●三番瀬再生計画素案に対する意見


 総論と矛盾する具体的施策については

 十分な協議と合意あるまでは記述を削除し、

 全国から見守っている私たちの信頼を裏切らないでください。

  〜辻淳夫・藤前干潟を守る会理事長の意見〜




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 NPO法人「藤前干潟を守る会」理事長の辻淳夫さんが三番瀬再生計画素案のパブリックコメントに寄せた意見を紹介します。辻さんは、日本湿地ネットワーク(JAWAN)の代表も務めています。




意見書



2003年12月25日

 三番瀬再生計画検討会議
  会長 岡島成行 様

特定非営利活動法人 藤前干潟を守る会
理事長  辻 淳夫


三番瀬再生計画素案に対する意見

 共に、干潟の保全活動に関わり、先達として「千葉の干潟を守る会」の方々の長い干潟保全への努力を見てきた私には、2001年9月「三番瀬埋立計画中止」の決断は、藤前干潟の「ゴミ埋立断念」に次ぐ大きな喜びでしたし、その後の「円卓会議」を、東京湾の再生につながるものとして強い関心を持ってきました。
 このたび、その成果がまとめられた、180ページにわたる「三番瀬再生計画素案」を読ませていただき、この2年間に注ぎ込まれたみなさまの膨大な努力を思い浮かべました。こうした取り組みがなされたこと自体、まさに内外の環境保全史上画期的なことと、羨望を交えて敬服しています。
 しかし同時に、かくも歴史的な意義をもつものであるだけに、もっとこうあってほしいという数々の思いが湧いてきます。そのいくつかを意見としてお伝えしますので、どうぞご検討いただきますよう、よろしくお願いします。


■全体的な視点

1.三番瀬の地理的・歴史的経緯からの現状把握

 三番瀬の歴史が、東京湾の漁業の変遷や社会的背景とともよく捉えられていると評価し、全国の事例に役立てたいと手法も紹介され、今後の継続的な情報収集・調査の必要性にも言及されていることに好感を持ちました。
 それによって、三番瀬が旧利根川の河口部に形成された広大なデルタの一角と知り、そうであれば、元来そこには泥質、砂泥質の多様な環境が存在し、海のゆたかさの元になっていたと思われ、埋立や浚渫で大きな地形変化を受けたが、今残されている干潟・浅海域には昔からの底質環境が温存されているという意味で重要と思われます。1960年代から始まる埋め立ての前の、底質環境がどうであったか調査され、現状と比較してみることが必要と思われます。
 旧利根川の付け替えという史実は、木曽川の河口を西へ付け替えた歴史と重なり、藤前干潟が旧木曽川(現日光川)河口部に当り、そこが泥質であり、アナジャコが多く生息している事実に思い至ります。猫実川河口域に同じ泥質浅海域があり、アナジャコが多く生息するという類似には重要な意味があると考えます。そこには、今も脈々たる地下水の経路・湧出域があり、海の動植物プランクトンを育てる重要な汽水環境をつくっているものと推察されます。
「三番瀬の現状」の中で、猫実川河口域の底生生物相が三番瀬の生物生産において重要な役割を持つことが指摘されていますが、ぜひ上記視点からの調査を加えてください。


2.海の自然破壊を進めたもの

 1960年代からの大規模埋立が進められた要因について、もう少ししっかりした記述がほしいと思います。経済発展や公有水面埋立法も肯定的に書かれながら、再生への方向性では、一転して「もう海を埋めていく時代ではない」とさらりとすませては、説得力に欠けるばかりか、東京湾再生への歴史的転換の真の動機が後世に伝わらないうらみがのこります。
 東京湾漁業の前史が詳細に記述されている割に、漁民が海の破壊に抵抗しながらも崩されてきたメカニズムや、それに代って続けられてきた市民による干潟保全活動の重要性にふれないでは、もっとも大切な現在の到達点と未来への視点が確かなものにならないと思います。
 浦安から始まる埋立への漁民の強い抵抗がありながら、東京湾岸の埋立を次々とドミノを倒すように進められたのは、公有水面埋立法と行政主導型開発方式、機械浚渫埋立工法の3点セットがあったからでしょう。公有水面埋立法は、最終的には知事が補償金を裁定できることで、漁民を無力化し、海と深い関わりを持つ周辺住民や一般市民の権利や自然生態系の価値を無視して行なえる、原則的に「開発自由」の、公有水面の私有化という「開発促進」法でした。これを行政主導型で運用することで、当時の開発担当者に「天下の名法」とうそぶかせたものだったのです。
 こうして海を売らされ、海を奪われた痛切な漁民の心情を「埋立こそ諸悪の根源」と喝破された、元漁業組合長の証言(「干潟からの声―全国干潟シンポジウム1975汐川全記録」所収)などにある社会的背景を捉えておくべきだと思います。また、渡り鳥を守ろうと立ちあがった市民活動や、全ての人にとって重要な意味を持つ干潟を守ろうと30年以上にわたって続けられてきた「千葉の干潟を守る会」を中心とする広範な市民活動なしに、新浜の行徳野鳥保護区や谷津干潟と三番瀬の現在はありえません。
 三番瀬の再生計画が、元々一衣帯水のこれらのつながりを取り戻そうとする大変すばらしい構想であるだけに、それを可能にした史実を押さえておくことはとても重要だと考えます。

(参考資料)
(1)「谷津干潟・今昔」石川敏雄
(2)「東京湾に自然破壊─千葉県の埋立を中心に」石川敏雄
(3)「公有水面埋立法上の問題」熊本一規
  上記3点、全国自然保護連合刊『自然保護事典2[海]』、1995、緑風出版 所収
(4)『東京湾の環境問題史』若林敬子、2000、有斐閣


3.再生の目標と方向性

 総論として再生の目標は、「これ以上海域をせばめない」、「現在残っている干潟や浅海域は保全する」という前提に立った上で、「海と陸との連続性の回復」をはかること、とされているのは、すばらしいことだと思います。
 しかし、第4章の提言では、この重要な前提が落とされ、実質的にその前提に反すると思われる具体的施策として「護岸前面の干出域化」が入れられているのは理解できません。
 詳細に見れば、これは現状把握の中で貴重な泥質域とされている猫実川河口の浅海域に土砂を投入(埋め立て)して、人工的に砂浜にする計画であり、これはかって計画され、市民の反対で中止されたはずの「人工干潟」と同じ結果になると思われるからです。

 第4章の提言に落とされているものがまだあります。自然再生推進法の基本方針である、科学的な合理性を持つもの、市民と漁民の意見が一致するもの、失敗しても元に戻せるものといった原則です。「改修護岸前面の干出域化」は、この原則にも沿っていないようです。この具体案は、あらためて再協議し、これら前提を満たすものとして合意されない限り削除されるべきと考えます。


4.「再生計画」を実行していく協議機関の設置

 三番瀬の再生の方向性として、ラムサール条約の「湿地復元の原則と指針」に沿って行うとされたのは、大変適切であると思います。この原則と指針では、「うしなわれた生命は再生できない」ことを基本認識として、何をどこまで復元できるかの目標と達成基準をあらかじめ明らかにしてかかれといっています。
 そのために一番大切なことは、いのちの声を聴いて、彼らが望むように進めること、それが順応的ということです。これまでの行政の仕組みである、制度割り、地域割り、年度割りといった、人間の都合で考えてはできないということです。
 そのために、総合的、広域的、長期的な取り組みが必要であり、「三番瀬再生計画」をそのように進めていくための協議機関の設置を明示してください。


5.ラムサール条約の登録

 三番瀬のラムサール条約登録をぜひ進めていただきたいと思いますが、水鳥の基準を満たすというより、東京湾の生物多様性を維持し、東京湾を再生し、持続的な漁業を続けるためにこそ、ラムサール条約の理念が必要だと意義付けてください。
 制度的担保として「鳥獣保護区特別地区」の指定が必要というのは、条約としてあるのではなく、環境省の内規的扱いに過ぎないので、手続きとしてはそうなったとしても、その目的は鳥の保護だけにあるのではなく、山から海までの水でつながる生態系の保全と、その特質を活かした利用(農業・漁業もそれに入る)という、重要な意味があり、[再生計画の陸と海のつながりの回復]という方向性にぴったりあうことを明記してください。


6.湾岸道路計画への対応

 三番瀬の保全再生を考える上で、この道路計画を検討せずに済ませることはできなかったはずですが、それがないものとして「再生計画」が考えられた以上、「いかなる計画も三番瀬再生計画の基本的方向性に支障をきたさないこと」と明記するべきです。


7.「円卓会議」について

 円卓会議は、子委員会を含めて128回と、想像を超える過密スケジュールで開かれたそうですが、そのほとんどに傍聴参加した方の証言では、最後の提言に2年間の議論で合意されたきたはずの猫実川河口部の泥質環境保全は入れられず、それを破壊する土砂投入である「干出域化」案は議論も合意もなしに入れられたと憤慨し、「市民参加の千葉方式」に強い不信と落胆を表明されています。
 こういう状況は、折角の「市民参加型円卓会議」の先進性を大きく疑わせるものになります。総論と矛盾する具体的施策については、十分な協議と合意あるまでは、記述を削除し、全国から見守っている私たちの信頼を裏切らないでください。


■個別的視点

 第4章提言<再生の目標>155pに、その前提となる「現在残されている干潟・浅海域を保全する」という原則に立つことを再度明記し、<具体的施策>の「4」市川市塩浜2丁目の改修護岸前面の 干出域化」を削除すべきと考えます。
 同時に、109P図2-5-18 市川市塩浜2丁目の改修護岸イメージ(断面図)も削除してください。

 また、53ページ第2章再生のために必要な項目、1干潟・浅海域、(4)アクションプランの、5)市川市塩浜の護岸全面に、曝気能力を向上させ生物生息に寄与するように波が砕けるような干出域をつくります。
 を削除してください。
 また52ページ(4)−2)にも、「河川の運搬のかわりにゆっくりとした人為的な土砂の供給を市川市塩浜護岸前面などで行ない」とか、42ページ「現在の護岸を整備しなおす際に、可能な場所では干潮時に干出する小規模な干潟を復活する試みを」と同じ趣旨の一連の記述を削除すべきと考えます。

 理由は、全てこれらは三番瀬の生物多様性を支えていると評価されている猫実川河口部の貴重な泥質浅海域を埋め立て、人工的に砂浜を作ろうとする試みとしか思えないからで、これは再生計画の基本的方向性に反しているからです。
以上




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