高森 千穂のページ

お薦め児童文学 その4


 第四期紹介分です。だんだん「お薦め」基準が厳しくなってきています。
その分、よい本を載せていけたら、と思っています。

 お薦め本は毎回追加していきます。新着分には色をつけています。詳細は「作品タイトル」をクリックして下さい。

1〜50(その1)紹介へ
51〜100(その2)紹介へ
101〜150(その3)紹介へ
201〜(その5)紹介へ

インデックス
 著者名作品タイトル
151沢村凛ぼくがぼくになるまで
152ガリラ・ロンフェデル・アミットぼくによろしく
153アラン・アルバーグその猫がきた日から
154ジャクリーン・ウィルソンガールズ アンダー プレッシャー
155ジャクリーン・ウィルソンガールズ アウト レイト
156ジャクリーン・ウィルソンガールズ イン ティアーズ
157ジャクリーン・ウィルソンダストビン・ベイビー
158ジャクリーン・ウィルソンヴィッキー・エンジェル
159ジャクリーン・ウィルソンシークレッツ
160ジャクリーン・ウィルソンローラローズ
161ロバート・ウェストール禁じられた約束
162ジャクリーン・ウッドソンミラクルズ ボーイズ
163ドリット・オルガッドコルドバをあとにして
164ウリ・オルレブ砂のゲーム
165ウリ・オルレブ走れ、走って逃げろ
166レオン・ガーフィールドテムズ川は見ていた
167パトリシア・ライリー・ギフノリー・ライアンの歌
168ジーン・クレイグヘッド・ジョージフクロウはだれの名を呼ぶ
169シャルロッテ・ケルナーブループリント
170ニール・シャスターマン父がしたこと
171スザンネ・ステーブルズシャバヌ ──砂漠の風の娘──
172スザンネ・ステーブルズシャバヌ ハベリの窓辺にて
173ベンジャミン・ゼファニア難民少年
174マーク・ソフィラスすすにまみれた思い出
175フランチェスコ・ダダモイクバルの闘い
176サラ・デッセンいつまでもベストフレンド
177バーリー・ドハティホワイト・ピーク・ファーム
178キャサリン・パターソン星をまく人
179ナンシー・ファーマー砂漠の王国とクローンの少年
180アルバート・フェイシーバートの旅
181マロリー・ブラックマンハッカー
182アン・ブラッシェアーズトラベリング・パンツ
183アン・ブラッシェアーズセカンドサマー
184K・M・ペイトン運命の馬ダークリング
185K・M・ペイトン駆けぬけて、テッサ!
186K・M・ペイトンフランバース屋敷の人びと1 愛の旅だち
187K・M・ペイトンフランバース屋敷の人びと2 雲のはて
188K・M・ペイトンフランバース屋敷の人びと3 めぐりくる夏
189K・M・ペイトンフランバース屋敷の人びと4 愛ふたたび 上
190K・M・ペイトンフランバース屋敷の人びと5 愛ふたたび 下
191ジェイムズ・ヘネガンリヴァプールの空
192ティム・ボウラー川の少年
193ティム・ボウラー星の歌を聞きながら
194マッツ・ヴォールマイがいた夏
195マイケル・モーパーゴシャングリラをあとにして
196マイケル・モーパーゴケンスケの王国
197ジョーン・リンガードエディンバラの光と影
198ケーテ・レヒアイス空白の日記
199イアン・ローレンス死をはこぶ航海
200ジョーン・ロビンソン思い出のマーニー(上下)

151.「ぼくがぼくになるまで」 沢村凛
★学習研究社 2005年
★小学校高学年以上
 「ぼく」が目覚めたとき。音も光も無い空間にいることに気づきます。体が無いから、声も出せず、手を動かすこともできません。けれども「心」と「言葉」だけはあって、考えることができる──そう気づいた瞬間、「ぼく」は鳥になって空を羽ばたいていました。
 「ぼく」が「無」から「鳥」になり「犬」になり……一人の人間になるまでを描いた物語。その過程で出会う人々とのピンポイントの出来事が、パズルのように組み合わさったとき、一つの事件がうかびあがってきます。不思議な感覚のミステリーファンタジー。
 大人の小説家沢村凛が児童書?ということで、とっても興味を持って読みました。大人の小説といっても、ファンタジーノベル大賞の「ヤンのいた島」は、限りなくヤングアダルトだったので、おそらく、児童書でもOKな人なんだろうなと思っていたらそのとおり。違和感なく読めました。大人の小説家が児童書を書くときの「ヘンなアク」のようなものが感じられなかったのです。
 間にはさまる「ぼくのモノローグ」が、ちょっとしつこいかな、という気もしたのですが、このモノローグおかげで、ラストは見事にだまされました。「やられた!」と思ったと同時に、ジーンとして思わずぽろりと涙が……うーん、こんな物語が書いてみたい!
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152.「ぼくによろしく」 ガリラ・ロンフェデル・アミット
★さ・え・ら書房 2006年
★小学校高学年以上
 シオンは10歳の少年です。父親は銀行強盗をして刑務所に入れられており、離婚・再婚した母親には新たにたくさんの子どもが生まれたため、実の弟三人とともに、スラム街にある祖母の家に預けられています。
 シオンが学校をさぼってサッカーをしたり、不良少年たちと遊び歩く「悪ガキ」のため、面倒を見きれなくなった祖母は、シオンを里子に出してしまいます。里親の家は大きく裕福で、心理カウンセラーのシロニー先生が母親代わりです。シロニー先生の夫は弁護士で、実の息子・レニはピアノを弾いたり読書をする、シオンとは正反対の少年でした。
 シロニー先生はシオンに日記をつけるように言います。日記は「もう一人の自分あてに書くもので、ためになること」なのだ、と。シオンは、どうして自分が里子に出されたのか、また、シロニー先生の家で「おかしいと感じること」を、日記に綴り始めるのでした。
 シオンの日記、という形で描かれた物語。どこまでも子どもの視線をつらぬいていて、そのまっすぐな物の見方に、何度もハッとさせられました。子どもの目線で物語を描くのが、本当にうまい作家です。
 シロニー先生が自分を大切に扱っていることを理解し、感謝もしているシオンですが、それでも先生が無意識のうちに「人を見下す」態度を、シオンは敏感に感じ取り、孤独に陥ります。そして、なんでも心理学的に物事を理解しようとするシロニー先生ののなんと滑稽なこと!「子どもを理解しよう」という気持ちにはなんの偽りもないとしても、情報に振り回されて、肝心なものが見えなくなっているのではないか、と自戒させられました。
 日記をやめて手紙を書く──「もう一人の自分」あてでなく「自分をわかってほしい人」あてに書く──というラストがいいです。
同一作者の他作品 「お薦めその2」にもあり
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
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153.「その猫がきた日から」 アラン・アルバーグ
★講談社 2003年
★小学校高学年向き
 バレルの家の庭に迷い込んできた、灰色のかわいい子猫。両親と妹は、一目でその猫をかわいく思い、抱き上げなでます。そして、そのときから、バレルの家族の生活は狂い始めます。
 すべてはその子猫中心の生活になり、赤ん坊のルークとバレルをのぞき、猫に振り回され始めます。猫のためにおいしい食事を用意し、猫をかわいがる以外にはぼーっとして過ごすだけ。そして、その渦中の猫は、猫らしくない、異常な成長をとげ、どんどんと体が大きくなっていくのでした……
 猫好きの私は、間違いなく猫のとりこになり、異常な生活をすることになっただろうな……と思うストーリー。いたいけな姿をして庭に迷い込んだ子猫を、どうして抱き上げ、なでずにいられましょうか?
 この本のストーリーは、そういった人間の「弱み」につけこみ、子猫の姿をした魔物が家をのっとる姿を描いたものです。もちろんフィクションですが、「かぁわいい♪」という感情につけこんだホラーは、ぞっとします。願わくば「化け猫」の正体(なんで短期間にあんなに大きくなったのか)等をきちんと描いてほしかったのですが。
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154.「ガールズ アンダー プレッシャー」 ジャクリーン・ウィルソン
★理論社 2003年
★中学生以上
 エリー、マグダ、ナディーンは、とても仲のよい親友同士の15歳。
 ある日、三人でショッピングセンターに買い物に行ったところ、人気のティーンズ雑誌のモデルオーディションをやっていました。キュートなマグダに、神秘的な美女のナディーンは、カメラマンの前で魅力的なボディをさらします。けれどもエリーは、ぽっちゃりしたグラマーな体格。オーディションに並んでいる他の少女たちから「あの子、話にならないくらい太ってる」と言われたときから、エリーの涙ぐましいダイエットが始まります。それは、思春期としての輝きさえ損なうような、異常なものでした……
 「ガールズ イン ラブ」の続編。第一弾の「ラブ」については、その軽快さとか面白さからお薦めボーダーラインだったのですが、恋愛物にはあまり興味がなかったために、お薦めに載せていません。
 続編の「プレッシャー」については、「ダイエット」の描写のあまりの迫力に負けました。読んでいて、こちらまで飢餓状態になりました。ダイエットって、度が過ぎると「心の病」になってしまうんですね……ある意味、痛々しい物語です。
 けれども、ただもう「やせたい!」という純粋なエリーの思いがなかなか周囲には理解されず、父親としてのあり方が間違っているんじゃないかと悩むお父さんとか、しょせん継母だから受け入れてもらえないんだと悩むアンナとか、エリーとずれまくっているところが、めちゃめちゃ面白かったです。「赤ちゃんができたんじゃ?」とアンナがエリーを心配するシーンは爆笑もので、その後、そこはかとなく悲しくなってしまったのでした。
 ラストはちょっと性急な気もするけれど、自分を取り戻すエリーにほっと安心。エリーはとても好感の持てるキャラクターです。イギリスの少女たちが、ウィルソンのヤングアダルトに熱狂するわけも理解できます。
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
同一作者の他作品 「お薦めその5」にもあり
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155.「ガールズ アウト レイト」 ジャクリーン・ウィルソン
★理論社 2003年
★中学生以上
 「ガールズ イン ラブ」「ガールズ アンダー プレッシャー」に続く「ガールズシリーズ」第3弾。物語としては第1弾の「ラブ」の続編のような感じです。
 女子校に通うエリー、ナディーン、マグダは相変わらず大の仲良し。主人公のエリーは太っちょでオクテで、絵が描ければ満足だと思っています。そんなエリーに、突然、彼氏ができます。お金持ちの男子校に通う、やはり美術が大好きなラッセル。それなりにハンサムです。三人いっしょにいるところで、エリーが選ばれたことで、ちょっぴり面白くない美人のナディーンとキュートなマグダ。けれども二人は、心の底では親友として、エリーの幸せを願っています。ラッセルと付き合うようになってから、門限や自宅謹慎に抵抗したり、親に嘘をついてデートをしたり、親友をとるべきか彼氏をとるべきか悩んだりと、エリーにとっては「天国」と「地獄」を行ったり来たりの「ジェットコースターの日々」となります……
 「ラブ」をお薦めボーダーラインすれすれで落としてしまったので、「アウト レイト」を載せるのは反則かと思いつつ、やっぱりとても読みやすくて面白くて夢中になったのでお薦めにします。「ラブ」のときは、ライトノベルかと思っていたのですが、娘のこととなると厳格になる父親とか、なんだかんだいいつつエリーの肩を持つ若い継母アンナなど、人物像がしっかりしているところが「文学」になっています。
 日本の感覚だと、エリーたちの行動はとても中学三年生のものとは思えず、大学生ぐらいの感じですが、エリーの心の動きは日本の中学生や高校生と変わることなく、この「進み具合」は異国の舞台だからこそ、さらっと読めるのだと思います。ナディーンたちとコンサートへ行くべきか、ラッセルとダンスパーティーへ行くべきか悩むエリーや、その後の親友たちとのやりとりはとてもリアル。日本の少女であっても、だれでも共感できることと思います。第4弾は第3弾の続きのようなので、早く読んでみたいです。
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
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156.「ガールズ イン ティアーズ」 ジャクリーン・ウィルソン
★理論社 2004年
★中学生以上
 「ガールズシリーズ」第4弾。第3弾の「アウトレイト」の続編です。
 ラッセルとラブラブのエリー。ところが恋愛以外のところでは、親友だと思っていたナディーンに「太っている」と言われ、友情にヒビが入ってしまいます。家庭では、デザイナーとして急成長する継母アンナと、それを面白く思わない父親との間に隙間風が吹いています。「ラッセルとの間だけは永遠」と思いつつも、そうそう何もかも「気持ちがピッタリ」というわけにもいかず、ぎくしゃくすることも。それにアートに関しては、絶対譲れない強い気持ちももっているし、デザイナーとして成功しかけているアンナのことはだれよりも応援したい──嬉しいときも悲しいときも、どんなときでも泣いてしまうエリーの毎日を、軽快にコミカルに、そして時にはシリアスに描きます。
 とっても面白かった! 夢中になって読みました。第1弾の「ラブ」をお薦めボーダーラインすれすれで落としてしまったことが悔やまれます。エリーとラッセルの心のすれ違い(「愛している」とキスばかりしたがるラッセルと、「私の体だけでなく心もみて」と思うエリー)など、「わかるわかる」という描写が多くて(もっとも、私が同じ感覚を持ったのは中学生のときではなく大学生でしたが……今の子はもっとススンデいるかな?)、このシリーズが少女たちの心をがっちりとつかんでいるというのがよく理解できます。ハッピーエンドは気持ちがよく、読みやすくておかしくて、ときどきほろっとさせられて、こんなふうに明るく少女の心理や家庭問題を描く本が、日本の児童文学にももっとあってもいいんじゃないかと思いました。
 ガールズシリーズはこれで終わりだそうですが、もっともっと続きが読みたいです。
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
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157.「ダストビン・ベイビー」 ジャクリーン・ウィルソン
★偕成社 2004年
★中学生以上
 エイプリルには、隠していることがあります。「ダストビン・ベイビー」──生まれてすぐ、ピザ屋のゴミ箱に捨てられ、実の母も父も知らないことです。今は、優しい養母のもとで普通の中学生の生活をしているのですが、エイプリルは誕生日のたびに、いつか本当の母親が自分の前に現れてくれることを夢をみています。
 14歳の誕生日の朝、養母と些細なことでけんかをしてしまったエイプリルは、学校をさぼり、自分のそれまでの生い立ちを追う旅に出ます。最初の養母の家、里親の家、福祉施設──。その過程で、エイプリルの過去を徐々に明かしていくと同時に、血のつながりよりも、心のつながりのある「本当の家族」を受け入れるエイプリルの姿を、軽快に、そして、感動的に描いた物語です。
 ストーリーダイジェストを書くと「よくある話(昼メロみたいな)」なのですが、そこがジャクリーン・ウィルソン、夢中で読ませます。今回も泣けました。物語って「内容」だけでなく「書き方」も重要なんだなとしみじみと感じました。予定調和的なラストも、かえって安心して爆涙。
 「ベイビー、電話ください」 14年後に、ピザ屋のゴミ箱に書かれていた電話番号は、誰が書いたものか? ぜひ、読んで確かめてください。
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
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158.「ヴィッキー・エンジェル」 ジャクリーン・ウィルソン
★理論社 2005年
★中学生以上
 中学三年生のジェイドとヴィッキーは大親友。幼稚園のときからずっといっしょで、学校では「ふたご」と呼ばれています。ヴィッキーは美人で明るくて人気者、ジェイドはやせっぽちでおとなしく目立たない性格で、ヴィッキーの影のような存在です。日々の生活もヴィッキーに命令されてばかりのジェイドですが、ジェイド自身はそれが嫌ではありませんでした。
 ある日ささいなことでけんかをし、ジェイドがいつになく強くヴィッキーに抵抗をしたそのとき、車道に飛び出したヴィッキーが車にはねられ、死んでしまいます。けれどもヴィッキーは天国へは行かず、幽霊となってこの世にとどまります。ヴィッキーの姿が見え、ヴィッキーと話せるのは、親友だったジェイドだけ。その日から、ジェイドは四六時中ヴィッキーにつきまとわれ、ヴィッキーと二人だけの生活にのめりこんでいきます……
 ロバート・ウェストールの「禁じられた約束」のすぐ後に読み、どちらも「大切な人が死んだあと、幽霊となってつきまとってくる」話だったものだから、「イギリス人って、こういう話が好きなのかしら?」と思わず首を傾げてしまいました。ヴィッキー以外の人にも愛されていたことに気づき、外へ目を向け始めるジェイドに対して、嫉妬しちょっかいを出すヴィッキーは、「禁じられた約束」のヴァレリーと重なりました。ヴィッキーとジェイドの関係も、だんだんと陰湿なものになっていくのです。
 けれども、ヴィッキーが幽霊になってもならなくても、いつかはジェイドは一人立ちし、ヴィッキーだけにしばられた生活から抜け出していったんだろうな、そしてそのときこそ、二人は真の意味で「親友」になったんだろうな、と思わせるストーリー運びと、さわやかなラストにはほっとさせられました。
 人はどんなにこの世に未練があろうと、幽霊になってはいけないし、また、この世の人も、「死」という現実を受け入れなくてはいけないだなぁ……辛いけれど。
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159.「シークレッツ」 ジャクリーン・ウィルソン
★理論社 2005年
★中学生以上
 トレジャーは、母親の「カレシ」に虐待されている子どもです。「カレシ」にベルトでなぐられて額を割られた日、見かねた祖母に引き取られます。祖母の家は低所得者用の団地で、トレジャーの母同様、十代で未婚の母になった叔母や、まだ中学生・小学生のいとこのいる狭い場所でしたが、トレジャーにとっては、心安らげる場所でした。なによりトレジャーは、おばあちゃんが大好きだったのです。
 インディアは、大企業の管理職の父親と、有名な服飾デザイナーの母親の一人娘。私立のお嬢様学校に通い、大きく豪華な家で、住み込みの家庭教師に世話を焼いてもらっています。けれども太っているトレジャーは、母親に「体が大きい」ことを常にさげすまれ、父親にもあまりかまってもらえません。インディアの心の支えは「アンネ・フランク」だけでした。
 トレジャーとインディアの、交互の日記形式で綴られた作品です。境遇のまったく違う二人の少女がふとしたことで知り合い、お互いの共通点「親友がいないこと」に気づいた瞬間、大親友になる。そして、トレジャーが実家に無理矢理連れ戻されそうなことを知ったインディアは、自宅の屋根裏部屋にトレジャーかくまうことを思いつきます。ちょうど、アンネ・フランクが隠れ家に身を潜めていたように……
 ジャクリーン・ウィルソンらしい作品。ウィルソンの作品を多数読んでいる人にはものすごく既視感──感受性が強く文学・芸術性にすぐれた少女、未熟な親に振り回される少女──どちらも周囲に疎外感がある──があるのですが、そこがやっぱりウィルソン、またもや夢中で読まされてしまったのでした。そしていつもどおり、ラストが近づくにつれ、泣けてしまいました。なんなのでしょう、ウィルソンのこの筆力は? すごすぎます。
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160.「ローラローズ」 ジャクリーン・ウィルソン
★理論社 2005年
★中学生以上
 12歳のジェイニの母・ニッキーは、元モデルでとても美人ですが、男性依存症です。ジェイニの父・ジェイは元ロックバンドのヴォーカルで、非常にかっこよく機嫌のよいときは優しいのですが、とても嫉妬深く、ニッキーをしょっちゅう殴ります。
 ニッキーが1万ポンドの宝くじをあてた日、ジェイはジェイニも殴ります。この事件をきっかけに、ニッキーはジェイニと5歳の弟・ケニーをつれて、家を飛び出します。ジェイに探し出されないように、ジェイニは「ローラローズ」、ニッキーは「ヴィクトリア」、ケニーは「ケンドール」と名前を変え、宝くじの賞金を元手にロンドンで暮らし始めます。
 三人の新しい生活は、初めはうまくいくように見えましたが、ニッキーが新しいボーイフレンドを自宅に連れ込むようになる頃から、だんだん不穏になっていきます。さらに、ニッキーに乳癌が見つかり入院、困り果てたジェイニは、ずっと音信普通だった叔母(ニッキーの姉)に連絡をとることになります……  ジャクリーン・ウィルソンらしい作品。登場人物(生活破綻者の美人の母親・しっかり者で美術が得意な主人公の少女・手に余るけれどかわいい弟・ドメスティックバイオレンスの父親)も他の作品をつぎはぎにしたような感じだし、悲惨なストーリーにもかかわらず、明るく楽しく進んでいくところもいつもどおり。そしてお約束どおり「よい人」が助けに現れ、ハッピーエンドで物語は終わります。
 でも、だからこそ、ジャクリーン・ウィルソンを読むのはやめられません。今回もまた、のめりこんであっという間に読み終わって、笑って泣かされて、ほっとしてしまいました。次の新作も読んでみたいです。
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161.「禁じられた約束」 ロバート・ウェストール
★徳間書店 2005年
★中学生以上
 第二次世界大戦下のイギリスが舞台。14歳のボブは同じクラスの少女・ヴァレリーにあこがれていますが、周囲に冷やかされることを気にして、決して口にはしません。ところがある日、ヴァレリーが父親の上司の娘であることがわかり、しかも身分違いの彼女の家のディナーに招待されます。
 ヴァレリーは病弱で、学校も休みがち、また家の外を出歩くことを禁じられていましたが、ボブはせがまれるままに、ヴァレリーをこっそり散歩に連れ出します。二人だけの秘密の時を幸せに過ごしますが、体の弱っていたヴァレリーは、長距離の散歩をした後、体調を崩し死んでしまいます。
 生前、ヴァレリーはボブに「私が迷子になったら必ず探し出してね」と約束します。そして死後、ヴァレリーは本当に迷子になってしまいます。あの世とこの世の境目で……。ボブはヴァレリーとの約束を守るべく、幽霊となったヴァレリーを探し出し、生前と同じようにいっしょに過ごすようになるのですが──
 淡く美しい初恋物語かと思っていたら(病弱な少女に恋するところ、マッツ・ヴォールの「マイがいた夏」と被って、同じ物語を読んでいるような気持ちになりました)、後半、一転して恐怖小説になってびっくり。あの世からよみがえったヴァレリーと、ヴァレリーに取り憑かれたボブの描写の怖いこと! でも、本当に愛する人ならば、幽霊でも会いたいと思うだろうなあとしみじみと思いました。愛する幽霊と一緒にいるためには、自分もあの世にいかなくてはならないのでしょうか。この世で幽霊と一緒に過ごすことは、許されないことなのでしょうか。
 空襲が頻繁に起こり、日常生活が「死と隣り合わせ」の時代の物語だからこそ、非常にリアリティがありました。
同一作者の他作品 「お薦めその1」にもあり
同一作者の他作品 「お薦めその2」にもあり
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162.「ミラクルズ ボーイズ」 ジャクリーン・ウッドソン
★理論社 2002年
★中学生以上
 ミラグロ(スペイン語で「ミラクル」の意)から生まれた三兄弟、タイラー、チャーリー、ラファイエット。アフリカ系の父親はラファイエットが生まれる前に、氷の張った湖で溺れかけた犬と白人女性を助けるために死に、プレルトルコ系の母・ミラグロは、二年前に、病気で突然死しており、成人したばかりのタイラーのわずかな稼ぎで生活しています。
 次男のチャーリーは、ミラグロが亡くなったとき、強盗の罪で少年院に入っていました。心優しかったはずなのに、突然強盗をし、さらに出所後の今はすっかり不良になり、ラファイエットをいじめるのです──「ミラグロ殺し」と。なぜなら、ラファイエットは、具合の悪くなったミラグロの様子に気づきながら、すぐに大人たちに助けを呼ばなかったという負い目があるからでした。三男・12歳のラファイエットの目から描いた、貧しい三兄弟の心の内を描いた物語。
 ニューヨークで、アフリカ系・プエルトルコ系というのは、マイノリティなのですが、そのマイノリティさが前面に出ていなくて、単に「子どもばかりの貧しい家庭」というように読めるところがいい。タイラーもチャーリーもラファイエットも、だれもが心に重荷──「背中にしょったモンキー」を抱えているのですが、それをお互いに受け止められるようになるストーリーが感動的です。(カバー裏のモンキーのイラストが意味していることがわかった瞬間、このデザインセンスに感心しました)痛々しいけれど温かい中編作品です。けなげに家庭を支えようとするタイラーが好み。
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163.「コルドバをあとにして」 ドリット・オルガッド
★さ・え・ら書房 2005年
★中学生以上
 17世紀のスペイン・コルドバでは、カトリック教会による異教徒への弾圧が行われていました。十五歳のカルロス少年一家は、裕福な生活をしていましたが、実はユダヤ教徒。新キリスト教徒のふりをして生活していましたが、何者かに密告されたことにより、父は拷問死し、母は投獄され、弟は黒死病で死んでしまいます。自由な地を求め、オランダ(ホランド)のアンとウェルペン(アントワープ)やアムステルダムへと旅立ちます。けれども、カルロスの心に常にあったのは、母を救い出したいということ、自由への思い、絵画への憧れでした──
 宗教の違いにより重荷を負い、けれども常に前を向き、自分のやりたことを模索する少年の物語。宗教観の薄い日本人の私としては、その「宗教へのこだわり」がわかりづらいところもあったのですが、困難にもめげず生きようとする姿には感銘を受けました。そして、カルロスを助ける周囲の人々(異教徒と知りながら)が、またいい。文章やストーリーは淡々としていますが、夢中になって読ませます。
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164.「砂のゲーム ぼくと弟のホロコースト」 ウリ・オルレブ
★岩崎書店 2000年
★中学生以上
 第二次世界大戦下のドイツで、ユダヤ人であるウリは、子ども時代の大半を、ゲットーや強制収容所で過ごします。子ども時代の回想を綴った、作者であるウリ・オルレブの自伝です。
 ウリ・オルレブはホロコーストをテーマにした作品をいくつも発表していますが、すべてはこの本に書かれている子ども時代の体験が元になっているのです。フィクションにくらべて、自伝はとても「淡々としている」印象があるのですが、事実を描いているからこそ、なのかもしれません。
 オルレブが弟とする遊びの大半は「戦争ごっこ」です。戦争の只中にいる子どもは「平和になってほしい」とか「戦争を忘れたい」と思うのではなく、遊び自体が戦争になってしまうのだなあと、妙にリアリティを感じました。「ホロコーストは、わたしにとっては子ども時代である」ウリ・オルレブの言葉は重いです。
同一作者の他作品 「お薦めその2」にもあり
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165.「走れ、走って逃げろ」 ウリ・オルレブ
★岩波書店 2003年
★中学生以上
 第二次世界大戦下のポーランド。ユダヤ人のスルリック(八歳)は、ワルシャワ・ゲットーで暮らしていましたが、再定住地への移送をのがれるために、ゲットーを脱出します。ユダヤ人であることを隠し、ポーランド人名「ユレク」と名乗り、キリスト教の信仰の仕方を覚えます。森に隠れる生活と、親切な農家で働く生活を繰り返し、ときには心あるドイツ人とともに暮らしながら、スルリックは終戦まで生き延びます。それは、片腕をなくし、また、ユダヤ人であることも自分の本当の名前さえも忘れて、ようやく勝ち取ることのできた「生」だったのです。
 実話にもとづいた物語。ドキュメンタリータッチで淡々と描かれているのに、何度も何度も涙しました。ユダヤ人の子どもがひとりで生き延びるノンフィクションには「少女ミーシャの旅(ミーシャ・デフォンスカ)」がありますが、ミーシャが人との交流を拒んで生き延びたのに対して、スルリックは微笑と知恵で人々の心を動かし、親切な農民だけでなく、ドイツ兵やゲシュタポにまで助けられて生き延びるのです。ラスト、ユダヤ人であることを忘れてしまったスルリックが、無理にそのルーツを押し付けようとする人には心を開かなかったのに、生き延びた日々をまるごと受け入れられたとき、初めてユダヤ人として再出発しようとする姿に、大変感動しました。
 ホロコーストを生み出したのは人間だけれど、その暗黒の時代でも、人間としての理性(スルリックを助ける人々が必ずいたという事実)は、決してなくなることがなかったということに、希望を見出しました。そして、人間が生き続けるということは、とにかく素晴らしいことなのだと、強く感じました。オルレブの作品のなかで、飛びぬけてよい本でした。
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166.「テムズ川は見ていた」 レオン・ガーフィールド
★徳間書店 2002年
★中学生以上
 150年前のロンドンが舞台。煙突掃除の少年・バーナクルは、ある日、イギリス上層階級のお屋敷での仕事中に、煙突から暖炉に落下します。その部屋では「国家の敵であるスパイ」を暗殺する密談が行われており、秘密を知った者として、バーニクルは捕えられそうになります。パニックに陥ったバーニクルは、思わずテーブルに置かれていたロケットを手にし、逃走することに。そのロケットは、スパイを取り押さえるための小道具だとも知らずに……。かくして、煙突掃除の親方や、バーナクルを「拾った」はしけ乗りの親方を巻き込んでの、「バーナクル暗殺計画」が動き出すのでした。
 ヴィクトリア朝のロンドンというところからして、推理小説の香りのする児童文学。けれども、ドキドキの推理というより、悪事をたくらむ上層部の人間たちの、シニカルでコミカルな描写がなにより面白いです。無知で無邪気なバーナクルや、男前のはしけ乗りの親方、美貌の未亡人親子などの描き方も、魅力があります。
 「煙突掃除の子ども」というと、「黒い兄弟」(ロミオの青い空)を思い浮かべますが、バーナクルにはアルフレドたちのような悲壮感が全くなく、そこが私としては、やや違和感がありましたけれど。
 原題が、スパイの乗っているとされる船の名前「十二月のバラ号」であるのに、邦題に「テムズ川」をもってきたのは、ホームズを意識してでしょうか。
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167.「ノリー・ライアンの歌」 パトリシア・ライリー・ギフ
★さ・え・ら書房 2003年
★中学生以上
 19世紀のアイルランドで起きたじゃがいも飢饉の史実に基づいた物語。
 主人公・ノリーの住むアイルランドの村は、断崖絶壁で海に面しており、貧しい大地で人々の命をつないでいるのはじゃがいもだけでした。イギリス人の地主に地代をとりたてられる生活に見切りをつけ、豊かな大陸・アメリカへ渡る人たちが後を絶えません。
 ある年、頼みの綱のじゃがいもが病気で全滅、飢饉が訪れます。ノリーは家族を助けるために、「魔女」の噂のあるアンナの家に手伝いに行ったり、手製のショールをイギリス人に売りに行ったり、断崖絶壁を降りて海鳥の卵をとったりします。けれども、生き続けるにはあまりに厳しすぎ、結局はこの地を捨て、アメリカへ渡ることになります……
 「アイルランド系アメリカ人はこうして誕生した」という事実があるからこそ、重みのある物語。ストーリー的にはあまり新しさがないのですが、なぜアイルランド人はアメリカに渡ったのかがわかるという意味で、私には新鮮でした。こういう歴史(国としての歴史、家族としての歴史)を伝えていくことは、大切なことなのでしょう。「妖精」の言い伝えが物語の中でもしっかりと根付いていて、ああ、これがアイルランドなんだな、行ってみたいと強く感じました。
 欲を言えば、もうちょっとノリーに歌ってほしかったです。「いつも歌を歌っているノリー」というイメージがつかみにくかったので。
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168.「ブループリント」 シャルロッテ・ケルナー
★講談社 2000年
★中学生以上
 天才ピアニストであり作曲家であるイーリス(IRIS)は、30歳の時に、多発性硬化症という不治の病にかかります。自分の才能を受け継ぐものが欲しいイーリスは、確立されたばかりの方法で、自分のクローンを作ります。娘であり一卵性双生児の妹であるスーリイ(SIRI)は、イーリスが用意したピアニストとしてのプログラムをこなし、イーリスのコピーとして育ちます。
 「あなたはわたし。あなたはわたしの命」イーリスの言葉どおり、二人は決して分かちがたい存在として蜜月を過ごしますが、スーリイが大きくなるにつれ、母娘であり姉妹である二人の間にねじれが生じてきます。若い自分を見るイーリスと、病に冒され老いていく自分をみるスーリイ……
 クローンは一卵性双生児と同じなのだから、人間であることはあたりまえだし、その存在を否定することは間違っていると、ずっと私は思っていました。育ちが異なればオリジナルと全く同じコピーになどなるはずがないとのだから問題はない、と。けれども、この本は、私の考えを変えさせました。クローンとは、その存在の是非が問題なのではなく、コピーでありながら「親子」でもあり「兄弟」でもあるという、関係性こそが問題なのだ、と。
 オリジナルとの関係性をクローンの側から見たとき、そこには決して超えられない葛藤が存在し、その葛藤はどんな親子関係・兄弟関係にもあてはまる、人間として普遍的なものであるということ──クローンを扱った物語はたくさんあるけれども、この切り口には脱帽でした。
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169.「父がしたこと」 ニール・シャスターマン
★くもん出版 1997年
★中学生以上
 プリンストンの両親は、プリンストンが幼い頃は仲がよかったのに、11歳になった現在、いつも喧嘩ばかりしています。プリンストンはパパとは親友のようで、そしてママのことも大好きなのに、二人は離婚してしまうのか…… そんな不安を抱えていた三月の木曜日、悲劇は起きます。家を出て行ったママを、パパが拳銃で撃ち殺してしまったのです。突然ママを亡くし、パパは犯罪者になり、プリンストンの一家は崩壊します。
 母方の祖父母とともに暮らすようになるプリンストンと弟。敬虔なクリスチャンの祖父母は「パパを許す」態度をとりますが、世間は冷酷でした。そして、プリンストン自身、父親に対して、愛情と同じぐらい憎しみを抱くようになります。パパには早く刑務所から出てきてほしいけれど、ママが死んでしまった悲しみ、恐怖からも抜け出せない。どうして、拳銃などもったことのなかったパパは、ママを撃ったのだろう?
 実際の事件を元にした小説だそうです。プリンストンにインタビューをして書いた、というだけあって、プリンストンに視点をきっちりと焦点をあて、非常に生々しい。悲しみ、苦しみ、憎しみ、そして愛情。どれもまっすぐに読者の心にひびいてきて、読んでいて何度も苦しくなりました。
 アメリカが銃社会でなければ、こんな悲劇もおきなかっただろうに……やはり、簡単に人を殺せる道具は、手元にあってはいけないと思いました。もっとも、台所の包丁一本だって、人を殺すことはできます。「犯罪者というのは、遠い存在ではない。いつでも、だれでも、その可能性はある」 とても恐ろしいことです。
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170.「フクロウはだれの名を呼ぶ」 ジーン・クレイグヘッド・ジョージ
★あすなろ書房 2001年
★中学生以上
 アメリカ北西部、原生林のある町が舞台。高校生のボーデンの父は腕のいい木こりですが、原生林に住む「マダラフクロウ」が絶滅の危機に瀕していることから伐採が禁止され、職を失います。「人間よりも鳥を大切にしている」と、父のレオンもボーデンも怒り、ボーデンはマダラフクロウを撃ちに森に入ります。けれどもフクロウを撃つことはできずに、代わりに道に落ちていた雛を拾います。ボーデンが「タテジマフクロウ」だと思ったその雛、実は憎むべき「マダラフクロウ」だったのですが、レオンはそうとは知らず、面倒を見始めます……
 環境問題となると、地元の人ではなく、他の地域に住む人の方が「自然を大切に」等々、声高に叫ぶ傾向にあり、もちろん自然は大切だけれど、そんなに単純な問題ではないはず、と常に思っていました。この物語では、その単純ではない図式を「加害者」の立場から描いており、どんな決着をつけるか期待していました。ちょっと楽観的にも思えましたが、「人間もまた自然連鎖の中に組み込まれている」のは、紛れもない事実なんですよね。それは、自然と人間の生活、どちらが大切か、というような二者選択ではないのです。
 木こりをやめ、魚の養殖や観光に活路を見出したレオンに、希望を見出しました。自然と共存せざるをえないのならば、「ともに生きること」=「犠牲」となるような人を出さないこと、それが「よき政治」なのかなと、物語と少しずれた感想を持ってしまいました。
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
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171.「シャバヌ ──砂漠の風の娘──」 スザンネ・ステーブルズ
★ポプラ社 2004年
★中学生以上
 インド国境近く、パキスタンのチョリスターン砂漠。
 砂漠にらくだを放牧することで生計をてたてているシャバヌ一家は、父さん・母さん・姉さん・シャバヌの四人家族。14歳の姉さんは、土地に定住する農家の次男坊に嫁ぐことが決まっており、シャバヌもまた、大人になったら(=生理がきたら)、その農家の三男坊と結婚することが決まっています。12歳のシャバヌは、らくだとともに過ごす砂漠での遊牧生活が気に入っているのですが、未来は両親により確定されています。逆らえない因習にぶつかりながら、自分らしい生き方を模索する少女の物語です。
 物語は15年前に書かれているので、この本に描かれている風俗は20年前のものと考えていいのでしょう。そうであっても、「すさまじく異国」であることには変わりありません。女性は男性の従属物であり、16歳で結婚しているのは当たり前であるという世界……あまりの「異世界」に、「これこそ海外児童文学を読む醍醐味」と思うとともに、人間の幸せってなんなんだろうと考えさせられました。
 「文学とは、見知らぬ世界を知る一手段」と位置づけるならば、最良の書でしょう。カーニバルの描写など、「見てみたい!」という気持ちにかられるほど、生き生きしています。アメリカ人でありながら、記者・編集者の立場で、砂漠の少女の姿を描いた作者の腕は並々ならぬものと感じます。シャバヌのその後は、続編として描かれているそうです。邦訳を心待ちにしています。
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172.「シャバヌ ハベリの窓辺にて」 スザンネ・ステーブルズ
★ポプラ社 2005年
★中学生以上
 「シャバヌ」続編。 前編から6年後、シャバヌは18歳になっています。
 姉さんの幸せと父さんの名誉のために、42歳も年上の地主・ラヒームの第四夫人となったシャバヌ。結婚後間もなく妊娠し、授かった娘・ムムタズは5歳です。若いシャバヌはラヒームに愛されますが、第一夫人のアミーナたちが、次々とたちの悪い嫌がらせをしかけてきます。神経をすり減らしながらも、生来の賢さで災難を乗り越え、宝物の娘・ムムタズを守ることを第一に、お屋敷で暮らすシャバヌ。けれども、親友のザボが悲惨な政略結婚をさせられることが決まったときから、運命の歯車が狂いだします。
 アミーナの娘・レイラの婚約者、オマールへ抱く恋心。優しいけれどもあくまで自分を従属物としてしかみなさない年老いた夫・ラヒームへの抵抗。憧れのシャルマおばさんの忠告。砂漠への愛着などなど。異国・パキスタンでの物語は、そのエキゾチックな風物詩とあいまって、生き生きと綴られます。
 心待ちにしていた「シャバヌ」続編。前編よりも、ずっとずっと面白かったです! 久々に「読む手が止まらない」という思いをしました。
 賢いシャバヌがとってもとっても魅力的。こんなにも魅力的な少女(といっても、42歳年上の夫がいて、5歳の娘がいるのですが)には、なかなか出会えないものです。また、シャバヌを支えるシャルマおばさんやセルマ夫人は、物語世界では異端者ですが、彼女たちの行動は実にすがすがしく、たのもしく、読んでいて胸がスッとします。
 パキスタンでは、今でも女性は夫の従属物なのだそうですが、パキスタンとは遠い、現代的な日本でも、同じような状況に陥る可能性もあるように思います。シャバヌのように賢く生きたいと思った私でした。
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173.「難民少年」 ベンジャミン・ゼファニア
★講談社 2002年
★中学生以上
 14歳のアレムの父はエチオピア人。母はエリトリア人です。隣接するエチオピアとエリトリアが戦争を始めたため、アレムの一家は、どちらの国でも迫害され、居場所がなくなります。アレムの将来を心配した父は、「旅行」と称して訪れたイギリスに、アレム一人を置き去りにします。アレムは養育家庭にひきとられ、イギリスで暮らし続けられるよう「難民申請」をすることになります。
 戦争は終わるのか、行方不明の母親はどうなったのか、父親と再会できるのはいつか、そして自分の難民申請は受理されるのか……不安に揺れつつも重い現実を受け止め、その中で自分ができることを探し、精一杯生きる少年の物語です。
 とにかくアレムが素直でまじめで勤勉で、できすぎているぐらい「いい子」なのです。でも、そのいい子具合は鼻につかず、好感が持て、すんなり受け止められます。物語の中でも、このまっすぐさはいじめになどつながらず、周囲に好意的にとられます。
 なんだ、順風満帆な「難民」じゃないと読者に思わせつつ、アレムの身上は、物語が進むにつれて、どんどん悪化していきます。この構成は、難民に否定的な人々の心情を鋭く突いているのかも、と思いました。同時に、私自身の心の中にある難民への偏見を突かれたようにも感じました。
 アレムを受け入れるロバートやバック、ルースの姿は、若者の持つ可能性、かな。素直に感動しました。
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174.「すすにまみれた思い出」 マーク・ソフィラス
★金の星社 2003年
★小学校中学年以上
 オーストラリア政府が、白人とアボリジニの混血児に対して、強制的に白人化教育を行っていた頃が舞台。白人とアボリジニの混血の少年・ジョンは、オーストラリア内陸部の乾燥地帯から海辺の美しい土地へ、「白人化教育」の名のもと、母親から引き離され、無理やりに連れてこられます。混血児のための施設では、キリスト教の慈愛にあふれた教えを受け、実生活に必要な技術も教えてもらえますが、ジョンにとっては、そこがいかに快適な場所であろうとも、決して「ふるさと」にはなりえませんでした……
 物語というより、ノンフィクション風に淡々と短くまとめたもの、という印象を受けました。多民族国家、自由でおおらかな大地──オーストラリアへのイメージですが、そんなオーストラリアでも、原住民への迫害があったということ、そしてその影響で、今も差別は続いているということ。その事実に目をそらさずに、子どもたちに「暗い歴史」を伝えていこうとする態度に好感が持てました。本文よりも「解説」に力が入ってるようです。
 サブタイトルは『家族の絆をもとめて』。原題は『The Burnt Stick』 混血児は政府に連れ去られてしまうと知った母親が、ジョンにすすをぬりつけて真っ黒にし、「オリジナル」だと言い張ろうと事象に基づいています。引き裂かれる母子の描写には涙します。
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175.「イクバルの闘い 世界一勇気ある少年」 フランチェスコ・ダダモ
★鈴木出版 2004年
★小学校高学年以上
 パキスタンの絨毯工場で、朝早くから夜遅くまで、奴隷のように働かされる子どもたち。貧しい田舎の農家出身で、借金の形に売られてきたのです。夢もなく未来への希望もなく、ただひたすら絨毯を織り続ける彼らの前に、イクバルはやって来ます。だれよりも手先が器用で、すばやく芸術的な絨毯を織るイクバルは、「いつまでたっても借金はなくならない。ここから出るには逃げるしかない」と、子どもたちに話かけます。そして、きっぱりと言い放つのです。「ぼくは怖くない」──
 児童労働者であった経験を語り、児童労働解放運動に殉じた十二歳の少年の物語。実在した少年がモデルで、しかも1995年という、「たった10年前」の物語であることに暗澹とさせられます。冒頭からイクバルの死を予言しているので、読み進めるのが辛かったです。どうして、こんなに素晴らしい少年が、不幸にならなければならないのか、と。たとえ、それが事実であったとしても……(余談ですが、こう書いていて、「黒い兄弟(ロミオの青い空)」のアルフレドと、イクバルはよく似ていることに気づきました)
 「ぼくは怖くない」と断言していたイクバルが、たった一回だけ、「ぼくは怖かったんだ。でも、だれにも言わないで」と告白するシーンが鮮烈。この一言で、この物語が、ものすごく深いものに感じられました。こういうシーンが描けるかどうかが、作家の腕の分かれ目なのでしょうね。
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176.「いつまでもベストフレンド」 サラ・デッセン
★徳間書店 2004年
★中学生以上
 16歳のハレーは、おとなしくて優等生タイプの少女。カウンセラーの母親との関係も、ラジオアナウンサーの父親との関係も良好です。親友は、通りの向かい側の家に住んでいるスカーレット。母娘二人暮しのスカーレットは、しっかりしていて、いつだってハーレーを支えてくれます。
 夏休みに、スカーレットのボーイフレンドが交通事故で亡くなり、しかも、スカーレットは彼の子を宿していました。子どもを生む決心をしたスカーレットを、今度はハレーが支えてやる番となります。しかし、ハレー自身もまた、人生の局面をむかえていました。初めて好きになった不良少年のメイコン。メイコンをめぐって、姉妹のようだった母親との間に生まれた溝……アメリカの女子高生の青春像を生き生きと描いた小説です。
 サラ・デッセンの処女作「夏の終わりに」の姉妹編。とてもよく似た雰囲気で、私の嫌いなタイプのストーリーなのに(日本児童文学だったら、まず間違いなく手にもとらなかったです)、読み出したらもう、止まりませんでした。周囲の雑音などいっさい耳にはいらず、「どうなるのだろう」と思いながら、もどかしくページをくりました。
 テーマ自体は、母娘関係、女子高生の友達関係、恋愛(ただしアメリカンカルチャーがてんこもり)と、特に目新しくもなく、ストーリーも平凡なのですが、こんなに夢中にさせられるのは、その描写力のせいです。登場人物の言動が、それこそ、一流の俳優が演じているがごとく、実に的確にこまかに描かれているのです。脱帽です。「翻訳」っぽくない、大胆な日本語訳も成功しているのでしょう。
 描写がすぐれているということは、読者を引き入れる重要な要因であると知らしめられた一冊。もちろん、ストーリーも「平凡そう」ながら「非凡」であるのですが。たとえ「アメリカ」の物語であっても、「母親との溝」「不良少年にあこがれる心理」など、日本人の私にも、共感できるシーンがたくさんあるのでした。やっぱり「ものすごくうまい」!
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
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177.「ホワイト・ピーク・ファーム」 バーリー・ドハティ
★あすなろ書房 2002年
★中学生以上
 高校生のジーニーの家は、イギリス中央部の丘陵地、ダービーシャーにある、何代も続いた農家です。過去から現在、未来までも、ずっと変わらない「農場の毎日」が続くと思っていたのに、祖母がホスピスでの死を選び、姉が勘当同然で結婚して家を出て行き、農家の後継ぎであるはずの兄は絵描きになるべく美術学校へ進み、父は不慮の事故で歩けなくなりと、数年の間に大きく変わっていきます。ジーニーと母親と幼い妹とで、それでも農家の生活を続けるのですが、ジーニー自身も、高校卒業後の進路を考えることになります。農家に残るのか、都会の大学へ進学するのか……
 ジーニーの成長物語というより、家族一人一人の成長物語。変化の乏しい日常が、少しずつ変わっていくさまが、ジーニーの一人称で静かに語られます。派手さはないのにひきつけられるのは、家族一人一人の人物像がしっかりしているからでしょう。
 意外なことに、ラストは明るい「ハッピーエンド」です。てっきり一家が崩壊して、農場を売り飛ばして終わるのかと思ったら……(日本文学だったら、崩壊して終わり、のような気がするのですが) この明るさが、読後感をとていいものにしています。
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
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178.「星をまく人」 キャサリン・パターソン
★ポプラ社 2003年
★中学生以上
 11歳のエンジェルの父親は服役囚。母親は子どもの世話を満足にできないので、エンジェルは、7歳の弟・バーニーの面倒を一手に引き受けています。
 どん底の暮らしをしていたある日、母親はエンジェルとバーニーを、田舎で一人暮らしをする義理の祖母(エンジェルからみればひいおばあちゃん)に押し付け、自分はボーイフレンドとどこかへ姿をくらまします。「生きている屍(エンジェルが世話をしなければ死んでしまいそう)」のひいおばあちゃんと、まるで赤ん坊のように基本的な生活すらできないバーニーの面倒を、エンジェルはみることになります。
 そんなエンジェルを支えるのは、ひいおばあちゃんの家の庭先のトレーラーで暮らす、なぞのおじいさんです。大きな望遠鏡で星を観察するおじさんは、ぎりぎりの状態で生きているエンジェルに「星の世界」を教え、「星を知る」ことで、現実生活の辛さを乗り越えさせるのでした。
 キャサリン・パターソンの新作。相変わらず「痛い」作品です。どん底の生活の中で、なぜエンジェルは、こんなにも気高い心を持ち続けられるのか、疑問さえいだいてしまうのですが、多分エンジェルは、だれかから依存されることで、自分の居場所を見つけられるタイプの子どもなんだろうなあと気づきました。(で、そう気づいた瞬間、私の感じる「痛さ」は、さらに強度を増したのですが)
 物語の背景に、ベトナム戦争を配しているあたり、昨今の世界情勢に対するパターソンの心意気を感じました。
同一作者の他作品 「お薦めその2」にもあり
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
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179.「砂漠の王国とクローンの少年」 ナンシー・ファーマー
★DHC 2005年
★中学生以上
 アメリカとアストラン(旧メキシコ)の間の細長い砂漠に位置するオピウム国。麻薬王のエル・パトロンに国は統治されています。ケシの花の栽培をするのは、国境を越えようとしてオピウム国の農場パトロール隊にとらえられた難民たち。彼らは脳にチップを埋め込まれ、感情をなくし、命令されるままに機械のように働いています。
 エル・パトロンは140歳を超えていますが、衰えた臓器を移植交換することで生きながらえています。臓器を提供するのは彼のクローン。クローンたちは牛の子宮で育てられ、年月がたつと取り出され、生後すぐに脳を破壊されます。
 マット少年はエル・パトロンのクローンです。けれどもマットが他のクローンと違うところは、脳を破壊されなかったこと。たくさんの知識を吸収し、音楽の才能を伸ばし、どんな少年にも負けないほど賢く育ちますが、エル・パトロンの農場の豪華な屋敷では、「クローン。家畜以下」と忌み嫌われます。マットを愛してくれるのは、養育係の料理人、シーリアと、エル・パトロンのボディーガード、タム・リンと、エル・パトロンと親しいアメリカ上院議員の娘、マリアだけでした。
 やがて、エル・パトロンの心臓が弱り、臓器移植のために、マットの心臓が取り出されることになるのですが──。
 近未来SF。「SFとはこう書かねばならないのだ」と、うならされました。舞台設定自体にはそれほど目新しいことはないのですが、表現一つ一つがとても新鮮に感じられました。つらつらとストーリーダイジェストを書きましたが、実際の物語はすべてが闇の中から始まり、徐々に(非常に上手に)、謎が解き明かされていくのです。
 「クローン」と嫌われ、自身も「人間とは違う」と思っていたマットは、物語の後半、オピウム国から脱出しアストランへ入国します。そこで「非人間的」な仕打ちを受けたマットは、どんな人間よりも「人間的」に、権力に向かっていきます。なぜならマットは、「クローン」だけれど、「人間と何も変わらない」のですから……
 シーリアとタム・リンがとても魅力的。人物像が非常に的確です。また、少年の成長物語にもなっていて、児童文学としての筋もきっちり通っています。すごい本です!! ただただ感嘆、感服、感動。
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180.「バートの旅」 アルバート・フェイシー
★清流出版 2001年
★小学校高学年以上
 1894年に生まれ1982年に亡くなった作者の自叙伝。オーストラリアでは知らない人はいないという「A Fortunate Life」の翻訳です。
 バートは幼い頃に父を亡くし、再婚した母に捨てられ、祖父母の元で育ちますが、祖父が亡くなった後は、子沢山で貧しい叔母の家に引き取られます。学校にも行けず、8歳からはよその農家で一人で住み込みで働き、14歳からは、牛追い、水道局の作業員、鉄道新設の仕事、ボクサー、志願兵、市議会議員などなど、波乱万丈に満ちた人生を送ります。この本では、ブッシュで働いた子ども時代に主眼を置いて翻訳されています。
 オーストラリアの大地にしっかりと根ざした、日々の生活の物語です。オーストラリアという国は、バートのような無名の人々が、大地と向かい合って築いたものなんだとしみじみと思わされました。オージー魂って、こういうものなんじゃないでしょうか。
 本の帯は「『トム・ソーヤ』を超える冒険物語」となっていますが、ちょっと違うのでは? その圧巻される日常こそが「冒険」というのならば、ふさわしい言葉かもしれませんが。
 この本、オーストラリアでペーパーバックを買って、とろとろと読んでいたのですが、このたび、邦訳がでて本当によかった! 願わくは完訳がほしいです。あと、もっと話題になってもよさそうなものですけど。
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181.「ハッカー」 マロリー・ブラックマン
★偕成社 2003年
★中学生以上
 ヴィッキーは中学二年生。同い年の義理の弟・ギブとともに同じクラスで学んでいます。ヴィッキーの本当の両親は、ヴィッキーが赤ん坊の時に死んでいて、今の両親は義理の両親、ギブは、ヴィッキーが引き取られたすぐ後に生まれた子どもなのです。
 ヴィッキーは、両親に愛されていると感じつつも、どこか疎外感を持っています。数学のテストで、持ち込んだプログラミング機能付の電卓を使ったために、カンニングをしたと誤解され、停学処分になりかけた日、銀行のプログラマーの父親が、不正プログラムにより銀行のお金を横領したかどで逮捕されます。ヴィッキーは持ち前のパソコンの知識を生かして、銀行のシステムに侵入し、父親への疑惑をはらそうとします……
 私の本職は、とある金融機関のシステムをメンテナンスするSE職です。というわけで、この物語に出てくる「銀行システム」の記述については、異常によく理解できてしまったのですが(まるで、日々目にしているシステムを見るようで……日本語訳されている箇所が滑稽に感じるぐらい)、システムを全然知らない人が読んだら、ちょっとわかりにくいんじゃないかなあと感じました。ついでに、仕掛けが安直ではないかなあとも思いました。
 けれどもこの物語は、銀行システムの解説ではなく、父親のシステム犯罪の濡れ衣を晴らす少女が、事件を通して自分自身の居場所を見つける話です。横糸として、システム開発の現場を、ミステリータッチで織り込んだ作者の腕前はすごいです。仕事と創作は別物だと思っていましたが、こういうふうに生かせるものなのですね。
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182.「トラベリング・パンツ」 アン・ブラッシェアーズ
★理論社 2002年
★中学生以上
 レーナ、ブリジット、カルメン、ティビーの四人は、母親たちが妊婦のためのエアロビクス教室で知り合ったことがきっかけで、生まれたときからの親友同士。9月の一定期間に誕生日も集中しています。例年の夏休みは四人でくっついて過ごしていたのですが、十六歳の誕生日を目前にした今年は、それぞれの事情で別れて過ごすことに。レーナは祖父母のいるギリシャの観光地で、ブリジットはサッカー合宿へ、カルメンは離婚した父親の家へ、ティビーは自宅に残りドラッグストアでバイトをすることになります。
 離れ離れになる四人ですが、その心をつなぐものは「トラベリング・パンツ」カルメンが古着屋で買ったジーンズで、不思議なことに、体格の違う四人のだれがはいてもピタッと決まるのです。「トラベリング・パンツ」に素敵な思いを刻むことを誓い、一定期間がたったら順繰りにジーンズを回すことを決め、それぞれの夏休みに飛び込む四人ですが……
 容姿も性格も違う四人の少女たちの、一夏の成長を描いた物語。絶世の美女のレーナ、大柄な美人のブリジット、豊満なラテン系のカルメン、チビやせっぽちのティビー。15歳の私は、ティビーに近かったかな?などと、昔を思い起こしながら読みました。両親の離婚とか白血病とか、一つ一つの事象をとると、それほど目新しい題材は描いていないのですが、四者四様の物語が交錯しつつ、成長の証となるラストの一点へと導かれるストーリー展開は面白かったです。少女の成長ってものもいいもんですね。
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183.「セカンドサマー」 アン・ブラッシェアーズ
★理論社 2003年
★中学生以上
 「トラベリングパンツ」続編。
 レーナ、ブリジット、カルメン、ティビーの四人は、「トラベリングパンツ」の夏から一年、十七歳の誕生日を目前にした「二度目の夏」を経験しようとしていました。
 レーナは遠距離恋愛に終止符を打ち、ブリジットは自殺した母親のルーツをたどるべく祖母の家に偽名を使って潜入、カルメンは母親の恋人出現にやきもきし、ティビーは映画制作のオープンカレッジに参加します。
 去年の夏、魔法の「トラベリングパンツ」は四人を勇気づけ、ステキな夏を経験させましたが、今年の夏、四人ともそれぞれの壁にぶつかり、「トラベリングパンツ」も出番がありません。まるで魔法の力がなくなったかのように、「トラベリングパンツ」は短いスパンで、四人の間を行き来するのですが……
 前作同様、一つ一つの事象はどれも「どこかできいたような話」なのですが、四人の行動や心理がめまぐるしく入れ替わりつつも、「ある一点(今回は、母娘関係でしょう)」をきちんと目指している構成のせいでしょうか、読んでいて目が離せませんでした。ありふれたシーンにも思わず涙してしまいました。そして、ハッピーエンドは、ストンと胸に落ちました。(カルメンだけが、ちょっと割にあっていないかな?)
 読者は決して「よくある話」が嫌いなわけでもないし、「目新しい物語」を求めているわけでもなく、「読んでいて心地よい物語」が好きなんだなあと、あらためて思いました。「トラベリングパンツ」、なんといっても、構成力勝ちといえるのではないでしょうか。面白かったです。
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184.「運命の馬ダークリング」 K・M・ペイトン
★岩波書店 1994年
★中学生以上
 ジェニーの家は貧しく、父親は体の動かない身障者、母親は父親の看病につきっきりで働かず、一家を支えているのは兄姉のわずかな収入だけです。田舎の古い家に住み、そばには、母方の祖父・マーフィーが、ゴミためのようなトレーラーハウスでたくさんの動物たちと暮らしています。頭がいいにも関わらず進学もできず、自分の将来を悩んでいたとき、マーフィーが破格の値段で一頭の若いサラブレッドを手に入れます。よい血統にも関わらず、育て方が悪く、銃殺されるところだったその馬は、ダークリングと名づけられ、ジェニーの馬になります。自分にしかなつかないダークリングを育てるために、厩務員の道を進むことになるジェニー。ジェニーの運命は、ダークリングとともに、大きく変わっていきます。
 長編小説。馬を中心に、家族の愛憎を絡めた少女の青春物語。舞台世界は狭いのに(田舎の家と厩舎とレース場しかでてきません)、450ページという膨大なページはちっとも退屈ではありません。淡々とした抑えた文章なのに、のめりこんで読めます。
 しっかり者で実直なジェニーにとても好感が持てました。あまりに現実をしっかり見据えているがゆえに、「少女」という感じがしません。じとじとべたべたせず、恋人と自分の関係を冷静に見つめつつベッドインする少女というのは、青春物ではめずらしいのでは。母・ブライディや祖父・マーフィーにも存在感があります。レースのシーンはスリル満点。「少女」の成長物語というよりは、「少年」の成長物語に近い感じがしました。
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
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185.「駆けぬけて、テッサ!」 K・M・ペイトン
★徳間書店 2003年
★中学生以上
 アイルランドの牧場で生まれた育ったテッサは、馬が大好き。けれども両親が離婚し、引き取られた母親の再婚相手はお金持ちの馬主でしたが、馬をただの「金儲けの道具」としか見ていない、冷酷非常な人間でした。テッサは家庭に居場所が見つけられなくなり、不良娘になります。二度の放校の末、近所の牧場に働きに出されますが、そこで運命的に出会った馬『ピエロ』は、幼い頃、テッサがかわいがっていた盲目の馬『アカリ』の子でした。この瞬間から、テッサの毎日は、すべて『ピエロ』中心に回り始めます。
 テッサが挫折を乗り越えながら、騎手になり、イギリス最大の障害レース『グランド・ナショナル』に、『ピエロ』に乗って出場するまでを描いた、八年間にわたる青春小説です。
  「運命の馬ダークリング」の姉妹編。けれどもこちらの作品の方が、より主人公の性格が鮮明で強烈で(なにしろ、義理の父親をナイフで刺しちゃうんだから)、また主人公自身が騎手となることで、物語の面白さは倍増しています。自分の馬しか目に入らないヒロインは、やはり「少女」というよりは「少年」に近く、たまらなく魅力的でした。
 テッサをとりまく人々も負けずに魅力的で、寡黙な牧夫・ピーター、美人の厩務員・セーラ、かっこいい騎手・トム、どんどん魅力的になる義兄・グリーヴィ、心の底では優しい家庭教師「鬼ばばあ」等、その行動一つ一つに胸を揺さぶられ、なんということのない場面が泣けました。何気ない一文の後ろに、その人なりの人生が見えてくるのですね。
 馬であるピエロのモノローグの章も違和感なかったです。ピエロの相棒のポニー・ラッキーがなんともかわいい。願わくは、イギリスにおける「競馬」というものが、もっと体感できるとよかったのだけれど、これは日本人だから仕方ないですね。(日本の競馬はただのギャンブル、というイメージしかないですから) 馬の名前を『ゼンノウノカミ』とか『ナツノソラ』とか、それらしい訳にしているところは評価できます。
 とにかく、最高に面白かったです! 人生における読書で、ベスト10には入る本でしょう。
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
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186.「フランバース屋敷の人びと1 愛の旅だち」 K・M・ペイトン
★岩波少年文庫 1981年
★中学生以上
 1908年〜1912年が舞台。1908年、孤児のクリスチナは、12歳のときに、没落した地方の地主・フランバース屋敷に引き取られます。クリスチナは21歳になったら、大金持ちだった両親の遺産を引き継ぐことになっていて、数歳上の従兄弟二人のいるフランバース屋敷は、クリスチナとの結婚でその遺産を手に入れることが目当てなのです。
 狩猟と馬にしか興味のないフランバース屋敷の主・ラッセルと、旧態依然としたラッセルの生き方を引き継ぐ長男のマーク。狩猟は大嫌いで、新技術の飛行機に夢中の次男のウィル。クリスチナはフランバースの血を引き、狩猟に血をたぎらせますが、馬丁の若者・ディックに心を寄せることで、階級社会に疑問をもち、また、新しい世の中へ飛び出そうとするウィルに惹かれます。マークと結婚してフランバース屋敷で狩猟を中心とした昔ながらの生活を続けるべきか、それとも、愛するウィルとともに新しい世の中へ飛び込むべきか。時代の変わり目に生きるクリスチナは、女性の身でありながらも、人生の選択の場面に直面するのでした……
 ペイトンの描く少女は、どの作品もとても魅力的です。それは「だれにも優しく、他人に献身的な愛をささげる清純な少女」ではなく、ときには利己的でさえありながらも、自分の生き方を懸命に模索し、「自らが幸せになるべく前向きな努力をする少女」だからだと思うのです。女性がひとりでは生きられなかった時代であっても、他人任せにせず、悩みながら自分の選択をする姿に、とても魅せられます。
 「フランバース屋敷」のクリスチナも、「愛」を優先にウィルとの結婚を選びますが、そこには一つの決意、「ウィルは妻よりも飛行機を愛するだろう」という波乱万丈な未来を覚悟してのことでした。本能的に愛している馬との決別すらいとわず、新生活に飛び込むクリスチナの姿は、とてもすがすがしいです。駆け落ちした少女の残したイブニングドレスを着て、「これは駆け落ちのドレスだわ」と思いながらウィルの車に乗るクリスチナの姿は印象的。マーク対ウィル、フランバース屋敷対ダーモット邸など、古いものと新しいものをくっきりと対比させた物語の構図はわかりやすく、うまいと思います。早く続きが読みたいです。
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
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187.「フランバース屋敷の人びと2 雲のはて」 K・M・ペイトン
★岩波少年文庫 1981年
★中学生以上
 「かけおち」をしたクリスチナとウィル。ウィルにお金がたまり結婚できるようになるまで、とりあえずグレイスおばの家で洋裁の手伝いをするクリスチナですが、単調な生活に耐えられません。ウィルが都会の飛行学校で職を得たので、ウィルのそばにいられるようにと、クリスチナはホテルの事務員として働き始めます。
 飛行機に夢中のウィルが、実際に飛行機で飛ぶ姿を目の当たりにするクリスチナは、「ウィルは妻よりも飛行機を愛するだろう」という予感が、いかに大変なものであったか、そして危険と隣合わせの婚約者(夫)を見守るということが、想像以上に恐怖を感じるものだということが身に染みます。しかも、クリスチナは飛行機自体が非常に怖いのです。それなのにウィルは、クリスチナも自分と同じように飛行機が好きで、自分の「夢」を実現させるために、一緒に歩んでくれると信じて疑いません。クリスチナは「たとえウィルがわたしよりも飛行機の方が好きであっても、わたしほど彼を愛しているものはいないのだ」と思うことで、自分を納得させるのでした……
 第一巻では、夢を追うウィル「少年」はとても魅力的だったのですが、実際に「自分の婚約者だったら」「自分の夫だったら」と考えると、なんともとんでもないことなんだなぁ……というのが率直な感想でした。ウィルはウィルなりのやり方でクリスチナを愛しているのだけれど、「飛行機の夢をかなえてくれる同士」としての愛し方なんですよね。つまりは、当時としてはめずらしく「自分と対等の立場」として妻(恋人)を見ているわけなんですが、これは喜びであると同時に、相当な覚悟が必要だとクリスチナは悟り、そして、覚悟を受け入れるのです。その決意の言葉が「わたしほどウィルを愛しているものはいないのだ」なのです。
 通常のヒロインは「愛される」ことで幸せになるのですが、クリスチナがそうではないところが魅力的。クリスチナは、「愛」の形式だけではなく、当時としては非常に進んでいる「対等なパートナー関係」に実は非常に満足していて、最先端の流行や考え方をする都会の生活が、性格的にとてもあってもいたのです。狩猟生活に血を滾らせる活発な少女らしいです。
 物語の舞台は、第一次世界大戦へと移っていきます。飛行技術が飛躍的に進化したのは、戦争のおかげ、というのは「結果論」です。空軍への入隊を予感させるウィルがどうなるのか、またまた続きが待ち遠しい次巻です。
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
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188.「フランバース屋敷の人びと3 めぐりくる夏」 K・M・ペイトン
★岩波少年文庫 1981年
★中学生以上
 第一次世界大戦が激化し、イギリス中の若者は戦争に借り出され、その戦争はいつ終わるとも予想がつきません。クリスチナもまた、21歳にして未亡人になります。ウィルの乗った戦闘機がフランスの畑に墜落し、ウィルは遺言も残すことなく命を落としたのです。さらに、マークも戦場から行方不明となり、生存は絶望的となります。
 両親の残してくれた財産をついに手に入れたものの、行き先のなくなったクリスチナは、フランバース屋敷に戻ります。けれども主を失った屋敷は朽ちるにまかされ、そこには過ぎ去ったウィルやマークとの思い出ばかりが見え、とてもここでは暮らせないと思うクリスチナ。ところが、死んだウィルの子を宿しているとわかったときから、「子どものために、未来のために」フランバース屋敷を建て直すことを決意します。「女だてら」に農場の経営に手を出します。
 農場の働き手として、初恋の相手ともいえる馬丁だった少年・ディックを雇い、フランバース屋敷をよみがえらせるクリスチナ。そしてラストでは、ディックの素朴で純粋な愛情を心地よく受け入れ、農場の穏やかな生活に夢を見出します。
 農場を経営するなど女らしくない力強さがクリスチナの最大の魅力なのですが、その心のよりどころとして、最終的に心優しいディックを夫として選んだところには、納得したし感動もしました。やはり、人生には「安泰」が一番だし、「愛される幸せ」といったラストにほっとしたわけですが、でもなぜか、心の片隅で「ほんとにクリスチナはこれでいいのか?」という思いがしたのも事実です。第2巻「雲のはて」で、時代の最先端を楽しんでいたクリスチナの生活とあまりにもかけ離れた選択で、大団円のラストがどこかひっかかる私でした。
 クリスチナ自身にも、どこか迷いがあったのでしょう。その迷いが、「ウィルの面影を見る」とか、「ウィルとの結婚生活がよみがえる」といった場面にうまく配されているように思います。
 どうやら私の疑問に対する答えは、続編(愛ふたたび 上下)にあるようです。続編を読むのが楽しみです。
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
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189.「フランバース屋敷の人びと4 愛ふたたび 上」 K・M・ペイトン
★岩波少年文庫 1986年
★中学生以上
 地主のクリスチナと使用人のディックの結婚に、村人たち、特に地主たちは「身分違いなことを」と非難轟々。グレイス叔母はクリスチナに忠告します。「あなたは家を守るタイプではないのです。いまは、安定した暮らしをのぞんでいるかもしれませんが、やがてそれが退屈になるかもしれないのです」
 周囲の非難を一蹴して始まったディックとの穏やかな結婚生活は、初めは幸せいっぱいでした。畑は順調に育ち、屋敷は農場として見事によみがえります。けれども農場の仕事はディックが一手に引き受け、家事だけをやっていればいいことになったクリスチナは手持ち無沙汰。かつてクリスチナが楽しんでいた「地主同士の付き合い」はできず、またディック自身もそれを望みません。ディックは、地主として振る舞うには、生まれ・育ちが違いすぎたのです。単調な農家の主婦の生活がだんだん退屈になり、グレイス叔母の忠告がクリスチナに重くのしかかってきます。
 そんなとき、戦地で重症を負ったマークが、フランバース屋敷にもどってきます。マークの妻でありクリスチナの親友であるドロシーは、従軍看護婦の仕事が忙しく、マークの面倒を見に屋敷に来ることはできません。マークの看病をすることになったクリスチナは、マークに振り回されることに。どうしてもマークを憎めないクリスチナと、マークを毛嫌いするディックとの間に、だんだんと溝が生まれ始めます……
 愛する人と結ばれてめでたしめでたし……かと思った「フランバース屋敷の人びと」続編。「穏やかな結婚」はゴールなどではなく、苦難の始まりだったのです。「身分の違いなんて愛で超えられるわ」といった御伽噺で終わらせるのではなく、1900年代前半という時代だったら必ずこうなったであろう(結婚生活が破綻する)という、このリアリズムさが非常に面白い!
 「グレイス叔母の忠告」「ウィルとの結婚生活の思い出」、それに対する「ディックとの古くさい単調な生活」という対立構図は、相変わらずわかりやすくてうまいです。さらにマークという問題児が登場し、もうこの物語、目が離せません。これ、ほんとに児童文学??(しかもなぜ岩波少年文庫? 新装版には入れられなかったけれど)という気もしますが、「人生を学ぶ」という意味では、良書のように思います。少女たちが進学・就職・結婚等の人生の岐路に立たされたときに、グレイス叔母の忠告やクリスチナの選択をふっと思い返すと、役にたつのではないか、と。
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
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190.「フランバース屋敷の人びと5 愛ふたたび 下」 K・M・ペイトン
★岩波少年文庫 1986年
★中学生以上
 マークを看病するうちに、クリスチナは自分がマークを愛していることをはっきりと悟ります。ウィルのことも愛していたし、ディックのこともかつては愛していましたが、情が激しく男勝りのクリスチナには、実はマークのような強引さを備えた相手が合っていたのです。ディックとの結婚生活は、クリスチナが流産したことで破綻します。別居生活となり、ディックは使用人と浮気をします。
 マークとドロシーもまた、結婚したことを後悔していました。ドロシーは美貌と才能から一人の相手にしばられるタイプではないし、マークはやはりだれよりもクリスチナを愛しているのです。こんがらがってしまったクリスチナの生活ですが、それはすべて自分が「間違った結婚をして」「間違った人を愛してしまった」結果と受け止め、「あるべき姿」を模索し続けるのでした……
 「フランバーズ屋敷の人びと」完結編。
   「三人とも愛しているのよ!」と悟るクリスチナがなんともなまめかしかったです。次々と愛する人が変わっていくクリスチナの人生は、「とんでもないオンナ」のように見えますが、これが全然、ふしだらに感じられないどころか、むしろとても好感を抱けるのです。それは、クリスチナが背負った「不幸」を他人のせいや運命のせいにせず、すべて「自分の選択の結果」と考え、反省と解決案を考え続けるという姿勢を持っているからだと思います。このクリスチナの潔さに強く惹かれます。
 一番の貧乏くじを引いたのはウィルかな。ウィルとの結婚生活を破壊したのは「戦争」ですから。もっとも、もしその結婚生活が続いていたとしても、そのうち破綻していたでしょう。かえって、いつまでも若いまま美しいままにクリスチナの記憶に生き続けるウィルは、幸せなのかもしれません。(ウィルの墓前での、ウィルの亡霊との会話は泣けました。「いつも間違った結婚をするじゃないか。ぼくもその一人だ」と、ウィルはクリスチナに語りかけるのです)
 「真打」のマークとの結婚生活も、まあ、おそらく波乱万丈になって、一般的な「穏やかな幸せ」には程遠いように思います。でもクリスチナには、その「波乱万丈さ」こそが幸せなんだろうなあと思うのでした。
 とにかく、「はー、すっごく面白かった!」作品でした。
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
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191.「リヴァプールの空」 ジェイムズ・ヘネガン
★求龍社 2002年
★中学生以上
 第二次世界大戦下のイギリス・リヴァプールでは、空襲が日増しに激しくなり、子どもたちは、疎開を始めていました。アイルランド生まれでリヴァプール育ちの13歳のジェイミーも、嫌々、カナダへの疎開を余儀なくされます。
 貧しい配給食糧とはちがい、疎開船の食事は豪華で、またサービスも行き届いていましたが、両親と離れ離れになることや、見知らぬ国での暮らしが不安なジェイミーは不満でいっぱいです。しかも同室の少年は、「汚くて粗暴な一匹狼」のトム・ブリーカーでした。そして、出航して何日かたったとき、安全であるはずの疎開船が、U-ボートに撃沈されます……
 イギリスの客船がドイツ海軍によって撃沈され、多数の児童が亡くなったという史実に基づいたフィクション。「疎開」は、日本の戦争文学では多数描かれていますが、海外でもあったのか、と無知な私はおどろきました。ただし、この物語では「戦争の悲劇」という側面よりも、「戦時下」という舞台設定として使われており、テーマとしては少年の友情物語です。
 映画好きの主人公の回想シーンに、随所に当時の映画のシーンが出てくるのですが、映画を知らない私にはわかりづらく残念。往年の映画ファンだったら、また違った楽しみ方のできる作品でしょう。
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192.「川の少年」 ティム・ボウラー
★早川書房 2003年
★中学生以上
 ジェスは水泳の得意な15歳の少女です。夏休みのある日、大好きなおじいちゃんが発作で倒れます。けれどもおじいちゃんは、勝手に病院を退院し、少年時代を過ごした田舎でバカンスを過ごすと言い張ります。弱っていくおじいちゃんの最後の望みをかなえようと、一家は田舎の別荘を借ります。別荘についた夜、ジェスは川辺にたたずむ不思議な少年を目にします。おじいちゃんが最後の力をふりしぼって描こうとする絵──「川の少年」と、何か関係があるような気がするジェスでした……
 早川書房の児童書。ファンタジーばかりだったのに、重厚なリアリズム作品も出版され、私は嬉しいです。ハリポタ第1巻を押さえてカーネギー賞を受賞した作品だからでしょうか。
 ストーリーは単純です。祖父の死を受け止める少女と家族の物語です。そしてその祖父の過去は最後まで暗示的で、ちょっぴり不満も残るのですが、逆にファンタジックな味付けになっています。「川の少年」の言葉──《旅の途中で川にどんなことが起こったとしても、最後は美しく終わるってわかるからさ》この一言が、この物語のすべてを語っています。しみじみと心にしみ渡りました。
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193.「星の歌を聞きながら」 ティム・ボウラー
★早川書房 2005年
★中学生以上
 14歳のルークは、天才ピアニストだった父を病気で突然亡くして以来、悲しみから立ち直れません。父の才能を引き継ぎ、素晴らしい音楽センスを持っているにもかかわらず、村の不良とつるんで悪さばかりしています。母親が恋人を作ったことも気に入らず、心は荒れるばかりです。
 ある日、不良仲間に命じられ、老婆が一人で暮らすお屋敷に泥棒に入ったルークは、屋根裏部屋に閉じ込められた少女を見つけます。老婆の孫だというその少女は、知的障害があり、さらに盲目でした。けれどもルークは、少女が自分と同じ、特別な音楽の才能を持っていることに気づくのでした……
 音楽を縦糸に、思春期の少年の心の揺れ、老婆の悲しみ、母親の再婚問題、不良仲間との葛藤などなど、たくさんの素材を盛り込んだ物語。バラバラになりがちな素材を一つの物語にまとめているのは、美しい「言葉」で綴られる「音楽」です。特別な人にしか聞こえない、森羅万象が奏でる音楽──木々の歌、天空のささやき等など、普通の人間の私にも、文字を通して感じることができました。「ピアノを奏でる美少年」というのは、絵になりますね。(表紙のイラストどおり)
 知的障害のある盲目の少女が、物語の中では重要な役割をはたしていますが、少女の正体の描き方は中途半端で、この少女がいなくても物語は成り立っているように感じました。でも作者は、「特別な音楽の才能を持った者」を、主人公・ルーク以外にも描きたかったんだろうな。
 「文字」で「音楽」を感じるという体験ができ、読み終えて、しみじみとした感動を得ました。この本が読めてよかった。
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194.「マイがいた夏」 マッツ・ヴォール
★徳間書店 2004年
★中学生以上
 1950年代のスウェーデンが舞台。季節は、小学校卒業を目前にした夏です。ハリーとハッセは、町のはずれの古い長屋に住む親友同士。いたずらをしたり、タバコを吸ってみたり、二人だけの秘密の小屋を作ったり、少年の日々を満喫しています。二人はいつもいっしょだし、だれよりもわかりあっていたのですが、ある日、美しい少女・マイが転校してきて、二人ともマイに惹かれていると気づいたときから、もうそれまでの「親友同士の日々」にはもどれなくなります。マイが自分ではなくハッセが好きだとわかっていながら、それでもハリーは、ハッセとマイとともに一夏を過ごすのでした。
 ハッセへの劣等感や嫉妬を隠し、マイへの憧れを押さえて、それまでと同じような毎日を過ごそうとするハリーの姿が切ない。ハリーは「もう少年の日々は終わりだ」と感じているのです。マイの描写が、十三歳の少年の視線になっているところが美しい。教室でマイがハリーの前の座席にすわったときの描写──『腰をおろすとき、クリ色の長い髪が通り雨のように、ぼくの机の上にさっとひろがった』──など、ほんとうに見事です。心臓の悪いマイの「不幸」が冒頭から予告されているため、その「不幸」が近づいてくるラストを読むのが、とても辛かったです。
同一作者の他作品 「お薦めその2」にもあり
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195.「シャングリラをあとにして」 マイケル・モーパーゴ
★徳間書店 2002年
★小学校高学年以上
 11歳のセシーの前に突然やってきたおじいちゃん。パパが5歳のときに生き別れ、50年ぶりに家族の前に姿を現したのです。セシーはわくわくする出来事としてこの事件を受け止め、すぐにおじいちゃんを好きになります。ママも戸惑いつつも義父として当然のもてなしをします。けれども実の親子であるパパは、「捨てられた過去」にこだわり、冷たい態度をとります。
 そんなある日、おじいちゃんが頭にけがをし、記憶を失ってしまいます。50年前の出来事しか覚えておらず、さらに鬱病を発したことから、両親はおじいちゃんを老人養護施設──「シャングリラ」に入れてしまいます。「シャングリラ」それは、おじいちゃんのうわごとでセシーだけが聞いていた言葉、「シャングリラには行きたくない」と重なりました……
 父と子の葛藤、祖父と孫の愛情を描くことで、家族の絆を問う物語。老人介護の問題にも触れています。祖父の過去を知り受け入れることで、セシー一家の絆は強まりますが、、私としては、セシー一家のことよりも、「シャングリラ」に入れられた老人たちの姿の方が印象的でした。彼らは決して「養護」が必要な人たちではなく、誰もが輝いていた過去を持ち、そして現在でも、きっかけさえあれば大きな冒険ができるということ。終盤、おじいちゃんの過去を訪ねる旅に同行した彼らの行動の一つ一つ、そして、何の違和感もなく行動をともにしたセシーの姿に、大きな感動を抱きました。
同一作者の他作品 「お薦めその5」にもあり
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196.「ケンスケの王国」 マイケル・モーパーゴ
★評論社 2002年
★小学校高学年以上
 11歳のマイケルと両親は、両親の勤める工場が閉鎖されたことをきっかけに、ヨットで世界一周の旅をすることを決めます。家財一切を売り、ヨットを買い、イギリスからオーストラリアまでの航海を進めたところで、マイケルと愛犬ステラは海に落ちてしまいます。
 マイケルが流れ着いた小さな島には、片言の英語をしゃべる一人の日本人の老人が暮らしていました。元日本海軍の軍医だったケンスケは、生きのびるすべのないマイケルを助けてくれるのですが、救助のためののろしを上げることだけは、決して許してくれません。自分は、ここで一生、一人で暮らしていきたいから、だれにも知られたくないのだ、と。両親の元に帰りたいマイケルですが、いつしかケンスケの気持ちを理解するようになり、また、ケンスケもマイケルに気持ちを動かされ始めるのですが……
 行間にあふれるケンスケの気持ちが痛かったです。作者のモーパーゴが書いていないものまで、読み取ってしまったのかもしれません。(訳者あとがきが、このあたりの心情をかなり的確に表現しています)ケンスケのモデルである横井正一さんや小野田寛郎さんがジャングルで発見された当時、私は小学生でしたが、ニュースをはっきりと覚えています。当時のニュースを知っている人と知らない人とでは、この本の捉えられ方は異なるのではないでしょうか。
 イギリス人の子どもや、今の日本の子どもは、少年の無人島でのサバイバル物語として読むのでしょうが、それはそれでいいことだと思います。日本語訳されているので、ケンスケの言葉はすべて日本語になっていますが、原著では、英語と日本語、どう書き分けられているのかちょっと興味がありところです。
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197.「エディンバラの光と影」 ジョーン・リンガード
★さ・え・ら書房 2003年
★中学生以上
 エディンバラの高級住宅街に暮らす中学生エミリー。父親は貧しい生まれながらも苦労して成功をつかみ、母親は弁護士として成功しています。兄のベンは冴えない劇団員で、両親を悩ませていますが、それでも一家は「幸せな家庭」を築いていました。
 ある日、学校からの帰宅途中、自分を見つめる少女に気づきます。エミリーによく似た黒髪のイブは、エミリーの腹違いの姉だというのです。エミリーの父親が15年前、ロンドンのパブで恋に落ち、その結果生まれたのがイブだ、と。つまり、イブは父の「隠し子」なのです。
 父への不信感が募り、また、母にこの事実を必死に隠そうとするエミリー。イブを疫病神と思いつつも、同時に、自分と全く違う生活環境を持った「腹違いの姉」に、強烈に惹かれ始めます。イブの存在は、エミリーに「違う世界」へ目を開かせる存在だったのです……
 「温室育ちの少女」が、「外の世界」へ目を向け、 びくつきながらも一歩外へ踏み出してみようとする描写がリアルでした。危険とわかりつつも、それこそが真実の世界であるかのような感覚。もっとスリルとサスペンスの物語かと思っていたところ、意外と地味なテーマの作品でしたが、このリアルさがよかったです。バスで偶然知り合った青年・グレッグとの一時的な恋愛ごっこ、そして、それが「ごっこ」であることをきちんと受け止めようとするエミリーの姿がいい。
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198.「空白の日記」 ケーテ・レヒアイス
★福音館 1997年(福音館日曜日文庫)
★中学生以上
 ナチス時代のオーストリア──ドイツ併合からドイツの敗戦までの農村の日々を、少女・レナの視点で描いた物語。作者の自伝的要素が強いとのことです。
 オーストリアがドイツに併合された時から、オーストリア人はドイツ人として、侵略戦争に加担することになります。レナの住む村でも、ヒットラーの信奉者を中心に取締り強化され、戦争反対とも、ナチス反対とも言えなくなります。戦争が激しくなるにつれ、オーストリアの若者は戦争に借り出され、街は連合軍による空襲で破壊されます……
 戦争児童文学はたくさんありますが、「ドイツに併合されたオーストリア」という設定の物語は初めて読みました。オーストリアはドイツの犠牲になったともいえるのに、ドイツ軍として連合軍と戦わねばならず、また、オーストリアを解放してくれるはずの連合軍は、オーストリアの街を爆撃するという不条理。これが強烈でした。
 ずっと戦争に反対だったレナの友人・ヴィリ少年が、空軍支援要員として高射砲陣地に配置され、自分たちを救ってくれると信じていた連合軍の飛行機を撃墜するときの言葉が、非常に痛い。
 「攻撃にさらされると、恐怖で何もわからなくなる。何がなんでも撃ってやろう、空にいる飛行機を一機のこらず撃ち落とさなければという気なる……」
 イラク戦争、世界中が反対したのに止められなかったという事実、そして、日本政府がアメリカを支持したという事実を念頭に、この本を読むのは辛かったです。
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199.「死をはこぶ航海」 イアン・ローレンス
★理論社 2003年
★中学生以上
 「呪われた航海」の続編。
 コーンウォールで船を失ったジョンと父親ですが、貿易業を再開するために新たな船「ドラゴン号」を買うことにします。黄金色のドラゴンの船首をもったその船は、旅の途中で出会った紳士に「不幸を呼ぶ船」と噂されていると聞きます。噂になど耳を貸さず、二人は船を購入し、船長や船員を雇います。そしてジョンは、父親の事業の都合で一人、ドラゴン号をケント州からロンドンへ運ぶ仕事を引き受けます。
 ところが、ひょんなことから密輸の情報を得たジョンは、ドラゴン号で密輸船を出し抜き、摘発することを思いつき、行動に移します。けれどもそれは、大きな罠だったのでした……
 前作に引き続き、殺戮が繰り返され、死体はゴロゴロ、残忍な描写の続く物語です。けれども、ストーリー展開のダイナミックさや面白さに引き込まれ、ついつい、ページをどんどんめくってしまいます。今回も、だれが味方でだれが敵なのか、最後までわかりませんでした。
 東京都中央区立日本橋図書館では、この本は児童書ではなく、一般書の書棚に置かれていました。子どもには残酷すぎるという、配慮なのかもしれません。私としては、残酷さよりも、船の構造の図解などを載せてくれたら、もっと物語に対する理解が深まるのに、と思いました。挿絵をつけてもらえませんでしょうか?
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200.「思い出のマーニー」(上下) ジョーン・ロビンソン
★岩波少年文庫 1980年(新装版2003年)
★小学校高学年以上
 孤児のアンナは、夏休みの始まる少し前から、入り江のある小さな村の、里親の友人の家で過ごすことになります。父親は蒸発し、母親を事故で亡くし、祖母を病気で亡くし、里親はお金のために養育してくれているのだと思い、自分はいらない子だと思っているアンナは、だれに対しても心を閉ざしています。
 入り江の村で、アンナは、しめっ地に面して建つお屋敷──「しめっ地やしき」が気に入ります。空き家のような古びたそのお屋敷の窓辺に、ある日、一人の少女・マーニーを見つけます。お金持ちのお嬢様で、居丈高なところがあるものの、自分と同じ寂しさを感じたアンナは、すっかりマーニーが好きになり、マーニーもアンナのことを親友と言ってくれます。けれどもマーニーは、自分のことは誰にも言うな、と言います。アンナとマーニーは、夜の入り江や砂丘で、二人きりでこっそり遊ぶようになります……
 マーニーが、ずっと昔にお屋敷に住んでいたお嬢様で、アンナは過去に迷い込んでマーニーに会っているのだ、ということは上巻を読んでいてすぐにわかります。ただのタイムファンタジーかと思っていたのですが、ところが、そう単純な物語ではありませんでした。下巻では、お屋敷が改築され、新しい住人が住むようになり、アンナはその子どもたちと仲良くなっていきます。そして、マーニーがアンナにとって、現実生活でも非常に身近な人であった、という種明かしが用意されているのです。
 アンナが徐々に周囲の人々に心を開いていく様子が、心に染み入りました。どちらも似たような心情を持ったアンナとマーニーのストーリーが、不思議な重なり方をしていて巧みです。そしてテーマは「だれかから愛されることの大切さ」という、至極まっとうなものです。訳は少し古くさいですが、それがまた、独特の雰囲気を出しています。ファンタジーだけれど、単純なファンタジーでない、良質の物語です。読めてよかった。
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