三番瀬公金違法支出訴訟

訴状の内容







 三番瀬埋め立て計画をめぐり、県企業庁が市川市行徳漁協に「転業準備資金」として43億円を融資し、その利息の56億円を県が支出した問題で、市民グループは6月29日、利息を千葉県が負担するのは違法だとして、利息支出の返還などを求める訴えを千葉地方裁判所に起こしました。
 訴状の内容は、以下のとおりです。


 

訴  状



  
 目  次   当事者の表示   請求の趣旨   請求の原因    第1 当事者      一.原告ら      二.被告ら    第2 本事件の概要      一.はじめに      二.本件支出行為等      三.本件支出行為等の原因となる行為      四.原因行為の違法と本件支出行為等の違法    第3 三番瀬とその埋立計画をめぐる経過並びに現状      一.はじめに      二.三番瀬とは      三.三番瀬埋立計画の経過と現状    第4 1982年の「三者合意」〜発覚した違法な事前漁業補償〜      一.衝撃的な報道      二.「三者合意」の内容      三.企業庁の債務引受      四.本件支出行為等    第5 本件支出行為等は違法      一.実質的な漁業補償      二.漁業補償は不可      三.脱法的・潜脱的に行われた漁業補償      四.原因行為の違法      五.本件支出行為等は違法    第6 住民監査請求と棄却決定    第7 被告らの損害賠償義務      一.被告沼田武について      二.被告中野英昭について    第8 まとめ〜本事件のもつ意義〜


 
   当事者の表示  原告及び原告訴訟代理人
             別紙原告及び原告代理人目録記載のとおり

           〒260−0001
            千葉市中央区都町1丁目7番1号 県知事公舎
               被   告    沼 田   武

            住所不詳
           〒260−0845(送達場所)
            千葉市中央区長洲1丁目9番1号 千葉県企業庁内
                   被   告      中 野 英 昭

           〒260−8667
            千葉市中央区市場町1番1号
                被   告    千葉県知事
                         沼 田   武

           〒260−0854
            千葉市中央区長洲1丁目9番1号
                被   告    千葉県企業庁長
                         中 野 英 昭

   事  件  名  千葉県に代位して行う損害賠償等請求事件
   訴訟物の価額  金190万円
   貼用印紙額    金1万4900円



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請求の趣旨
  1.  被告沼田武及び同中野英昭は、千葉県に対し、各自連帯して金28億円及びこれに対する平成12年4月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
  2.  被告千葉県知事及び同千葉県企業庁長は、平成12年度当初予算に計上された千葉県企業庁特別会計の臨海地域土地造成整備事業資本的支出の浦安地区第2期事業費の内の金21億2152万6000円、及び、京葉港地区事業費の内の金7億0717万5000円を支出してはならない。
  3.  被告沼田武及び同中野英昭は、被告千葉県知事及び同千葉県企業庁長が前項の支出をしたときは、千葉県に対し、各自連帯して金28億2870万1000円及びこれに対する支出日の翌日より支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
  4.  訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決を求める。


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請求の原因

  第1 当事者

一.原告ら

 原告らは、いずれも千葉県民であり、2000(平成12)年4月7日、千葉県監査委員に対し、千葉県企業庁(以下、たんに「企業庁」とも略す。)の実施する臨海地域土地造成整備事業資本的支出(浦安地区第2期事業費、及び、京葉港地区事業費)総計金56億2870万1000円の支出の差止め等を求めて、監査請求を行った者である。

二.被告ら

1.被告沼田武
 被告沼田武は、千葉県知事である。普通地方公共団体である千葉県(以下、たんに「県」とも略す。)の長として、予算を調製して県議会に提出する権限、並びに、県予算を執行する権限等を有する者である。
 また、補助職員である地方公営企業の管理者に対して、住民の福祉に重大な影響がある地方公営企業の業務の執行に関しその福祉を確保するため必要があるとき等には、必要な指示を行う権限を有し、かつ、義務を負う者である。

2.被告中野英昭
 被告中野英昭は、千葉県企業庁長である。千葉県企業庁は、地方公営企業法、及び、「千葉県土地造成整備事業、工業用水道事業等の設置等に関する条例」(昭和49年千葉県条例第3号)によって設置された組織である。被告中野は、千葉県企業庁長として、地方公営企業法第7条に基づく「管理者」であって、企業庁の業務についてほぼ全面的に執行権・代表権を有する。


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  第2 本事件の概要

一.はじめに

 本事件は、後に詳述するが、千葉県及び千葉県企業庁が、東京湾に残された貴重な干潟・浅海域である「三番瀬」の埋立計画をめぐり、1982年に融資された「転業準備資金」のこれまでの利息(利息の利息を含む。)累計金56億2870万1000円を支出し、または支出しようとしていることが違法であるところから、被告らに対し損害賠償等を求めて、住民らが提訴した事案である。最初にその概要を明らかにしておく。

二.本件支出行為等

 被告千葉県知事沼田武(以下、「被告知事」という。)は、後述する「転業準備資金」にかかわる引受利息を支出処理するために、平成12年2月定例千葉県議会において、企業庁の実施する臨海地域土地造成整備事業資本的支出(浦安地区第2期事業費・京葉港地区事業費)として、平成11年度補正予算額金28億円、平成12年度当初予算額金28億2870万1000円をそれぞれ予算に計上し、同議会において経費として成立した。
 このうち、平成11年度補正予算額金28億円については、2000年(平成12年)3月31日、訴外千葉県信用漁業協同組合連合会(以下、「県信連」という。)に支出された。平成12年度当初予算額金28億2870万1000円についても、平成12年度末までに信漁連に支払われる予定とされている(以下、これらを「本件支出行為等」と略す。)。


三.本件支出行為等の原因となる行為

1.原因となった「三者合意」に基づく
     「転業準備資金」融資とその概要

(一) 本件支出行為等の根源的原因となったのが1982年(昭和57年)に、企業庁、市川市行徳漁業協同組合(以下、「行徳漁協」という。平野寅蔵組合長、当時の組合員数624名)、金融機関の三者による合意であった。
 この「三者合意」の存在及び内容について、県・企業庁ともひた隠しにしてきたが、概要を示せば次のとおりである。
  1.  企業庁は行徳漁協に対して、「転業準備資金」名目で融資措置を講ずる。
  2.  行徳漁協に対して、信漁連が金22億円、訴外千葉銀行(以下、「千葉銀行」という。)が金20億9750万円を融資する。
  3.  企業庁は、右融資にあたり、両金融機関に対し融資額の約半額を預金する。
  4.  行徳漁協は、この借入金について将来企業庁の行う土地造成事業にともなう漁業権放棄に対し、補償金が支払われたときは、すみやかに返済に充てる。
  5.  行徳漁協(及び、行徳漁協から融資を受けた組合員)の借入金に対する利息について、行徳漁協が金融機関に支払うべき利息を、企業庁が負担する。
     (この項目が、本件支出行為等の根源となった。)
 なお、この「三者合意」の経過や内容については、監査請求に対する結果通知書によって、はじめて具体的に知り得た事実が多々存するので、これに基づき後に詳述する。

(二) 1982年(昭和57年)7月、両金融機関から行徳漁協に対し、右総額金42億9750万円の「転業準備資金」の融資が実行された。

(三) 1991年(平成3年)3月、千葉銀行が行っていた融資金20億9750万円については、行徳漁協が信漁連から新たに融資を受けることによって返済した。その結果、転業準備資金にかかる融資を行う金融機関は信漁連に一本化された(これを、「新三者合意」と称す。)。

2.企業庁による債務引受

 企業庁は、82年「三者合意」に基づく利息負担合意に基づき、その後、行徳漁協、金融機関との三者間で4次にわたり協定書を締結し、その都度それまでの累積利息を免責的に債務引受した。
 その合計額が金56億2870万1000円にも及んだ。その処理のために行ったのが本件支出行為等にほかならない。

四.原因行為の違法と本件支出行為等の違法

 後に詳述するとおり、原因となった「三者合意」に基づく契約、並びに、企業庁の利息負担行為は明らかに違法なものである。よって、本件支出行為等も違法である。


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  第3 三番瀬とその埋立計画をめぐる経過並びに現状

一.はじめに

 本件支出行為等の違法性を明らかにするための前提として、三番瀬をめぐる埋立計画の経過を、県及び企業庁の動きを中心にごく簡潔に整理しておく。とりわけ、前記「三者合意」がなされた1982年(昭和57年)当時、具体的な埋立計画が全く存在しなかったことが重要である。

二.三番瀬とは

1.かけがえのない干潟

(一) 「三番瀬」(SANBANZE)は、東京湾最奥部の、千葉県市川市と船橋市沖にまたがってひろがる干潟・浅海域である。面積は、約1200ヘクタールにおよぶ。

(二) かつて、東京湾には数多くの干潟が存在していた。ところが、相次ぐ埋立てによって、次々に消滅していった。とりわけ、第二次大戦以降は、ほとんど手つかずのままに残されていた湾東部(千葉県側)の大規模開発がすすめられ、川崎製鉄をはじめとした相次ぐ工場誘致等によって、原形をとどめないほどに埋立てられていった。
 今日、東京湾の干潟の約90パーセントが失われてしまったといわれている。その中で、三番瀬は湾奥部にただ一つだけ残された、かけがえのない干潟である。

2.豊かな自然

(一) 三番瀬は、豊かな自然環境を保持している。そこに住む海生生物にとってはもとより、渡り鳥などにとっても、生存していくうえで、欠かすことのできない重要な場となっている。

(二) 鳥類についてみると、スズガモ、アジサシ、シギ、チドリ類など135種が確認されており、渡り鳥たちの有数の飛来地となっている。10万羽ともいわれるスズガモたちが群飛する姿は圧巻であるし、環境庁が作成したレッドデーターブックで「希少種」とされているコアジサシをはじめ、オオソリハシシギなどの貴重種も数多い。
 また、ゴカイ等の底生生物が豊富で、これらの生物による水質浄化作用は、人口13万人分もの下水処理能力に相当することが明らかにされている。このように、東京湾の水質浄化にも欠くことのできない重要な役割を果たしている。
 さらには、アサリやノリ、カレイ、イシガニなどもたくさんみられ、好漁場となっているばかりか、潮干狩りをはじめとして、千葉県民はもとより、ひろく首都圏に住む国民の格好のレクリェイションの場ともなっている。

3.国際的にひろがる保全の動き

(一) 1999年5月に南米・コスタリカで開催された第7回ラムサール条約締結国会議は、34もの決議・勧告を採択した。とりわけ注目を集めたのが、干潟(潮間帯湿地)に関する10項目に及ぶ決議・勧告であった。その中には、「締結国が潮間帯湿地に悪影響を与える現在ある政策を見直し変更し、これらの地域を対象とした長期的保全策を導入するよう検討」することを求めるという、画期的な条項も盛り込まれたところである。

(二) 三番瀬は、諫早湾、博多湾和白干潟、藤前干潟、千葉県盤洲干潟などと並ぶ、この国における代表的な干潟の一つである。地球に残された貴重な干潟を守ろうとする国際世論の高まりによって、諫早湾では埋立ての見直しの声が強まっている。藤前干潟については、昨年3月名古屋市がついに埋立計画の断念を決断した。
 三番瀬についても、これまでに保全を求める署名が22万5000名分を超えるなど、乱開発から三番瀬を守ろうとの県民・市民の声が急速に高まっている。国内はもとより、国際的にもその動向が注目を集めている。


三.三番瀬埋立計画の経過と現状

●1963年(昭和38年)
 千葉県・企業庁が、「京葉港2期・市川2期」の埋立計画を策定
  ※京葉港2期は千葉県土木部が所管、市川2期は企業庁が所管。
  ※コンビナート誘政をはじめとする工業用地創出を主たる目的
   としていた。
●1973年(昭和48年)
 埋立目的を変更し、京葉港2期を「流通機能、都市再開発用地」、
 市川2期を「住宅、都市開発、都市基盤整備」とする。
  ※第1次オイルショックが背景。
●1977年(昭和52年)
 京葉港2期に関して、埋立計画の事実上の凍結を宣言。すなわち、
 運輸大臣の諮問機関である港湾審議会計画部会において、「埋立
 計画が具体化するまで開発を留保する」こととされた。
●1981年(昭和56年)4月
 千葉県第2次新総合5か年計画(昭和56〜60年度)の中で、「土
 地利用の計画立案、事業の着手」等をうたう。
  ※埋立面積、土地利用目的など具体的な計画は1切ない。
●1982年(昭和57年)
 本件「三者合意」が結ばれ、「転業準備資金」の融資が実行され
 た。
●1990年(平成2年)7月
 京葉港2期・市川2期計画の基本構想を発表。
●1993年(平成5年)
 京葉港2期・市川2期についての「基本計画」を発表。ここでは
 じめて、具体的な埋立計画を策定・公表。
 埋立面積は、両計画合計で740ヘクタール。土地利用目的は、京葉
 港2期が5万トンクラスの船舶が入港できるように埠頭や航路の
 整備。市川2期は、下水道終末処理場の建設・住宅用地の確保等。
●1993年〜
 千葉県環境会議での審議、その下部組織である環境調整検討委員
 会による現地調査・ヒアリング等の実施、同じく補足調査専門委
 員会による科学的な実態調査・環境影響調査等が行われる。
  ※特に注目すべき事項として、
 (1) 1995年11月に環境会議が千葉県に対して、「土地利用の必要
  性を十分吟味すること」等の3項目を提言。
 (2) 補足調査専門委員会の長期間にわたる科学的側面からの調査・
  分析により、三番瀬が極めて貴重な自然環境であることがあら
  ためて裏付けられたこと。
 (3) そして埋立計画がこの自然環境に対して、壊滅的ともいえる
  重大な影響を及ぼすことが明らかになったこと。
 があげられる。
●1999年(平成11年)6月
 埋立面積を101ヘクタールに縮小する「見直し案」を策定(京葉港
 2期が11ヘクタール、市川2期が90ヘクタール)。学識経験者・各
 界代表者等で構成するとされる計画策定懇談会を招集し、その議に
 付す。
●1999年12月
 計画策定懇談会を、第4回をもって「休止」するという事実上の打
 ち切りを宣言。
●2000年(平成12年)2月
 埋立面積を101ヘクタールとしたまま環境会議へ報告。
 現在、環境会議及びその下部組織である環境調整検討委員会で審議・
 検討中。
●今後の予測
 環境会議が最終的な提言を行えば、これを受けて、最終的事業計画
 を策定。あくまでも埋立を実施しようというものであれば、以降環
 境影響評価→公有水面埋立法の手続→工事着工といった手順がふま
 れることになろう。



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  第4 1982年の「三者合意」
     〜 発覚した違法な事前漁業補償 〜

一.衝撃的な報道
1.ひたかくしにされてきた衝撃的事実

(一) 1999年11月、新聞各紙等の報道機関は、三番瀬の埋立問題に関連して、「県が事前漁業補償?」、「市川市行徳漁協に43億円融資」、「17年前、信漁連通じ」、「担保貯金・利息負担、正式補償後に“清算”約束」(以上、99年11月10日読売新聞)、などと一斉に報じた。その後の主な動きを、報道されたものから拾うと次のとおりである。

(二) 同年11月17日に開かれた県議会決算審査特別委員会で、被告中野企業庁長は議員の質問に答え、企業庁が「肩代わり」して支払うべき累積利息が「約55億円」にのぼっていることを明らかにした。あわせて、同問題の早期解決をはかること、並びに、三番瀬の埋立て問題についても99年度中に埋立て計画を提示したいとの意向を示した。

(三) さらに、2000年3月7日、被告沼田知事は県議会において、この利息負担分「約56億円」について、三番瀬の埋立地の分譲収入を充てるとの考えを明らかにした。


2.明るみに出た埋立計画の本質

 これら一連の報道は、千葉県民、とりわけ、三番瀬の保全を求めて運動を続けている住民らに、はかりしれない衝撃を与えた。なぜならば、これまで千葉県及び企業庁は、最も肝要な埋立目的=土地利用目的を三転四転させてきた。そのことによって、必要性なき「埋立のための埋立」であることが露呈した。にもかかわらず、埋立てを行う方針をかたくなにとり続けてきた。その決定的ともいえる理由の一つが、明らかになったからである。すなわち、
  1.  すでに実質的な漁業補償を行った。
  2.  「融資」という形をとったためにこれまでの利息だけでも約56億円と元本を上回る巨額に達し、企業庁が負担せざるを得なくなった。
  3.  いまさら漁協・漁民に返還を求めることはできない、実際に離漁した者が大半を占める。
  4.  しかも埋立計画が実現し「正式」に漁業補償を行えるようになるまでは、今後も推定で毎年約3億円もの利息負担を続けなければならない。
  5.  よって目的は何であれ埋立計画を早期に確定し、実施する。
  6.  そのことによって、「融資元本」の返済問題も漁業補償の支払金をもって充当することによって解決する。
との構造が明らかになったためである。

二.「三者合意」の内容

1.各協定等

 原告らの監査請求に対する結果通知書によれば、事実は次のとおりであり、これらは県及び企業庁担当者の資料提供並びに説明に基づくものである。

(一) 1982年(昭和57年)6月8日
企業庁と行徳漁協が「協定書」締結

〈内容〉
  1.  企業庁は行徳漁協に対し、同漁協の有する漁業権の漁場評価額を限度とした源資の融資措置を講ずる。
  2.  行徳漁協は、将来漁業権放棄により受けるべき漁場評価額に基づく補償金相当額を担保とする。

(二) 同年6月12日
 企業庁と行徳漁協が「合意書」締結
〈内容〉
 漁場評価額は金45億5700万円とする。

(三) 同年7月5日
 企業庁と行徳漁協が「確認書」を締結

〈内容〉
  1.  融資限度額は、漁場評価額に基づき金45億5700万円とする。
  2.  行徳漁協は組合員に対して貸付を行い、組合員は同漁協に対して、将来漁業権放棄にともなう補償金の配分相当額を担保に供する。
  3.  同漁協は、借入金について、将来企業庁が行う土地造成事業にともなう漁業権放棄に対し補償金が支払われたときは、すみやかに返済に充てる。
  4.  企業庁は、同漁協及び組合員の借入金に対する利息について、同漁協及び組合員の実質負担とならないような措置を講ずる。

2.融資額の決定

 右協定等に基づき、貸付融資額を金42億9750万円とした。

3.協定に基づく融資等の実行

 1982年(昭和57年)7月、金融機関二者との間で、「転業準備資金の融資に関する協定書」が結ばれ、各融資が実行されたという。これによると、次のとおりとされる。

(一) 企業庁、信漁連及び行徳漁協を当事者とする協定書(信漁連から組合に対する転業準備資金の融資)
  1. 融 資 額   22億円
  2. 融資期間  昭和57年7月15日から昭和58年3月31日まで
  3. 利  率   年6.9パーセント
  4. 行徳漁協は、融資期間満了時に、融資額を速やかに信漁連に返済し、その際、融資利率に応じた利息を信漁連に支払う。
  5. 企業庁は、融資に当たり、信漁連に対し11億円を預託し、預金期間は融資期間と同一とする。

(二) 企業庁、千葉銀行及び行徳漁協を当事者とする協定書(千葉銀行から同漁協に対する転業準備資金の融資)
  1. 融 資 額   20億9750万円
  2. 融資期間  昭和57年7月15日から昭和58年3月31日まで
  3. 利  率   年6.9パーセント
  4. 行徳漁協は、融資期間満了時に、融資額を速やかに千葉銀行に返済し、その際、融資利率に応じた利息を千葉銀行に支払う。
  5. 企業庁は、融資に当たり、千葉銀行に対し7億円を預託し、預金期間は融資期間と同一とする。

4.利息の取扱い

 82年7月5日付「確認書」に基づき、「企業庁が利息相当分を負担することになった」とされる。

5.融資金融期間の一本化

 1991年(平成3年)3月、「新三者合意」を締結し、千葉銀行が行っていた融資金20億9750万円について、行徳漁協が信漁連から新たに融資を受けることによって返済し、金融機関は信漁連に一本化された。

三.企業庁の債務引受

 企業庁は、行徳漁協及び金融機関との間で「転業準備資金の融資に伴う利息に関する協定書」を4次にわたって締結したという。これによれば、企業庁は、同漁協が金融機関から転業準備資金の原資を受けたことにより発生する利息支払のために信漁連から借り受けた債務を引受けたとされる。
 これによって、同漁協は信漁連への利息債務を免れ、一方、企業庁は信漁連に対し直接債務を負うこととなった。
 これが、本件支出行為等の直接的な原因行為となったことは言うまでもない。


四.本件支出行為等

 2000年(平成12年)2月定例千葉県議会において、企業庁の実施する臨海地域土地造成整備事業資本的支出に係る経費として、平成11年度補正予算及び平成12年度当初予算合計金56億2870万1000円の予算が成立したことは前述のとおりである。うち金28億円については、同年3月31日、信漁連に支出された。
 なお、結果通知書によると、「企業庁では転業準備資金42億9750万円については、市川2期地区計画に係る千葉県環境会議の結果を得た後に、事業計画の策定作業と並行して行う予定の漁業補償交渉の中で解決していくこととしている。」(11ページ)とされているところである。


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  第5 本件支出行為等は違法
一.実質的な漁業補償

 82年の「三者合意」と、これに基づく「転業準備資金」の融資は、実質的にみれば全面的漁業補償であった。
 そのことは、次の諸事実からみて、火を見るより明らかである。
 第1に、当初から市川2期・京葉港2期の埋立てと、それにともなう漁業補償を当然の前提としていたことである。そのことは、監査請求結果通知書をみれば一目瞭然である。
 とりわけ、
(1) 1979年(昭和54年)5月に、企業庁が行徳漁協に対し、「昭和55年〜56年度全面漁業補償の開始及び妥結」の方針を文書で回答しており、これが発端となったとされていること(7ページ)。
(2) 「計画どおり市川2期地区埋立計画が事業化された場合には、組合に対して漁業権放棄に伴う損失補償を行う必要があることが予見された状況にもあった」とされていること(7ページ)。
(3) そして、「転業準備資金に係る今後の処理の見通し」として、「企業庁では…事業計画の策定作業と並行して行う予定の漁業補償交渉の中で解決していくこととしている」とされていること(11ページ)。
をみれば、実質的な漁業補償であったことに疑問の余地がない。
 第2に、「融資額」の算定の根拠とされたのが漁場評価額であったことである。これは、もちろん漁業補償の際の損失補償額の算定方式に則ったものである。
 第3に、行徳漁協は、融資を受けるに当たって、「将来漁業権放棄により受けるべき漁場評価額に基づく補償金相当額を担保」とし(7ページ)、組合員は同漁協から借入れをなすにつき同じく「将来漁業権放棄に伴う補償金の配分相当額を担保に供する」(8ページ)とされていることである。  第4に、企業庁は、融資を実行させるに当たり、信漁連に対して金11億円、千葉銀行に対し金7億円を、担保の趣旨で預金していることである。
 第5に、融資にともなう利息については、本来負担すべき行徳漁協にかわって、全て、企業庁が負担するとされていることである。
 第6に、結果通知書によると、融資期間の延長が延べ30回にわたり行われている。このことからも、およそ返済を求める意思があったとは解しがたく、この融資が転業のための融資だとは到底言えないことである。
 第7に、金45億5700万円との漁場評価額のうち、金42億9750万円(約94.3パーセント)と、ほぼ全額が授受されていることである。そして、結果通知書によると、「この貸付措置により組合員624名のうち518名が移業した」(7ページ)とされ、組合員の約83パーセントがただちに離漁したとされていることである。


二.漁業補償は不可
1.当時の埋立計画の状況

(一) すでに述べたとおり、千葉県・企業庁が三番瀬の埋立計画である京葉港2期・市川2期計画を策定したのは、1963年(昭和38年)と今から40年近くも前のことであった。しかし、その後計画は全く進展せず、1976年(昭和51年)には、千葉県・企業庁が京葉港2期について自ら計画の凍結を宣言せざるを得なかった。

(二) このように、本件実質的漁業補償が行われた1982年の時点といえば、千葉県・企業庁自身が計画の凍結を宣言していた時期であり、具体的な埋立計画は一切存在しなかった。確かに、1981年4月に千葉県がまとめた「第2次新総合5か年計画」の中には、「市川2期地区については、‥‥大規模な人工干潟と地域の土地需要を見極めながら公共公益施設用地を主体とした土地利用を計画立案し、事業に着手する」、「京葉港2期地区については、市川2期地区の計画の進展にともない検討する」との記述がある。
 しかしながら、これは中長期ビジョンである5か年計画の一つとしてあげられているにすぎない。もちろん、埋立面積、土地利用目的、埋立の時期、財政規模と財源など、何一つ具体化したものではなかった。

(三) 千葉県・企業庁が京葉港2期・市川2期についての「基本計画」をとりまとめたのは、1993年(平成5年)3月、すなわち、本件実質的漁業補償がなされてから何と11年も経過した後のことである。しかも、千葉県・企業庁は、1999年(平成11年)6月には、この「基本計画」をも大幅に変更し、埋立面積をみても約7分の1に縮小することを余儀なくされたところである。  そして、現在もこの見直し縮小案をめぐって論議がなされているところであり、今日に至るも埋立を実施するのか否かさえ確定していない。

2.千葉県・企業庁も自認

 千葉県及び企業庁も、漁業補償を行えないことを、十二分に知悉していた。そのことは、結果通知書の中に、「当時市川2期地区計画が未確定であったことから、企業庁は漁業補償をできない旨回答した。」(2ページ)とあることの一事を指摘しておけば十分であろう。

三.脱法的・潜脱的に行われた漁業補償
1.千葉県・企業庁が本来とるべき措置

(一) 県及び企業庁は、本件「三者合意」とそれにともなう「転業準備資金」の融資を実行させた理由として、周辺海域の既埋立による潮回りの悪化とそれに起因する漁場環境の悪化、補償の必要性をあげるものと推察される。
 しかしながら、仮にそうであるならば、漁場環境の悪化による生産力の低下額を評価し、補償すべきであった。それが当然の措置である。そして、必要かつ十分な措置であった。

(二) 転業準備のための融資措置も、一応考えられる。しかし、転業よりもゆるやかな形態である兼業の場合については、「千葉県臨海地域漁業者兼業準備資金融資規程」(昭和50年企業庁管理規程第4号)があり、当該漁業協同組合に兼業に必要な原資の融資を行うこととされている。
 しかるに、転業準備資金については、何らの融資規程も存しない。したがって、企業庁が直接融資を行う道はない。
 となれば、前述したとおり生産力の低下にともなう損失を補償する以外に方法はなかった。

2.脱法的迂回融資

 ところが、県・企業庁は、そうはしなかった。何ら具体化すらしていない埋立計画と無理矢理結びつけ、金融機関をも巻き込んで、本件「転業準備資金」を融資させたのである。これは、何ら法的根拠を有しない脱法的な迂回融資にほかならない。そして、右「融資」の形態をとることによって、前述のとおり、違法な漁業補償を実行した。

四.原因行為の違法
1.契約自体が違法・無効

(一) すでに述べたとおり、本件支出行為等の原因となった行為は、82年に締結された「三者合意」である。具体的には、企業庁と行徳漁協との間の前記「協定書」、「合意書」、「確認書」であり、企業庁、同漁協、金融機関の三者間の2件の「協定書」である。

(二) 決定的に重要なことは、1982年(昭和57年)7月5日に企業庁が行徳漁協との間で「確認書」を締結し、本来行徳漁協が負担すべき利息を、企業庁が負担することとし、現にその後4度にわたって免責的債務引受を行ったことである。融資総額が金42億9750万円であり、利率はいずれも6.9パーセントとされているから、1年間に発生する利息だけでも、金2億9652万7500円にものぼる。いうまでもなく、この負担は、法令に則って漁業補償を行うべき時期に、漁業補償として行われていれば、全く不要な出費であり、完全に「ムダ」な支出である。

(三) 再三述べたとおり、当時埋立計画は全く具体化していなかった。「融資」が行われてから約18年間が経過した今日においても、なお環境会議で審議されている状況にあり、埋立を実施するのか否かすら確定していない。ましてや、埋立の時期や規模については全く不明である。

(四) このように、「将来漁業権放棄により受けるべき補償金」がいつ支払い可能となるのかが全く不明のまま、それが可能となるまでの間、無期限に年間約3億円もの利息の負担を約した。そして、現に免責的債務引受を行った。その結果が、今回支出しただけでも、約56億2870万1000円と融資元本をはるかに上回る巨費にのぼった。しかもなお、融資元本は全額未決算のままであり、右漁業補償が可能となるまでの間、年々膨大な利息が発生し、企業庁が免責的債務引受を行わざるを得ない。

(五) 以上のとおり、およそ企業体に膨大かつ無限定な負担を強いる契約を締結することは、企業庁の管理者の権限と合理的な経営裁量の範囲をはるかに逸脱したものであり、違法である。ましてや、地方公営企業は、「常に企業の経済性を発揮するとともに、その本来の目的である公共の福祉を増進するように運営されなければならない」(地方公営企業法第3条「経営の基本原則」)とされているところである。このように、右債務負担を約した「確認書」の締結が、地方公営企業法第3条に違反する違法なものであることは明らかである。また、これが民法第90条の公序良俗規定にも反し、やはり、契約自体が無効である。

2.公有水面埋立法違反

 本件「転業準備資金」名目による「融資」が実質的には漁業補償であったことは前述したとおりである。
 公有水面埋立法は、「埋立ノ免許ヲ受ケタル者ハ政令ノ定ムル所ニ依リ第4条第3項ノ権利ヲ有スル者ニ対シ其ノ損害ノ補償ヲ為シ、又ハ其ノ損害ノ防止ノ施設ヲ為スヘシ」(第6条第1項)と規定し、また、「埋立ノ免許ヲ受ケタル者ハ第6条ノ規定ニ依リ損害ノ補償ヲ為スヘキ場合ニ於イテハ其ノ補償ヲ為シ又ハ前条ノ規定ニ依ル供託ヲ無シタル後ニ非サレハ第4条第3項ノ権利ヲ有スル者ニ損害ヲ生スヘキ工事ニ着工スルコトヲ得ス」(第8条第1項本文)と定める。すなわち、同法は@漁業権者の埋立同意、A埋立免許の取得、B漁業補償、C埋立工事着工の順序で進めるべきことを当然のこととしている。
 しかるに、本件では@の漁業権者の埋立同意、Aの企業庁による埋立免許の取得なきまま漁業補償が行われたものであって、公有水面埋立法の当該規定に明らかに反する違法な行為であり、したがって無効である。

3.地方自治法違反

(一) 地方自治法と債務負担行為

 地方自治法は、地方公共団体が行う支出負担行為について、「普通地方公共団体に支出の原因となるべき契約その他の行為(これを支出負担行為という)は、法令又は予算の定めるところに従い、これをしなければならない。」と規定する(第232条の3)。

(二) 本件債務負担行為は違法

 企業庁は、1982年の「三者合意」に基づき、行徳漁協が金融機関に支払うべき利息全てについて、同漁協の債務を免責的に債務引受けした。これは、本来第三者の債務であるものを、企業庁が肩がわりして債務負担したことになる。したがって、この支出負担行為をなすには、法令上の根拠、若しくは、予算上の措置と県議会の承認が必要不可欠である。
 ところが、右債務負担行為は、法令上の根拠は全くなく、かつ、予算上にも計上されなかった(少なくとも、正規な方法では)。したがって、右債務負担行為は、地方自治法の前記規定に違反する違法なものである。

4.地方財政法違反

(一) 地方財政法と予算の編成・執行

 地方財政法は、予算の編成につき、「地方公共団体は、法令の定めるところに従い、且つ、合理的な基準によりその経費を算定し、これを予算に計上しなければならない」と定める(第3条1項)。
 また、予算の執行等については、「地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最小の限度をこえて、これを支出してはならない」と規定する(第4条1項)。
 これは、地方財政の基本原則であり、地方財政が住民が納付する租税等に依拠していることから、譲ることのできない基本理念である。

(二) 本件支出行為は違法

(1) 82年の「三者合意」に基づく「転業準備資金」の「融資」の目的は、三番瀬をめぐる「京葉港2期・市川2期」埋立計画にともなう漁業補償にあった。埋立計画が確定し、漁業補償として行われていれば、漁場評価額である45億5700万円を拠出すれば事足りた。ところが、違法な「融資」方式によって漁業補償を行ったために、あわせて、その利息の負担を約したがために、千葉県・企業庁は全く余分な利息の支払義務を負わざるを得なくなった。しかも、約17年間もの長きにわたって放置したがために、その間の利息の総計だけで56億2870万1000円と、融資元本(42億9750万円)はもとより、行徳漁協が算定した漁場評価額(45億5700万円)をも上回る膨大な額となってしまった。しかも、融資元金はそのまま全て残っており、かつ、埋立問題並びに「融資」問題が解決するまでの間、同元利金に対するさらなる利息支払い義務が継続的に発生するのは必定の状況にある。

(2) いずれにしても、埋立計画が具体化したのちに、正規な方法で漁業補償が行われるならば、本件累積利息の支出行為はあり得なかったのであって、巨費の全くのムダ使いである。これが地方財政法の前記規定に違反することは明白である。

5.計理準則違反

(一) 地方公営企業法第20条は、計理の方法として、「地方公営企業においては、その経営成績を明らかにするため、すべての費用及び収益を、その発生の事実に基づいて計上し、かつ、その発生した年度に正しく割り当てなければならない」(第1項)、「地方公営企業においては、その財政状態を明らかにするため、すべての資産、資本及び負債の増減及び異動を、その発生の事実に基づき、かつ、適当な区分及び配列の基準並びに一定の評価基準に従って、整理しなければならない」(第2項)、「前項の資産、資本及び負債については、政令で定めるところにより、その内容を明らかにしなければならない」と各定める。

(二) 企業庁が締結した利息負担契約は、地方自治法第214条にいう債務負担行為である。したがって、事項、期間、限度額を明示して債務負担行為として予算に計上しなければならない。したがって、82年の契約締結時点で予算に計上しなければならなかった。
 少なくとも、その後の4度にわたる具体的な債務引受を行った時点で、債務負担行為として予算に計上しなければならなかった。
 しかるに、右予算措置は一切行われていない。
 したがって、法令が定める予算措置を怠っており、手続的にも明らかに違法である。

(三) 千葉県及び企業庁は、「継続費」として計上してきたと主張するもののようである。すなわち、監査請求結果通知書には、事実認定の箇所では予算措置のことが全く記載されていないが、「判断」において、「昭和57年度以降、地方公営企業法第24条の規定に基づく企業庁予算の中で、法第212条の規定による継続費として、千葉県議会の所定の議決を得ているところであ(る)」としている(13ページ)。
 しかしながら、「継続費」として計上したことは、これまで一切証明されていない。

(四) 仮に、「継続費」として計上したとしても、法令に違反するもので、違法たるを免れない。  すなわち、
 第1に、継続費は建設改良等の特定目的のために、その完成に数年度を要するものについて特に必要がある場合に単年度主義の例外として認められるものである(地方自治法第212条)。したがって、本件「転業準備資金」の利息負担行為は、性格上継続費に計上すべきものではない。
 第2に、継続費というのであれば、「経費の総額」及び「年割額」を予算上に明記しなければならない(前掲法・条文)。しかるに、本件利息負担行為は、その性格上「経費の総額」を定めることができないし、「年割額」を定めることもできるはずがない。実際上も、「経費の総額」並びに「年割額」は一切明示されてこなかったことは疑いない。
 第3に、監査結果通知書によってはじめて知り得たところによると、82年に金融機関二者を含む三者間で締結された2通の「協定書」では、融資期間はいずれも「昭和57年7月15日から昭和58年3月31日まで」とされている(8ページ)。すなわち、1年未満の融資期間とされていた。
 したがって、右融資によって発生する利息及びその負担行為も1年未満の期間を対象としていたのである。
 その後、融資期間の延長が延べ30回行われたとされるが、その延長期間は最短6か月、最長12か月という(結果通知書9ページ)。その全てが1年以下であったことになる。
 このように、本件利息負担行為はいずれも1年以下のものであって、継続費とは全く性格を異にする。

(五) さらにいえば、現に4回にわたって債務引受を行った各時点において、いかなる予算上の措置が講じられたのかは一切明らかにされていない。
 何らの措置も講じなかったことは、おそらく間違いない。

(六) 以上のとおりであって、千葉県及び企業庁が行った本件に関する計理処理は、地方公営企業法第20条に違反することが明らかであり、この面からみても違法である。


五.本件支出行為等は違法

 本件支出行為等は、右違法な原因行為に起因するものであって、本件支出行為等自体も違法である。
 また、平成12年度当初予算に計上された金28億2870万1000円は、平成12年度末、すなわち2001年3月31日までに支出されることが確実である。


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  第6 住民監査請求と棄却決定

 原告らは、2000年4月7日、千葉県監査委員に対して、臨海地域土地造成整備事業における浦安地区2期事業費および京葉港地区事業費の支出差止等を求める監査請求を行った。これに対して、千葉県監査委員は、同年5月31日付通知書をもって請求を棄却する旨を原告らに通知し、右通知書は6月1日以降各原告にそれぞれ到達した。


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  第7 被告らの損害賠償義務
一.被告沼田武について
(1) 被告沼田は、知事として、企業庁に関する予算の調製権、議会への提出権、更には予算執行権等を有する者であり、企業庁における財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有する者である。しかも、本件埋立計画は千葉県の計画であり、その最終的な責任を負う地位にある者である。しかるに、本件支出行為が公有水面埋立法・地方自治法及び地方財政法等に違反する違法なものであることを知りながら、不当にも支出行為を行った。少なくとも、本件支出行為が前記各法令に反する違法なものであることを容易に知り得たにもかかわらず、本件支出行為を行い、もって千葉県に甚大な損害を与えた。
 よって、被告沼田は、本件違法な支出行為につき、故意、少なくとも過失があり、千葉県に対して、本件支出行為に基づく損害について、これを賠償する義務を負う。

(2) 加えて、補助職員である被告中野に対して、同被告が財務会計上の違法な支出行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務があるにもかかわらず、自己の故意若しくは過失によって、被告中野が違法な支出行為をすることを阻止しなかった。
 よって、この指揮監督義務の不履行に基づき、千葉県が被った損害について賠償責任を負う。


二.被告中野英昭について
 被告中野は、企業庁における「管理者」として、被告沼田と並び、企業庁における財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有する者である。しかるに、本件支出行為が公有水面埋立法・地方自治法及び地方財政法等に違反する違法なものであることを知りながら、不当にも支出行為を行った。少なくとも、本件支出行為が前記各法令に反する違法なものであることを容易に知り得たにもかかわらず、本件支出行為を行い、もって千葉県に甚大な損害を与えた。
 よって、被告中野もまた、本件違法な支出行為につき、故意、少なくとも過失があり、千葉県に対して、本件支出行為に基づく損害について、被告沼田と連帯してこれを賠償する義務を負う。


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  第8 まとめ
    〜本事件のもつ意義〜
 千葉県と千葉県民が、「金権千葉」との汚名を浴びせられてから、すでに久しい。
 その根源にあるのは、相次ぐ大規模乱開発計画の強行実施と、それにともなう巨額の資金に群がる県高級官僚、一部の政治家、ディベロッパー等の利権あさりにある。本件もその例外ではない。三番瀬周辺の海域が、それまでの埋立(とくに浦安二期工事)によって、潮の流れが悪くなり、程度の問題はあるものの漁業環境が悪化していたのは紛れもない事実である。千葉県と企業庁が、自らの施策によって招いた事態にほかならない。本来であるならば、それまでの施策を見直し、漁業環境の回復のための策を講じ、もって水産業の発展を期すべきであった。
 ところが、千葉県と企業庁がとったものは、漁協の一部幹部とあいはかって、漁民らの窮状に乗じ、「札束でほほをたたく」やり方で、漁民らの誇りを奪い、離漁へと追い込むことであった。そのうえで、巨費を投じて埋立を強行実施し、新たな利権づくりを実現することであった。そのために、いまだ具体的な埋立計画すら策定されておらず、県議会での決議等も全くない状況であるにもかかわらず、「転業準備資金の融資」といった姑息な脱法方法をもって、金銭をばらまいたのである。そして、これをもって漁民の意思を押さえつけ、遮二無二埋立計画の実現をおしはかろうとしている。仮に、本件支出行為を黙認することによって、違法な漁業補償を追認することにでもなれば、この県の金権構造は全く改まらず、さらに深化することは避けられまい。
 しかも、埋立計画の対象とされている干潟が「三番瀬」である。国内はもとより国際的にも保全を求める世論が一段と高まっている地域である。来る21世紀へむけて、「持続可能な発展」が国際的にテーマとなっているいま、かかる手法による回復不能な環境破壊が許されてはならない。それは20世紀末に生きる私たち人類の共通の責務である。
 癒着と金権の構造を断ち切るためにも、また、かけがえのない環境を保全するためにも、被告らに対し本件支出行為の差し止め(未支出分の支出が千葉県に回復困難な損害を生ずるおそれがあることは明らかである。)並びに損害賠償を命ずることが必要不可欠である。
 よって、原告らは地方自治法第242条の2第1項1号及び4号に基づき、請求の趣旨記載の判決を求めて本件訴えに及んだ。


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            証拠方法

1 甲第1号証      監査結果通知書



            付属書類

1 甲号証             1通
2 訴訟委任状           21通

  2000年6月29日


          原告ら訴訟代理人
                        弁護士    中 丸 素 明
                        同   高 橋      勲
              同      高 橋 高 子
              同   白 井 幸 男
              同      藤 野 善 夫
                          同   渡 會  久 実
                          同   岩 橋 進 吾
                          同   有 坂 修 一
             同   鈴 木   守
                          同   山 田 安太郎
                          同   市 川 清 文
              同   内 海 文 志
                          同   石 塚 英 一
                          同   桑 原 伸 郎
                          同   廣 瀬 理 夫
                          同   田 中 由美子
                          同   佐々木 淳 一
              同   植 竹 和 弘
             同   菅 野   泰
             同   渡 辺 寛 之
             同   齋 藤 和 紀
             同   石 川 知 明
             同   田 村   徹
             同   田久保 公 規
             同   福 田 光 宏
             同   田 中 三 男
             同   伊 東 達 也
             同   拝 師 徳 彦
             同   大 家 浩 明
             同      湯 川 芳 朗
             同   後 藤 裕 造
             同   小 林 幸 也
             同   山 本 英 司
             同   堀   良 一
             同   中 田 憲 悟

 千葉地方裁判所
   民事部  御中







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