東京湾は有明海の二の舞になる恐れも

〜宇野木早苗『有明海の自然と再生』を読んで〜


鈴木良雄



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 近刊の宇野木早苗著『有明海の自然と再生』(築地書館)を読みました。
 この本は、諫早湾の潮受け堤防閉め切りによって有明海の自然が大きく変化し、漁業が大打撃を受けたことをくわしくとりあげています。
 著者は、半世紀にわたり日本の海を見続けてきた海洋学者です。「豊饒(ほうじょう)の海」とうたわれた有明海が諫早湾干拓事業によって壊滅的な打撃を受けたメカニズムを明らかにするとともに、有明海再生の道を提起しています。


■三番瀬再生事業が進めば、
  東京湾は有明海の二の舞になる可能性が高い

 ところで、この本を読むと、三番瀬で進められている再生事業が、諫早湾干拓事業や「有明海再生事業」と酷似していることがわかります。
 結論を言えば、このまま三番瀬再生事業が進めば、東京湾は有明海の二の舞になる危険性が高いということです。


■ハード的対策重視の再生事業

 たとえば、同書にはこんなことが書かれています。
     「今日、有明海の特産種や準特産種の大部分は絶滅の危機に瀕しているといわれています。ただし残念なことに、一見地味な泥干潟の生物たちが絶滅の危機にあることは、噛乳類や鳥類などの場合と異なって、一般にはほとんど注目されていないのが現状です」
     「トキの例に見られるように、系の一部に手をつけて壊し、その上部の生きものが滅び例はよく聞くところです。これは漁業にも当てはまります。たんに漁獲対象生物の資源量増加のみを考えて、種々手を加えて生態系を破壊してしまい、結局目的の漁獲の増加は得られず、他の生物にも影響を及ぼす例があります。多様な生態系の維持こそが、永続的で健全な漁業の基礎であると考えなくてはなりません」
     「(国が作成した有明海再生基本方針)にもとづいて、国および各県では、自然の復元力を期待することなく、水質と底質の浄化および漁場環境の整備やいろいろなハード的対策を考えています。海域を対象にした具体例を若干あげると、干潟の造成、汚濁した海底への覆土、作澪(さくれい)による海水交換増進、混合撹拌(かくはん)作用による貧酸素水の解消、調整池の浄化作用の強化などです。これらは、一時的にまた部分的に効果をもつことはあるでしょう。しかし広く汚濁された有明海の浄化には目を向けずに、局所的に改善しようとするものです。あたかも重病人の病因に手をつけることなく、局所的対症療法を実施することに対応していて、治療費のみは累積しても、患者の本格的な回復はほど遠いことが予想されます」


■三番瀬再生事業の焦点は浅海域の人工干潟化

 三番瀬でも同じような考え方や手法で再生事業が進められつつあります。つまり、自然の復元力に依拠するのではなく、公共工事というハード対策によって「再生」するということです。
 猫実川河口域(三番瀬の市川側海域)に土砂を入れ、そこを人工干潟化する動きが強まっています。そのひとつの目的は「漁場再生」です。人工干潟にすれば、アサリが増えたり、ノリ漁場の改善につながる、というものです。
 これは、宇野木氏が指摘するように、「漁獲対象生物の資源量増加のみを考えて、種々手を加えて生態系を破壊」するものです。


■多様な生態系の維持はまったく無視

 猫実川河口域は、「三番瀬の水生生物の最後の生き残りの部分」(望月賢二・元千葉県立中央博物館副館長)とか、「三番瀬の生態系の中で唯一の泥質環境であるとともに、汽水生物が唯一生息する場所」(同)などとよばれています。
 この海域には、広大な泥干潟が存在し、多種多様な生き物が生息しています。たくさんの稚魚が泳ぎ回っていて、東京湾漁業に大きな役割を果たしています。アナジャコも無数に生息していて、浄化能力も非常に高い海域です。
 しかし、三番瀬再生事業では、こうした大切な役割や価値はまったく無視です。市民参加の三番瀬再生会議でもまったく議論されません。多様な生態系の維持こそが永続的で健全な漁業の基礎であるという視点もまったくありません。


■東京湾のガンを発生させることが再生事業?
  〜有明海の教訓などがまったく生かされない〜

 著者の宇野木氏は、こう書いています。
     「干拓事業は有明海にとっていわば癌(がん)のような存在であって、この事実を明確に認識して、これをどう処置するかが有明海再生の鍵になります」
 ところが、三番瀬では、最も大事な海域をつぶして人工干潟にすることが再生事業の最大の焦点になっているのです。これは、東京湾にとってガンになるような存在をわざわざつくろうとしているのと同じです。
 そこには、有明海の教訓などがまったく生かされていません。


■委員の大多数は、猫実川河口域を一度も見たことがない
 〜三番瀬円卓会議や三番瀬再生会議の実態〜

 三番瀬再生会議の委員たちには、この本をぜひ読んでもらいたい思いです。
 しかし、それは無理でしょう。なにしろ、「三番瀬円卓会議」(再生会議の前身)の発足から4年以上がたつのに、円卓会議や再生会議の委員は大多数が猫実川河口域にいちども足を踏み入れたことがないのです。
 ですから、大潮の干潮時に広大な泥干潟が現れることを知りません。約5000平方メートルの貴重なカキ礁を見たこともありません。
 また、そこにどんな生き物が生息しているのかも知りません。というか、大半の委員は、そんなものには関心がないようです。
 これが、三番瀬円卓会議や三番瀬再生会議の実態です。

(2006年5月)






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