【19】 水酸化鉄で除鉄する

前章で述べたように、鉄は第一鉄イオン(重炭酸第一鉄)として地下水中に広く存在しています。また、実際に除鉄の対象となっている原水は地下水がほとんどです。したがって、除鉄といえば地下水中の第一鉄イオン(Fe2+) の除去が主な対象であるといってよいでしょう。
左の図は除鉄装置です。後述する「薬品による酸化」の中の塩素酸化除鉄装置の一例です。

[イオン交換法]

イオン状の鉄を除去するには、まずイオン交換樹脂によるFe2+の除去が思い浮かびます。この方法は、通常強酸性陽イオン交換樹脂のNa型を用います。原水中のFe2+はイオン交換樹脂のNa+と交換して樹脂中に取り込まれ除去されます。また原水中のCa、Mgなどの陽イオンはすべてNaイオンによって交換されますから、処理水は軟水になってしまいます。除鉄軟水になってしまうわけですね。再生は食塩水で行いますから、装置の基本は硬水軟化装置と同じです。
しかし、継続して使用しているうちに空気中の酸素によって原水中のFe2+ が酸化されて析出し、イオン交換樹脂の中に沈着したり、表面を被覆したり して樹脂の能力を低下させ、あるいは水酸化第二鉄の微粒子となって処理水中に漏洩したりします。
また、Fe2+除去の工程中に空気の混入を避ける工夫をしても、空気を完全に遮断することは無理であり、長い間には樹脂の内部や表面に徐々に鉄の酸化物の沈着が起こります。このため、還元剤による洗浄などの障害防止方法も考案 さ れていますが、保守が大変なのと樹脂が劣化するため、イオン交換による方法はあまり普及していません。

[酸化法]
水酸化鉄の水に対する溶解度は第一鉄と第二鉄との間に大きな差があり、中性付近のpHでは水酸化第一鉄 [Fe(OH)]はまだ相当水に溶けるのに対し、水酸化第二鉄[Fe(OH)] は不溶性でほとんど水に溶けません。
この点に着目し、水中のFe2+を酸化し水酸化第二鉄として析出させ除去する方法があり、現在この方法 が除鉄の主流になっています。

重炭酸第一鉄の酸化には、空気による酸化と薬品による酸化の二つの方法があります。

(1).空気による酸化
その1…気曝除鉄法:
地下水中の第一鉄の気曝による酸化については重炭酸第一鉄を参照してください。
このようにして酸化析出した水酸化第二鉄を凝集、沈澱や濾過により除去する方法をとることができます。
このような方法を気曝除鉄法といい、昭和30年代頃まで多用されました。しかし、比較的大きな設備を必要とするばかりでなく、共存するシリカによりFe(OH)がコロイド化する場合が多く、これにより凝集、沈殿やろ過が困難になるなどの問題があり、あまり使用されなくなりました。

その2… 接触酸化法(水酸化鉄による除鉄):
この方法も気曝除鉄法の一ということができますが、その機構は前述の気曝除鉄法とは異なります。
気曝除鉄法が水酸化鉄の微粒子を析出させ、それを凝集、沈殿や濾過により除去するのに対して、接触酸化法は、濾材表面のオキシ水酸化鉄(FeOOH・HO)の触媒作用により、水中のFe2+を濾材表面で除去します。

2Fe2++ 1/2 O + 5HO─→ 2FeOOH・HO +4H…@
Fe2+と酸素との反応は速く、瞬間的に行われます。また反応の結果、触媒と同じ FeOOH・HOができる(自触媒反応)ので濾材は次第に肥厚します。
この接触酸化の仕組みは、従来の気曝除鉄設備のうちのいくつかが、優れた除鉄能力を持つことに着目した高井 雄氏(”用水の除鉄・除マンガン処理”…産業用水調査会発行。著者:高井 雄、中西 弘。)によって、濾材表面に自然に生成したオキシ水酸化鉄による自触媒作用であることが解明されました。
この方法にはいくつかの水質上の制限がありますが、適合する被処理水に対してはよい結果を得ており、特に次項に述べる薬品による酸化を嫌う場合などには最適です。気曝は簡易な方法で十分ですが、気曝後濾層に給水するまでの時間を取りすぎると、気曝除鉄法の場合と同じく水酸化鉄のコロイド化の問題を生ずる可能性が大となります。
オキシ水酸化鉄には、天然のもの、人工のもの、非晶質のものや結晶質のものなどがありますが、これについては省略します。

* 有機物やNH4+-Nの多い水は、初期に除鉄がうまくいっても、暫く使用しているうちに処理結果が思わしくなくなることがあります。これは、有機物が多いため濾層内に微生物が繁殖し、水中の酸素が消費されて濾層の下層が嫌気性となり、除去された鉄が再溶出するためです。

(2).薬品による酸化
水中の鉄イオンの薬品による酸化は、空気酸化より迅速かつ強力です。酸化剤としては通常、塩素、次亜塩素酸ナトリウムなど塩素系酸化剤が用いられます。オゾン、二酸化塩素などを使用することもできますが、除鉄の目的のみでオゾンなどが用いられる例はほとんどありません。
塩素によるFe2+の酸化は、酸化が瞬時にしかも確実に行われ、コロイド化するケースはほとんどありません。酸化により生じた水酸化第二鉄は、凝集、沈殿、濾過などの処理操作により除去します。この方法は、水質的にも適用範囲が広く、シリカ含有量の多い原水にも適用できることから、現在最も多く用いられています。
例えば、次亜塩素酸ナトリウムによる酸化は次式のようになります。

2Fe2++ NaClO+ 5HO─→2Fe(OH) +NaCl+4H…A
塩素酸化の場合でも被処理水中にシリカや有機物などが多いと、酸化後の滞留時間が長くなるにつれFe(OH)がコロイド 化する傾向があり、処理が困難になることがあるので注意を要します。このような場合、酸化後出来るだけ早く凝集、沈殿あるいは濾過などの処理を行う必要があります。
また、炭酸ガスの多い地下水などを気曝し、炭酸ガスを除去してから塩素酸化除鉄を行う場合も、シリカの多い原水はコロイド化を避けるために、気曝後できるだけ早く塩素処理を行なわなければなりません。

[その他]
その他面白い除鉄の方法として、鉄・マンガンバクテリアを利用して水中のFe2+やMn2+を除去する方法があります。除去の仕組みは緩速濾過と同じで、生物膜が鉄・マンガンバクテリアでできている緩速濾過と考えればよいでしょう。
面白い方法ですが、生物膜が環境の変化に弱く、また管理が煩雑なためあまり普及しませんでした。しかし、最近設備や管理面の研究、改善により、少しずつ実施例が出てきています。
鉄・マンガンバクテリアは水処理にとって厄介ものですから、この例は毒をもって毒を制する見本といえるかもしれません。(1999.7.29)