高森 千穂のページ

お薦め児童文学 その2


 第二期紹介分です。第一期(1〜50)同様、ご愛顧下さい。

 お薦め本は毎回追加していきます。新着分には色をつけています。詳細は「作品タイトル」をクリックして下さい。

1〜50(その1)紹介へ
100〜150(その3)紹介へ
151〜200(その4)紹介へ
201〜(その5)紹介へ

インデックス
 著者名作品タイトル
51ライフ=エスパ=アナセンかあさんは魔女じゃない
52アヴィシャーロット・ドイルの告白
53アヴィ父さんの納屋
54ガリラ・ロンフェルデル・アミット心の国境をこえて
55ロレンス・イェップぼくは黄金の国へ渡った
56ロバート・ウェストール猫の帰還
57ロバート・ウェストールクリスマスの猫
58ウリ・オルレブ壁のむこうの街
59ミシェル・デル・カスティーヨタンギー
60権 正生(クォン・ジョンセン)モンシル姉さん
61スーザン・クーパー光の六つのしるし
62スーザン・クーパーみどりの妖婆
63スーザン・クーパー灰色の王
64スーザン・クーパー樹上の銀
65スーザン・クーパーコーンウォールの聖杯
66オットー・クーンツ《ナイト・シー》の壁をぬけて
67ベティ・グリーンドイツ兵の夏
68ヘレン・クレスウェル拝啓、心の先生
69ブロック・コール森に消える道
70クラウス・コルドンモンスーンあるいは白いトラ
71クラウス・コルドンビンのなかの手紙
72クラウス・コルドン潮風にふかれて
73ルイス・サッカー
74ルイス・サッカートイレまちがえちゃった!
75ジョアン・マヌエル・ジズベルトイスカンダルと伝説の庭園
76ジョアン・マヌエル・ジズベルトアドリア海の奇跡
77ノエル・ストレトフィールドバレエ・シューズ
78ノエル・ストレトフィールド映画にでた女の子
79ノエル・ストレトフィールド家族っていいな
80グレアム・ソールズベリーその時ぼくはパールハーバーにいた
81J・R・タウンゼントハルシオン島のひみつ
82ジェフリー・トゥリーズこの湖にボート禁止
83ジェフリー・トゥリーズ黒旗山のなぞ
84メアリー・ダウニング・ハーン12月の静けさ
85ジュマーク・ハイウォーター幻の馬vol.1 伝説の日々
86ジュマーク・ハイウォーター幻の馬vol.2 汚れなき儀式
87ジュマーク・ハイウォーター幻の馬vol.3 暁の星をおびて
88キャサリン・パターソン北極星を目ざして
89キャサリン・パターソンガラスの家族
90バーバラ・レオニ・ピカード剣と絵筆
91ロベルト・ピウミーニ光草─ストラリスコ─
92ロッドマン・フィルブリックフリーク・ザ・マイティ
93マイルズ・フランクリンわが青春の輝き
94ケヴィン・ヘンクス夏の丘、石のことば
95マッツ・ヴォール冬の入江
96ジェームズ・マーシャルひとり歩き
97アン・メリックだれかがドアをノックする
98マルガレータ・リンドベリィ歌う木にさそわれて
99ゲイル・ロックツリーのないうち
100アイビーン・ワイマンカレジの決断

51.「かあさんは魔女じゃない」 ライフ=エスパ=アナセン
★偕成社 1979年
★中学生以上
 エスベン少年の母親は医学・薬学の心得があって、村人を病気や怪我から救い、報酬をもらうことで生活していました。しかし、ある村人の娘を病気から救えなかったことから「魔女だ」と言われるようになり、火あぶりにされてしまいます。
 何とか逃げ出したエスベンは、フィヨルドの対岸に住むハンスという大男に救われ、心の傷を癒していきますが、彼もまた、母親と同じ能力を持った人間でした。
 普通の人より卓越した能力を持つこと。それはうまくいっている時には尊敬されるけれど、ひとたび失敗すると「悪魔の力」と言われ、火あぶりにされてしまう。異端の者の持つ悲しみ、そして異端の者を「魔女」にしてしまい排除してしまう「普通の人々」の弱さ、狂気。短いながら衝撃的な作品です。
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52.「シャーロット・ドイルの告白」 アヴィ
★偕成社 1999年
★中学生以上
 19世紀前半。イギリスの女学校で何不自由なく過ごすアメリカ人の上流階級の子女、シャーロット・ドイルは、家族の待つアメリカへの船旅に出ます。イギリスで一緒に生活していた両親や兄弟らは、父親の都合で一足早く本国へ帰っていて、シャーロットだけ、学校の都合上、帰国が夏休みになったのです。
 ところが、乗船予定の船はみすぼらしく、船長の名前を聞くとポーターらは逃げ出す始末。一緒に乗船するはずの父の知り合いの家族や、他の乗客たちは、何らかの理由で姿を現しません。ただ一人の乗客として船に乗り込んだシャーロットは、その船に何やら秘密が隠されているのを知ります。そしてその秘密が、乗組員の船長に対する復讐だと知った時、シャーロットの運命は大きく変わります……
 良家の子女が、自らの信念と正義感によって、たくましく成長していく物語。荒くれ者の船乗りに、自然の猛威を振るう大海原。その中で《女》としての重圧を撥ね退け、自らの思うままに振舞うシャーロットの姿には、胸がすかっとします。乗組員の作業や、嵐の描写も、どきどき胸に迫ってきます。文句ない冒険小説です。
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
同一作者の他作品 「お薦めその5」にもあり
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53.「父さんの納屋」 アヴィ
★偕成社 1997年
★小学校高学年以上
 開拓時代のアメリカ。九歳のベン少年は、頭が良かったことから兄弟の中でただ一人町の学校で寄宿生活をしていましたが、父さんが倒れたとの知らせに田舎の農場に戻ってきます。我が家で目にしたのは、脳溢血で全身が麻痺し、しゃべることもできずただベッドに横たわるだけの父の姿でした。一年前に母親も亡くなっており、いまや農場を支えられるのは兄と姉のみ。さらに姉は結婚を控えていました。
 休学し、父の面倒をみることで一家を支えるベン。看病をしていくうちに、何もできないように見えた父親が、まばたきで意志を伝えていることを知ります。何か父さんを元気づけることがあれば、父さんはまた元に戻るに違いない──「父さんはもうすぐ死ぬ」と言う姉や兄を説き伏せ、ベンは、元気な頃父さんが作りたがっていた納屋を、兄弟三人だけで作ることを思いつきます……
 死の床にある父親のために、納屋作りに夢中になるベン。それはある意味、自分自身のためだったのでしょう。ラスト、納屋の完成を目前に死んでしまった父親の姿に、誰のための納屋作りだったのかと問うベン。その問いに優しく答える兄が印象的でした。ストーリーとしては父のために納屋を作る──ただそれだけなのですが、淡々としたストーリー運びが、かえって避けられない父親の死を浮き彫りにし、とにかく悲しくて悲しくて、久しぶりに爆涙した物語でした。 
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54.「心の国境をこえて」 ガリラ・ロンフェデル・アミット
★さ・え・ら書房 1999年
★小学校高学年向き
 イスラエルのアラブ村に住む14歳の少女・ナディアは、村の医者になるために、寄宿制のユダヤ人学校に入学します。ユダヤ人との軋轢の絶えないアラブ人として、文化や風習の違い、謂れの無い差別、偏見と戦いながら、ナディアは懸命に勉強をします。
 ナディアの級友たちには、あらゆるタイプの人間たちがいました。表面上人種差別なんてしないという顔をする者、自分の主義を貫くための道具としてナディアと付き合おうとする者、アラブの古い習慣を誉めるばかりの者──様々な立場のユダヤ人と接し、ナディア自身もまた、アラブ人である自分自身を違った角度から眺めることになり、より視野が広がっていきます。
 パレスチナ問題が、後書きでしか触れられていないので、日本人にはわかりづらいかもしれません。しかし、あらゆる角度から「差別」や「違い」を表現し、主人公を「差別に苦しむ少女」という、薄っぺらなキャラクタに仕上げていないところに、この作品の素晴らしさがあります。アラブ人のテロ事件を非難するユダヤ人の級友たちの姿に、まっさきに思い浮かんだのが「差別される自分」であり、被害者への思慮が全くなかったナディア──この描写には感心させられました。
 副題は「アラブの少女ナディア」 原題は「ナディア」
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
同一作者の他作品 「お薦めその4」にもあり
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55.「ぼくは黄金の国へ渡った」 ロレンス・イェップ
★徳間書店 1998年
★中学生以上
  清時代の中国・広東省に暮らす、裕福な少年・オター。伯父と父の働く「憧れの黄金の国・アメリカ」に、ふとした事件から渡ることになります。しかし、自由と平等の国のはずのアメリカで、中国人がさせられていた仕事は、過酷な大陸横断鉄道の建設工事でした。オターは初めて経験する極寒の雪山で、西洋人にこき使われ、苦しい肉体労働をすることになります。
 誇り高い少年が、過酷な環境の中で、自らの生き方をつかみとる物語です。少年の成長物語としての側面だけでなく、アメリカの鉄道敷設の歴史という側面が、物語に厚みを加えています。
 原題「Dragon Gate」。龍門=成長への門、という意味合いのこのタイトルはなかなか深いのに、なぜ邦題はこんなにつまらないのか? ちょっと残念。
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56.「猫の帰還」 ロバート・ウェストール
★徳間書店 1998年
★中学生以上
 雌の黒猫、ロード・ゴートは、出征した主人求め、疎開先の家から遠い旅に出かけます。旅の途中、さまざまな人々に拾われ、一時をともに過ごすロード・ゴート。軍曹、将校夫人、未亡人、焼け出された老人……「幸運を呼ぶ黒猫」としてかわいがられるロード・ゴートは、彼らの生活を冷静に見つめながら、旅を続けるのでした。
 第二次世界大戦下のイギリス本島の様子を、猫の視点を軸に描いています。同じ作者の戦争児童文学「海辺の王国」の猫版ともいえますが、「海辺の王国」よりも、人間たちの生様が、客観的に突き放されて描かれています。読み応えのある本です。
同一作者の他作品 「お薦めその1」にもあり
同一作者の他作品 「お薦めその4」にもあり
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57.「クリスマスの猫」 ロバート・ウェストール
★徳間書店 1994年
★小学校中・高学年向き
 1934年のクリスマス。上流階級の子女・11歳のキャロラインは、教区牧師である叔父の家に預けられます。陰うつな牧師館、性格の悪い家政婦、気の弱い叔父に、すっかり気がめいってしまうキャロラインですが、町の子、ボビーと友達になってからは、「恐ろしいところ」と禁じられている外の世界に目を向け始めます。
 イギリスの階級社会を知らないと、今一つぴんとこない作品かもしれません。また、キリスト教に馴染みがないと、なだれこむようなハッピーエンドもわかりにくかも。でも、やはりこれがキリスト教の国の「クリスマス童話」なのでしょう。
 どうせ読むのならば、クリスマス前に読みたいものです。(夏に読んでも、きっと雰囲気がでないと思います)
同一作者の他作品 「お薦めその1」にもあり
同一作者の他作品 「お薦めその4」にもあり
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58.「壁のむこうの街」 ウリ・オルレブ
★偕成社 1993年
★小学校高学年以上
 第二次世界大戦下。ドイツ軍に占領されたポーランドの、ユダヤ人ゲットーに暮らすアレックス少年が主人公。ある日、ユダヤ人の強制移動が始まりますが、父親と親切な老人の力を借りて、アレックスは強制連行から一人逃げ出し、ゲットー内の崩れかけたアパートに隠れ住むことになります。「必ず迎えに行く」と言う父親の言葉を信じて、アレックスの危険に満ちた孤独な生活が始まります。裏切りや絶望を目の前にしても、アレックスは知恵を絞り、なんとか生き延びるのでした──
 「アンネの日記」少年版というところでしょうか。こちらはフィクションですが。なんとか隠れ家を快適にしようとする少年らしい発想が冒険小説のようで面白いですが、同時に、廃虚の中で、換気孔から見るポーランド人街──すぐ目の前にある、平和な壁のむこうの街──を見つめる少年の気持ちを思うと、やはり悲惨さを感じずにはいられません。なお、この作品は映画化されているそうです。'Little Garden' 私は未見です。
同一作者の他作品 「お薦めその4」にもあり
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59.「タンギー」 ミシェル・デル・カスティーヨ
★徳間書店 1998年
★中学生以上
 サブタイトルは「《今》を生きてきた子どもの物語」。
 スペイン人のタンギー少年は、5歳の時、スペイン内乱をきっかけに、母親とともに離婚した父の住むフランスへ渡ります。しかし、ジャーナリストであった母親は、父親の密告で強制収容所へ入られてしまいます。その後、母とはぐれ、一人ナチスドイツの強制収容所へ送られ、死と隣合わせの生活となります。第二次世界大戦終了後も、非人道的な施設に入れられ、脱走した後勤めたセメント工場も、また過酷なところでした。
 第二次世界大戦前後のヨーロッパを舞台に、あまりにも壮絶な、タンギー少年の5歳から22歳までの彷徨を記録した小説です。作者の自伝的色合が強い分、その迫力は読む者を離しません。絶望の中でも、死を選ばず生き延びたタンギー少年は、何をつかもうとしていたのか。そして真実を見抜く目をもったタンギー少年に、大人になってから再会した両親は、どんなふうに映ったのか。胸に重いと同時に、自分の中の生死観を見つめ直したくなる作品です。
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60.「モンシル姉さん」 権 正生(クォン・ジョンセン)
★てらいんく 2000年
★小学校高学年以上
 太平洋戦争が終わり、日本が負け、日本から祖国・韓国へ戻ったモンシル一家。しかしその生活は苦しく、モンシルが8歳の時に、母親は父親を捨て、金持ちの家へ行ってしまいます。新しい父親からの虐待で片足が不自由になり、実の父の元に戻っても、待ち受けていたのは極貧生活、さらに新しい継母も病で亡くし……と、モンシルの少女時代は、苦難に満ちたものでした。
 モンシルの不幸の背景に常にある戦争──太平洋戦争・韓国(朝鮮)戦争。モンシルは幼いながらもその真の「悪」の存在に気づき、目の前の「悪」──母親の不義、売春婦たちを許します。みんな、そうせざるをえなかったのだ、と。そして、大きな心で自分よりも弱い者たちを懸命に守ろうとします。
 日本の罪深さ、アメリカ・ソ連の罪深さ。読んでいて本当に申し訳ないです。でも、それ以上に、モンシルの優しさ、強さに何度も涙しました。韓国では非常に人気のある作品で、テレビドラマにもなったということですが、それも理解できます。
 文学的には、モンシルの視点に定まっておらず、ところどころ作者の思いが前面に出てきてしまうところが残念ですが、それでも私はこの物語が読めてよかった。翻訳してくれた出版社に感謝です。
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61.「光の六つのしるし」 スーザン・クーパー
★評論社 1981年
★中学生以上
 何百年にも渡り、世界の裏側で戦いを続けてきた《光》と《闇》。9人兄弟の末っ子のウィルは、11歳の誕生日に《光》の戦士《古老》として目覚めます。それは、この世界を《闇》から守るよう宿命づけられた、ウィルの苦難の人生の幕開けでした。ウィルは、《光》の力を確かな物にする《六つのしるし》を捜す者として、師匠・メリマンとともに行動を開始します──
 「お薦め」に載せようと思いつつ、なかなか読み返す機会がなくて、すっかり紹介が遅れてしまった作品です。「闇の戦いシリーズ」第一弾。全4冊シリーズの序章で、ウィルの力の目覚めと修行が中心です。
 実はこのシリーズ、「コーンウォールの聖杯」(学習研究社刊)が本当の第一巻として存在するのですが、版権の問題から、別シリーズとなってしまっています(復刊望む!)。ただし、ウィルが登場するのは「光の六つのしるし」からです。
 普通の少年として生活していたウィルが、徐々に力を受け入れていくさまにはどきどきわくわく。《古老》としての行動が、普段の生活に入り込み、戸惑うウィルの姿には、無条件に萌え萌え。あの(!)浅羽莢子さんの訳は神秘的。ショタな方には大変お薦め。是非、映像で見てみたいです。(ウィル役はJake Lloyd0@10歳がいいなっ。イメージぴったり)
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
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62.「みどりの妖婆」 スーザン・クーパー
★評論社 1981年
★中学生以上
 イースターの休暇にコーンウォール岬に叔父とともにでかけたウィルは、メリマンと再会。またメリマンの甥たちのサイモン、ジェーン、バーニーの三兄弟と出会います。この三兄弟こそ、ウィルが《古老》に目覚める一年前に、メリマンとともに《光》にとって大切なアイテムの一つ《聖杯》と、《聖杯》に刻まれた文字を読み解く《古文書》を見つけた子どもたちでした。つまり《光》の協力者だったのです。《闇》に奪われた《聖杯》を取り戻すために、子どもたちは再度冒険を始めます。ウィルがメリマンと同じ《古老》であるとも知らずに……
 イギリス・コーンウォール岬の自然と伝説に彩られたファンタジー作品。「光の六つのしるし」の続編。正確には「コーンウォールの聖杯」の続編です。この真の第一巻が別シリーズとなっているために、なんとわかりづらくなっていることか!(頼む、復刊してくれ) この「緑の妖婆」では、ウィルは《古老》としての力を十分に発揮し始め、超人ぽくなってしまっていることがちょっと残念。ウィルの魅力は、11歳の少年としての面を併せ持っているところなのですから。
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63.「灰色の王」 スーザン・クーパー
★評論社 1981年
★中学生以上
 突然重い病気にかかったウィル。生死の境をさまよい、《古老》としての任務も忘れ、ただの11歳の少年として、ウィルは転地療養でウェールズを訪れます。そこで出会った白子の少年・ブラァン。ブラァンは《古老》であることをウィルに思い出させると同時に、自分一人で勝ち取らねばならない、《光》の大切なアイテムの一つ《竪琴》捜索へと向かわせます。ウィルはブラァンの協力のもと、《闇》の使い手《灰色の王》と対決し、《竪琴》を手に入れます──
 アーサー王伝説に基づくと同時に、ウエールズの自然描写の見事な作品です。スーザン・クーパーのこのシリーズの中で、最も面白い巻でもあります。
 描写の一つ一つが、文字とともに目の前に浮かんできます。銀色の毛の犬を従えた白子のブラァン。色素のない顔を隠すようにサングラスをし、竪琴を弾くブラァンの姿は、文字以上の迫力をもって、私を虜にしました。この巻の最大の魅力は、ブラァンだと言っても過言ではないでしょう。
 「みどりの妖婆」で、超人的になりすぎたウィルが、病に倒れ、かよわい少年として登場する冒頭は萌え萌え。その後、《古老》であることを思い出したウィルが、純粋な少年としての顔に、狡猾な大人の表情を浮かべるシーンは、痛ましくさえ私には思えたのでした。
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64.「樹上の銀」 スーザン・クーパー
★評論社 1982年
★中学生以上
 シリーズ最終巻。《闇》の決起の前に、最終戦を覚悟し、ウィル、ブラァン、サイモン、ジェーン、バーニー、そしてメリマンが、ウェールズのアーサー王伝説の地に集います。しかし、《闇》の伏兵は、思いがけなく、ウィルやブラァンのすぐ身近にいました。《光》は《闇》の手から、人間世界を守ることはできるのか──
 ファンタジー色の最も強い巻です。その大半が、ファンタジーの世界で繰り広げられているので、ウィルの「普通の少年」としての素顔が交錯する前巻とは、かなり趣を異にします。それが少し残念ですが、最終巻として、読み応えは十分あります。
 訳者・浅羽莢子さんの、全巻通じての「後書き」が面白い。──主人公ウィルが、どうして不遜なメリマンに、ああまで有頂天になるのかわからなかった── 私のショタな知人の言葉「私はメリマンになりたいっ」──とともに、この「闇の戦いシリーズ」のある側面を象徴した言葉なのでした。(マジメな読者のみなさま、ごめんなさい。でも私が、このシリーズ、ほんとに、ほんとに、心から愛していることには変わりありません)
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65.「コーンウォールの聖杯」 スーザン・クーパー
★学研 1972年
★小学校高学年向き
 夏休みに両親とコーンウォール地方に遊びに来たサイモン、ジェーン、バーニーの三兄弟。祖父の友人・メリィおじさん(メリマン)も一緒です。一ヶ月間暮らすことになった海辺の古い大きな家「グレイ・ハウス」の中を探検しているうちに、三人は隠し部屋で古い地図を見つけます。
 メリィおじさんにだけ地図のことを打ち明けると、アーサー王伝説の黄金の聖杯の場所を示していると言われます。そして、この聖杯をめぐって、善と悪が戦いを続けている、と……
 実際、聖杯を探し始めたとたん、三人の前に、次々とあやしい人たちが現われ、行動を邪魔し始めるのでした──
 「闇の戦いシリーズ」の真の第一巻。ただし訳者が違うので、雰囲気はかなり異なります。同じ作者の同じシリーズでも、訳で随分変わるものです。当初は独立した一冊の本として作られたせいもあり、ファンタジーというより冒険小説となっています。
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66.「《ナイト・シー》の壁をぬけて」 オットー・クーンツ
★徳間書店 1998年
★中学生以上以上
 父親の友人が遺産相続した山荘で、夏休みを過ごすことになった11歳のベン。姉のセアラは白血病で余命幾ばくもなく、これが最後の家族団欒となるはずだったのに、母さんの車は山荘への道中で迷うし、一足先に山荘へ行っているはずの父さんは、待ちあわせ場所に来てくれません。さらに、村のガソリンスタンドの親子は、山荘へ行くことを阻止するし、日の暮れた空には、見たこともない巨大な生物が飛び交い、青白い光を放つ虫も飛び回ります。この村には何やら怪しげなにおいがする──村の秘密に踏み込むベン一家は、恐ろしい体験をすることになります……
 山間の滝に宿る不気味な光。頭に巣食う謎の虫。行方不明になる人々──とにかく、非常に怖かったです。この怖さだけでも読む価値があると思いますが、「希望とは何か」という児童文学的テーマも無理なく盛り込まれた作品です。ただ、設定の甘さというか手抜きが非常に惜しいともいえます。これは「児童」文学の弊害でしょうか?
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67.「ドイツ兵の夏」 ベティ・グリーン
★偕成社 1978年
★中学生以上
 第二次世界大戦下のアメリカ南部の小さな町、ジェンキンズビル。捕虜収容所にドイツ兵が送られてきます。町で最も大きな商店の娘、ユダヤ人のパティーは、雑貨を買いに来た捕虜・アントンの紳士的な態度に魅せられます。後日、アントンが自由のために収容所を脱走したことを知ったパティーは、犯罪であると知りつつ、彼を匿います。
 醜く生まれついたために、両親に疎まれた孤独なパティー。そんなパティーを理解するのは、黒人家政婦・ルースと、貧しい少年・フレディ。そして、アメリカ人が敵視するドイツ兵・アントン。アントンを匿ったことはやがてばれ、「裏切者」と少女感化院に送られるパティーですが、「私は悪い子じゃない」と悟る場面は非常に感動的。人間の魂の高潔さが感じられる作品です。作者・グリーンの「自伝的作品」というところもまた、別の意味で感動的です。
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68.「拝啓、心の先生」 ヘレン・クレスウェル
★金の星社 1985年
★小学校高学年向
 両親が植物学者のオリバー少年。アマゾンの奥地へ研究旅行に出かけた両親は、ウィリアム・オリバー・ルーシーの三兄弟を、一人のおばあさんに託します。ところがバートル夫人が急死。三兄弟は、両親が帰ってくるまで、ばらばらに里子に出されることになります──
 恵まれた家庭の少年が、突然その日常が崩されることで、幸せを再認識する物語。里子に出されてからは、一人称の語り口に「先生への手紙」という手法が加わり、趣向が凝らされています。一人称の軽妙な語り口は、トゥリースを彷彿とさせました。(残念ながら、トゥリースの方が格段に上手ですが)
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69.「森に消える道」 ブロック・コール
★福武書店 1992年
★中学生以上
 サマーキャンプに参加していた少年・ハウイと、少女・ローラ。内向的なハウイと友達のいないローラは、仲間たちのいじめに遭い、洋服をすべてはぎとられ、二人きりでキャンプ場近くの島に一晩置き去りにされます。
 もうキャンプには戻りたくない──その一心から、口をきいたこともなかった二人は協力して、四日後の父兄参観の日まで逃げることにします。食べ物を探し、洋服を盗み、ホテルの部屋に忍び込む二人。その過程でお互いを信頼することを学び、また自分自身を見つめ直すことになります……
 友達が作れないという点では共通していながら、夢見がちのハウイと現実的なローラは、正反対の性格をしています。物語の初めは二人とも同じような感じで描きながら、話が展開するに従い、違いがはっきりと浮かびあがってくる──この、ストーリーとともに二人が成長していく描写が見事。ラスト、二人が殴り合いをしてお互いの気持ちをぶつけ合うシーンは、非常に感動的でした。
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70.「モンスーンあるいは白いトラ」 クラウス・コルドン
★理論社 1999年
★中学生以上
 インドのボンベイで暮らす貧しい少年・ゴプー。たくさんの兄弟たちとともに、物売りをして家計を助けています。工場経営者の一人息子・バプティは大金持ち。ある日ビーチでゴプーを見かけ、その容姿に惹かれ、友達になりたい一心から、ゴプーをボーイとして雇います。父親が失業したゴプーは、家族を養うために、バプティの家のあるマドラスに、遠く一人旅立ちます。
 バプティの豪華な家で、衣食住に何の不安もなくなるゴプーですが、「ご主人様」の顔色をうかがい続けねばならない生活に疑問を抱きます。バプティも、ボーイはしょせんボーイで、友達にはなれないことを悟ります。
 ゴプーが初めて知る、金持ちの複雑な世界。「金持ちであることは悪いことか」家庭内のごたごたもあり悩むバプティ。さまざまな事件を通して、二人の少年の心は近づきますが、「カースト制度」という身分の差は、歴然と二人の間に横たわっていました……
 久々に、心の底から感動する本に出会えました。インドという未知の舞台設定にも惹かれましたが、何より、傷つき悩みながら、一生懸命に生きようとする少年たちの姿がいいです。「カースト制度」を非難したり、安易な解決策を示していないにもかかわらず、作者の強い思いが感じられました。
 心の底では友情で通じ合っているのに、お互い一歩ずつ引いてしまうゴプーとバプティ。一時寝食をともにしながらも、モンスーンという死の恐怖に、結局はそれぞれの属する世界に戻らざるをえない。「あるべき世界」で生き生きと笑う相手を垣間見た時の衝撃。そして悲しみ。ゴプーもバプティも、相手に知られないように、陰でそっと涙を流す──ラスト近くのこのシーンには、胸がしめつけられました。強烈に、私の心に焼きついてしまいました。
 600ページ近い大長編です。読み始めた時は、一般の小説だと思っていたのですが、児童書でした。でも、大人も子どもも十分楽しめます。一生手元に置いておきたい、「墓場までも連れて行きたい」本です。
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
同一作者の他作品 「お薦めその5」にもあり
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71.「ビンのなかの手紙」 クラウス・コルドン
★佑学社 1989年
★小学校高学年向き
 東西ドイツに分かれていた時代。東ドイツの少年・マッツェは、ある日ビンに手紙を入れて川に流します。「ぼくは東ベルリンに住んでいます。このビンに入った手紙を見つけた人は、返事を下さい」遠く南の島の少年に拾われることを夢見ていたマッツェですが、ビンを拾ったのは、すぐ隣の西ベルリンに住む少女・リーカでした。
 東西ベルリンを隔てる壁。壁に何の疑問も持っていなかったマッツェですが、リーカの手紙を受け取って以来、なぜ一つの街が分断され、交流も許されないのか疑問を持ちます。両親に隠れて、リーカと手紙や電話のやりとりをし、夏休みに東ドイツの湖でこっそり会うことを画策するのですが……
 ドイツが統一された今となっては、昔話かもしれません。しかし、南北朝鮮が歩み寄りを見せている現在(2000年6月)、決して過去の問題ではないと思います。東西分断時代に東ベルリンに住んでいた知人の言葉──「西から東へ行くことはできたし、東に住む異国人は西へ行けたけど、東ドイツ人は、絶対西へは行けなかったんだ」この言葉は事実だったんだと、この本を読んで思い知らされました。
 いろいろな考えを持つ人がこの世の中にいるということ、それから、自分の行動には責任を持たなくてはいけないということ、普遍的なテーマも含んだ物語です。
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72.「潮風にふかれて」 クラウス・コルドン
★さ・え・ら書房 1989年
★小学校高学年向き
 西ドイツ(ドイツ統一以前)の工業地帯に住む9歳の少女・ジルケは、重い喘息で、あと二年の命、と告げられます。残り少ない日々、娘の願いをかなえてやる決心をした両親は、「ヨットで南の島へ行きたい」というジルケの言葉どおり、家を売り払い、ヨットを買い、ギリシャのアテネからインドネシア目指して旅立ちます。
 ヨットでの快適な旅、見知らぬ国、恐ろしい嵐──途中、孤児の少年を仲間に入れ、四人は海原を渡って行きます。その過程で、夫婦関係、親子関係、そしてジルケの体にも、少しずつ変化が現れていきます……
 インドがでてくるところが、クラウス・コルドンらしいと思いました。ジルケの見た「見知らぬ国」というのは、コルドンの視線そのものなのでしょう。仕事をしていた時はイライラし通しだった両親が、海の上でどんどん人間性を取り戻していく姿に、心から「うらやましい」と思うと同時に、もし自分が同じ立場だったら、こんな思い切った決心ができるだろうか、と考えてしまいました。
 副題「ジルケ初めての航海」。
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73.「穴」 ルイス・サッカー
★講談社 1999年
★中学生以上
 スタンリー少年の家系は、めちゃめちゃついていません。ひいひいじいさんの失敗が子孫に代々伝わり、イエルナッツ四世であるスタンリーは、無実の罪で、更正施設「グリーン・レイク・キャンプ」に送られます。
 キャンプでは、毎日穴を掘らされます。「根性を養うため」と施設の所長は言いますが、スタンリーは「何かを秘密に探すため」と気づきます。そしてその「何か」と、代々イルナッツ家に伝わる昔話に関連を見出した時、スタンリーは大きな賭けに出ます──
 「これこそ《物語》だ!」現在と過去を交錯させた、たくさんの伏線が、ハッピーなラストに向かってきれいにつながっている……作者の腕には、ただただ感服。少年たちの友情にも胸を熱くさせられました。《物語》として最高級の作品です。
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同一作者の他作品 「お薦めその5」にもあり

74.「トイレまちがえちゃった!」 ルイス・サッカー
★講談社 1998年
★小学校高学年向き
 ブラッドリー少年は問題児。一学年留年して今年はようやっと五年生。でも、クラスで最も成績が悪く、生活態度も悪く、先生もクラスメイトもブラッドリーを持て余しています。ブラッドリーが問題行動を起こすのは「嫌われる前に自分が嫌えばいい」と思うから。自分から嫌うことで傷つくことを回避していたブラッドリーですが、カウンセラーのカーラと出会ってからは、少しずつ変わり始めます。
 問題児が立ち直る物語。なんて書くと「ああ、またか」とひいてしまう方もいると思いますが、とにかくブラッドリーの心の描き方が素晴らしい、の一言に尽きます。カウンセラーのカーラは出来すぎの気もしますが(というか、カーラ先生のような大人になれない自分への悔しさなのかもしれないけれど)、ブラッドリーの心情についていえば作り物めいた感じはいっさいせず、傷つきやすい柔らかな心に、とにかく泣けて泣けて仕方ありませんでした。どちらかといえばユニークな面白おかしい物語なのに、とにかく胸がしめつけられ、あとからあとから涙があふれ、止まらない──やはりこれは、作者の腕が天下一品の証なのでしょう。
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75.「イスカンダルと伝説の庭園」 ジョアン・マヌエル・ジズベルト
★徳間書店 1999年
★中学生以上
 天才建築士・イスカンダルは、アラビアの王に世界一の庭園を造るよう命じられます。世継ぎに恵まれなかった王は、自分の名を残すために、最上の庭園を造ることを思いついたのです。イスカンダルは才能の限りを尽くし贅沢な庭園を造りあげますが、完成と同時にその才能を独占しようとした王に、屋敷に幽閉されてしまいます。しかし、イスカンダルの美を追求する心は、そんなことで封じることはできませんでした……
 十一世紀のアラビアを舞台にした歴史ファンタジー。淡々とした筆使いが、格調の高さを感じさせます。ファンタジックな作風を持ちつつも、作品の根底に流れる物は「天才の気迫」──どこまでも究極を求める純粋さが、この作品の最大の魅力だと思います。
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76.「アドリア海の奇跡」 ジョアン・マヌエル・ジズベルト
★徳間書店 1995年
★中学生以上
 修道院の見習い僧・マチアスは、ある日の夕方、院長に呼ばれ、用事を言いつけられます。領主の主治医から頼まれた《大切な箱三つ》を、荷馬車で海まで運んでほしい──その《箱》が何であるかは教えられませんでしたが、非常に重要な物であることはわかりました。冒険心に富み、僧侶で終わりたくないマチアスは、勇んでこの仕事を引き受けます。
 しかし、旅が始まったとたん、次々に怪しげな男たちに襲われ、自分が大きな策略にはめられたことを悟ります。それはヨーロッパ全土を揺るがす、錬金術をめぐった攻防でした……
 15世紀末クロアチアを舞台にした冒険物語。たくさんの人々が、それぞれの思惑で錬金術の薬の入った箱をめぐって暗躍するストーリーは、視点が「箱」に固定されているところがユニークです。しかし、主人公・マチアスが、もう少し前面に出た方が、より面白いとも思いました。
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77.「バレエ・シューズ」 ノエル・ストレトフィールド
★すぐ書房 1986年
★小学校中学年以上
 化石のコレクションをしている学者・マシュー伯父に拾われた三人の少女、ボーリーン・ペトロヴァ・ポージー。三人は姉妹としての契りを交し、フォッシル(化石)という名字を名乗り、誓いをたてます。──フォッシルの名を歴史の教科書に残すべく努力をする…… まずは、行方不明になったマシューに代り、一家の生活を支えるべく、児童演劇舞踊学院に入学し、舞台にたってお金を稼ぐことにします。その過程で、女優としての頭角をめきめきと現す長女・ポーリーン。天性のバレリーナとしての才能見せる三女・ポージー。お金を稼がなくてはいけないと思いつつ、本当の興味は飛行機や自動車等のメカにある次女・ペトロヴァ。三姉妹の成長を温かく面白く描いた少女小説です。
 1930年代のイギリスを舞台にしており、またその当時に書かれた物語なので、古典的少女小説の香りにあふれています。「世界名作劇場」的雰囲気が大好きな人にはとってもお薦め。素直に楽しく読める「愛にあふれる少女たちの成功物語」です。
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78.「映画にでた女の子」 ノエル・ストレトフィールド
★すぐ書房 1986年
★小学校中学年以上
  イギリス人のレイチェル、ジェイン、ティムの兄弟姉妹は、鬱気味の父親の転地療養のため、叔母の住むアメリカ・カリフォルニアで、冬の間、過ごすことになります。バレリーナの素質のある美しい姉・レイチェル。ピアノの才能のある弟・ティム。ジェイン一人が、これといった才能もなく、また不器量で、劣等感から気難しい性格をしていました。しかし、その気性が「秘密の花園」の主人公・メアリにそっくりだと、映画監督の目に止まり、ジェインは突然映画「秘密の花園」に出演することになります──
 原題「ムービー・シューズ」。「バレエ・シューズ」の姉妹編で、ポージー・フォッシルが登場します。女の子の成功物語であることには変わりありませんが、何事もはっきりと言うジェインが、等身大で非常に好感が持てます。(個人的な趣味を持ち出すと、性格の歪んだ、絶世の美少年子役・モリスが非常によかったです)
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79.「家族っていいな」 ノエル・ストレトフィールド
★すぐ書房 1986年
★小学校中学年以上
 1950年代前半。ロンドンの下町の牧師館に住むベル一家。牧師のお父さん、貧しい一家を切り盛りするお母さん、通いのお手伝い・ミセスゲージ、そして四人の子どもたち、ポール、ジェーン、ジニー、アンガス。次女・ジニーを中心に、貧しいながらも楽しく温かな一家の暮らしを描いた作品です。
 元のタイトルは「ファミリー・シューズ」。「バレエ・シューズ」「ムービー・シューズ(映画にでた女の子)」と並ぶ、ストレトフィールドの作品です。他2つの「シューズ」シリーズは、いわば「成功物語」ですが、「ファミリー・シューズ(家族っていいな)」はひたすら日常を描いています。しかし、ぐいぐいと読者を引き込む力は、決して劣りません。「世界名作劇場」でアニメ化すれば、良質な作品に仕上がると思います。
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80.「その時ぼくはパールハーバーにいた」 グレアム・ソールズベリー
★徳間書店 1998年
★中学生以上
 ハワイ・パールハーバーに住む、日系2世の主人公・トミカズ、13歳。和歌山から移り住んだ漁師の父、父を追って渡米した祖父、「写真花嫁」の母。5歳の妹。家には日本の文化があり、祖父は家宝だという日本刀を大切にしているけれど、トミカズはアメリカで生まれ、自分をアメリカ人だと思っています。しかし、1941年12月、日本軍のパールハーバー攻撃をきっかけに、日系人たちはスパイとして捕らえられ、トミカズの一家も崩壊してしまいます。
 アメリカ人の書いた、日系2世の少年を主人公にした、戦争児童文学です。太平洋戦争について、日本戦争児童文学とは角度の違った捉え方がされていて、考えさせられます。特に、故郷・日本を愛しながらも、現地の生活を、家族を守ろうとする祖父の姿には、戦争の愚かさを痛烈に感じました。
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81.「ハルシオン島のひみつ」 J・R・タウンゼント
★福武書店 1987年
★中学生以上
 大海の孤島・ハルシオン。近くに有人島はなく、島の回りは暗礁に囲まれ、断崖絶壁。めったに船も立ち寄りません。厳しい自然環境の島で、100人ほどの島民らは「導きの書」を口承している「読み人」の命令に従い、よそ者をいっさい受け入れず、乏しい農作物やわずかに取れる魚を分け合い、平和に暮していました。
 しかし、島に難民が流れ着いた時から、様子が少しずつ変わっていきます。難民の扱いをめぐって対立する島民。外の世界を垣間見ることにより「導きの書」に疑問を持つ者。自然災害。やがて、漂流者の手によって、誰にも読めなかった「導きの書」の内容が明かされます。それは、島民らが思ってもみなかった、忌まわしい島の過去でした──
 イギリス児童文学界では、非常に有名なタウンゼントの作品。「アーノルドのはげしい夏」に、高森的に大変失望していたので、期待せずに読み始めたのですが、非常に面白かったです。物語世界にぐいぐいと引き込まれました。外界から隔絶された島の変化は、現代社会を象徴していて考えさせられました。
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82.「この湖にボート禁止」 ジェフリー・トゥリーズ
★福武文庫 1990年
★小学校高学年以上
 1950年頃。ロンドンで母と妹の三人で暮すビル少年は、母親がいとこから別荘を遺産相続したことにより、北部の田舎に移り住むことになります。「旗の湖」と呼ばれる素晴らしい湖のほとりに建つ別荘がすっかり気に入るビルですが、唯一の不満は「この湖にボート禁止」。地主のアルフレッド卿が、湖への立ち入りを禁じているのです。
 表向きは「湖中央にある島の鳥獣保護のため」と言うけれど、湖に入ることにより、何か隠している秘密がばれるからでは? 妹や友達とともに、アルフレッド卿の行動をさぐるうちに、ビルはある事件にまきこまれていきます……
 一人称の語り口が軽妙で、思わず笑ってしまうほど。イギリスの田舎の学校生活も、生き生きと描かれています。ストーリー構成もサスペンス仕立てで、よくできた作品です。
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83.「黒旗山のなぞ」 ジェフリー・トゥリーズ
★学習研究社 1971年
★小学校高学年以上
 「この湖にボート禁止」(上記紹介)の続編。
 旗の湖の事件から一年。黒旗山にピクニックに出かけたビル少年ら四人は、道に迷ってしまいます。夕暮れ時にようやくたどりついた廃屋で一夜を過ごす一行。後にその廃屋が、戦時中に陸軍が民間人から強制収容されたものだと知り、新たな冒険とばかり、政府から取り戻す運動を始めます。
 一人称の語り口は絶妙。ビルの一年間の成長の証のように、文体も少し成長していますが、面白さは変わりません。田舎の学校生活、町の描写も実にいいです。「日常の冒険」という言葉が合う「黒旗山シリーズ」。あと3冊続編があるのですが、邦訳されておらず大変残念です。この本も、学研から30年近く前に出版されたきり、福武文庫に入れられたものも、第一巻のみの出版。私は続きが是非読みたい!!
 なお、学研版の作者名は「トリース」となっています。検索時はご注意下さい。
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84.「12月の静けさ」 メアリー・ダウニング・ハーン
★佑学社 1993年
★中学生以上
 高校ではみ出し気味のケリー。破れたジーンズにアーミージャケットとわざと汚らしい格好をし、勉強も落第すれすれ。好きな美術と国語以外は劣等生です。社会科のレポートに困り図書館へ行った時、いつも一人で本を読んでいるホームレスのウィームズさんが目につきます。「ホームレス」をテーマにしようと軽い気持ちからウィームズさんに近づくケリーですが、彼が「ベトナム帰り」であることを知った時から、なんとか力になりたいと思うようになります。一生懸命話しかけ、食べ物や着る物をあげたりするのですが、ウィームズさんは、一向にケリーに心を開きませんでした……
 「私は戦争の悲惨さを知っている」ウィームズと同じベトナム帰りでありながら、今はお金儲けに夢中(に見える)父親に、ケリーは言い放ちます。若さゆえのあまりの傲慢さ。しかし、それは、生活を支えなくてはならない大人たちにとって、同時に魅力でもあり、頑ななまでのまっすぐさに、後ろめたさを感じさせられたりもします。このあたりの微妙な心理が実にうまく描かれています。
 ケリーが自分の未熟さに気づき、また父親が心にかかえた傷をさらけ出した時、父娘のわだかまりがとけるラストは感涙ものでしたが、ベトナム戦争の傷跡は決して癒されないという事実に、重苦しさも残る小説でした。
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
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85.「《幻の馬》物語Vol.1 伝説の日々」 ジュマーク・ハイウォーター
★福武書店 1989年
★中学生以上
 白人がアメリカ大陸に侵入してきた時代から現代まで、アメリカインディアン三世代の物語《幻の馬》シリーズ第一巻。主人公アマナの少女時代を描きます。
 インディアンとしての伝統的な生活が、白人たちによって解体を始めた頃、アマナは生まれます。白人の持ち込んだ天然痘により村は崩壊、わずかに生き残った者たちとともに、アマナは生きるために、女でありながら、武器を手にバッファロー狩りに出たり、白人の交易所へ出向いたりします。やがてアマナは《伝説の女戦士》となるのでした。
 バッファローの皮で小麦や砂糖を手にいれなければ、生活できなくなるインディアンたち。それとともに、人も動物も自然もすべてが平等だった時代は遠くになっていく──インディアンの喪失の物語ですが、一方で主人公・アマナ自身も、女でありながら戦士になるという、いわば伝統を覆した生き方をしているところが印象的でした。女戦士としてのアマナの、なんと生き生きしていることか。馬を駆りバッファローを追うアマナの姿は、アマナの一生の中で繰り返し回想されるのですが、そのたびに、失われた日々が鮮やかに蘇り、読者の心を打ちます。
 インディアンを知りたい人にはお薦めの一冊。
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86.「《幻の馬》物語Vol.2 汚れなき儀式」 ジュマーク・ハイウォーター
★福武書店 1989年
★中学生以上
  夫を亡くし一族からも追放され、天涯孤独となったアマナは、ある日、フランス人とインディアンの混血の娼婦、アマリアと友達になります。やがてアマナは交易所のカナダ人と恋に落ち、身ごもりますが、出産を前に恋人は妻の元に帰り、アマナは一人で娘を産みます。
 極貧の生活を助けてくれたのはアマリアでした。アマリアは自ら経営する娼館に、アマナと娘のジェマイナを引き取ってくれます。
 ジェマイナは美しく育ちますが、白人に囲まれた生活は、インディアンとしての血筋を嫌わせます。アマナの勧めで、インディアンの青年と結婚しても、ジェマイナの思いは変わらないばかりか、夫婦の溝が深まるばかり。家族がぎすぎすしていく中で、アマナの希望は、インディアンの血を強くひいた、孫のシトコだけになります……
 白人侵入で大地を追われ、居留地においやられるインディアンたち。その喪失の怒りや悲しみが、これでもか、これでもか、というように綴られます。インディアンとしての誇りが、親子や夫婦間に亀裂を生む悲劇。アマナが時々思い返す、伝説の生きていた少女時代──豊かな大地に抱かれた幸福な時──二度と蘇らないその時が、美しいと同時にひどく悲しく読者の胸を突き刺します。第一巻があってこその第二巻です。
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87.「《幻の馬》物語Vol.3 暁の星をおびて」 ジュマーク・ハイウォーター
★福武書店 1989年
★中学生以上
 《幻の馬》物語第三巻は、主人公がアマナから、孫のシトコに変わります。
 アマナの娘・ジェマイナは、夫婦生活が破綻し、生活苦からリノ・シトコの二人を施設に預けてしまいます。兄のリノはインディアンであることを捨て、うまく立ち回りますが、インディアンとしてのヴィジョンを受け継いだ弟のシトコは、白人の世界と折り合えず「変人」として扱われます。
 のちに、ジェマイナの愛人の家にシトコは引き取られますが、インディアンの世界観を受け入れられず、苦しみ続けます。そんなシトコを救ったのは、芸術でした。シトコは絵を描くことで、自らの内的世界を表現するのでした──
 老婆となり、インディアンの「伝説の日々」を口にすれば「頭がおかしい」といわれるアマナの姿が、あまりに悲しい第三巻です。アマナと唯一同じ世界をわかちあえるシトコも、また苦難の道を歩まねばならない……《幻の馬》一家がたどる破滅のラストは、救いがありません。これが、インディアンの現実なのでしょうか。誇りを持ち続けるとは、こんなにも難しいことなのでしょうか。
 《幻の馬》を読むまで、私はインディアンのことを全然わかっておらず、白人の作った「インディアン像」を、何の疑問もなく受け入れていました。今、そんな自分が、とても恥ずかしいです。世の中には、知っておかなくてはならないこと、背景にある重さを理解して接しなくてはならないことがあると、学ばされました。
 なお、この話には第4巻があるそうです。読んでみたいです。作者ハイウォーターの自伝的要素が、さらに濃くなっているのだそうです。アメリカでは出版されたようですが、邦訳は未出版です。
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88.「北極星を目ざして」 キャサリン・パターソン
★偕成社 1998年
★中学生以上
 1850年頃のアメリカ・ヴァーモント州が舞台です。赤ん坊の時にジプシーの荷馬車から街道に落ちたとされるジップ少年は、孤児として救貧農場で働きづめの毎日を送っていますが、動物たちや弱者へのいたわりの心を決して忘れず、たくましく生きています。精神病の男・パットにも優しく接し、正常な時のパットの心を知ってからは、父のように慕い、心の支えにしています。
 そんなジップの不安は、時々救貧農場に現れる狡猾な男でした。「本当の父親に会わせてやる」と言われても、どうにも信用できなかったのですが、やがて、自分が奴隷の子であり、彼らが自分を連れ戻そうとしていることを知り、カナダへの逃亡を計画します……
 非常に有名なキャサリン・パターソンの作品です。「ワーキング・ガール」の続編で、リディも出てきますが、ラスト近くまで、私はそのことに気づきませんでした。
 パターソンの本のテーマはいずれも「家族」なので、個人的にあまり好きではないのですが、「ワーキング・ガール」同様、近代アメリカを描く、という側面を持ち、その分「家族」という色合が減少しているので、お薦めとしました。まっすぐなジップ少年には非常に好感がもてましたし、また、ストーリー的には申し分ないです。是非、「世界名作アニメ劇場」にでもしてもらいたい作品です。
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
同一作者の他作品 「お薦めその4」にもあり
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89.「ガラスの家族」 キャサリン・パターソン
★偕成社 1984年
★中学生以上
 母親に里子に出された少女ガラドリエル、通称ギリー十一歳。幼い時から、里親の間をたらい回しにされています。すべて、ギリーの大人への反抗心のせいなのですが、それが愛情に飢えたギリーの心の裏返しだとは、里親たちは気づきません。今度の里親、図体がばかでかく、家も薄汚れている、まるで、お金目当てに里親をやっているように見えたトロッターさん以外は……
 すさんだ少女が、優しい人に出会い、自分が必要とされることを知って、成長を遂げる物語。なんて書くと、全然面白くなさそうですが、反抗的なギリーの心情が、実にうまく演出されています。ちっとも迎えに来ない母親を、まるで女神のように思い、いつか一緒に暮らせる日を支えに生きているギリーの姿は、涙無しには読めません。昼メロ的な里親・トロッターさんや、黒人のランドルフ老人、自閉気味の少年・ウィリアムといった設定もうまいです。
 私はずっと、キャサリン・パターソンは嫌いだと思っていたのですが(家族像の捉え方が薄っぺらに思えていたので)、今回ようやく「ガラスの家族」を読んで、やはりこの作家は名声にたがわずすごい、嫌いというのは誤解、ということを思い知らされました。
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
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90.「剣と絵筆」 バーバラ・レオニ・ピカード
★すぐ書房 1981年
★中学生以上
 14世紀のイングランドが舞台。スコットランドとの戦に明け暮れる時代、伯爵家に生まれたスティーブンは、内気な性格から「臆病者」と馬鹿にされ、騎士には向かないと僧侶にされてしまいます。「騎士になって家族を見返してやる」と僧院を脱走するスティーブンですが、念願の騎士になった時、なぜか時々心に隙間を感じます──やがて彼は気づきます。自分が本当にやりたいこと、なりたいものに。そして、真の幸福とは、自分を理解してくれる人がいること、愛する人がいることに……
 原題「ONE IS ONE」。「自分は自分」ということでしょうか。内気な主人公が、時の流れの中で心を寄せる三人の人物(と動物)。犬のアミール、年上のペイガン卿、そして従者のトマス。そこはかとなく感じられる耽美さ(なんて言うと、作者に怒られるだろうが)が、大変魅力的な作品。高森的には、独特の美しさと危うさを持った面白い作品でした。(耽美系が好きな方にはお薦め!)
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91.「光草─ストラリスコ─」 ロベルト・ピウミーニ
★小峰書店 1998年
★小学校高学年以上
  時代はおそらく200年ぐらい前。トルコに住む腕のいい画家・サクマットは 北の地方の領主に、病気の息子のために絵を描くように頼まれます。
 奇病で光に当たることのできないマドゥレールは、外の世界を見ることができません。サクマットはマドゥレールのために、壁一面に、外界──山や海、草原を描くのでした。
 押さえた筆使いによる文章が、非常に美しく、そしてまた、非常に悲しい物語です。 文学とは、ここまで美しく人の心を、情景を描けるものなのか。淡々と悲しみをつづっていけるものなのか。後半、悲しくて悲しくて、私は涙が止まりませんでした。
 文学って素晴らしいなぁ、としみじみ思わせる本です。
同一作者の他作品 「お薦めその3」にもあり
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92.「フリーク・ザ・マイティ」 ロッドマン・フィルブリック
★講談社 1995年
★中学生以上
 マックスは身長190センチの巨漢。だけど幼い頃の事件が元で学習障害児です。ケビンは病気で身長がたったの70センチ。だけど素晴らしい頭脳を持っている。マックスがケビンを肩車すると、二人の身長は260センチになります。素晴らしい肉体と頭脳が合体した「フリーク」は、誰にも負けない勇士になるのです。
 マックスのケビンに対する視線がとてもよかったです。そしてマックスが「フリーク」と呼び続けるケビンの言葉の一つ一つの、なんと魅力的なことか。
 映画「マイ・フレンドメモリー」の原作です。映画は未見ですが、映画のCMを見た瞬間に「フリーク・ザ・マイティ」の映画化だとわかりました。マックスがケビンを肩車しているシーンは、この本の表紙にぴったりと重なりました。
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93.「わが青春の輝き」 マイルズ・フランクリン
★岩波少年文庫 1995年
★中学生以上
 1901年の作。オーストラリアの奥地で暮らす少女の私小説です。開拓時代のオーストラリアの生活や風景が生々しく描かれています。
 主人公の16歳の少女・シビラは、良家の出身ながらも家が零落し、奥地での厳しい生活のために農作業や家事に追われています。しかし、気性が激しく音楽や小説に強い憧れを持つシビラは、他の人々のように、そんな生活に満足することができません。母の裕福な実家に預けられ、そこで水を得た魚のように生き生きと暮らすシビラですが、「結婚して良妻賢母になる」という祖母や伯母の考えにどうしても同調できず、愛する男性からのプロポーズも断ってしまうのでした……
 シビラの気性の激しさがとても魅力。相手の男性を愛していながらも、「男女の恋愛なんて一時的なもの」と、本などから得た「知識」から結婚に踏切れない乙女心は実に切ないです。作者がペンにこめた迫力がひしひしと感じられる作品です。
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94.「夏の丘、石のことば」 ケヴィン・ヘンクス
★徳間書店 1996年
★小学校高学年以上
 母親を病気で亡くし、さらに事故で大やけどを負った少年・ブレイズは、自分の殻に閉じこもりがち。奔放に恋に生きる母親を持つ少女・ジョゼルは、寂しさをもてあましています。ジョゼルはブレイズの心を傷つけることで平安を得ますが、ブレイズと親しくなるにつれ、自分のしたことを悔やむようになります。
 心に傷を持った子ともたちの行動一つ一つに、心を強く揺さ振られました。特に、やってはいけないとわかっていながら悪いことをし、また、謝りたくても謝れないジョゼルに惹かれました。行動を丁寧に描くことにより、心の動きを浮き彫りにし、そしてまた、ストーリーを作り上げる。これもまた、文学の魅力だと思います。
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95.「冬の入江」 マッツ・ヴォール
★徳間書店 1999年
★中学生以上
 ストックホルムの貧しい地域で育ったヨン少年。父親は一歳の時に失踪し、母親は八年前から男と同棲中。その「くそ馬鹿野郎」は姉にまで手を出すし、親友は極右集団に入ってしまう……文学とスポーツの才能に恵まれたヨンは、難しい俳優専門学校に自力で入学し自分の道を見つける中で、お金持ちの少女エリザベスと知り合います。自分の抱えている問題を隠しエリザベスと交際を続けるヨンですが、身分の差から、やがて破局が訪れます──
 ストックホルムの夏から冬にかけてを舞台にした、生々しい青春小説です。もし日本の作品だったら、児童書としてでなく一般書として出版されるような気がします。海外では高く評価され、またティーンエイジャーにも支持されているようです。ドイツ児童図書賞受賞作。児童書として出版した徳間書店に拍手!
 扱っている事件はかなり刺激的ですが、少年の繊細でまっすぐな心が物語の中に一本ぴしっと通っていて、高潔さが感じられます。各章冒頭の少年のモノローグの問いかけはあまりにストレートで、どきりとさせられます。日本児童文学ももう一歩進まなくてはいけないと考えさせられました。「現実」を把握するベクトルをもう少し変えるべきだと。
同一作者の他作品 「お薦めその4」にもあり
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96.「ひとり歩き」 ジェームズ・マーシャル
★すぐ書房 1985年
★小学校高学年以上
 アメリカ人のメアリ(13歳)とピーター(8歳)の姉弟は、オーストラリア・アデレードの伯父の家を訪ねる途中で、飛行機事故に遭い、たった二人きり、砂漠の真ん中で迷子になります。伯父の家を目指して歩き出す二人ですが、水も食べ物も無い土地に、メアリは早々に死を覚悟します。
 ところが、原住民の一人の少年に出会い、彼に助けられる形で、旅をすることになります。少年は、大人への通過儀礼──たった一人で砂漠を歩き続ける「ひとり歩き」の途中でしたが、過酷な自然に対してあまりにも無防備な二人の姿に、保護の心を持ちます。一方、ピーターは、すぐに少年と打ち解けますが、メアリは「未開の地の野蛮な人間」と心を閉ざしてしまいます。
 文明と未開の対比、そして、そんな溝など超越してしまう物とは何か。哲学的テーマを含みつつも、この物語の魅力は、何といっても、オーストラリアの砂漠の自然描写でしょう。その美しい世界を堪能したい作品です。
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97.「だれかがドアをノックする」 アン・メリック
★徳間書店 1998年
★小学校高学年以上
 父親に盗みをさせられる毎日のトッド。虐待され、不潔で、いつも飢えています。過去の記憶もなく、ただ怯えて暮らすだけのトッドでしたが、ある日家の中のボロを繋ぎあわせて作った人形がしゃべり出します。──緑色のドアの家へ行きなさい…… トッドはこのしゃべる人形とともに家を出、過去の記憶を取り戻すべく「緑色のドアの家」を探す旅を続けるのでした。
 合間に引用される多数のマザー・グースの歌が印象的な本。日本人にはあまり馴染みが無いので感動も今一つの気がしますが、マザーグースに慣れ親しんでいるイギリスの子には、とても面白い本なのだろうと思います。ストーリー的には、特筆すべきところはありませんが、歌との兼ね合いがよいということでお薦めとします。
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98.「歌う木にさそわれて」 マルガレータ・リンドベリィ
★徳間書店 1997年
★小学校高学年向き
 紀元前2500年。赤ん坊の時に「羊飼いの民」に拾われた少年・ロー。ローは自分を一族の者と疑いませんが、一族に次々と降りかかる不幸──麦も育たなければ狩りもうまくいかない、羊の流産──は、すべて拾い子のローのせいと判断した父親に、12歳の時に小島に捨てられます。なぜ自分が捨てられたのかわからないローは、一人で心細く船であたりを走りますが、やがて、「歌う木」にたどり着きます。物語として作られ物だと思っていた「歌う木」に……
 太古の物語。捨てられた子の悲痛な叫び。お互いを野蛮人と思い込んでいる「羊飼いの民」と「アザラシの民」。農耕民族と狩猟民族との思い違いによる疑心暗鬼。しかしそれらがまるでファンタジーのように感じられる美しい物語です。
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99.「ツリーのないうち」 ゲイル・ロック
★すぐ書房 1984年
★小学校中学年以上
 1940年代、アメリカの片田舎を舞台に、クリスマスを描いた物語。アデレイトは父親と祖母との三人暮らし。幼い時に亡くなった母親の記憶はありません。アデレイトはにぎやかなクリスマスが好きなのに、お父さんは決してクリスマスツリーを買ってくれようとしません。あの手この手を使ってツリーを手に入れようとしたアデレイトは、ついに、教室のツリーを譲り受けて家に持って帰ります。ところが、ツリーを見たとたん、お父さんは怒り出し、そして悲しみます。ツリーを買ってくれないのは、死んだお母さんのことを思い出すから──お父さんの心を知ったアデレイトは、ある行動に出ます……
 大人が読むと、筋書きが最初からわかってしまうのですが、この本の素晴らしいところは、父親の心を知った後の、主人公の少女の行動です。ぎくしゃくしていた親子が打ち解け、ツリーを飾るラストは大変感動的。良質なクリスマス・ストーリーです。
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100.「カレジの決断」 アイビーン・ワイマン
★偕成社 1998年
★小学校高学年以上
 アメリカ・ペンシルバニア州で、18世紀そのままの暮らしを続けるアーミッシュ。18世紀終わりにヨーロッパから移住してきた、キリスト教アマン派の人々のことです。カレジはアーミッシュの少女。電気も電話も車もない質素な生活に感謝をしながらも、一方で、14歳で学問は終わりで、後は結婚し、一生家族のために家事を続ける生活をつまらなくも思います。そして、身障者の弟ジェイソンの病気を「神のおぼしめし」としかとらない家族の考え方に疑問を抱き始めるとともに、アーミッシュとして生き続けるか、外の世界へ飛び出すかの選択を迫られます。
 カレジの悩みが、少し前の日本の女子学生の悩みとだぶって読めました。単純に読んでしまうと、アーミッシュ批判と取れなくもないですが、その悩みは、もっと根源的なものであり、またカレジの決断には、やはり胸を打たれます。
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