「人工干潟造成による望ましい水際線」論を批判する

〜わずか3日間のコンピューターシミュレーションで何がわかるのか!〜


千葉県自然保護連合事務局



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 さきごろ、市川市の行徳漁協と南行徳漁協は、「里海の再生に向けて漁業者からの提言」を堂本知事に提出しました。
 この要望(提言)は、「千葉北部漁場修復協議会」(両漁協が設置)の専門委員会がおこなった猫実川河口域(三番瀬の市川側海域)の海水交換シミュレーション結果をもとにしています。
 シミュレーションは、コンピューターを使い、漂流物に見たてた約1万個の仮想粒子を用いて海水交換の状況を3日間調査しています。その結果、現状では浦安から塩浜地区の護岸沿いに粒子が長時間滞留するとしています。一方、100ヘクタールの緩傾斜海浜(人工干潟)を造成して「望ましい水際線」にすれば、停滞域が完全に解消し、沿岸の潮の流れも全体的に速くなり、この結果、漁場の改善が予測されるとしています。
 両漁協の提言は、人工干潟造成による「望ましい水際線」の必要性を求めるとともに、「さらに精密化した本格的な環境再現シミュレーション」や、砂浜域造成方法の多角的検討、定量的な漁業調査などを要望しています。


●お粗末なシミュレーション

 このコンピューターシミュレーションは、はっきりいってお粗末です。そもそも、たった3日間のコンピューターシミュレーションで何がわかるのでしょうか。
 同協議会の報告書(「千葉北部地区漁場の修復に係る検討」)は、「(シミュレーションの結果)、流水環境の改善には規模の大きい干潟機能を持った海浜の造成が必要で、それはまたアサリ漁業や水質改善にもつながることがわかった」と結論づけています。しかし、こんな程度のシミュレーションで漁場環境や水質などの改善がはかれるのなら楽なもので、水産試験場や水産研究所などは不要になるのではないでしょうか。ぜひ、そこらへんのことを専門家に意見を聞きたいと思います。
 問題を具体的にいくつか指摘しますと、まず猫実川河口域は浅瀬(浅海域)ですが、大潮のときには広大な泥干潟が現れます。潮の流れだけでなく、こうした満ち干(みちひ)も検討しなければならないのに、シミュレーションはそれをまったく無視しています。
 また、報告ビデオを見られた方はご存じのように、季節風などもほとんど考慮されていません。
 1997年1月に日本海で発生した「ナホトカ号」の重油流出事故では、コンピューターシミュレーションによって重油の流出方向が予測されましたが、実際にはそのとおりにならなかったと聞いています。「コンピュータを使って重油が今後どちらに流れるかについて、いろいろ検討しているがどうもうまくゆかない」とも言われていました。
 これは、同年夏に東京湾でダイアモンド・グレース号が座礁したときもおなじです。「ナホトカ号」の場合は、海上保安庁が「沿岸には油はこない」と実際と違う予想をたてたことが、現場に大混乱をひきおこしたともいわれています。
 このように、油の流出方向は気象、海象、海底地形、海流、潮流など複雑な条件がからむために、コンピューターシミュレーションで予測するのはたいへんむずかしいのです。このことを考えれば、「千葉北部漁場修復協議会」によるシミュレーション調査は、あまりにも安易すぎるといわざるをえません。


●猫実川河口域をつぶせば三番瀬の生態系に甚大な影響

 猫実川河口域に足を踏み入れてみればわかるように、ここは汚いどころか、ハゼの子どもなどがたくさん泳ぎ回っていて、稚魚の楽園となっています。ハゼやスズキ、フッコなどの魚やカニがたくさん採れるので、釣り人もたくさんやってきます。密漁船も頻繁にやってきます。それほど、ここは生命力豊かな浅瀬なのです。
 このことは、県の補足調査でも明らかにされています。補足調査は、猫実川河口域にはドロクダムシ、ホトトギスガイ、エドガワミズゴマツボ、ニホンドロソコエビなど、三番瀬の他の環境条件には存在しない底生生物が多く生息していること。そして、有機物や汚染物質は多いが、この区域も浄化機能を果たしており、特に単位面積あたりのCOD浄化量は、他の環境条件での値と比較しても遜色がないこと──などを明らかにしています。浄化機能が高いことは、この区域が都市部から流れ込む汚染物質の受け皿となり、多様な底生生物が生息することにより、活発な浄化作用が行われていることを示しています。  つまり、ここは、三番瀬や東京湾の生物の多様性と着底魚類をささえる重要な海域となっているのです。したがって、この海域をつぶせは、三番瀬や東京湾の生態系に重大な影響をおよぼすことになります。
 この点は、たとえば補足調査をてがけた中央水産研究所の松川康夫氏(補足調査専門委員)も、つぎのように述べています。
     「三番瀬の中央から前面にかけての砂質域ではアサリ、バカガイなどの懸濁物捕食者が、市川側の奥部の泥質域ではホトトギスガイのほか、ゴカイやドロクダムシ(底生甲殻類)といった多様なたい積物捕食者がそれぞれ優占しますが、この泥質域から春に大量発生するドロクダムシやゴカイなどの幼生がイシガレイやハゼなどの着底魚類の主要なえさとなっていることが確認されました。ようするに、泥質域は夏には水質が悪化し生物も減少するのでややもすればやっかいあつかいされがちですが、干潟・浅瀬の生物の多様性と着底魚類をささえる不可欠の要素だということです。このような砂質・泥質ワンセットとしての干潟・浅海域、それも東京湾ではほどんと唯一のものを失うことの意味は小さくないと思われます」(『しんぶん赤旗』1999.6.18)
 「千葉北部漁場修復協議会」の報告や提言はこうしたことを無視しており、まったくヒドイものです。


●貴重な浅瀬をつぶすことは東京湾の漁業資源に大打撃

 魚の大切な育成場となっている浅瀬を100ヘクタールもつぶせば、「漁業環境の改善」どころか東京湾の漁業資源に大打撃をあたえます。それを漁協が自ら主張するとはとんでもないことです。
 日本の漁業は1970年代半ばからの200カイリ時代とともに衰退したといわれています。その要因は、日本近海・沿岸の漁業環境を守り、漁民が漁業をつづけていけるようにすべきだったのに、それをせずに遠洋漁業に頼ったことのツケがまわってきたこと。また、年間300万トンを超す水産物を輸入して、食料不足にあえいでいる諸国の反発を買ったこと──といわれています。
 沿岸漁業環境の衰退という点では、“海のゆりかご”である干潟や浅瀬をかたっぱしからつぶしていったことも大きな原因といわれています。こうした教訓をふまえれば、今残っている干潟や浅瀬をこれ以上埋め立ててはなりません。
 三番瀬についていえば、稚魚の育成場となっている猫実川河口域を埋め立てて人工干潟を造成すべきということを行徳漁協や一部の市民団体などが盛んに主張しています。この点について、たとえば千葉県水産研究センターで働くある研究員は、「県庁の水産部門から埋め立て論にまったく異議がでないのは、はずかしいことだ」と歯がみをしています。
 専門家や研究者の間では「千葉北部漁場修復協議会」の報告や提言をまともに評価する人はいないと聞きます。しかし、不思議なことに、正面切って批判したりする専門家などは皆無に近いのが現状です。
 ともかく、水産資源の確保や日本漁業の復活という点からも、貴重な干潟や浅瀬をこれ以上つぶすことは絶対に許せません。


●5団体が意見書

 「千葉の干潟を守る会」「千葉県自然保護連合」などの5団体は昨年11月、埋め立て計画案を審議していた環境調整検討委員会委員にたいし、「千葉北部漁場修復協議会」の報告に関する意見書を提出しました。
 意見書では、この報告は猫実川河口域の生態的な役割をまったく無視するなど問題が多い、としています。

(2001年11月)












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