高森 千穂のページ

大人の本の部屋


 私が読んだ「大人を対象とした本」のうち、感銘をうけた本の紹介です。フィクション、ノンフィクション、いろいろなジャンルに目を向けていこうと思います。 子ども向けの世界だけではなく、いろいろな世界を知りたいと、ようやく思い始めた私です。

 リストは不定期に追加していきます。新着分には色をつけています。詳細は「作品タイトル」をクリックして下さい。

インデックス
沢村 凛ヤンのいた島
野沢 尚呼人
山之口 洋オルガニスト
カーリン・ストッフェルスモイシェとライゼレ
マーク・トウェイン不思議な少年 第44号
マーク・トウェイン(贋作)不思議な少年
江頭 剛鉄チャンでいこう
田宮 俊作田宮模型の仕事
中部 博いのちの遺伝子
B・スパンヤード地獄を見た少年
ミーシャ・デフォンスカ少女ミーシャの旅

「ヤンのいた島」 沢村 凛
★新潮社 1998年
★小説(SFファンタジー)
 Z国へ留学している津田瞳子。子どもの頃からの憧れだった、元Z国の植民地の小さな島「イシャナイ」へ、生物学調査団として到着します。瞳子の目的は、イシャナイの「菱島」に住んでいると言われる、幻の生物「ダンボハナアルキ」を見ることでした。内戦の続く危険なイシャナイでしたが、「ダンボハナアルキ」を見たい一心で調査団を離れ、菱島で単独行動をとる瞳子は、途中ゲリラと遭遇、彼らと行動をともにすることになります。
 ゲリラの親玉・ヤン。不思議なことに、瞳子は、ヤンと同じ夢を何度も見ます。それは、現状のイシャナイとは違ったイシャナイの姿。リゾート化されたイシャナイ、原始生活を続けるイシャナイ、近代化に焦るイシャナイ──なぜこんな夢をみるのか。瞳子は、ヤン自身にその謎の鍵があることを、やがて知ります。イシャナイにとっての、本当の幸福とは何なのか、そして、異邦人の自分にできることは何なのか……
 現代が抱える国際問題を考えさせる社会派ファンタジー。エンターテイメント性を失わず、それでいて「考えさせる」という点では、非常に優れた作品です。「イシャナイ」という南の楽園が、国際政治の中でもまれ崩壊していく様が、様々な角度から無理なく描かれ、その中心には、常に「ヤン」がいる、といった構図に感服させられました。
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同一作者の他作品 「お薦め児童文学」にもあり

「呼人(よひと)」 野沢 尚
★講談社 1999年
★小説(SFファンタジー)
 母親に捨てられ伯母夫婦に育てられた呼人少年は、12歳の時から体も心も成長が止まり、永遠の少年となります。自らが死を選ばない限り、12歳のままでずっと生き続けられる呼人。同級生たちが大人になり、その過程で傷ついていく様を、自らも異端者として傷つきながら、呼人は傍観し続けます。同時に、なぜ自分のような人間が生まれてきたのか、問い続けます。
 ショタ高森のために作られたかのような作品(笑) 12歳と戸籍上の年齢を使い分けながら、生を求める呼人の姿は、私の心を強く掴んで離しません。「永遠の少年」が、かつての同級生である「大人」に向けて発する言葉は、あまりにもまっすぐで、私の胸を突き刺します。
 ストーリーとしても、過去の大きな事件や時代背景をうまく取り入れ、後半の近未来の描き方にも無理がありません。さすが、第一線の劇作家の作品です。プロは違います。ただ逆に、その取り入れ方がスマートすぎるがゆえに、軽く感じられるきらいがあるのが唯一残念。なにはともあれ、エンターテイメントとして文句ない絶品。ショタな方は必読! 呼人はあなたの胸に、いつまでも住み続けることでしょう。
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「オルガニスト」 山之口 洋
★新潮社 1998年
★小説(ミステリーファンタジー)
 ドイツ・ニュルンベルクのヴァイオリニスト・テオは、ある日、友人シャンクから「ブエノスアイレスに住む無名のオルガニスト・ライニヒ」の力量を評価する人を紹介してほしい、と言われます。オルガン演奏を録音したディスクを聴いたところ、その腕前は天才的であり、また、心の奥底にしまっておいた親友・ヨーゼフを、テオに思い起こさせてしまいます。
 ヨーゼフ──ニュルンベルク音楽院での親友であり、九年前、自分の不注意から交通事故に合わせ、半身不随の怪我を負わせた天才オルガニスト。再起不能と言われ、行方知れずとなったヨーゼフが、奇跡的な回復をとげたのか? 謎につつまれたライニヒを追ううちに、テオは、悲劇的な事件と事実を知ることになります……
 音楽への深い情熱が生む悲劇。少年のような純粋さを持ったヨーゼフの言葉「僕は音楽家になりたい」。この言葉が、なんと悲しく読む者の心をとらえることか。
 多少構成の荒さや未熟さを感じるものの、この情熱の重さが、深く読者の心をえぐる作品です。オルガンなんて何も知らない人にも、興味を抱かせる文章は見事。「大人の本って面白い」 私がしみじみ感じた、貴重な一冊です。
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「モイシェとライゼレ」 カーリン・ストッフェルス
★未知谷 2002年
★小説(子どもも読める一般書)
 第二次世界大戦下のポーランドが舞台。13歳で孤児になったモイシェは、孤児院にいれられます。孤児院の院長は、ヤヌス・コルチャック、「子どもの権利条約」の精神的父と言われるその人でした。モイシェはユダヤ人でしたが、ユダヤ的生活習慣のない家庭に育ち、さらに金髪だったため、ほとんどユダヤ人としての自覚がありません。しかし、ユダヤ文化・習慣に則った孤児院で暮らすうちに、ユダヤ人としての自覚が芽生えていきます。
 ナチスにより、ユダヤ人がワルシャワのゲットーに、絶滅収容所トレブリンカへと追いやられた時代を背景にした一人のユダヤ人少年の物語。しかし、その悲惨な現実は全面に出されていません。メインはモイシェと、孤児院の少女・長い三つ編が印象的なライゼレの恋物語です。
 モイシェの一人称で描かれていますが、このモイシェ、なかなかのひねくれ者で、思っていることと口をついて出る言葉が一致していません。だから、一人称小説にもかかわらず、真意は文章どおりではないという、非常に面白い作風になっています。ひねた少年が好みの方には大変おすすめ。
 物語は後半、モイシェがゲットー行きを拒み、地下活動を手伝うところからあたりから、目を放せなくなりませす。重大な使命を担っているにも関わらず、モイシェが本当に命をかけたのは、ライゼレに捧げる一編の楽譜──「ライゼレ」。ひねた言動の裏でのこういう一途な行動に、モイシェの最大の魅力があります。
 ホロコーストの時代を描いた作品は多数あるけれど、ちょっと違った角度で描かれた作品です。ラストは非常に感動しました。
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「不思議な少年 第44号」 マーク・トゥエイン
★角川書店 1994年
★小説(ファンタジー)
 1490年冬。オーストリアの田舎の古城で、教会に内緒で印刷業を営むシュタイン家に、ある日、一人の身なりの貧しい少年がやってきます。《第44号 ニュー・シリーズ864962》と名乗る非常に美しいその少年は、主人に気に入られ、印刷見習工として古城で暮らすことになります。
 印刷工や見習工は、自分たちの立場を脅かす者として少年を追い出そうとしますが、少年は我が身に降りかかる難問を、やすやすとクリアしてしまいます。同時に、印刷所内に、不思議な現象を起こり始めます。無人で印刷機が動き出したり、印刷工の《複製》が出現したり──
 人間やキリスト教への不信が全面に描かれていますが、そのペシミズムに強く惹きつけられる作品です。この美しくも妖しい少年《第44号》に、作中の人物だけでなく、読者もまた、心酔してしまうのです。100年近く前の作品なのに、その設定といい、ストーリー運びといい、ちっとも古さを感じさせないのは、世界の巨匠・マーク・トウェインなのでした。。
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「不思議な少年」 マーク・トゥエイン(贋作)
★岩波文庫 1969年
★小説(ファンタジー)
 前の項で紹介している「不思議な少年 第44号」と出だしと終わりがそっくりで、中身のストーリーは、設定は似ているけれど全然違う作品。長らくマーク・トウェインの晩年の作品と信じられていましたが、実は、マーク・トウェインの三種類の異なった原稿を、とある作家と編集者繋ぎあわせ、適当に辻褄を合わせて作り上げた贋作なのでした。
 本家「不思議な少年 第44号」より短く、読みやすいのですが、《44号》(贋作では天使《サタン》になっている)の魅力は、本家には全然かないません。またペシミズムの度合いも、本家に比べればずいぶん軽いです。
 本物と偽物、読み比べてみるのも面白いと思います。
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「鉄チャンでいこう Let's go! Railroad Freak!」(全2巻) 江頭 剛
★小学館 1998年・1999年
★すちゃらか鉄道ガイド
 鉄道ファンによる、鉄道ファンの実態を描いた本。
 1巻は「鉄道ファンとは」が、よくわかる総合本。あらゆる種類の鉄チャン(鉄道ファン)の生態が、非常に詳しく説明されています。2巻は「乗りつぶし記録」を中心に、鉄道乗りつぶしの実態が生き生きと描かれています。
 特に、2巻の「全線完乗 怒涛の九州編(JR九州全線乗りつぶし記録)」は爆笑もの。駅ソバの味比べ、数分しかない乗換時間のドキドキ、駅ソバも売店もない駅での「非常食のポテトチップ」、ローカル線車内での女子高生たちの「茶会」。何度も「そうそう」とうなずき、自分の九州乗りつぶしの旅を思い出し、そして、また乗りつぶしの旅に出たい、と強く思いました。
 この世に鉄道本はたくさんあるけれど、同人誌も含めても、こんなに面白い鉄道本は初めて。作者の江頭さんはイラストレーター。ふんだんに載せられたイラストは美しく、マンガはめちゃめちゃ可笑しい。可笑しすぎます。
 で、元鉄チャンの私(及びわが夫)は、笑い転げながらこの本を読んだのですが、鉄道に全然興味のない人はどうなんでしょうね? 一般の人から見たら、鉄チャンという人種は、やっぱり「理解不能」なものなんでしょうか。それとも「自分も鉄チャンになってみたい」と思うのでしょうか。鉄チャンじゃない人の反応を知りたい本でもあります。
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「田宮模型の仕事」 田宮 俊作
★ネスコ発行・文藝春秋社発売 1997年
★ノンフィクション(自伝)
 サブタイトル「木製モデルからミニ四駆まで」 (株)タミヤの社長・田宮俊作さんによる、田宮模型の歴史であり、自伝です。木製模型時代から、プラスチックモデルへの移行時期を経て、「田宮模型」の名を世界的な物にした現代までの紆余曲折、それからミニ四駆の話など、プラモデルに興味のある人はもちろん、そうでない人にも非常に面白く読めます。
 本当にこの人は模型が好きなんだなぁ、好きな物のためには、ここまで人生を捧げることができるんだと、感動しました。そして田宮の模型が、他の会社の物と一線を画している理由も納得できました。
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「いのちの遺伝子」 中部 博
★集英社 1998年
★ルポルタージュ
 サブタイトル「北海道大学遺伝子治療2000日」。1995年に日本で初めて行われた遺伝子治療のルポルタージュです。患者である子どもの発病から遺伝子治療の終了まで、約2000日の記録です。
 医者や大学病院というものは、人の体を実験対象としか見ていない、もしくは、金儲けや権力争いに明け暮れている──こんな不信感を持っていた私ですが、この本を読んで、考え方を改めました。ここに描かれているのは、遺伝子治療という《実験》ではなく、あくまでも《難病と闘う子どもと家族、彼らを何とかして救おうとする医者》の姿です。一人の子どもの命が助かるということの素晴らしさ、そして重さ。子どもが成長していくラストには、涙が出ました。また「必要がなかったので、患者と両親の名前は今も知らない」との締めくくりには、プライバシーを守ろうとする作者の姿勢が見え、好感がもてました。
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「地獄を見た少年──あるアメリカ人のナチ強制収容所体験」 B・スパンヤード
★岩波書店(同時代ライブラリー) 1994年
★ルポルタージュ(手記)
 サブタイトル「あるアメリカ人のナチ強制収容所体験」が物語っているとおり、第二次世界大戦下の強制収容所での体験を綴ったものです。作者は米国籍をもつ、オランダで生活していたユダヤ人のバリー・スパンヤード。16歳の時、強制収容所からアメリカに逃れた時に、収容所時代の思い出を書きとめたものが原本となっています。
 「アンネの日記」では、収容所に入るまでが綴られていますが、この本は収容所に入った*後*が描かれています。収容所については、物語として何度も読んでいましたが、淡々と綴られる手記──「どこそこの家族が、こんなふうに殺された」という事実が延々と続く文章──その内容は、想像を絶するものでした。
 「人が殺される」そして「人を殺す」という痛みを忘れた時、人はこんなにも残酷なことができるものなのか。「人」を「人」として認識できなくなった時、「人」は狂うのだと実感。
 数人の人間が殺されることが大事件となる現代は、ある意味、正常なのかも、とも思ってしまいました。強烈な本。
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「少女ミーシャの旅」 ミーシャ・デフォンスカ
★早川書房 1997年
★回想録
 1941年のベルギー。7歳のユダヤ人少女・ミーシャの両親は、ナチスに連行されますが、ミーシャは金髪・碧眼だったため、両親の計らいにより、連行をまぬがれ、ベルギー人の家庭に引き取られます。しかし、その里親の目的は、「ドイツが勝てばこの子を引き渡してお金を儲ける。連合軍が勝てば、ユダヤ人を助けたということでお金をもらう」でした。ミーシャは里親の元を逃げ出し、両親を探すための旅に出ます。それは、3000マイル、戦火のヨーロッパを4年間にわたって歩き続けるという、壮絶な旅になりました。
 戦争が終わるまで、盗みや狼との共同生活で生き延び、そして、ユダヤ人虐殺の悲劇を目の当たりにした、作者・ミーシャの回顧録です。サブタイトルは「ホロコーストを逃れて3000マイル」。一つ上で「地獄を見た少年」を強烈な本と称しましたが、この本はそれを上回る強烈さと壮絶さを持っていました。いやはや、こんな本(それも小説ではなく回想録!)がこの世に存在していたとは。仰天しました。
 ワルシャワ・ゲットーや、ドイツ兵によるユダヤ人虐殺の場面は、文章であるにもかかわらず、何度も目をそむけたくなりました。そして生肉を食べて飢えをしのぐ少女の姿に「これは本当に回顧録なのか」と疑ってしまいました。けれど、狼たちと共同生活をする描写に、ああこれはやっぱり事実なんだと納得。獣たちは残酷ではない、人間こそ、最も残酷な生き物だと言う作者。その言葉に深くうなずきました。そして、狼たちとの生活を懐かしみながらも、時として出会う人間との魂の交流、最後に、人間世界へと戻っていく姿に涙しました。
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takamori@za2.so-net.ne.jp
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