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水道水は衛生的に安全でなければなりませんが、このために塩素消毒*が行われているのはよく知られていることです。
我が国で塩素消毒の設備が登場しはじめたのは1920年代からですが、戦前の水道は水源の汚染が少なく、細菌などの微生物を効果的に除去する緩速濾過がほとんどであり、病原微生物については比較的高い安全度を保っていました。しかし、水道の普及率はまだ低く、簡易水道などでは緩速濾過の設備もないところもあり、腸チフス、赤痢、コレラなどの水系感染が時折発生していました。したがって、塩素の注入は夏場や伝染病流行時に実施されることが多く、塩素の常時注入は水の味を損なうこともあってほとんど実施されていませんでした。
しかし、戦後直ぐに塩素消毒の強化が占領軍によって指示され、浄水場での塩素注入率2ppm、給水栓末での残留塩素0.4ppmが実施されたこと、戦後の水処理がアメリカ型の急速濾過法が主流になったことなどから、水道では常時塩素を注入することが一般的になり、水系感染は著しく減少しました。
現在、我が国の水道水は、水道法により塩素または結合塩素*で消毒を行い、給水栓水での残留塩素量が遊離塩素の場合は0.1mg/l以上(結合塩素の場合は0.4mg/l以上)、ただし、病原菌による汚染の疑いがあるときや水系感染症流行時は、遊離塩素0.2mg/l以上(結合塩素の場合は1.5mg/l以上)と定められいます。
※ 消毒:厳密には、消毒は病原菌を殺菌して伝染する事がないようにすることを意味し、他の菌の殺菌についてはあまり問題にしていません。これに対して殺菌は病原菌以外の微生物も殺滅することを意味しています。両者は通常区別して用いられることはあまりありませんが、水道では殺菌ではなく消毒と言う言葉を用いています。
※ 結合塩素:塩素は水中のアンモニア化合物と反応してクロラミンを生じます。クロラミンは水のpHの違いによってモノクロラミン(NH2Cl)、ジクロラミン(NHCl2)、トリクロラミン(NCl3)になりますが、一般に水道水に含まれるのはモノクロラミンとジクロラミンです。このモノクロラミンとジクロラミンを結合塩素と言い消毒効果があります。結合塩素は殺菌力は塩素に劣りますが、安定で長時間分解せず残留効果が大で、しかも塩素のようないわゆる「カルキ臭」がないなどの特長があります。しかし、注入方法やその管理方法が複雑なためあまり用いられていません。
[1]塩素消毒の長所と問題点
塩素注入が行われるようになったのは、1890年代になってからですが、すでに100年以上経過した現在でも、塩素は依然として世界的に水道水の最も重要な消毒剤として用いられています。なお、現在塩素消毒剤
としては液体塩素、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム(高度さらし粉を含む)などがあります。
(1)塩素消毒の長所
塩素は消毒の効果が大きくて確実であること、消毒の効果が後々まで残ること(残留効果)、大量の水に対しても容易に消毒できること、残留塩素の測定が容易で維持管理が容易なことなど消毒剤として優れた性質を持っています。
※残留効果:消毒の効果がすぐ消えてしまうと、水道のように浄水場から末端の給水栓までの距離が長い場合など、その途中で微生物が再増殖してしまう恐れがあります。このような微生物の再増殖現象をリグロースとかアフターグロースと言いますが、これを防ぐためには塩素のようにその効果が持続する残留効果が必要となります。
(2)塩素消毒の問題点
しかし、我が国では1960年代頃から産業の急速な進展に伴って自然環境の汚染が進み、河川、湖沼などの表流水や地下水も次第に汚濁が進むようになりました。これらの自然水を水源とする水道水も環境汚染の影響を免れることは出来ず、塩素の注入量も増加し、その増加と共にいろいろな問題が起こるようになりました。
先ず、水道水中に発ガン性や催奇形性など毒性のあるトリハロメタン*の発生が見られるようになったことが挙げられます。また、特定の物質、例えば工業廃水などに混入することのあるフェノール類は、極微量でも塩素と反応して強い臭気を持つクロロフェノールとなります。
さらに、塩素に対して抵抗力の強い(塩素耐性のある)クリプトスポリジウムによる水道の汚染事故も
、マスコミなどの報道により我々の記憶に新しいところです。
このような状況を背景に、塩素の健康に対する問題がクローズアップされ、塩素に代わる消毒法、すなわち代替消毒法の研究が急がれるようになりました。
※トリハロメタン
(THM:Trihalomethanes):富栄養化した湖沼水やそれを水源とする河川水中の有機物質、下水などが混入した河川水中の有機物質、或いは自然水中に存在する着色物質であるフミン質などの有機物質(これらの有機物質をトリハロメタン前駆物質と言います)と遊離塩素との反応により生成する消毒副生成物です。
トリハロメタンは、メタン(CH4)の4個のHのうち3個が塩素や臭素などのハロゲンで置換されたもので、その発ガン性や催奇形性から水道の水質管理上大きな問題となってきました。
1978年11月29日アメリカのEPA(Environmental Protection Agency:環境保護庁)は、世界に先駆けて水道水中の総トリハロメタン濃度を定め0.10mg/l以下としました。続いてWHO(世界保健機構)がクロロホルムとして0.03mg/l以下のガイドラインを勧告し、その後世界各国でもトリハロメタンの水道水中における濃度の規制を始めました。
我が国では、1981年(昭和56年)3月25日付けで総トリハロメタン濃度(クロロホルム、ジブロモクロロメタン、ブロモジクロロメタン、トリブロモメタンの合計濃度)として年間平均値0.10mg/l以下の実施が厚生省より指示されました。
現在トリハロメタンは、4種のトリハロメタンと総トリハロメタンについて水質基準の「健康に関連する項目」の中で次のような基準値が設けられています。
| クロロホルム(トリクロロメタンCHCl3) | 0.06mg/l以下 |
| ジブロモクロロメタン(CHBr2Cl) | 0.1mg/l以下 |
| ブロモジクロロメタン(CHBrCl2) | 0.03mg/l以下 |
| ブロモホルム(トリブロモメタンCHBr3) | 0.09mg/l以下 |
| 総トリハロメタン | 0.1mg/l以下 |
[2]代替消毒法
現在、塩素に代わる水道水の消毒法として我が国や欧米では、二酸化塩素、クロラミン、オゾン、紫外線などによる消毒法が研究されています。また、ACT21のような計画の中にも代替消毒法に関する研究が含まれています。
これらの消毒法の中で、
クロラミンはすでに結合塩素として水道水の消毒に使用されていますが、さらに効果的な使用方法などの研究がなされています。
オゾンは酸化力が非常に強く殺菌力も強力なのですが、残留性がほとんどないので水道水の消毒剤としては用いられず、その強力な酸化力を利用して有機物の分解、異臭味や色度の分解に用いられています。また、粒状活性炭や生物活性炭と組み合わせて水道水の高度処理のシステムに導入されています。
紫外線も強力な殺菌力や有機物の分解能力を持っていますが、残留性がありませんので水道水の消毒法としては用いられていません。
以上のような方法に対し二酸化塩素(ClO2)は酸化力、消毒力が塩素より強力で残留性もあり、トリハロメタンが生成しにくいので代替消毒剤としては特に有力視されており、欧米ではすでに多くの浄水場で採用されています。
我が国でも「水道施設の技術的基準に関する省令」に規定される評価基準などの範囲内で、平成12年4月1日から使用できるようになりました。ただし、その注入、管理の方法が完全に確立されていないため浄水処理システムの前段または中間に注入することに限定されており、その後にやはり塩素消毒をしなければなりません。
二酸化塩素の消毒剤としての特徴は、
(1).塩素消毒に比較し、トリハロメタンが生成しにくいこと。
(2).消毒力や酸化力が塩素より強力であり、したがって水中の鉄やマンガンの酸化、除去にも使用出来ること。
(3).水中のアンモニア性窒素と反応しないこと。
(4).消毒副生成物として、亜塩素酸イオン、塩素酸イオンなどの無機塩素酸化物が生成すること。
などが挙げられます。
「水道施設の技術的基準に関する省令」では、二酸化塩素2.0mg/l以下、亜塩素酸イオン0.2mg/l以下という基準があり、それに
沿った注入及び水質の管理が必要です。
また、水道水は管末で規定の残留塩素濃度を保たなければなりませんから、二酸化塩素単独での消毒は不可で、必ず消毒用塩素の注入が必要となります。
二酸化塩素は、塩素やオゾンに似た刺激臭のある橙黄色の不安定な気体で、爆発性があります。強力な酸化剤で室温でも水に溶けますが、水温が高い程良く溶解し、水中でもClO2のままで溶存しています。
二酸化塩素は、このように爆発性のある不安定な気体なので貯蔵して使用するには不適で、使用する現場で水溶液として製造しなければなりません。
二酸化塩素を発生させるには、亜塩素酸ナトリウムを塩素剤(塩素ガスまたは次亜塩素酸ナトリウム溶液)で酸化する方法、亜塩素酸ナトリウムに塩酸を加える方法など亜塩素酸ナトリウムから製造することが一般に行われてきました。また、最近、硫酸の存在下で塩素酸ナトリウム と過酸化水素を作用させて二酸化塩素をつくる方法も紹介されています。
※ ACT21:平成9年度から(財)水道技術研究センターが推進している「高効率浄水技術開発研究」のことで、厚生省の研究費補助をもとに関連する産業界、官界、学界が一体となり浄水技術の研究を精力的に進めています。(2000.12.16)