小さな生き物たちの偉大な役割

〜三番瀬の複雑な生態系と生物多様性を下から支える〜


千葉県野鳥の会 沢田文夫



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 三番瀬の生きものについては、田久保晴孝「三番瀬の生き物」日本弁護士連合会「三番瀬埋立事業計画に対する意見書」などの中で、主要な問題点は十分に紹介されている。
 今回は、これらとの重複をできるだけ避け、「海の再生」や「里海再生」などの名のもとに埋め立ての恐れのある猫実川河口海域を他海域と比較しながら、特にそこに住む小さな生きものたちの役割を、いくつかの話題にしぼって考えてみたい。データの出所は、特に断らない限り「県補足調査・現況編」(1998年9月)である。
 最初にとりあげたいのは、13万人分の下水処理場に匹散するとされる、三番瀬の水質浄化能力のみなもとである。三番瀬に流入する汚れのうち、富栄養化の一因となる窒素分に注目すると、実に約7割が窒素ガスとなって三番瀬から大気中に逃げてゆき(脱窒作用。コラム参照)、ヒトによるアサリなどの漁獲とスズガモなど烏による二枚貝(ホトトギスガイ、アサリなど)の採餌がそれぞれ約1割だという。
 脱窒作用の最も強い海域は、アサリの漁場となっている市川航路の市川市側の砂質浅海域で、それに次ぐのが船橋海浜公園沖の砂質海域となっている。千葉県環境研究センター研究員の小倉久子さんによると、まず海水中のアンモニア態窒素は、そこに棲む硝化菌の作用で硝酸態窒素に変化し、ゴカイやアサリの掘った穴の近くにできたミクロの嫌気(低酸素濃度の)環境の中で、脱窒菌の動きによって窒素ガスとなって外界へ出て行くという。アサリ漁のための海底の掘り返しも、砂の中への硝酸態窒素の供給を助けているという。
 猫実川河口海域は泥質であり、脱窒作用はほとんどないが、有機物の分解能力の指標であるCOD値(化学的酸素消費量)で見ると、三番瀬の他の海域と同じレベルである。このことは市川市海域調査(1996〜98年)でも裏づけられている。すなわち、猫実川河口海域はけっして死んだヘドロの海ではなく、そこに棲む微生物や底生動物などが、共同作用で海水浄化を活発におこなっている命あふれる海である。
 そればかりではない。猫実川河口の泥質海域にはドロクダムシ(コラム参照)という小さな甲穀類がたくさん棲んでいて、泥の中にいるマハゼ、ヒメハゼ、マアナゴなどの稚魚の餌になっている。ドロクダムシは砂泥質・砂質の海域にもいて、遊泳性のサッパ、メバル、スズキなどの稚魚の餌ともなる。工藤孝浩さんによると、イシガレイも泥場で産卵し、稚魚はおそらくドロクダムシを餌とし、砂質の浅瀬に移って多毛類(ゴカイの仲間)を食べて成長し、やがて外洋に出て成魚になるという。つまり、三番瀬は、猫実川河口も含めて、泥質から砂質までさまざまな海域のあることで生物多様性が維持され、さまざまな魚たちの稚魚を育むゆりかごなのである。
 冬の使者スズガモの大群は三番瀬の風物詩だが、この渡り鳥はアサリの食害のためにアサリ漁業者からは嫌われている。しかし補足調査によれば、スズガモはアサリと同じくらい猫実川河口の泥質海域のホトトギスガイ(コラム参照)を食べるというから、その分、アサリの食害を減らし、ホトトギスガイの増え過ぎを抑え、この海域に流入した有機物をホトトギスガイという形に変えて、三番瀬からスズガモが取り除いていることになる。同様に、初夏に訪れるコアジサシ(小型のカモメ類)も、小魚を採ることによって三番瀬の浄化に貢献していることになる。
 このように、三番瀬の小さな生きものたちこそ、三番瀬の複雑な生態系と生物多様性を下から支えている巨人といえよう。

(2001年9月)  





脱 窒
 硝酸態窒素が硝酸塩→亜硝酸塩→一酸化窒素→亜酸化窒素→窒素の一連の反応を経て、最終的に窒素ガスとなって大気中に放出される現象。一酸化窒素も亜酸化窒素も気体なので、窒素と同様に大気中に出ていくが、三番瀬で実際にどの段階まで脱窒反応が進んでいるのか、各段階で関与する脱窒菌(硝酸還元菌)の種類も、まだわからないらしい。水田では窒素肥料を分解する困り者の脱窒菌だが、三番瀬では水質浄化の功労者だ。


ドロクダムシ
 体長数ミリ小さな甲穀類で、ヨコエビの仲間。泥の中に管状の巣をつくることからの命名という。水の汚れを浄化し、自らは稚魚のエサとなる。泥質干潟にたくさん生息している。


ドロクダムシ(え・川西清子)


ホトトギスガイ
 殻長約3センチの二枚貝、イガイの仲間。砂泥質の海底に層状になって覆い、アサリが生息できなくしてしまう。穀の模様が烏のホトトギスの胸の模様に似ることからの命名。





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