混ぜて育てた結果、自然界ではあまり見られないBSEの大量感染が発生した。人間の浅知恵が生み出した危機は、理性的に解決してほしいものである。
原発新基準、7月から施行(13/06/22)

 福島第1原発の事故を受けて、過酷事故対策などを厳格化した新規制基準が、原子力規制委員会で6月19日に決定された。政府は7月8日の施行を閣議で決定、これを満たすことが停止中の原発が再開されるための条件となる。NHKの報道によれば、新基準に基づく安全対策の費用は、電力会社10社の総計で1兆3000億円。一方、原発の再稼働が遅れることによる1ヶ月あたりのコスト増は、泊原発3基が再稼働待ちの北海道電力で180億円になるなど、各社とも数十億〜百億円超。また、廃炉にするための費用は、最も安い美浜原発1号機で323億円、最も高い浜岡原発5号機で852億円と見積もられる。原子炉の場合、寿命40年という前提で廃炉費用が積み立てられており、寿命前に廃炉にするとなると、費用の捻出が大変である。いずれにせよ、電力会社にとっては頭の痛い話である。
 福島第1原発の事故原因は、津波の想定が不十分で全電源喪失を招いたこと、および、旧・原子力安全保安院の指針に基づいて長期間の全電源喪失に対する備えがほとんどなかったことにある。原発での事故回避策としては、通常、イベントツリー解析をもとに起こり得る事象を想定し、個々の事象に対して対策を講じるという方法が採用される。福島第1の場合、津波は防潮堤で防げるという前提の下にイベントツリー解析を打ち切って、全ての非常用ディーゼル発電機を、浸水に対する防護の不十分なタービン建屋の地下に設置した。ところが、津波が防潮堤を越えたせいで発電機が水浸しになって動かなくなり、全電源喪失を招く結果となった。イベントツリー解析では確率的に起こりそうになくても、あえて最悪の事態を想定し、ディーゼル発電機を原子炉建屋内や浸水しない高所に設置、さらに、電源なしでも稼働する(一時的な)非常用冷却装置をスタンバイ状態にしておけば、メルトダウンは回避できた可能性が高い。新基準では、最悪の事態への対策が義務化されているが、ようやく当たり前の対策が始められるとの感が強い。
米最高裁、乳ガン遺伝子の特許認めず(13/06/15)

 乳ガンの発病リスクを高める遺伝子BRCAの特許を巡る訴訟で、米連邦最高裁は、人体から得られた遺伝子は特許対象にならないとの判決を言い渡した。一方、人工的に合成された遺伝子については特許が認められるとの見解も示した。
 アメリカで遺伝子特許が広く認められるようになったのは、1990年代のこと。当時は、自動車や半導体などの技術を外国に流用されたことへの反省から、プロパテント(知財保護)政策が押し進められていた。アメリカの特許法には「物質特許」に関する規定があり、自然界に存在するものでも、新規に単離した場合は 特許が成立し得る。遺伝子では、塩基配列に加えて機能が推定できれば特許が成立するとされた。この“推定”の基準がかなり緩いのが、アメリカにおける遺伝子特許の特徴だった。例えば、特定の体質を持つ人の遺伝子検査を行って体質関連遺伝子を見いだし、これと塩基配列の似た既知の遺伝子を探索することで機能が推定されれば、特許が成立して当該遺伝子の利用(創薬・遺伝子診断・遺伝子組み換えなど)に独占的な権利が生じる。この緩い基準のおかげで、アメリカでは遺伝子特許を取得する企業が相次ぎ、すでにヒト遺伝子の40%以上に特許が付与されたという。これに対して、日本やEU諸国では、特許出願の段階で具体的な機能と応用可能性を明確にしないと、特許が成立しない。フランスのように、「人間の体内にあるものは特許の対象にならない」と法律に明記している国もある。
 今回、最高裁で判決が出された訴訟は、BRCA遺伝子の特許に基づいてミリアド社が乳ガンの遺伝子検査を独占していることに対し、人権擁護団体が起こしたもの。ミリアド社の検査は高額(約3000ドル)である上、より安価な検査技術の開発をミリアド社が許可しないため、患者や研究者にとって不利益となっているというのが訴えの理由である。最高裁の判決によって、人体から得られた遺伝子は特許にならないとされたが、ミリアド社は検査技術など多くの関連特許を有しているため、独占体制が崩れ安価な検査を受けられるようになるかどうかは微妙。また、人工的に合成された遺伝子は特許対象になるとの見解が示されたので、cDNA(相補的DNA、mRNAから逆転写酵素を使って合成されるDNA)を利用した製品開発は、引き続き遺伝子特許によって保護される。
米政府、メールなどから個人情報収集(13/06/08)

 英ガーディアン紙が米国家安全保障局(NSA)による通話記録の収集を暴露したのに続いて、ワシントンポスト紙など米メディア各社は、NSAと連邦捜査局(FBI)が、AT&Tなどの通信会社やグーグルなどのインターネット会社から音声・文書・写真・接続ログなどの個人情報を収集していたと報道した。これに対して、米政府は「記事には多くの誤りがある」としながらも、非米国人を対象とする合法的な情報収集が行われたことは認めた。アメリカでは、同時多発テロをきっかけに制定された米愛国法(USA PATRIOT Act)に基づいて外国諜報監視法(Foreign Intelligence Surveillance Act)が強化され、2007年から非米国人に関する情報収集を目的としたPRISM計画が始まったとされる。
 ネットでやりとりされる情報をどこまで保護すべきかについては、見解が分かれている。通信会社から通話記録などを得ることは一般に法律で制限されるが、インターネットのように公共のために開放されているシステムの場合、情報収集自体を規制するのは難しい。日本の場合、不正アクセス禁止法などに抵触しなければ、メールの覗き見も合法的であり、暗号化して自分で情報を守らなければならない。これは、電波が公共物なので、暗号化されていない行政無線やコンサート会場から漏れるワイヤレスマイクの電波を傍受することが違法でないのと同じである(ただし、得られた情報を他人に受け渡すことには法的規制がある)。収集されたデータ(例えば、商用ホームページへのアクセス回数)の利用に関しては、各国で扱いが分かれている。アメリカでは、「ビッグデータ」として商業的な利用が推進される方向にある。一方、欧州連合(EU)では、利用者の事前の同意がない限り、IT企業などが情報を譲渡することは許されていない。
 ネットは個人情報の宝庫である。例えば、グーグルがその気になれば、IPアドレスをもとに、どの端末からどんな語句が検索されたかを調べるのは容易である(おそらくグーグルは調べていないだろうが、ネットショッピングの会社が自社のホームページで行われる検索をどのように利用しているかは不明)。こうした情報をどのように保護していくかは、これから検討すべき課題と言えよう。
福島事故「健康に影響ない」(13/06/01)

 「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR)は、「福島原発事故による住民の被曝量は少なく、今後も健康に影響が出るとは考えにくい」との結論をまとめた。
 福島事故による健康被害に関しては、さまざまなメディアで楽観論と悲観論が交錯しているが、これは、放射線被曝の影響が充分に解明されていないため。年間被曝線量が100ミリシーベルト以上ならばガン発生率が上昇して危険、1ミリシーベルト以下なら動物実験でも影響は見られず安全−−という大枠ははっきりしているが、1〜100ミリシーベルトの間はグレイゾーンである。ウクライナ政府による報告書では、年間20ミリシーベルト以下の低線量汚染地域に居住する住民にさまざまな疾患が増加していることが指摘されており、福島で居住が認められる地域が果たして安全なのかを危惧する声も挙がっている。チェルノブイリ周辺で甚大な健康被害が発生した理由が、ソビエト政府が危険性をアナウンスせず、多くの住民が地域で取れた作物やミルクを摂取したことにあるので、住民に危険性が知らされた福島での健康被害がチェルノブイリよりも遥かに小さいことは、確実である。問題は、低線量被曝によって疾患発生率がどの程度上昇するか不明であり、たとえ誤差範囲に収まるようなわずかな上昇であっても、その中に自分や家族が入るという懸念が払拭できない点である。こうした不安感によるストレスが健康に悪影響をもたらす可能性も、否定できない。
 今回のUNSCEARの報告では、健康被害が見られるかどうかの基準が年間100ミリシーベルトに設定されている。チェルノブイリ事故で最も深刻な健康被害となった子供の甲状腺ガンについては、福島における1歳児の年間被曝線量(小児が放射線の影響を受けやすいことを考慮した換算線量)が避難区域内で20〜80ミリシーベルト、区域外で33〜60ミリシーベルト程度であることから、「甲状腺ガン発生率の上昇は今後も見られない」と結論された。しかし、この数値は決して安全性を保証するものではなく、ましてや安心を与えることもない。福島住民にとっては、気の重い日々が続きそうである。
アンジー、ガン予防のために乳房切除(13/05/25)

 アメリカの人気女優アンジェリーナ・ジョリーが乳ガン予防のために両乳房切除手術を受けたと公表したことに対し、さまざまな意見が寄せられている。アンジーに対して「がんに立ち向かう女」と評価する声がある一方で、乳房切除という方法に対しては「やりすぎ」という批判も少なくないようだ。
 彼女が手術を受けるきっかけになったのが、乳ガン抑制遺伝子 BRCA1/BRCA2 に関する遺伝子検査の結果。この検査は、遺伝子特許を所有する Myriad Genetics, Inc. が独占的に行っており、申し込めば誰でも受診できるが、受診料はかなり高額である。通常、欧米における乳ガンの生涯罹患率は十数パーセント(ライフスタイルによって変動するため、国によって異なる)だが、BRCA1/BRCA2のいずれかに変異があると罹患率は数倍に、両方に変異があると80%以上になるとされる。変異は遺伝性で、近親者に乳ガン罹患者が複数いる場合は遺伝子変異を疑った方が良いと言われており、アメリカでは遺伝子検査を受診する女性が多い。母親が乳ガンで亡くなったアンジーの場合、高い確率(報道によれば87%)で乳ガンになるという結果が得られた。
 陽性となった受診者には、通常、カウンセリングが行われ、乳ガン予防のための措置が提案される。特に推奨されているのが、毎年2度の乳ガン検診を行うこと。検診の方法には、乳房超音波検査やマンモグラフィなどがあり、最終的には、乳房に針を刺して組織を採取する生検で診断を確定する。ただし、検診で見逃されることもあるため、乳房切除によってガン発生確率そのものを大幅に(数%程度まで)減らす方法を選択する人も少なくない。
 以前の乳房切除手術では、乳房の形が崩れ醜い傷跡が残ることが多かったが、最近では乳房再建技術が向上して、外見はほとんど変わらないとされる。アンジーの手術では、皮膚を残して乳房組織だけを摘出、インプラントをして乳房再建を行ったようだ。
もんじゅ、運転再開困難に(13/05/18)

 高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)で重要機器の点検が行われていなかったことを重視した原子力規制庁は、必要な安全管理体制ができるまで運転停止を命令した。これを受けて日本原子力研究開発機構の鈴木理事長が辞任、もんじゅの早期運転再開は難しい状況となった。
 高速増殖炉は、利用価値のないウラン238を核燃料に変える「夢の原子炉」と言われる。現在の原子炉では、天然ウラン中に0.7%しか含まれないウラン235を濃縮して核燃料にしており、連鎖反応を持続できないウラン238はほとんど役に立っていない。しかし、一部のウラン238は、原子炉内で中性子を吸収して、核燃料となるプルトニウムに変わることが知られている。高速増殖炉は、この核反応を最大限に利用するもので、プルトニウムとウランの混合燃料と液体ナトリウムの冷却材を適切に配置することにより、原子炉内で消費されるよりも多くのプルトニウムを生み出す。「増殖炉」とは、役立たずのウラン238を消費しながら核燃料が増えていくという意味である(ちなみに、「高速…炉」とはエネルギーが大きく速度の速い中性子を利用する炉という意味で、スピーディに増殖するわけではない)。
 高速増殖炉の開発は、1940年代後半にアメリカで始まり、その後は日米欧各国で着手された。計画によれば、実験炉→原型炉→実証炉という段階を経て商用炉へと進むはずだった。しかし、液体ナトリウムの制御が技術的に難しく、多くの国では実証炉以前の段階で計画が頓挫した。もんじゅは原型炉として5000億円以上を掛け建設されたものの、事故が相次いでまともに動いたことはない。最も進んでいたのはフランスだが、実証炉として建設されたスーパーフェニックスが事故で運転中断、最終的には1998年に廃炉となった。次の炉の開発は検討中とのこと。アメリカでは原型炉の段階で開発が中断され、再開の見通しは立っていない。イギリス・ドイツでは実証炉の計画が撤回され、高速増殖炉開発は打ち切られた。現在では、実証炉の建設を進めているロシアが開発の先頭に立っており、中国・インドも開発に着手しているが、技術的にどこまで進んでいるかは、必ずしもはっきりしていない。
 高速増殖炉の技術的ハードルはきわめて高いものの、パイプの設計などに関しては経験に基づく改良が有効なので、時間を掛ければ開発に成功する可能性はある。しかし、商用炉が稼働するのは早くても今世紀後半であり、多額の資金を投入する価値があるかどうかは、かなり疑わしい。日本では、プルトニウムの抽出に利用する予定だった再処理工場(青森県六ヶ所村)もトラブル続きで稼働しておらず、高速増殖炉をかなめとする核燃料サイクル構想は暗礁に乗り上げている。
二酸化炭素400ppm超え(13/05/11)

 米海洋大気局は、ハワイ・マウナロア観測所で測定された大気中の二酸化炭素濃度が400ppmを超え、1958年の観測開始以来の最高値を記録したと発表した。発表されたデータによると、今月4日までの1週間平均が399.58ppmで、9日に400.03ppmに達した。10年前の同時期における平均濃度は379ppm、産業革命以前の推定値は280ppmである。
 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によれば、地球温暖化による深刻な被害を避けるには、温暖化ガスの濃度を二酸化炭素換算で450ppmまでに抑制する必要があるとされる。温暖化のメカニズムについて不明な点も残されており、一部にはIPCCに対する批判もあるが、一時的な停留状態はあっても長期的な傾向として気温が上昇し続けることは、多くの学者が確実視するところである。今後100年間に2℃を超える昇温があると、地中海沿岸や西アジア、アメリカ中西部などで水不足が深刻化し、農業が大きな打撃を受けることが予想される。水と食糧の不足は国際社会の不安定化をもたらし、紛争が多発する可能性が高い。それだけに、早急に対策を講じなければならないが、各国の動きは鈍い。むしろ、開発途上国を中心に、二酸化炭素の排出が加速度的に増える傾向にある。
 日本は、原子力発電所の再開がままならず、EUに較べて自然エネルギーの普及も遅れているため、温暖化ガスの抑制は難しい状況にある。むしろ、アメリカでのシェール革命に倣って、メタンハイドレートの利用を目指す機運が高まっており、化石燃料への再シフトが進む可能性もある。二酸化炭素を集めて地下の帯水層に注入する計画もあるが、技術的にどこまで可能か不確定要素が多い。太陽電池と波力発電、バイオマス発電の技術革新に期待せざるを得ない。
ネット選挙解禁へ(13/04/21)

 19日の参院本会議で改正公職選挙法が成立、夏の参院選からネットを利用した選挙運動が可能となった。これで、選挙期間中は候補者がブログの更新やネットマガジンの配信もできないという時代錯誤の状況は改善される。
 今回の法改正でほぼ全面的に解禁されたのが、ホームページやツイッターなどを利用した選挙運動で、投票の呼びかけなどを行うことができる。メールの利用には制限が付き、事前にアドレスを通知した有権者に候補者から政策などに関するメールを送信することは許されるが、有権者の側がメールで特定候補者の支持を呼びかけることは禁止となる。ただし、こうした制限は、参院選後に再検討される見通し。
 ネット選挙で最も懸念されるのが、なりすましと中傷。候補者になりすましてサイトを開設し、虚偽の情報を流すことも考えられるので、サイトが真正であることを保証する電子証明書の需要がありそう。ネット中傷に関しては、すでにプロバイダ責任法などによって対策が講じられてはいるが、書き込みの削除には時間が掛かるため、短期間で悪意のある書き込みが集中してブログが炎上するケースも少なくない。 選挙運動に絡んで、どの程度のトラブルが発生するかは、予測が難しい。
 トラブルが懸念される一方で、ネット選挙にはメリットも大きい。最大の魅力は、ネット上で政策の比較を行いやすくなる点。従来の選挙公報などには、自分の主張を飾り立てた文章ばかり並んでおり、多くの有権者が知りたいと思う情報が掲載されていなかった。双方向性のあるネットは、具体的な質問に対する候補者の考えを聞き出す手段として利用できる。さらに、各候補者のサイトに検索を掛け、特定の政策についてそれぞれどのような考えを持っているかを容易に調べられる。候補者の政策を一覧の形で表示したサイトが開設されるかもしれない。
夢の解読に一歩近づく(13/04/06)

 ATR脳情報研究所は、睡眠中に見ている夢の解読に成功したと発表した。これは、被験者3人の睡眠中の脳活動を機能的磁気共鳴画像(fMRI)で計測、夢を見ている場合は被験者を起こして内容を報告してもらう。しかる後、報告内容を含まれる単語を「本」や「車」など約20のカテゴリーに分類し、fMRIのデータと照合して、パターン認識のアルゴリズムを構築した。このアルゴリズムを利用すれば、睡眠中のfMRIのデータから夢の内容を推定できる。また、同じ物体を夢で見るときと画像を見るときの脳活動に、共通するパターンがあることも判明した。
 脳が、特定のコンセプト(1つのまとまりとして扱える情報の集合)をどのようにコードしているかは、ほとんどわかっていない。1つのコンセプトに複数のニューロンが関与していることは確実だが、ニューロンの個数が数千個(以下)か数若万個(以上)か、空間的な分布はスパース型か集中型か、個々のニューロンが担当するコンセプトにはどの程度の多様性があるか−−などについては、不明な点が多い。こうした謎は、fMRIの技術が進歩することによって少しずつ解明されていくと期待されているが、現時点では、研究者が望む水準に比べて、空間的・時間的解像度があまりに低すぎる。それでも、断続的に報告される新発見には、ワクワクさせられる。
 夢解読の技術が進歩しすぎて、考えている内容を外部から知られるのではないかと心配する人がいるかもしれないが、心配しなければならない段階に達するまでには、まだ数十年は掛かりそうだ。何よりも、頭蓋骨という障害物がニューロンと外部を隔てており、ニューロン1つ1つの活動を読みとることが絶望的なまでに困難だからである。
小型家電リサイクル法施行(13/04/02)

 4月1日から小型家電リサイクル法が施行された。使用済みの携帯電話やデジカメを回収、貴金属・レアメタルの再資源化を目指す。
 ただし、現実にリサイクルが進むかどうかは、かなり疑問である。最大の問題は、この法律が家電を製造するメーカーに対して義務を課すのではない点。回収を行う自治体が再資源化の認定業者に引き渡すまでの道筋を付けただけであり、参加予定の自治体も少なく、消費者への周知もほとんどなされていない。使用済み小型家電を集める回収ボックスもあまり設置されておらず、このままでは、不燃ゴミの中から再資源化できそうなものをピックアップするというリサイクル効率のきわめて低いやり方しかできそうもない。
 大型家電(テレビ・洗濯機・冷蔵庫・エアコン)やパソコンに関しては、メーカーに回収義務を課すリサイクル法が制定された結果、メーカーがリサイクルしやすいような製品作りを心がけるようになった。例えば、多種類のプラスチックをシュレッダーダストとして混合してしまうとリサイクルは難しくなるが、単一のプラスチックからなる部品を簡単に取り外せるように設計しておけば、それだけを集めてリサイクルすることが比較的容易にできる。しかし、メーカー側に何の義務もないと、使用後のことまで想定されていない製品ばかりが作りっぱなしにされてしまう。携帯電話など個人情報が記録される製品の場合、記録されたデータを簡単にコピー&完全消去する方法が用意されていないと、ユーザは安心して回収に出せない。確かに、メーカーにリサイクルを義務づけることは、一時的にはメーカーの負担を増して競争力をそぐ。しかし、ベルギーなど一部の国では小型家電のリサイクルが進められており、将来、世界的にリサイクルの流れがひろまったときに、日本企業に有利な立場をもたらすはずである。
薬のネット販売解禁へ(13/01/14)

 最高裁第2小法廷は、11日の判決で医薬品のネット販売を禁止した厚生労働省の省令は違法と判断した。この判決によってネットでの薬の販売を禁止する法令がなくなったことから、ケンコーコムは第1類医薬品を含むネット通販を再開した。他のネット通販業者も、副作用リスクの低い第2類医薬品の通販を再開する方針。
 一般用医薬品(大衆薬)は、2006年成立・2009年施行の改正薬事法で、副作用リスクに応じて第1類から第3類まで分類され、リスクの高い第1類医薬品は、「薬剤師」による情報提供を「義務」とした。一方、第2類医薬品は、「薬剤師または登録販売者」による情報提供が「努力義務」となっている。ただし、薬事法の条文には、「薬局開設者/店舗販売業者/配置販売業者」などの文言はあるものの、対面販売が義務化されている訳ではなく、通販が認められるかどうかは、省令による具体的な規定にゆだねられていた。情報提供に関する薬事法の条文を以下に記しておく(薬事法第36条6の一部)
薬局開設者又は店舗販売業者は、その薬局又は店舗において第一類医薬品を販売し、又は授与する場合には、厚生労働省令で定めるところにより、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師をして、厚生労働省令で定める事項を記載した書面を用いて、その適正な使用のために必要な情報を提供させなければならない。
薬局開設者又は店舗販売業者は、その薬局又は店舗において第二類医薬品を販売し、又は授与する場合には、厚生労働省令で定めるところにより、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師又は登録販売者をして、その適正な使用のために必要な情報を提供させるよう努めなければならない。

 今回の最高裁判決では、ネット販売を禁止した省令が薬事法で想定されている範囲を逸脱して業者の活動を制約すると判断された。
 今回の判決に対しては、専門家の間でも意見が分かれている。店舗で購入することが不便な利用者(近所に薬局・薬店がない、身体や仕事の都合で店舗に赴くことが難しいなど)にとって、通販の解禁はありがたい。また、鎮痛剤などは効き目の個人差が大きいため、各人の体質に適した多種類の薬が提供されることが望ましいが、販売スペースに限界のある店舗では通常は数百種類の売れ筋の薬しか提供されていないため、4500品目を揃えたケンコーコムは慢性病に悩まされる患者にとって福音となる。その一方で、スティーブンス−ジョンソン症候群のように大衆薬で重度の障害が発症するケースもあり、副作用に関する情報提供はきわめて重要である。対面販売でない場合、患者の自己判断で安易に薬が試用されることも考えられるため、リスクの高い第1類医薬品に関しては、対面販売を義務化する方が好ましいかもしれない。
 副作用リスクに関するポップアップ警告で患者の既往症などを確認させれば、利便性と安全性の両立も可能なはずなので、今後どのような方法を取るべきかを検討してほしい。
ブレイクスルー・オブ・ザ・イヤーにヒッグス粒子の発見(12/12/21)

 米サイエンス誌が年末に発表するブレイクスルー・オブ・ザ・イヤーで、今年は「ヒッグス粒子の発見」が選ばれた(SCIENCE, 338, 21 December 2012 )。
 ヒッグス粒子は、対称性の破れに関するヒッグス機構を通じて電子やクォーク、W/Z粒子に質量を与えるヒッグス場の励起状態で、1970年代に確立された標準模型で唯一未発見の素粒子だったが、今年7月、CERN(欧州原子核研究機構)で2008年から稼働しているLHC(大型ハドロン衝突型加速器)によって、ヒッグス粒子と思われる粒子が確認された。ただし、この発見で標準模型が完成し、理論物理学の一時代が終了する−−という訳にはいかない。標準模型では、理論的に導くことが困難な性質の大部分をヒッグス場に押しつけている。今後は、ヒッグス場の性質を実験的に解明しながら、理論的に曖昧さが残っていた真空の相転移の仕組みなどをきちんと理論化していかなければならない。
 ヒッグス粒子の発見に続く2012年の科学的業績としては、次の9つが挙げられている。
山中氏にノーベル賞(12/10/10)

 スウェーデン・カロリンスカ研究所は、2012年のノーベル生理学・医学賞を、山中伸弥京大教授とジョン・ガードンケンブリッジ大名誉教授に授与すると発表した。山中氏は、4つの遺伝子を導入することで体細胞に多能性を復活させたiPS細胞を、2006年に世界で最初に開発した業績が認められた。
 遺伝子を扱うバイオテクノロジーは、1973年に遺伝子組み換え技術(コーエン=ボイヤー法)が開発されてから着々と発展してきたが、90年代になって新しいステージに突入したと言われる。遺伝子組み換え動物やクローン動物の作出・ヒトES細胞の樹立・ヒトゲノムの解読・人工細菌の合成など、画期的な成果が次々と達成された。それだけに、この分野では、ノーベル賞が確実視されながら10年以上受賞待ち状態となっている研究者が少なくない。そうした中で、業績を上げてから6年でのスピード受賞に至ったことは、実に喜ばしい。
 ただし、喜んでばかりもいられない。iPS細胞やES細胞を用いた再生医療の実用化に向けた研究・開発ではアメリカが先行しており、日本は懸命にその後を追っている状態である。原因の1つは、実用化の際に必要な臨床試験の要求水準が欧米よりも過剰に厳しく(大学病院などで行われる試験とは別に、厚生労働省が定めた基準による試験を行わなければならない)、また、審査を行う人員が不十分で時間が掛かることにある。例えば、アメリカですでに製品化されていた培養皮膚(通常の体性幹細胞を利用したもの)を日本でも販売しようとしたベンチャー企業は、厚労省が次々に要求してくる膨大な資料の提出に手間取り、製品の販売に至るまで予定の3倍の9年を要したという(2009年7月放送のNHKクローズアップ現代より)。こうした状況を改善する動きもあり、iPS細胞を用いた加齢黄斑変性症に対する臨床試験が日本でも始まろうとしているが、アメリカとの差が縮まっているようには見えない。
 山中氏のノーベル賞受賞を契機に、行政側が研究・開発の足を引っ張っていることを自覚してほしいものである。
サムスンvsアップル、混戦に(12/09/01)

 スマートフォンの知的財産権を巡るサムスンとアップルの訴訟合戦は、10カ国・50件以上に上るが、国によって異なる判決が相次いで、混戦模様を呈している。米カリフォルニア州連邦地裁での陪審員裁判では、デザインや操作性に関してアップルの訴えがほぼ全面的に認められ、サムスンは約10億5000万ドルの賠償を命じられた(8月24日)。一方、音楽データ等の同期技術に関する争いでは、8月31日に東京地裁で「サムスン側に特許侵害はない」とする判決が出された。各国の判決を表にまとめると、次のようになる(日経新聞等の記事に基づいて作成)。
国↓ 訴えた側→アップルサムスン
日本×データ同期技術 
 通信技術
アメリカ○デザイン 
○画面操作 
韓国○画面操作 
 ○通信技術
オーストラリア×画面操作 
ドイツ○デザイン 
オランダ×デザイン 
フランス 通信技術
イタリア 通信技術
(○×:訴えた側の勝敗、無印:判決前)

 アップルが主張しているのは、主にデザインや操作性などのソフト面における権利だが、これは、ジョブスが築いた同社の伝統と言えよう。2007年に発売された iPhone は、ハードウェアの技術では必ずしも最高級の製品ではなく、機能の多さでは日本のガラパゴス携帯の方が勝っていた。ところが、タッチパネルを活用した直感的な操作がいかにも先進的でクールだったため、プレゼンを見た多くのユーザの心をつかみ、世界的に大ヒットした。何がユーザを感動させるか考え抜いたジョブスの戦略の勝利である。こうした戦略は、マッキントッシュや iPOD など、ジョブスがかかわったアップル製品に共通する。
 ここで問題になるのは、ソフト面での知的財産権が国際的に共通化されていないことである。例えば、アメリカの裁判では、iPhone の「トレードドレス」(一目でその製品と認識できるデザインについての権利で、登録の必要はない)が認められたが、機器全体の印象にかかわる権利に関しては、各国の対応が分かれている。日本では、(意匠権とは別に)不正競争防止法で「商品形態模倣行為」が禁じられており、過去には、ずんぐりとしてパステルカラーに彩られた外観が iMAC そっくりの Windows PC を発売したソーテックに対して、アップルが同法に基づく製造・販売の差し止めを申し立てたことがある。ただし、不正競争防止法上の権利には制約も多く、意匠権ほど強力ではない。
 アップルにとって最も苦い経験は、OSのインターフェースに関するマイクロソフトとの争いだろう。マイクロソフトは、アップルとの提携を通じてウィンドウシステムに関する技術を磨いた後、提携を破棄して MS-Windows (ver.2) を発売した。このとき、アップルは、アイコンのデザインや「ファイルをゴミ箱アイコンにドラッグ & ドロップすると削除される」といった操作法に関するOSの著作権が侵害されたと訴えたが、「技術システムのインターフェースに著作権は適用されない」というマイクロソフトのやや強引な言い分が認められて敗れた。このときの経験を踏まえて、アップルは、ソフト面の権利を守るためにさまざまな法的手段を講じるようになる。スマートフォンに関するアメリカでの裁判で問題になった特許の1つが「pinch-and-zoom特許」で、指1本でスクロールし2本でズームするというものだが、デザイン権や著作権ではなく特許権を活用したのが勝因である。
 サムスンとアップルの争いに関してはまだ第1ラウンドを終えた段階だが、ソフト面を重視するアップルの戦略がどこまで保護されるかは、将来の技術の動向を考える上で注目に値する。
核燃料再処理の方が高コスト(12/04/28)

 内閣府原子力委員会は、原発から出る使用済み核燃料処理に掛かる費用の計算結果を発表した。それによると、再処理して核燃料を取り出すよりも、全量をそのまま埋設する直接処分の方が安上がりになる。総コストで再処理の方が高くつくことは以前から知られていたが、2030年までに掛かる費用で見ると青森県六ヶ所村にすでに建設された再処理工場を稼働させた方が割安になるとの試算もあり、どちらがコスト的に有利かはっきりしなかった。今回の計算では、300年以上先という超長期を想定して、再処理を行う場合にも再処理工場の解体費用を計上するなどした結果、再処理のコストが大幅に膨らんだ。2030年まで現在と同程度の原発を稼働させた場合、全量再処理する場合は18兆円、全量直接処分する場合は13.3〜14.1兆円の費用が掛かる。
 原子力発電の最大の問題は、強い放射能を帯びた使用済み核燃料をどのように処理するかである。核燃料を容器に封入してそのまま地下300メートル以上の地層に埋設する直接処分を行うのは、アメリカ・ドイツ・スウェーデン・フィンランドなど。最終処分場の場所が(ほぼ)決定したのはスウェーデンとフィンランドだけで、それ以外は候補地すら決められない。アメリカでは、ネバダ州・ユッカマウンテンに建設するというブッシュ前大統領の方針がオバマ大統領によって撤回され、議論が紛糾している。一方、再処理の方針を示しているのは、日本・ロシア・中国・インドなど(フランスやイギリスは、再処理・直接処分の両方を行う)。再処理工場で核燃料となるウランやプルトニウムを取り出し、残りの廃液をガラス固化体にして地中に埋設する。プルトニウムを扱うため、再処理を行うのは核兵器保有国が多い。再処理をした後、ガラス固化体を数十年間冷却する必要があるので、最終処分場を決めるまでの時間的余裕があるが、安全性評価と建設に掛かる期間を想定すると、急がなければならない。
 日本で再処理の方針が決められたのは、国内での調達が難しいエネルギー資源を確保しようとしたため。再処理によって取り出されるプルトニウムを高速増殖炉の燃料として利用すれば、100年以上の長期にわたってエネルギー枯渇の心配がなくなるという楽観的な見通しもあった。しかし、高速増殖炉の開発は、実験炉もんじゅがナトリウム漏れの事故を起こしてから進んでおらず、近い将来に開発できる見通しはない。そもそも、高速増殖炉は技術的にきわめて難しく、アメリカ・ドイツ・イギリスが早々に撤退、しばらく研究・開発を続けていたフランスもスーパーフェニックスの事故がきっかけで開発を断念した。ロシアや中国で開発が検討されているとされるが、詳細は不明。高速増殖炉が作れなければ、再処理で取り出されたプルトニウムはウランと混ぜたMOX燃料としてプルサーマル発電に使われることになるが、全量を使い切るのは難しく、核兵器の燃料に転用可能な大量のプルトニウムを抱えて国際的な不信感を招きかねない。また、六ヶ所村に建設した再処理工場も、トラブル続きでいまだ試運転を繰り返している段階。コスト面だけでなく技術的な観点からも、再処理の見直しが迫られている。
鳥インフル論文の発表に待った(12/02/24)

 鳥インフルエンザの論文発表に待ったが掛かったことに対して、学界が揺れている。
 ことの発端となったのは、人工的に変異させた強毒性鳥インフルエンザH5N1が哺乳類間で容易に感染するという昨年9月の報告。米バイオセキュリティー国家科学諮問委員会は、この研究の詳細が公表された場合の利益とリスクを比較検討した結果、人工ウィルスを悪用目的で開発するテロリストや国家に情報を与えるリスクが利益を大きく上回るとの結論に達し、今年1月、公表に際しては感染性などの詳細なデータを制限すべきだとの勧告を出した。世界保健機関(WHO)は今月16日に緊急の専門家会合を開き、論文は全文掲載すべきだとしながら、安全管理の国際基準ができるまで公表を延期するよう求めた。論文が投稿された米Science誌と英Nature誌は、掲載を見合わせる一方、今回の問題に関する特集を組んでさまざまな見方を紹介している。また、論文執筆者を含む39人のインフルエンザ研究者は、H5N1の研究を60日間自主停止すると発表、この間に政府当局と研究者が話し合って解決策を模索してほしいと要望した。
 現在のバイオテクノロジーを駆使すれば、ウィルスやバクテリアを合成することも可能となる。ウィルスの合成は、2002年のポリオウィルスに始まる。H5N1論文執筆者の一人でウィルス合成の第一人者である東京大学医科学研究所の河岡義宏教授は、インフルエンザウィルスのみならず、致死率90%とも言われるエボラウィルスの合成にも成功している。ウィルスより難しいバクテリアの合成は、2008年に米クレイグ・ベンター研究所で実現された。バクテリアのゲノムをコンピュータで設計、これを化学合成した上で別種のバクテリアに移植し、設計通りのバクテリアを作り出た。こうした技術は、感染症予防法の開発やバイオ燃料・医薬品の製造に役に立てられるが、その一方で、バイオテロにつながる危険性も秘めており、科学が持つ功罪の二面性を浮き彫りにする。科学のもたらす利益を享受しつつリスクを避けるためには、衆知を集める工夫が必要である。
 なお、鳥インフル騒ぎが大きくなった理由の1つがH5N1の致死率の高さだが、これに関しては疑問も提出されている。WHOは、ウィルス感染者586人のうち346人が死亡したとして、致死率59%と結論した。ところが、米マウント・サイナイ医科大学の研究チームは、14000以上のサンプルを用いたこれまでの血清評価試験を再検討、全被験者の1〜2%の血清中にH5N1の感染を示す所見があることを見いだした。これが正しければ、WHOの発表した値は重篤な患者だけを調べた結果に過ぎず、致死率が実際よりも大幅に高く見積もられていたことになる。

【追記】3月30日、米科学諮問委員会は、一転して鳥インフル論文の見合わせ要求を撤回した。撤回の理由は、論文にバイオセイフティに関する記述が追加されたことなど。
アメリカで34年ぶりに原発認可(12/02/11)

 アメリカ原子力規制委員会は、ジョージア州ボーグル原発3,4号機の建設を認可した。原発新設の認可は1979年のスリーマイル島原発事故後初めてで、事故前年に認可されて以来34年ぶり。建設費用は、安全対策の強化のために高騰しており、2基で140億ドルに上る。ウェスティングハウス社製の新型軽水炉は、外部からの送電とディーゼル発電が失われても72時間にわたって原子炉を冷却でき、安全性は高いとされる(福島では臨時冷却系が数時間しか保たず、メルトダウンを回避できなかった)。
 福島第1原発事故以降、ヨーロッパを中心に反原発の動きが再び高まりつつあるが、アメリカでは、原発再開に向けて舵を切ったブッシュ前大統領に続いて、オバマ大統領も原発重視の政策を維持している。今回のケースも、債務保証など国と州の後押しがあって、ようやく実現にこぎ着けられた。反原発団体の一部は、建設認可を不服として提訴する方針。
 現在、世界のエネルギー供給は、必ずしも健全な状態にない。化石燃料に関しては、深海底油田の相次ぐ発見と「シェールガス革命」によって枯渇の不安が遠のいた。だが、深海底油田は、2010年にBP社が起こしたメキシコ湾原油流出事故で数百億ドルに上る被害をもたらしたことからもわかるように、コストと安全性の懸念が払拭されていない。化学処理された水と砂を地下1km以上の頁岩層に高圧注入するシェールガスの採掘は、地下水の汚染を引き起こすという主張があり、アメリカで大きな論争となっている。もちろん、地球温暖化も依然として深刻である。原子力は、高レベル放射性廃棄物の処理がフィンランド以外では先送りされたままだ(アメリカでは、ほぼ決まっていたユッカマウンテンでの処理場建設を、オバマ大統領が白紙撤回した)。再生可能エネルギーは、新興国を中心とするエネルギー需要の伸びに応えられないだけでなく、コストと安定性の問題を抱えている。こうした中で、さまざまなエネルギー源をどのように利用していくかが重要な政策課題となっている。
ES細胞で視力改善(12/01/26)

 米アドバンスト・セル・テクノロジー社は、ES細胞を使って網膜異常の治療(臨床試験)を行った結果、視力の改善が見られたと発表した。治療対象となったのは、加齢黄斑変性とスターガート病の患者1人ずつで、いずれも大幅な視力低下が起きていた。これらの患者の眼に、ヒト受精卵から作成したES細胞を網膜細胞に変化させて移植したところ、スターガート病の患者(51歳女性)は、ほとんど目が見えない状態から文字を識別できるところまで改善された。加齢黄斑変性の患者(78歳女性)にも治療効果が現れたという。
 ES細胞を用いた臨床試験としては、2010年、脊髄損傷患者を対象に米ジェロン社が行ったケースがあるが、このときはあまり治療効果が見られなかったようで、1年で撤退している(撤退の理由は、別の研究開発に集中したいためとも言われる)。脊髄損傷のマウスやサルを用いた実験では、損傷部位にES細胞やiPS細胞から作成した神経幹細胞を移植したところ症状がかなり改善されており、ヒトで効果がなかった理由ははっきりしない。治療を開始するまでに時間が掛かりすぎたのか、あるいは、外傷によって断裂した神経細胞の損傷がメスを使って切断した実験動物の場合よりも激しかったためかもしれない。
 日本でも、加齢黄斑変性をiPS細胞を使って治療する研究が理研で進行中だが、厚労省が臨床試験に慎重なせいもあって、臨床面では欧米に比べて遅れている。ES細胞やiPS細胞のような「万能細胞」はガン化しやすく安全性が確実でないため、これらを用いた再生医療の実用化をあまり急ぐべきではないとの見方もあるが、従来の方法では治療できない難病を治せる可能性がある画期的な医療技術であり、研究開発を適度にスピードアップすることが必要だろう。
不確定性原理破れる?(12/01/19)

 量子力学の基本的な不等式を検証する実験が、ウィーン工科大学の長谷川祐司らのグループによって行われた(Nature Physics online 15 Jan 2012)。この不等式は、誤差と擾乱に関するもので、1927年にハイゼンベルクが思考実験をもとに導き、2003年に小澤正直が修正したもの。今回の実験では、中性子のスピンに関して、ある向きの値Aと異なる向きの値Bを逐次測定した結果、Aの誤差ε(A)とBの擾乱η(B)の間に成り立つ不等式が、ハイゼンベルクの式に反し、小澤の式に合致することが示された。
 量子力学の基本的な不等式として最も有名なのは、一般に「不確定性関係」と呼ばれる式で、位置と運動量のように互いに共役な2つの物理量の標準偏差の積がh/4π(h:プランク定数)を超えないことを表す。この式は、演算子の交換関係に基づく量子力学の基礎から導くことができ、量子力学が正しいならば確実に成り立つ。今回の実験で、不確定性関係は問題とされていない。これに対して、不確定性関係が確立される以前にハイゼンベルクが導いた不等式は、電子の位置を測定しようとしてガンマ線を照射すると電子の運動量が擾乱されてしまうという思考実験に基づいており、式の形は不確定性関係に似ているが、その理論的根拠は曖昧である。具体的なケース(例えば、相関する2つの量子系の一方を測定することで他方の物理量を調べるという実験)の理論的分析を通じて、厳密には成り立たないことが早くから認識されていたが、具体的にどのように修正すれば良いかは知られていなかった。小澤の不等式は、理論的考察に基づいてハイゼンベルクの不等式を書き直したものである(この件に関しては、Q&Aコーナーの小澤の不等式についての回答で解説しているので、そちらを参照していただきたい)。3つの式を並べると、下のようになる。
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 今回の実験結果を「不確定性関係が破れる」と早とちりした記述が一部に見られるが、量子力学の正当性には何の影響もない。ただし、ハイゼンベルクの主張を「不確定性原理」と呼ぶ論者がいるせいで、量子力学の教科書でも、不確定性関係とハイゼンベルクの不等式を混同しているケースが少なくない(「不確定性関係」を「不確定性原理」と呼ぶ人の方が多い)。物理学を志す人は、正確な理解を深めるように努めるべきだろう。
福知山線事故、社長に無罪(12/01/12)

 2005年、JR福知山線で起きた脱線事故(死者107人、重軽傷者562人)で業務上過失致死傷罪に問われたJR西日本前社長(カーブ付け替え時の鉄道本部長、事故当時は副社長)に対して、神戸地裁は「事故は予見可能でなく過失は認められない」として無罪を言い渡した。
 福知山線事故は、乗り換えの利便性を図るために作られた急カーブ、(速度照査機能のある)ATSの未設置、競合路線に対抗してスピードアップしたために生じた余裕のないダイヤ、運転士にプレッシャーを与えた日勤教育など、多くの要因が複合的に絡んで起きたもので、速度超過が直接的な原因だしても、特定個人の過失が事故を招いたとは言えない典型的なシステム事故である。今回の裁判は、システム事故における責任追及のあり方を改めて考えさせるケースとなった。社会正義の観点から責任者を処断すべきだというのが一般的な市民感情なのかもしれないが、個人に対する責任を過剰に追及すると、裁判を有利に進めるために証言や証拠開示が偏る危険がある。再発防止を最優先するならば、関係者を免責にして事故の原因をつまびらかにすべきだという主張も根強い。とは言え、JR史上最大の事故を起こしたJR西日本の責任が重大であることも、また確かである。
 日本の法律では、法人に刑事罰を科すことが困難であり、民事裁判による損害賠償請求などの形でしか法人の責任は追及できない。今回のケースでは、事故の重大性を鑑みた検察が、法人に代わるものとして社長ら経営幹部を糾弾しようとした。しかし、幹部個人が安全にかかわる全業務内容を知悉している訳ではない以上、「予見可能でない」という裁判官の判断は妥当だと言わざるを得ない。法律を改正して企業の刑事責任を問える制度を作るべきかどうかが、今後の検討課題となる。
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