(2011年)4月21日、NHK−FMの「まるごと千葉 60分」に牛野くみ子さんがゲストとして出演し、インタビューを受けました。テーマは「三番瀬・猫実川河口域は“宝の海”」です。以下は、そのときのやりとりです。
《4月21日生放送 NHK−FM「まるごと千葉 60分」》
三番瀬・猫実川河口域は“宝の海”
三番瀬市民調査の会 副代表 牛野くみ子さん
みなさん、三番瀬(さんばんぜ)をご存じでしょうか。三番瀬とは、東京湾に残された自然干潟と浅瀬のことです。干潟は、潮の満ち引きによって冠水と干出をくりかえす場所です。きょうは自然環境をテーマにお送りします。
今夜、ゲストにお迎えしたのは、三番瀬を守る活動にたずさわること40年という、習志野市袖ヶ浦の牛野くみ子さんです。牛野さんは現在、市民団体「三番瀬市民調査の会」の副代表を務めておられます。
■習志野市の液状化被害
──インタビューをはじめる前に、先月取材にうかがったとき、習志野市も液状化の影響がでているということで、液状化の様子をみせていただきました。その後、ライフラインなどの復旧は大丈夫ですか。
【牛野】地震によって下水道管がやられてしまいました。そのため、「水はいっさい流すな」ということになり、トイレや風呂など全部が水を流せないことになりました。
やっと、4月3日から水道水の使用制限が75%になり、トイレだけは水を流せるようになりました。しかし、「風呂はなるべく控えてください」「洗濯はコインランドリーに行ってください」という指示がでています。
──まだ完全には普段の生活にもどれない、ということですね。
【牛野】そうです。
■三番瀬への地震の影響
──三番瀬は地震の影響がなかったのでしょうか。
【牛野】三番瀬も影響がありました。じつは、きのう(4月20日)は市民調査の予定日でした。しかし、大地震からあまり日がたっていないということで、二人だけがボートで現地に行き、私たちは護岸からカキ礁が干出するのを見ました。きのうは干潮の潮位(予測値)がマイナス10cmだったので、干潟もかなり干出するのではないかと思っていました。ところが、カキ礁は干出しましたが、干潟はあまり干出しませんでした。どうなったのかと心配しています。
※あとでわかったことですが、4月20日は、潮位表の潮高(予測値)よりも実際の潮位(実測値)が異常に高くなっていました。そのため、干潟があまり干出しなかったのです。5月18日の市民調査の日は、干潮の潮高がマイナス9cmで、広大な干潟が現れました。
──地震の影響があるかどうかはこれから調査するということですか。
【牛野】そのとおりです。ただし、私たちが調査するのは生物などです。干潟がどれくらい沈んだのかということは、行政機関が深浅(しんせん)測量をやってくれないとわかりません。
■冊子発行の思い
──牛野さんは干潟を守る活動を40年、三番瀬市民調査を8年続けてこられました。そして、この2月に市民調査の成果をまとめ、『三番瀬・猫実川河口域は“宝の海”』という名の冊子を発行されました。市民調査や三番瀬にこめた思いなどをお聞きしたいと思います。
最初に、三番瀬市民調査の会はどういう活動をしているのですか。
【牛野】東京湾の干潟や浅瀬は、これまでに90%以上が埋め立てられてしまいました。そういう中で、三番瀬は東京にいちばん近いところにある、まとまった自然干潟です。そんな三番瀬をぜひ残してもらいたいということで、三番瀬のラムサール条約登録を求める署名活動などを進めています。県や関係市、環境省との話し合いもしています。
さらに、国際的会議であるラムサール条約締約国会議に人を送ったりしています。韓国で開かれた前回の締約国会議の際は、私や「市民調査の会」の伊藤昌尚代表も参加し、世界の湿地(干潟など)を守る人たちと手をつないでやっていこうと交流を深めました。
──冊子はどんな思いでつくったのですか。
【牛野】一つは、猫実川河口域が自然豊かということを多くの人に知ってもらいたいということです。もう一つは、千葉県や市川市が猫実川河口域を人工干潟にしようとしているので、それをやめさせるためにつくりました。
──冊子には、猫実川河口域にいる生き物がカラー写真でいっぱい載せてあります。また、猫実川河口域はどんな場所なのか、などの調査の成果を表などを使ってまとめてあります。なんと、この海域にいる生き物は動物が136種類、植物は16種類におよぶということです。
そして、三番瀬の船橋側は砂干潟なのに対し、猫実川河口域は泥干潟であると書かれています。干潟も種類があるのですね。
【牛野】干潟の底質の違いが生物多様性に結びついています。泥干潟にはカキ礁があります。また、ヤマトオサガニというカニは、砂干潟ではなくて泥干潟にすんでいます。このように、生き物が棲(す)み分けをしています。
■カキ礁を発見
──カキ礁というキーワードがでてきましたので、それをちょっと紹介させていただきます。カキ礁というのは、カキが積み重なって群れをなしているとのことです。それが泥干潟のところにできている、とのことです。そして、市民調査によってカキ礁の存在がわかったということですね。
【牛野】県の調査では、カキ礁の存在はわかりませんでした。私たちも、最初はそれを貝殻島(貝の死骸が堆積した島)と思っていました。しかし、手や足や目を使って調べていくうちに、水を吹いていて、食べられるカキであることがわかりました。生きたカキの集まりということがわかったのです。面積を測ってみたら、約5000平方メートルありました。
■「ヘドロの海」と言われていたが…
──かなり広い面積ですね。調査をはじめる前は、猫実川河口域は「ヘドロの海」とよばれていたとのことですが、実際に調査してみたら違うことがわかってきたということですね。最初に生き物を見つけたとき、どんな気持ちでしたか。
【牛野】いま「ヘドロの海」と言われましたが、議員さんがビンの中に泥を詰めて県議会に持ってきて、「(猫実川河口域は)こんなヘドロの海だ」と発言しました。本当にそうなのかということで、私たちは調査をはじめました。「市民も科学者」という高木仁三郎さんの言葉を借りて、私たちも科学の目でみてみることにしたのです。
調査してみたら、カキ礁はあるし、アナジャコもでてくるし、こんなに生き物がいるじゃないか、ということになりました。これがなぜ「ヘドロの海」なのか、となったのです。
その議員さんは、「ドロクダムシという虫がいるからヘドロの海だ」とも言っていました。しかし、ドロクダムシはヨコエビの一種で、魚のエサになっています。このように、いろいろな生き物がいるということが大事、ということがわかりました。それがすごくうれしかったです。
■干潟を豊かにしているアナジャコ
──市民調査の会のみなさんは定期的に猫実川河口域に通われて、じっさいに手でさわったり、目で見たり、掘ったりしながら調査を続けてこられたわけですね。
【牛野】そうです。
──まさに実体験での調査になるわけですね。科学の目をもって調べているということですが、冊子では、これまでに136種類の動物と16種類の植物を確認したと書かれています。たくさんの生き物がそこにすんでいるということが、よくまとめてあります。
ところで、冊子では、アナジャコという生き物が「干潟を豊かにしている」と記載されています。アナジャコというのはどんな生き物ですか。
【牛野】アナジャコというのは、ちょっとみると、お寿司屋さんで食べるシャコと形がよく似ています。しかし、シャコは捕食者であり、貝などを食べる動物です。これに対して、アナジャコは巣穴の中で水をかいて水流をおこし、水の中のプランクトンを食べる濾過(ろか)食者です。ですから、水を濾過しています。ようするに、水をきれいにしているわけです。
──ということは、アナジャコがたくさんいるからこそ、猫実川河口域の水は動くし、きれいになるということですか。おもしろいですね。
【牛野】そうです。こんなアナジャコが1平方メートル区画でだいたい50〜300個体います。ですから、猫実川河口域の干潟には穴がいっぱいあいています。
──冊子には、干潟に穴がいっぱいあいている写真が載っています。これがアナジャコの巣穴ですね。
【牛野】そうです。アナジャコは2つの穴で1匹です。中で巣穴がつながっていて、Yの字になっています。穴の深さは最大で3メートルにおよびます。名古屋の方が藤前干潟でアナジャコの巣穴を手で掘って模型をつくったら3メートルありました。
■多様な生態系を支えているカキ礁
──それから、猫実川河口域にはカキ礁があるのがわかったということです。このカキ礁も猫実川河口域の多様な生態系を支えているということですが、どのようにして生態系を支えているのでしょうか。
【牛野】カキ礁は、カキが入り組んで積み重なっているので、直射日光をさえぎります。その隙間(すきま)に、泥の中にはもぐれない生き物が入り込んでいます。ですから、いろいろな生き物に対してカキ礁がすみかを提供しているわけです。
それから、カキ礁は、強い波から稚魚たちを守っています。さらに、カキはプランクトンを食べるのですが、未消化のものは偽糞(ぎふん)というものをだします。それは文字どおり“ニセのフン”であって、ウンコではありません。それがカニとかアミといった小さな生き物たちのエサにもなっているのです。こうして、いろいろな生き物を支えるカキ礁生態系をつくっています。
──すごいですね。猫実川河口域には知られざる生き物たちがまだまだたくさんいて、それらがそれぞれの形で生態系を支えあっているということが8年間の調査でわかったということですね。
【牛野】そのとおりです。
■科学の目で見れば、いろいろなものがみえてくる
──猫実川河口域は「ヘドロの海」ともよばれてきたが、8年におよぶ市民調査の結果、酸素が豊富で、生き物がすみやすい環境ということがわかったということが冊子にまとめられています。調査をしてきて、生き物がたくさん生息する海域だということがわかったとき、どんな気持ちでしたか。
【牛野】「ヘドロの海」とかいわれてきたが、調べてみると、いろいろな生き物がいることがわかり、とてもうれしかったです。干潟の下のほうには知られていない生き物がまだまだたくさんいると思います。
漫然(まんぜん)と見たのではわからないけれども、科学の視点で見れば、いろいろなものがみえてくるのではないかと思っています。
たとえば、ウミゴマツボというのは1ミリか2ミリくらいのたいへん小さな巻き貝です。そういうものは、ただ見ただけではわかりません。専門家が顕微鏡などを使って、「これはウミゴマツボです」と教えてくれました。そこではじめて私たちもわかるようになりました。
■貴重な干潟・浅瀬を子孫に残したい
──それが科学の目ということですね。ところで、牛野さんは干潟を守る活動を40年間続けてこられました。なぜ、干潟を守る活動をやろうと思ったのですか。
【牛野】私は東京の下町で生まれました。いまから43年前に習志野市の埋め立て地に越してきました。そこの前には海がありました。
1971年に「千葉の干潟を守る会」ができて、「これ以上の埋め立ては反対」とアピールしました。私は、漁民が漁業権を放棄してしまったので埋め立ては仕方ないのでは、と思っていました。
ところが、「海はみんなのものです」という声を聞き、「そうか。それでは、私も海を守ろう」と思うようになり、「千葉の干潟を守る会」に入会し、運動をはじめました。
当時は、家から富士山が見えました。また、いまでは“幻の貝”となっているハマグリもとれました。それで、私は埋め立て地に住んでいるけれど、「これ以上、埋め立ててはいけない」という思いで、埋め立て反対運動を続けてきました。
──ある意味で、牛野さんにとっては海がふるさとというわけですね。
【牛野】そうです。この海を子どもたちに残したいという思いで、これまでやってきました。しかし、その後も埋め立てが日本中で進みました。
──三番瀬は牛野さんにとってどんな存在ですか。
【牛野】三番瀬は東京の近くにあり、潮干狩りやハゼ釣りもできます。これを子孫に残したいと思います。貴重な三番瀬が開発されてしまったら、私が運動してきた40年はいったいなんだったのかという気持ちもあります。
そして、保全の一つの手段として、三番瀬をラムサール条約の登録湿地にしてほしいと願っています。
■自然の力に人知はおよばない
──最後になりますが、活動を通してどんなことを伝えていきたいですか。
【牛野】今回の大地震によって、自然の力に人知はおよばないということをみせつけられました。自然の摂理にそってこれからもいろいろと運動をしていきたいし、人間はもっと謙虚に生きなければならない、ということをみんなといっしょに考えたいと思っています。
──これからも三番瀬の市民調査を続けられると思います。どうぞ気をつけて、牛野さんにとってのふるさとを守る活動を続けていってほしいと思います。
【牛野】ありがとうございます。