なぜ、県は三番瀬を埋め立てようとするのか


開発問題研究会



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●見直し案は容認できるものではない

 6月9日、千葉県は三番瀬埋め立て計画を大幅に縮小する見直し案を発表した。
 この見直し案については、地元の市川市長が受け入れを表明を示した。また、一部の市民団体も基本的に評価した。
 しかし、「三番瀬を守る署名ネットワーク」の構成団体や、(財)日本自然保護協会、日本野鳥の会、世界自然保護基金日本委員会など、多くの自然保護団体は異議を唱えている。これは当然である。
 第1に、見直し案は、大幅縮小といっても、101ヘクタールもの干潟・浅瀬を埋め立てる大規模事業であることに変わりなく、三番瀬および東京湾の水環境や生態系へ与える影響は依然として大きい。それに、見直し案では「環境への影響はほとんどない」としているが、それは調査をおこなったうえでの結論ではない。
 第2に、下水処理場を埋立地につくるのはばかげている。まず、金がかかりすぎる。埋立地は地盤が弱いが、三番瀬付近はとりわけ地盤が軟弱で、施設をつくる際は、基礎杭を60b以上も打つ必要がある。したがって、建設費は莫大なものになる。
 防災上からも大きな問題がある。阪神・淡路大震災では、埋立地に建設された神戸市の下水処理場が液状化によって甚大な被害を受けた。こうした教訓からみても、重要な生活基盤をなす下水処理場を軟弱地盤の埋立地に建設するのは、愚の骨頂としかいいようがない。
 さらに、“水循環再生”の流れに逆行することである。今は建設省さえもが、下水処理水を河川にもどすという「水循環再生」を強調しはじめている。環境庁の中央環境審議会も、河川や地下水の汚染と枯渇を防ぎ、水循環の機能を回復するための政策大綱を今年の夏をめどに策定するとしている。広大な区域の下水をかきあつめて埋立地の大規模な処理場で処理し、その処理水をいっきょに海へ放流するという県の計画は、こうした水循環再生の流れに逆行するものである。
 こうしたことから、千葉県自然保護連合などは、この4月、県に対して江戸川左岸流域下水道計画の根本的な見直しを要請するとともに、次の3点を代案として提示した。
  •  計画を3分割し、上流、中流、下流域にコンパクトな終末処理場を建設するなど、水循環再生の考え方で見直しを。
  •  時間をかけて計画の根本的見直しを。
  •  第一終末処理場として都市計画決定されている地区での用地取得に再度努力を。

 ちなみに、県の都市部は今年3月、「ちば水環境下水道〜豊かな水環境の創造と循環型社会づくりに向けて〜」という名の下水道長期ビジョンを発表した。ビジョンでは、基本方針として、下水処理水の河川還元など「新たな水環境の創造」への貢献や、「災害時に被害を最小限に抑える都市構造・システムを有する安全なまちづくり」に貢献する下水道をめざす、としている。
 ところが、三番瀬埋め立て計画は、広大な区域の下水を軟弱地盤の埋立地に建設する終末処理場に集めて処理し、東京湾に捨てるという、旧態依然としたものになっている。これが下水道の新長期ビジョンと矛盾することは明らかである。つまり、どう考えても、三番瀬を埋め立てて下水処理場をつくる必要性はないのである。
 そして第3は、県の財政状況からみて、“三番瀬埋め立てなどやっている場合か!”ということである。県財政はいま、火の車といってよいほどたいへんな危機にある。県は今年度、1460億円もの財源不足をかかえたまま“見切り発車”で予算をスタートさせた。借金を大幅に増やしたり、人件費削減などにより、今年度はどうにかこうにか財源を確保できそうだが、来年度は財源不足がさらに深刻になる見込みである。こうした中、借金(県債残高)は増える一方で、今年度はとうとう予算規模(1兆6644億円)を超えて1兆8037億円になってしまった。毎日の利子だけで1億3000万円も支払っているのである。そして、来年度はこの借金がよりいっそう増える。
 こうしたことからも、巨額の県費を投入して、不要不急の三番瀬埋め立てを強行することについては、まったく道理がない。この点については、大多数の県職員が批判的である。
 このほか、自然保護団体が批判しているように、いまある自然の干潟をつぶして人工海浜(干潟)をつくったり、必要性のない「街づくり支援用地」や「港湾施設用地」をつくることなども問題が多い。




●6選知事をめざすため、財界へみやげ?

 では、なぜ県は三番瀬の埋め立てを強行しようとしているのか。
 聞くところによると、沼田知事が知事をもう1期やりたいからだといわれている。ある県庁関係者は、こう語る。
     「2001年春に県知事選挙がおこなわれるが、県政に強い影響をおよぼしている財界などは、知事候補として、5期つづけた高齢の沼田氏ではなく、代議士のM氏などを候補としてあげている。しかし、沼田知事はもう1期やらせてもらいたいようで、そのために精力的に動いている。たとえば運輸省には成田空港の二期工事実現を、そして建設省には東京湾口道路の実現や圏央道の整備促進を精力的に働きかけるというように、ゼネコンなどの儲け口確保にやっきになっている。三番瀬埋め立てもその一つである。用地買収費の割合が高い道路などとちがって、埋め立ては、事業費の大部分が工事を受注するゼネコンなどにわたる。しかも埋め立て工事は、人件費などがあまりかからないので、受注大企業にとってはボロ儲けができる。沼田知事は、大企業に儲け口を保証してやることで、6選出馬の支持をとりつけようとしている」
 ルポライターの永尾俊彦氏の調査によれば、沼田知事の後援会組織である「清沼会」は、自民党千葉県支部連合会に対して、1996年度に6500万円、97年度に5010万円を寄付している。「清沼会」は、県の事業を請け負っている企業から多額の献金を集めている。沼田知事は、そうした金の一部を自民党に寄付することで、権力の安定と継続をねらっているともいわれている。
 ちなみに、沼田知事の知事の座への執着は相当なものである。たとえば、副知事の人選においては、自分の地位をおびやかすことはまったく考えられないような人物を中央省庁から迎えている。つまり、能力面や人気面などで沼田知事の足を引っ張る存在には絶対にならないような人物を副知事にすえているのである。
 この点については、『JOHOちば』(1997年2・3月合併号)も、沼田知事についてこう記している。
     「ただ言えることは後継者が育たなかったことだ。あるいは意識的に後継者の芽をつぶして来たとも言える。副知事を常に自治省から迎え、部内登用しなかったところにも、それはいえる」
     「(島崎・現副知事は)前副知事中野晟との共通点が非常に多いのである。中野が昭和28年、島崎が36年の東大法卒、共に自治省出身である。次に、自らを決して飾ることなく、沼田知事を輔(たす)け、女房役に徹す処などは全くといって程に似ているのである。(中略)中野・島崎両副知事について、消息通に言わせると『沼田知事は、女房役を当てたネー。』」
「女房役を当てたネー」というのは皮肉であって、野心や力のない人物を意図的に選んで副知事にすえているのである。その一方で、沼田知事は、知事の座をおびやかしそうな力のある人間は排除している。これは、県庁関係者の間では、よく知られていることである。




●天下りに「オイシイ生活」を保証するため、
 不要不急の土建事業を推進

 県が三番瀬埋め立てを執拗にやろうとしているもう一つの理由は、政財官の癒着である。これは、わが国の公共事業(土建工事)に共通することでもある。
 図1をご覧いただきたい。これは、公共事業関連の企業や外郭団体に天下った県幹部OBの名簿の一部である。このような公共事業関連の天下りは数百人におよんでいる。企業に天下ったOBは、発注の見返りとして、企業に高給で雇ってもらっている。彼らは、企業ではたいした仕事をしていない。しかし、企業にすれば、県庁OBを雇えば仕事がもらえるから受け入れている。逆にいえば、天下りを受け入れなければ仕事がなかなかもらえないのである。
 たとえば、千葉県職員労働組合の機関紙(1982年5月1日号)の「いま、公共事業職場では−−現場職員による覆面座談会」によれば、公共事業職場の主務課には「天下り調整機関」があって、特定グループが「雲の上」で「甲さんはどこへ、乙さんはどこへ」というように天下り先の割り当てをしている、という。これは今もおこなわれていることであり、「割り当てられたのを断ればそれで終り」(つまり工事は受注できない)ということなのである。
 ようするに、こうした数百人におよぶ天下りに高い給料を保証してやるためにも、公共事業はやめられないのである。
 たとえば本多勝一氏(元朝日新聞記者)は、ダム問題を例にあげ、「公共事業」の本質を、次のように端的にいいあらわしている。
 「第1に、土建資本のカネモウケ。第2に、そこに寄生する役人のオイシイ生活。第3に、それら周辺で利権をあさるハイエナ的存在たちのオイシイ生活。そして損するのは、かれらのために税金をとられる一般国民全部と、環境破壊で生態系を無茶苦茶にされて絶滅あるいは激減する無数の生物たち」(『週刊金曜日』1994年10月14日号)
この構図は、三番瀬埋め立て計画にもあてはまるのである。




図1 公共事業関連の企業と外郭団体に県幹部OBの数百人が天下り






●“あとはどうなろうと知ったことでない”

 三番瀬埋め立ての事業費は、縮小案でも2000億円を下ることはないだろうといわれている。県財政が火の車の中でこうした大型開発を強行すれば、財政破たんは必至である。環境面でも、東京湾奥部に残った貴重な干潟・浅瀬や、ひいては東京湾全体の環境に大きな影響をおよぼす。
 しかし、自分の保身や権益しか考えていない沼田知事や幹部にとっては、そんなことはどうでもいいことである。膨大な財政赤字累積の元凶となっている幹部たちは、外郭団体や公共事業関連の企業に天下り、そこで多額の報酬と退職金を手にしている。外郭団体への天下りについていえば、1998年4月21日付けの読売新聞が「県OBの優雅な天下り」という見出しで実態をとりあげ、こう記している。
 「読売新聞社は、県が委託費は補助金を支出している外郭団体や第三セクターに多くの県退職者が再就職している『天下り』の実態を、各団体への聞き取りなどをもとに調べた。そこからは、数年間勤めただけで多額の退職金を受け取り、転々と団体を渡り歩く県幹部OBの姿が垣間見える。」「最近5年間の県の部長級の退職金支給額は最低で2789万円。最高では3900万円。団体によって額の多少はあるが、多額の退職金をもらった後、天下り先でわずか2、3年勤めれば、数百万円の退職金が転がり込むわけで、何ともうらやましい限りだ」
 こうした幹部OBは、多額の退職金を手にして外郭団体をやめた後は、県の事業を受注している民間企業に天下っていく。
 そして、沼田知事についていえば、従来は、知事をやめる時にもらうことになっていた知事退職金の支給制度を改訂し、任期(4年)ごとに退職金を支給するように変えた(表1参照)。それで、沼田知事は、すでに1億8432万円もの退職金(4期分)をもらった。今期(5期)が終わると、さらに5000万円をもらうことになる。
 ようするに、知事や幹部が考えていることは、自分の保身や権益のことだけで、財政や環境、県民生活などは“どうなろうと知ったことではない”ということなのである。


表1 沼田知事は、すでに退職金を1億8400万円もらった






●おわりに

 三番瀬埋め立て問題は、環境面でさかんに議論になっているが、公共事業をめぐる利権問題からの視点は非常に弱いという感じがする。そういうことから、県が埋め立てを強引に押し進めようとする理由をとりあげた。三番瀬問題を検討する際の一つの材料にしていただければ幸いである。

(1999年6月)   






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