
復讐
<戻る>
とうとう見つけた。クリスマスの雑踏の中、ヤツは再びこの街に姿を現していた。この天運を見逃せば、俺の手でヤツを葬るチャンスは遥かに遠のくだろう。俺は懐のピストルを確認した。ヤツは人の体を乗っ取り人間になりすまして生きる危険な地球外生物。いくら優れた武器であっても、一発で心臓に命中させ息の根をとめなければ、もたもたしているうちに他の人間に乗り移って逃げられてしまう。
俺の母は、幼い頃ヤツにとり殺された。母は、早くに病気で父を亡くし、俺と妹を女手一つで育ててきた苦労人だった。母の遺体は、リニア・レールを二本乗り継いでさらに船で一時間ほどの小さな島の寂れた村で、痩せ細った姿で見つかった。島で三ヶ月暮らした後、突然息を引き取ったという。俺は同時にその村から行方不明になった男の足跡を調べた。その男がヤツの次の体に違いないのだ。俺は妹とともに復讐を決意した。
「ヤツは必ず俺とお前の手で葬る。母の仇をとるために」
そして俺は、養護施設に預けられた自らと妹に、厳しい規律を強いた。毎日の筋力トレーニング・夜までの勉強を強制し、ゲームやショッピングといった娯楽を禁じた。年頃になった妹の恋愛にも干渉し、男を遠ざけたりもした。
俺は専門学校を卒業後、警察試験を受けて刑事になった。そして自らの立場を利用してヤツの足取りを追い続けた。ヤツは島を出た後、身寄りの少ない人間を巧妙に選び、乗り移りつつ、田舎や都会を転々としているようだった。しかしヤツの息遣いがそこまで聞えてきたとき、妹が気を違えた。
「もう兄貴にはついていけない。兄貴のせいであたしの人生はめちゃくちゃになってしまった。これじゃもう結婚もできない。あたしは兄貴が憎い。殺してやる」
と泣きじゃくり包丁を振り回す。せっかく俺のコネで警察に入ったばかりだというのに、不甲斐ない。俺は妹を入院させ、彼女の分も俺一人で復讐することを誓いなおした。
クリスマス・セールに浮かれる百貨店のエレベータでチャンスが訪れた。俺は白ひげをたくわえた老人の後ろに並んだ。この男こそ、ヤツだ。俺の調査に狂いはない。俺は懐に手を忍ばせ、コートの中からヤツの背中……心臓に照準を合わせた。一撃で葬ってやる。しかし、俺の手は引き金を引かない。なぜだ。俺は焦る。突然、老人が倒れた。ざわめく人々。豪奢な身なりの婦人が老人を抱き起す。しかし老人の顔面は蒼白。俺は一瞬でピンときた。ヤツは他の体に乗り移ったのだ。
俺はヤツを探すべく、周囲を見渡し……たつもりが、足は反転し迷いなく百貨店を出る。そして俺は俺の免許証と警察手帳を見て、リニア・レールの駅に足を向けた。決して俺の意思ではない。こうなるともはや明白。ヤツは俺に乗り移ったのだ。そしてヤツはこの俺の健康な肉体に十分満足しているようだった。なんということだ。ミイラ取りがミイラになるとは。
しかし、リニア・レールの駅で切符を買おうと並んでいた俺の体は、突然背中から腰まで、斜めに強い力で切り裂かれた。鮮血とともに前のめりに倒れる俺。
凶器は寸分違わず心臓を切り裂いており、どれだけ厳しい殺人訓練を受けたのかがうかがい知れる。俺は思った。
なあ妹よ。最近病院を脱走したとは聞いていたが、ちゃんと心を持ち直して、俺たちの復讐の誓いをきちんと遂行するとはなんとも見上げた根性じゃないか。
作成日:2007年12月29日
<戻る>