十月要諦
- 10/1は中国建国60周年の記念日で、北京での盛大な行事がTVで報道された。軍事パレードが復活し、国産の長距離ミサイル、戦闘機などの兵器が誇示された。宇宙飛行ロケット、高速鉄道、電気自動車などで技術力の高さをアピールした。民族摩擦への配慮もあった。各紙は論評に多くの紙面を割いている。読売のシリーズ「巨大中国建国60年」の第2回は「レアアース 戦略的「独占」」、第3回は「漢民族優位の「民族団結」」、第4回は「党、24時間ネット監視」、最終回は「「裁判は無駄」民衆暴動」であった。どのテーマも、世界の中国に関する懸念事項として、何度か取り上げられてきたものだ。NHKクローズアップ現代は国谷キャスターを中国に派遣した。
- 9/30最高裁は07年参院選の一票格差に対し、合憲としたが、「大きな不平等」という異例の言及をした。10/1広島地裁は、景観は国民の宝という理由で、鞆の浦の埋め立てを差し止める判決を出した。万葉集時代からの著名地である。推進派は地域振興を詠うが、市街中心を道路が走っても、若者が戻り活気が取り戻せるとは思えない。観光資源を失ってますます寂れるのが落ちだ。ここだけではなく地方の開発推進派とは、たいていは地権者のことではないか。
- 毎日の社説ウォッチングは、亀井金融相の「徳政令」(一律返済猶予)案に対し、毎日、朝日、読売、日経、産経がこぞって批判的であると報じた。日経は「資本主義ではありえない」としたが、九月要諦に書いた私の意見と同じである。10/21西川郵政社長が辞任を表明した。全国一律サービスなど、民営化路線に逆行する方針を政府が出しているためである。経費の流れから言えば、全国一律サービスは、ダム建設などの公共事業と同様に、都市民の犠牲による農漁村サービスである。元大蔵省出身の渡辺新社長を選んだ亀井担当相は、反小泉イズムを前面に打ち出した答弁を国会で行った。民営化路線を旗印に、小泉さんが自民の勝利を勝ち取ったことを忘れては、来年の参議院選挙に差し障ると思う。
- 前原国交相の指導で、経営不振の日航が企業再生支援機構の主導による公的管理に入ることが決まった。従来の自主再建路線から大きく外れることになる。山崎豊子のフィクション小説「沈まぬ太陽」が映画化され話題を呼んでいる矢先である。この小説は日航労組委員長がモデルで、彼は在職中冷や飯を食わされ続けたという。日航の病巣の一つをえぐると聞く。労組の批判を封じ続けた日航が破綻寸前なので、当然注目されるわけだ。
- 前原国交相が羽田のハブ空港化推進を明言した。今までの自民政権の空港行政の、国益不在と云える迷走ぶりは国民に危機感を募らせてきた。日本のハブたるべき成田空港が都心とは交通不便で、目論見の成田を国際線、羽田を国内線にという役割を繋ぐ交通網となると、高速道路以外は整備できていないという現状、成田が国益を無視した地権者エゴで長年にわたり拡張不能の状態が続き、今も不自然な迂回路を使用しているという現状、そもそも内陸空港は夜間騒音のために24時間開港不能という事実などあって、解決のために100年河清を待つ間に、アジア各空港のハブ化が着々と進んだ。
- 狭い国土に99の地方空港という無駄は、JAL合理化で韓国ハブ空港とにだけ定期便が残るという無残さが残る地方空港を生じるという話だ。韓国ハブ空港は日本の地方空港とがっしり繋がっていて、ハブ空港内だけの乗り換えで、往来できる。初めての外国人が羽田・成田間の乗り換えを行うときの複雑さを考えたら、だれでも韓国経由を選ぶであろう。クルーズ船のコース案内を見ていたら、「輪島港初寄港」の文字を見た。大型客船が着岸できる港を新たに能登半島の北端に作った。民放のニュース番組で、同様の大型港湾設備が何十と地方に生まれていると知った。どんな用途があるのだろう。壮大な無駄使いである。
- ダム建設中止の時もそうであったが、前原発言に対する地方の声には、地元利益の主張ばかりで、大所高所に立つ国益に対する発言が皆無であるのが全く悲しい。日本がアジアでは一人勝ちに近い経済大国であったときと同じ姿勢のまま、中央に権益確保を要望している。私はFTA交渉においても、現内閣が、コメ800%関税などという世界のどこにも通用しない方針を捨てて、諸国との妥結にピッチを上げるように要望したい。いくら国内農業を庇護しても、予測される食糧不足時代には、自給率40%では60%が飢えるのである。世界の食糧価格がいかに高騰しても60%分の食料が買える経済力を養うために必要な施策を、すべてやっておかねばならない。食糧不足時代は近未来の話だ。農業の個別所得保障などもってのほかと思える。国の食料購買力保持の目的から言えば、中小産業の個別所得保障の方が理にかなっている。そもそも国民全員をカバーできるはずもない農業にだけ優先的にばらまくのは不公平である。
- NHK世界遺産番組でドイツの近代集合住宅群を見せた。ブルーノ・タウト設計の労働者用アパート群である。産業革命は大都市近隣から人口の大量流入をもたらした。彼らは劣悪な環境の住宅に住まざるを得なかった。たとえば便所が無くて共同廊下に置いた桶で用を足す、狭い部屋に何世帯もが詰め込まれていると言った状況だった。ブルーノは66m2と日本の公営住宅並みの狭い住居ながら、低所得者層の共同住宅のあるべき姿を構想し、実現した。馬蹄形のアパートは中央空地を森のような環境に保持してある。馬蹄形でないアパートも建屋間の距離を広く取って憩いの空間にしている。日本の家屋はたとえ長屋であっても庭が付きものだったのに、東京一極化が目立ち始めた頃から、庭を排除するようになり、今や億ションですら庭がないような設計が当たり前になっている。一極化を排除しないと都民の心の中まで砂漠化してしまう。亀井大臣の家族間殺人増加に関する自民党系財界人の責任追求は、突飛なようだが、基本を言い当てている部分がある。
- 10/13 NHK世論調査では内閣支持率が70%と出ていた。八ツ場ダム前原方針は賛成30%反対20%であとは様子見だった。読売の10/5朝刊に、内閣支持率は71%と堅調ながら、連立「評価せず」が50%に達し、「評価する」を逆転したと出た。連立否定は亀井大臣の持ち込む混乱が原因と解説していた。10/18の読売は「連立足並み乱れ53%」、「(八ッ場ダム建設中止方針などに対する)公約修正容認76%」という見出しで、何回目かの世論調査の結果を報じた。毎日は10/19の朝刊に、「公約、半数に着手」、「内閣支持率72%」、「補正2.9兆円削減「評価する」71%」と載せた。新政権発足間もなしで、実質はこれからという時期に、矢継ぎ早に行う世論調査にどれほどの意味があるのか。だが読売の反民主党、毎日の親民主党姿勢は表現からしっかり読み取れる。
- 神奈川と静岡の参議院議員補選で民主党が勝った。圧勝ではなかった。首相が「内閣の姿勢が評価された」という発言は正しいようだ。首長選では現職が強かった。
- 10/18の新聞に、概算要求が95兆円を突破し、過去最大となったと報じられた。そのうち、上記農業個別保証を含めたマニフェスト用予算は地方交付金増額を入れると、8.8兆円で、補正予算見直しで3兆円、埋蔵金で4兆円を捻出したとしても、税収の落ち込み(40兆を切る可能性大)を入れたら前代未聞の国債発行(50兆円以上)になるかもしれない。絞り込みはあるだろうが、華々しく政治主導の予算を打ち出した結果がこれでは落胆も甚だしい。政府試算では貧困率15%で世界30カ国中の第4位という。一時は国民総中産階級を謳歌していたのに、いつの間にか格差格差である。それにしても厚労省予算の3.7兆円増大は極端に過ぎる福祉投資である。
- 台風18号が10/8の1日をかけて紀伊半島東岸から伊勢湾、長野県を通り東北に抜ける最悪のコースをたどった。上陸時は最大平均風速45m/s最大瞬間60m/s暴風域半径200kmの大型台風であったが、伊勢湾の高潮が3.5mと恐れたほどではなくかつ過去の被害に基づく対策が功を奏して、大災害には至らなかった。
- 2016年オリンピック開催地がブラジルのリオ・デ・ジャネイロに決まった。シカゴは1回目、東京は2回目、マドリードは最後の3回目の投票で落ちた。各国は首脳級をIOC総会会場に送り誘致合戦を行った。政治困難山積の中のお祭り騒ぎに嫌気を感じる。東京は石原知事の旗振りにもかかわらず、競技団体以外は白けていて、特に地方の支持率が低いのが問題だった。私も1度は開催した東京ではなく、大阪とか名古屋であれば賛成しただろうと思った。誘致運動に150億円をかけたという。石原知事は落選の責任につきJOCほかの周囲に八つ当たりしている。リオは彼の発言に抗議した。
- 女子テニスの杉山愛選手が引退した。17年間の現役期間、毎年100回以上国際試合に出場した。WTAの自己最高ランキングはシングルス8位、ダブルス1位であった。パ・リーグの優勝は日本ハム、セ・リーグは巨人であった。体操の世界選手権の男子個人総合に内村選手が金メダルを取った。女子では鶴見選手が銅メダルを取った。日本女子としては43年ぶりの賞であった。ただ大会にはエントリーしていない有力選手があるようなので、めでたさも中ぐらいである。
- 女優・南田洋子が死去した。名脇役であった。「挽歌」の小説家・原田康子氏が逝った。久我美子主演のその映画はTVで見たが、小説発表後何十年も後だったのに新鮮であったのを記憶している。落語家の三遊亭円楽師匠が月末に逝った。
- 文化勲章受章者5人と文化功労者15人が発表された。文化勲章の速水融氏の歴史人口学は、ややもすれば定性的著述に陥りがちな歴史学に、定量的視点を追加した意味で注目していた。本HPに氏の著書の引用がいくつかある。
- ノーベル平和賞にオバマ米大統領が決まった。核廃絶の理念を世界に訴えたという理由のようだ。この理由なら被爆以来64年間たゆまぬ努力をし続けた広島・長崎の歴代市長こそこの賞にふさわしいと思う。'20年のオリンピック開催地に広島・長崎が共同開催の立候補を表明した。IOCはスエーデン王立科学アカデミーとは哲学が違うだろうが、東京よりは迫力があるだろう。
- ノーベル医学生理学賞が、テロメアとテロメラーゼ酵素の仕組みの発見に与えられる。テロメアは染色体の末端にあり、細胞分裂ごとに短くなることから寿命を決める因子として注目されてきた。テロメラーゼはその修復に当たる。ガンではテロメラーゼの活性化が際限なく細胞を分裂させる。物理学賞は光ファイバー用高透明度ガラスの開発とデジカメ等の目になるCCD素子の開発に与えられることになった。前者は高純度ガラスのことであり、特別にレベルの高いブレークスルーであったとは思えない。光ファイバーの父・西沢元東北大学長を差し措いての香港の学者の受賞は、いかがなものかと思われる。平和賞などにも見られる選考に関するスウェーデン王立科学アカデミー独特の、中国への気遣いではないか。化学賞は、細胞のタンパク質合成工場:リポゾームの構造と機能に関する研究に与えられた。
- 総額2700億円の最先端研究開発支援プログラムの見直しが行われる。このプログラムは政権交代が決まった麻生内閣が急遽決定したいきさつがある。テーマの選別にはかなり疑問点がある。東大だけが全30テーマのうちの11と突出している。他大学あるいは研究所は多くても2テーマだ。野副先生を入れたらノーベル賞受賞者3名を数える名大からは1件も選ばれなかった。理系ノーベル賞受賞関係者の最多数を誇る京大でも2件だ。このプログラムは京大・山中教授がiPS細胞研究で画期的成果を出し、世界が一斉に関連研究に投資を始めたとき、日本が立ち後れたことに対する反省から出発した。成果が出たら間髪を入れずに研究投資する姿勢が問われているのであって、失礼ながら悪のりで手を挙げたと思える人に、著名教授だからと言って、ばらまくのは愚の骨頂である。いまiPSに相当するほどのオリジナリティが確実評価できる研究が、さらに29件あるわけではない。鳩山内閣が案件を増やし、総金額を引き下げるのは適切な処置である。東大偏重は東京一極化の象徴でもあり、その意味でも反対である。
('09/10/31)