【28】空調冷却水

[1]空調冷却水とレジオネラ症
夏になり暑さがやってくると、あちこちのビルや大きな建物の屋上などで冷房に欠かせない空調用の冷却塔が一斉に動き始めます。 ところで、最近この冷却塔に関し「レジオネラ」と言う言葉 がマスコミにしばしば取り上げられるようになりました。
1976年7月、フィラデルフィア市(アメリカ)で開かれた米国在郷軍人大会の会場となったホテルで原因不明の集団肺炎が突発し、34人もの人が亡くなりました。後に病原となった菌が確定され 、米国在郷軍人会会員(Legionnaire)からとってレジオネラ(Legionella)属菌と命名されましたが、この菌は河川水、湖沼水、土壌など自然界に広く分布する菌で、条件さえ合えばほとんどの人工水中にも生存できる菌であることが分かりました。 また、この菌による疾患は在郷軍人病と呼ばれるようになりましたが、最近ではレジオネラ症と言われるようになりました。 現在ではレジオネラ症レジオネラ肺炎と、その後判明した肺炎にならないポンティアック熱の二つの病型があることが分かっています。
このフィラデルフィアでの事件は、空調冷却水中で増殖したレジオネラ属菌で汚染された空気が原因でした 。しかし、空調冷却水以外にも加湿器やシャワー、給湯器や浴槽水などでもレジオネラ菌は増殖し、なかでも水を循環して用いる場合が増殖率大であることが分かってきました。
レジオネラ症はレジオネラ属菌の繁殖した水と空気との接触で生じたエアロゾルを吸入したとき(例えば、空調冷却水の冷却塔から排出される空気に接触したり 、24時間風呂でシャワーを浴びるなど)や汚染された水を誤飲したときにおこります。
我が国でも1990年代になってから、空調冷却水や循環式の「24時間風呂」、温泉などで感染事例があり、犠牲者が出たことが報道されています。
対策として平成11年11月に「新版レジオネラ症防止指針」(厚生省監修、(財)ビル管理教育センター発行)が発行されています。また、「新版レジオネラ症防止指針(概要)」については、厚生労働省のホームページ
http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1111/h1126-2_13.html#no1-2
で見ることが出来ます。

[2]空調冷却水システム

空調冷却水のシステム


空調冷却水システムは、水を冷却塔で冷却し循環使用する循環式が一般的ですが、これには開放循環式密閉循環式の二つ があります。
しかし、開放循環式の方が普及しており、この方式が通常見聞きしやすいのでこれについて述べることにします。
左図に開放循環式空調冷却水システムの大まかな図を示します。

(1)開放循環式空調冷却水システム
開放循環式空調冷却水システムでは、空気を冷却塔内に強制的に取りこんで循環水と接触させます。このとき循環水の一部が蒸発し、これによって水の温度 を下げます。
図で、下部水槽から出た温度の低い循環水は熱交換機(冷凍機:冷房用の冷風をつくる冷熱源となる)で熱交換した後、温水となって冷却塔に導かれ塔上部より 散水されます。散布された水は塔内の充填物の層を流下しながら外部から取り入れた空気と接触します。このとき循環水の一部が熱を奪って蒸発し循環水の温度を下げますが、この奪われた熱が水の気化熱(蒸発熱 、蒸発潜熱)です。
水の気化熱は温度によって変化しますが、大凡の値は1気圧下で100℃のとき539kcal/kg、60℃のとき560kcal/kg、50℃のとき570kcal/kg、30℃のとき580kcal/kgとなっています。

蒸発水量(蒸発損失)
上記のように循環水が冷却塔を通過するとき、循環水の一部が気化熱を奪って蒸発し冷却効果を生じますが、 このときの蒸発水量を蒸発損失とも言います。
蒸発水量の循環水量に対する割合E(%)は、

t1:冷却塔入口水温 ℃
t2:冷却塔出口水温 ℃
Lh:気化熱 kcal/kg
R:循環水量 kg/hr
E:蒸発水量 kg/hr

とすれば

E=R(t1−t2)/Lh
E(%)=100(t1−t2)/Lh

のようになります。
例えば、循環水入り口温度が30℃、出口温度25℃のときの蒸発水量は、水の気化熱を580kcal/kg(30℃)とすると循環水量の約0.86%となります。
また、蒸発損失による水は水蒸気で水そのものですから不純物を帯同しません。したがって、循環水中の不純物は濃縮されることになります。

飛散水量(飛沫損失)
冷却塔内から排出される空気によって冷却系外に細かい水滴になって搬出される水量を指します。
飛散水量は通常循環水量に対する飛散水量のパーセントで表します。冷却塔型式、気象状況、地勢によって多少左右されますが、通常循環水の0.1%以下とされています。
飛散する水は循環水そのものですから、水中の不純物をそのまま帯同します。前述のレジオネラ症の原因となるエアロゾルの元凶ともいえるわけです。

補給水
蒸発損失と飛沫損失により失われた水を一定量に保つため、冷却水システム内には水を補給しなければなりません。この冷却水システム内に補給する水を補給水と言います。
しかし、 系内の水は蒸発水量の項で述べたように蒸発損失によって濃縮され ますから、濃縮の程度を望ましい倍率に保つために、循環水を強制的に連続あるいは断続的に排水(ブローダウン)する必要があります。
したがって、補給水は蒸発損失、飛沫損失、ブローダウンを合計した量になります。

[3]循環水の濃縮と補給水量
循環水の濃縮の割合(濃縮度)は、一定に保たれるのが冷却水システムの運転管理上大切なことです。
前項から補給水の量は、蒸発水量、飛散水量が一定のとき
 

M = 補給水量
E = 蒸発水量
Df = 飛散水量
Bd = ブローダウン水量

とすると補給水量Mは

M = E + Df + Bd‥‥(1)
 
のように表されます。
いま、循環水中の不純物は補給水によって持ち込まれた溶解固形分のみとし、また、補給水中の溶解固形分は一定であり、循環水中で濃縮によって変化を起こさないものとします。 (実際には、循環水中には混入した大気中の不純物など補給水中の溶解固形分以外の不純物も含まれますが、これは無視することにします)
 
C=濃縮度(濃縮倍率)
Mc=補給水中の溶解固形分の濃度
Rc=循環水中の溶解固形分濃度

とすれば、

C=Rc/Mc‥‥(2)

濃縮度が一定なら、系中に入る溶解固形分と系外に出る溶解固形分は等しいですから、

M×Mc=(Df+Bd)×Rc
∴ Rc/Mc=M/(Df+Bd)‥‥(3)

また(1)式より
M = E + Df + Bd

したがって、濃縮度”C”
C = Rc/Mc= E + Df + Bd/Df +Bd‥‥(4)

となり、この(4)式によって濃縮度を算出することが出来ます。実際に濃縮度を測定するのには、補給水および循環水中の塩化物イオン(Cl- )濃度を測定しそれを比較するのが簡単です。これは塩化物イオンが一般に溶解度が大で、循環水中でも変化することがないからです。
冷却水の管理については本文ではふれませんが、大きな問題である腐食やスケールの防止には【22】、【23】の腐食とスケール(1)(2)が参考になると思います。(2002.5.20)