【9】水系感染


   
水道水の水質基準は、まず安全を第一とすることは前述しました。18世紀までのヨーロッパや明治初期までの日本の水道は、水を処理してきれいにすると言う意識はほとんどなく、導水や配水が主でただ単にきれいで安全な水を引くのがその役割でした。

このため、何らかの原因で伝染病菌が水源などに混入すると、水道水を介してチフス、コレラ、赤痢などの伝染病が広がることがありました。このように水、特に、水道水や他の飲料水系(井戸水や河川水など)を介して伝染病が発生し流行することを水系感染、あるいは水系流行と言います。

日本でも、特に戦前は小規模水道や、地域の共同井戸などで水系感染が起きました。1935年(昭和10年)の川崎市の赤痢の流行はその顕著な例です。

またヨーロパでは、1892年のドイツのハンブルグ市のコレラの流行、1914年のスペインのバルセロナでの腸チフスの流行などがあげられます。
ハンブルグ市のコレラの流行は水系感染の典型的な例で、約8600人の死者を出したと言われます。ハンブルグ市はドイツの大河エルベ川の下流にある大都市ですが、すぐその隣の下流の町アルトナ市での死者はわずか30人と言われ、その30人もハンブルグ市へ通っていた人達だったそうです。
アルトナ市で被害がなかったのは、アルトナ市水道水の給、配水系とハンブルグ市の給、配水系は互いに独立して別系統であったことと、水の浄化のために緩速濾過をしていたことによると言われています。

このように、水系感染の特徴は、患者の発生が、ある給、配水系範囲内で急激に起こり、しかもその範囲の境界がはっきりしていると言うことです。

最近マスコミなどによく取り上げられたクリプトスポリジウムは、原生動物の一種で水道水中に存在すると水系感染の原因となります。1993年にアメリカのウィスコンシン州ミルウォーキー市でクリプトスポリジウムによる水系感染が発生し、160万人が感染してそのうち40万人余が発病し、約400人が死亡したと伝えられています。日本では1996年6月に埼玉県越生町でクリプトスポリジウムの水系感染があったことは記憶に新しいことです。

クリプトスポリジウムは通常の塩素消毒では不活性化しないので、水道にとっては非常に厄介な存在です。厚生省では、処理水の濁度が少ないとクリプトスポリジウムの数も減少することから、クリプトスポリジウムの感染を防ぐために、暫定指針として処理水の濁度を常時0.1度以下に維持するように示しています。このためには、浄水の基本である凝集、沈殿、濾過の適切な運転管理が必要であり、また、膜処理、オゾン処理など新しい処理方法の研究あるいは実施が進められています。水道水の高度処理参照)(1998.8.4)


              
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