【18】水中の鉄やマンガン

鉄やマンガンを含む水は異臭味があり、昔から“カナケ”や“シブ”のある水として嫌われていました。また水道にも「赤い水」「黒い水」の問題を引き起こすことがあります。これは、鉄やマンガンが飲料水や生活用水としてはもちろん、各種の産業用水においても製品や配管、機器などに多大の悪影響を与えるからです。
最近の産業の伸展と生活水準の向上により、用水中の鉄、マンガンの含有量は厳しい数値が要求されています。例えば、我が国の水道法による水質基準では鉄0.3mg/l以下、マンガン0.05 mg/l以下となっています。また、酒造用の割水や仕込用水は鉄を0.05mg/l以下にすることが要求されています。ハイテクの最先端を行く電子工業での、例えば今では古くなった4メガビットの超LSI製造用純水でも、鉄を含む総金属が2ug/l以下(ug/l=ppb=1/1000r/l)となっています。
したがって、水中の鉄やマンガンを除去することは水処理の最も基本的な技術の一つになっています。わが国でも江戸時代には、既に井戸水の“カナケ”抜きの方法が広く行われていました。
昔の井戸
昔の井戸(旧白井宿…群馬)
 
このように除鉄、除マンガンは古くから行われていましたが、高度の水処理技術が確立されている現在でも、解決が困難な問題が時折見受けられます。これは、水中の鉄とマンガンが、その環境によっていろいろと変わった形をとることに起因しています。
除鉄、除マンガンには、この方法だけという画一的な方法はありません。水中の鉄、マンガンの状態によって、初歩的な水処理の技術で簡単に除去できるものから、相当な技術と経験をもってしても手こずる難しいものまであり、いくつかの水処理技術が組み合わされて使用される場合も多くあります。

[1] 鉄は地殻中で4番目に多い元素
鉄、マンガンは自然界に多く存在し、地殻中の元素の存在百分率を示すクラ−ク数によれば、鉄は4位と非常に多く、マンガンも12位で比較的多量に存在します。それでもマンガンの量は鉄の1/50に過ぎません。
[2]  鉄・マンガンは地下水中に広く分布し、共存する場合が多い
鉄、マンガンは元素の周期律表で26番目と25番目(原子番号が26と25)で隣あっており、また、遷移元素という仲間にはいっています。
このため、鉄とマンガンは非常に類似性が強く、両者とも天然水中、特に地下水中に広く分布していますが、共存している場合がほとんどです。ごく微量の痕跡程度のマンガンも考慮すれば、ほとんどの場合共存していると見てよいでしょう。
地下水中の鉄含有量は0〜数十r/lの間にわたっていますが、20r/lを超えるようなことはあまりありません。しかし、80r/lを超えるような例もありました。
これに対してマンガンは0.5r/l以下の場合が多く、5r/lを超えることはほとんどありません。また、マンガンの鉄との含有比率は1/10またはそれより少ない場合が大部分です。しかし、少ない例しかありませんが、マンガンのみあるいはマンガンが鉄より多い水もあります。
[3] 地下水中の鉄はFe2+Mn2+として存在することが多い
地下水中の鉄とマンガンは、通常次のような状態で存在しています。
(1)  鉄
@重炭酸第一鉄
地下水に最も多く存在するのがこの形です。、特に深所地下水(深井戸水)には、酸素が無く遊離炭酸(炭酸ガス)が多く含まれていますから、このような条件のもとでは鉄は2価の陽イオンFe2+として存在し、重炭酸第一鉄[Fe(HCO3)2]を形成しています。特にpH7以下の無色透明な地下水中の鉄はほとんどがこの形です。
井水の気曝重炭酸第一鉄を多く含む無色透明の地下水を揚水して放置したり気曝したりすると、水は黄白色に濁り始めやがて褐色に変化します。これは、地下水中の2価の鉄イオンFe2+が酸化されることにより、水酸化第二鉄Fe(OH)3が析出するからです。
この変化は、まず水中の遊離炭酸が炭酸ガスとなって大気中に放出され、代わりに空気が溶け込みその中の酸素が水中に溶解することから始まります(気曝の原理参照)。
この結果、水中の遊離炭酸が減少し水のpHが上がります(自然水のpH参照)。水のpHが高くなると、Fe2+は酸化されやすくなり、水中に溶け込んだ酸素によって容易に酸化されて三価の鉄イオンFe3+になりますが、Fe3+は中性付近ではほとんど存在せず、褐色で不溶性の水酸化第二鉄となって沈殿します。

2Fe(HCO)

+  1/2O

+  H2O   →

2Fe(OH)3↓

+  4CO

重炭酸第一鉄

  酸素
  水酸化第二鉄
炭酸ガス

※. なお、水酸化第二鉄は(Fe2O3・3H2O:一般式Fe2O3・nH2O)としているものもあり、このときの名称は水和酸化鉄となっています。
A.有機鉄やコロイド状鉄
鉄はまた、淡黄緑色から茶褐色を呈する着色水(有機着色水)中に、フミン質などの色度成分(着色有機物)と結合して溶存することがあリます。北海道などの寒冷地の河川水や井水、本州でも深井戸水などに見られます。
このほか、コロイド状の珪酸鉄やクレー(粘土)コロイド中の酸化鉄として存在することもあります。また、これらのコロイドに着色有機物が吸着されたものなどもあるといわれています。 
B.水酸化第二鉄
主としてpH7以上の浅井戸に見られるもので、揚水したとき鉄は既に酸化しており、水酸化第二鉄の微粒子として存在します。Fe2+と共存していることが多く、酸化鉄が0.5 r/l 程度以上あれば水は微黄色を呈するようになります。
※. 鉄バクテリア:地下水中にフワフワした褐色の粘着性フロックがあれば、まず鉄バクテリアの存在を疑う必要があります。鉄バクテリアは白色ですが、酸化鉄が体内に沈着すると褐色になります。
(2) マンガン
マンガンの場合も地下水中においては鉄と同様に二価のイオンMn2+ として存在し、ほとんどの場合重炭酸マンガンMn(HCO)2を形成しています。
マンガンは鉄に比べ酸化還元電位が高いため、Fe2+と違って中性付近のpHでは酸化されず、pHが10前後になってはじめて空気酸化が行われるようになります。したがって、Mn2+を含む地下水を汲み上げて気曝しても、マンガンは酸化されずイオン状のままで存在します
[4] 河川水中の鉄やマンガン
河川水などの表流水は大気と接していて酸素の供給が十分であり、また、遊離炭酸が失われるので鉄は容易に酸化されて水酸化第二鉄として沈殿し、一部は微粒子あるいはコロイド状の水酸化鉄となって水中に懸濁しています。
この結果、水中に残存するFe2+はほとんどなく、安定なコロイド状鉄や有機鉄として広く表流水中に存在しています。ただし、量的には少なく0.3r/l前後またはそれ以下の場合が多いようです。
マンガンの場合は、前述したように河川水中ではほとんど酸化析出しないためMn2+として水中に存在します。
[5] 鉄、マンガンの量は変化する
自然水中の鉄、マンガンで特に注意しなければならないのは、その量の変化です。水中の鉄・マンガンの量の変化は、季節の移り変わりや気候、揚水量などに影響され、特にダムや湖沼水、浅井戸水にその影響が多くあらわれます。変化の大きいときなど数倍も違うことがあります。この例としては湖水の停滞期と循環期があります。
鉄、マンガンに限らず他の水中成分についても、できるだけその変化の資料を持つことが、水処理にとって望ましいことです。
※. 湖沼やダムなどの低層水中にもFe2+やMn2+が存在していますが、これに関しては湖水の停滞期と循環期を参照してください。 (1999.5.25)