銀の猫
投稿者:TN&TN
投稿日:2017年 7月18日(火)10時01分12秒
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「銀の猫」
朝井まかて、文藝春秋、2017年1月
朝井まかての今年の本。「オール讀物」に連載されていたものをまとめた。
老齢社会、介護と現代の深刻な問題を江戸時代に移して書いているので、重たい気分にならず最後までよめる。朝井まかてらしい本で安心感がある。
文藝春秋Books(http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163905815)
担当編集者より:江戸時代、50歳まで生き延びればたいていの人は長生きで、70,80はざらという長寿社会。憧れの隠居暮らしをする人の一方、衰えて体が利かなくなった人も、その人を抱える家族も大勢いたということ。親の世話に明け暮れて結婚もできないまま自分も年をとっていくひとも多かったわけです。そんな中、本作の主人公は、バツ一で母親と二人暮らしの25歳。気立ての良さと賢さで、老人介抱の仕事のプロとして引っ張りだこです。そんな彼女が日々感じること、仕事先で出会う老人たちの強かさ、大きさ。異常に美人な母親との関係も注目です。
産経ニュース(http://www.sankei.com/life/news/170312/lif1703120024-n1.html)
『銀の猫』朝井まかて著 「毒」もある江戸時代の介護
これは一言で表せば、江戸時代の介護の小説である。主人公は離婚歴のある25歳のお咲。毒親である母のせいで借金を抱え、その返済と生活のために介抱人という割のいい仕事を、口入屋を通して請け負っている。
設定が抜群に上手(うま)い。江戸時代の介護−−もうこれだけで興味が湧いてくる。ほとんどの現代日本人が人ごとではなく、いずれは直面するだろうとても身近な問題だ。それだけに重くなりがちなテーマだが、本書は、舞台を江戸時代にもっていくことで、生々しさを巧みに回避している。
人物配置も絶妙だ。出てくる老人たちは曲(くせ)者で、個性豊か。一筋縄でいかない連中だが、みな既視感溢(あふ)れる人々だ。口入屋の夫婦は儲(もう)け話に貪欲で、利にさとい。だからといって人情がまるでないわけでもない。そこに描かれる人間たちは、等身大で誰もが欠点も良いところも持ち合わせ、状況によってはどちらに転ぶかわからない危うさがある。
主人公も完璧な人間でも、底抜けにいい人でもない。やっとの思いで稼いだ金をくすねて平気な母親に、「おっかさん、お願いだからいなくなって。あたしの前から消えて」と時に願わずにいられぬ切実さの中で生きている。実に人間臭く、たまらなくこの話を魅力的にしている。
婚家でただ一人の理解者だった舅(しゅうと)を、介護の途中で離縁されて看取ることが叶(かな)わなかった。その後悔と、形見となった銀細工の猫を胸に抱くお咲。介護を受けざるを得ない人々の、やるせなさや抵抗や諦め、喜びや覚悟など、様々(さまざま)な心と真摯(しんし)に向き合うことで逆に教えられ、成長するお咲の姿は胸を打つ。
人の一生が凝縮される命の瀬戸際を描く著者の視線はどこまでも温かだ。介護する側、される側、そのどちらにもそっと寄り添い、押しつけがましさがないのが嬉しい。本書は、テンポよく軽快に読み進めるタイプの話ではない。身につまされるどきりとした言葉を拾いながら、現代とは違う江戸時代の時の流れに身を浸し、ゆっくりと頁を捲(めく)ることをおすすめしたい。(文芸春秋・1600円+税)
評・秋山香乃(小説家)

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