NPOの行政下請け化を憂う


佐藤行雄



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 NPO法人(特定非営利活動法人)制度が1998年12月にスタートして、もうすぐ8年が経ちます。NPO法にもとづいて認証されたNPO法人の数は、全国では2万6000を超えました。うち千葉県は1021団体(2005年度末)です。2000年度は117団体だったのですから、すごい急増です。
 そのNPOですが、戦前の大政翼賛会に似てきたな、というのが私の率直な感想です。


■市民運動組織が自己変質する恐れも
   〜久野収氏の危惧〜

 NPO法(特定非営利活動促進法)が1998年3月に成立したとき、久野収氏(哲学者)は、『週刊金曜日』(1998.3.27)でこんな懸念を表明しました。
    《市民主権を実践する運動にとっては、問題はこれからである。「新しい皮袋には新しいブドウ酒を」という言葉があるが、NPO法によって法人格を獲得した市民運動組織が、新しい皮袋に入るためだけに自らを集中しすぎ、“成分”を自己変質させる恐れもある。『東京新聞』も「政治、行政、市民団体の意識の落差はまだ大きい」(3月18日付)と書いていた。自民党内には依然として、「反原発・反自民を掲げるNPOをなぜ援助しなければならないのだ」という異論も当然、大きいらしい。また、法人格を獲得したNPOが補助金受領に励みすぎ、「行政の下請け機関」になってしまう恐れもある。》

    《抜け目のない役人たちが考えることだ。介護保険などの場合も、行政は、ボランティア団体を末端行政の補完物と位置づけているかに見えてならない。三者三様のこの認識の食い違いが、結果的に表面上、一番弱いNPOに“変質”を迫る恐れも十分ある。》


■NPO急増は市民活動高揚や民主主義発展につながっていない

 その後の状況をみると、久野氏が危惧したとおりになったと思います。
 第1に、NPOの急増は市民活動の高揚や民主主義の発展につながっていません。
 日本はいま、いろいろな分野にわたって「社会の劣化」が進行しているといわれています。民主主義もおびやかされています。平和希求や侵略戦争反省を自虐的と受けとめる社会風潮が強まり、言論封殺事件もひんぱんにおきています。
 しかし、こんな問題にとりくんでいるNPOはいったいどれくらいあるのでしょうか。私が見たかぎりでは、2万7000を超えるNPO団体のうち、平和・民主主義、環境保護、人権擁護、国民の暮らし向上などで奮闘しているのはほんのひとにぎりです。
 むしろ、NPO団体の増加と比例するように日本社会の劣化が進行しているといっても過言ではないと思っています。
 たとえば、先月(8月)26日の『朝日新聞』の「経済気象台」も、「偽装社会」という見出しをつけ、「『民』の代表であるNPO団体なども偽装と無縁ではない」と記しています。


■行政に資金援助を求めるNPOが多い

 第2に、行政に資金援助を求めるNPOが増えています。
 千葉県NPO活動推進課が今年3月に発行した『数字でわかる千葉県のNPO─NPO活動実態・意向調査報告書』をみると、行政にたいして資金援助(補助金)を求めるNPOが全体の62.0%に達しています。
 これは全国的な傾向です。こんな指摘がされています。
    《日本のNPOの現状は、資金面で公的依存が強く、行政の下請けに甘んじている。(中略)昨年、筆者が事業規模500万円以上の約2000のNPO法人を対象に行った調査では、寄付金額ゼロが2割、30万円以下が5割と、寄付額の少なさが目立った。半面、収入全体の6割以上を事業収入が占め、さらにその8割以上を公的機関からの委託に頼っており、補助金もあわせると収入の7割近くを公的資金に依存しているというのが平均像だ。》

    《行政との契約に基づく事業でまとまった額の収人を得て人件費を賄える委託業務は、確かにNPOにとって魅力がある。しかし、組織で働く人数が少ないだけに、業務をこなすのは楽ではなく、委託業務中心の活動になりがちになる。そうなると、自己財源となる寄付や会費を集める余裕が乏しくなり、自主事業を手がける時間や労力もおのずと減ってくる。その結果、手っ取り早い資金源である委託業務にさらに傾注せざるを得ない悪循環に陥るというのが今のNPOを取り巻く構図である。》

    《さらに問題なのは、自治体の財政難を理由に委託契約金が減額される傾向にある点である。アンケートやインタビューでは、安価な契約金や事業方法の制限などに多くの不満が寄せられたが、不満を感じながらも、職員の雇用維持のために委託に頼らざるをえないNPOが少なくないようだ。》(以上、田中弥生「NPO脱『行政下請けを』」、『日本経済新聞』2006.8.7)
 行政に資金援助を求めるのは、「行政の外郭団体化」あるいは「下請け化」につながるのではないでしょうか。


■環境破壊に手を貸す環境NPOも

 第3に、行政の資金援助に頼ることから、行政の環境破壊に手を貸す環境NPOが増えています。
 たとえば三番瀬では、あるNPOが開発優先の行政と連携を強め、三番瀬海域の人工干潟化(=埋め立て)を盛んに主張しています。このNPOは、人工干潟の維持管理事業の受託をめざしている、といわれています。これも全国的な傾向のようです。
 以上のようにみれば、NPOの急増は、久野氏が危惧していたように、市民運動組織の自己変質につながっていると思います。
 多くのNPOが「行政の下請け」あるいは「行政の外郭団体」と化している状況をみると、戦前の大政翼賛会を想起するのです。


■NPO法人取得のメリット

 念のためにいえば、私はNPO法人の取得そのものを否定しているわけではありません。NPO法人になれば、市民団体が法人格を有することができ、土地登記や口座開設を法人名義でできるようになります。これは大きな利点です。
 たとえば日本消費者連盟(日消連)は、そのためにNPO法人を取得しました。日消連のNPO法人取得をめぐっては、反対意見もかなりあったそうです。「行政からの独立を貫くべき」などという意見です。
 ある会合でもこれが議論になりました。日消連の富山洋子代表運営委員は、NPO法人取得の必要性についてこう述べました。
 「NPO法人を取得しないと、保有財産や預金、借金が個人名義のままになる。これでは日消連の運営や維持に支障がでる。そのため、議論を重ねたうえでNPO法人を取得することを決めた」
 私もこの選択に賛成を表明しました。日消連のように、財政規模が大きく、また、ある程度の財産をもったりすると、法人格を取得することが必要条件になるからです。もちろん、日消連は、NPO法人になっても、これまでと同様、先鋭的な市民活動を展開していくことにしています。


■行政が恣意的判断で認証を出さなかったり、
  NPOの活動に制限を加える動きもでている

 ついでにいえば、日消連のNPO法人認証申請にたいし、東京都はいろいろとナンクセをつけ、二度も不認証にしました。日消連は、三度目の申請が不認証にされれば提訴することを準備していました。そうしたら、やっと認証しました。
 このように、一部の自治体は、申請団体をみながら恣意(しい)的な判断で認証を出さなかったり、NPOの活動に制限を加えるなどの指導監督を強めているようです。こんな指摘がされています。
    《重要なことは、法律がスタートして8年近く経ったが、東京都のようにNPO法人の所轄庁(都道府県)が恣意(しい)的な判断で認証を出さなかったり、活動に制限を加えるなどの指導監督を強める動きが出てきている。自由な活動を促進するというNPO法の本来の趣旨を明らかにしながら、こうした行政側の怒意的な判断ができないように法文の改正などを進めるべきだと思う。》(松原明氏。『社会新報』2006.9.6)
 こういう行政の対応はとんでもないことです。

 最後に、NPOの行政下請け化については、以下のような指摘があることを参考に紹介させていただきます。




《参考》