なぜ干潟・浅瀬を破壊してはいけないのか

〜『東京湾 魚の自然誌』を読む〜


鈴木良雄



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 最新刊の東京海洋大学魚類学研究室編『東京湾 魚の自然誌』(平凡社、本体2800円)を読みました。


■魚の生活史や東京湾の環境などを考察

 この本は、東京湾の地形や水環境からはじまり、東京湾が魚に対してどのような場を提供しているか、どのような種類が、いつ、どこで、どのような大きさで出現するか、さらには東京湾の環境問題などについて、豊富なデータをもとにくわしく考察しています。

 東京湾で釣りをしている人や、生物調査・自然観察会に参加している人などにとっては馴染みの深い魚がたくさん登場します。マハゼ、エドハゼ、チチブ、カタクチイワシ、メバル、イダテンギンポ、サッパ、アユ、アナゴなどです。
 これらの生活史や東京湾の環境などが詳細に書かれています。


■かつての市川市行徳の海は泥干潟だった

 とくに印象に残った箇所をあげると、市川市行徳地区に広がっていたかつての干潟は泥干潟であり、また、人工海浜は自然の干潟にはおよばないと述べている点です。
 こう記しています。

    《湾最奥部に市街地の中に取り残されるようにしてできた潟湖がある。市川市の行徳にある新浜湖だ。新浜湖一帯は、かつては海だった。今の新浜湖の北西の隅がかつての海岸線で、今でも当時の堤防が残っている。その外側には広大な干潟が広がり、潮が引くとかなり遠くまで泥干潟が現れたらしい。堤防の内側は、養魚場とご猟場以外はハスの田んぼやアシ原、沼などの湿地帯が広がっていたという。
     戦後しばらくすると、首都圏の急激な発展とともに、道路や工場用地を確保するために湾奥部で埋立てが盛んになった。現在の浦安や行徳の地域もその対象となり、1964年には大規模な埋立て工事が行われ始めた。しかし、広大な湿地帯に飛来する水鳥を保護するために、70年に「行徳近郊緑地特別保全地区」が指定され、さらに沖合の塩浜地区を埋立てるに際して保護区の造成工事も始められた。こうして、急速な開発とともに周りは陸地となったものの、北東の水門と南西にある暗渠で東京湾と連絡している半閉鎖的な潟湖である新浜湖ができあがったのである。
     この新浜湖だけでなく、今回取り上げたほとんどの河川では、かつては河口部に広大な干潟域をもっていたが、1950年代から続く埋立てや浚渫によって干潟が激減している。したがって、これらの干潟域と比べて、人工海浜の種多様性が高かったとしても、その結果をもとに人工海浜が自然の干潟域よりも魚類の生息場所として優れているとはいえない。》

 三番瀬市川側の猫実川河口にひろがる海域(猫実川河口域)は浅瀬ですが、大潮の干潮時には広大な泥干潟があらわれます。そこには多種多様な生き物が生息しています。
 しかし、三番瀬再生会議などでは、「この海域はもともとは泥干潟ではなく砂質干潟だった。だから、覆砂して人工干潟にすべき」ということを“埋め立て推進派”が盛んに主張しています。
 しかし同書は、この海域は埋め立て前も泥干潟であったと書いているのです。

 豊富なデータにもとづき、「人工海浜が自然の干潟域よりも魚類の生息場所として優れているとはいえない」と結論づけているのも印象的です。


■干潟の前縁に広がる浅瀬も重要

 もうひとつ印象に残ったのは、浅瀬の重要性を強調していることです。
 同書は、干潟と浅瀬からなる環境を「干潟域」と呼び、その大切な役割についてこう書いています。

    《干潟とは砂地や泥地からなる平坦な地形のうち、潮の干満にともなって冠水と干出を繰り返す潮間帯のことであり、一般に、河口汽水域や潟湖の岸と中州、河口近くの海岸に形成される。干潮時の干潟面で生きていられる魚は限られているから、魚にとっては干潟の前縁に広がる浅瀬も重要である。そこでここでは、干潟と浅瀬からなる環境を干潟域と呼ぶことにする。
     干潟域はさまざまな魚種の成育場であり、また、水産上有用な魚介類が豊富に生産される場所であると考えられている。しかし実際には、干潟域にどんな魚が出現するのか、そして、この特殊な環境で魚はどのような生活を送っているのかといったことさえ、よくわかっていない。ここでは、東京湾の干潟域での研究から、それらを探ってみたい。》



■干潟域(干潟と浅瀬)はなぜ破壊してはいけないのか

 さらに、同書を監修した河野博氏(東京海洋大学魚類学研究室教授)はこう述べています。

    《東京湾の干潟域や砂浜海岸を利用する魚がわかることで、どうしてこれらの水域が必要でなぜ破壊してはいけないのかが理解できます。さらに、ふつうは交通の場として考えられている東京湾の沖合海域にも、多くの魚が生活していることがわかり、東京湾のもつ多様性に驚かされると思います。》

 東京湾や三番瀬などにかかわっている人にはぜひ一読してもらいたい本です。

(2006年7月)






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