三番瀬問題の焦点

〜「保存」vs「人工干潟造成」〜


千葉県自然保護連合事務局


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 三番瀬再生計画検討会議(円卓会議)が「再生計画案」を堂本知事に提出してから1年がすぎました。そこで、1月23日の『朝日新聞』(千葉版)が、その後の三番瀬情勢をとりあげました。
 この記事は、ある意味で三番瀬情勢の核心をついていますので、コメントさせていただきます。


■「三番瀬条例」の制定をさぼる

 記事は、「県は計画案に基づき具体的な再生計画を示す責務を負い、知事の指導力が期待されたが、動きは鈍く、条例化のめどは立たない」「具体策を詰めて条例案を作る予定だったが、いまだに実現していない」と書いています。
 まったくそのとおりです。県(堂本知事)は、三番瀬保全再生条例の制定をさぼっています。というよりも、まったくやる気がないといったほうが正確です。


■「保存」と「人工干潟造成」の対立

 記事は、三番瀬をどうするかについて基本的な対立があるとし、次のように記しています。
    「三番瀬を現状のまま残すのか、手を加えて過去の姿に戻すのか。自治体と漁業関係者、環境保護団体の見解は食い違う。特に、三番瀬に面した市川市塩浜地区の直立護岸の改修と再生、保全に関する対立が顕著だ」
    「(市川市)はすでに02年、護岸の再整備と、市民が三番瀬と触れ合える人工海浜の造成を含めた『まちづくり基本構想』を作成。千葉市長は『県からどのような計画がでるのか注目している』という。同市内の漁業者も、砂浜域の造成を盛り込んだ漁場再生の提言書を堂本知事に提出している」
 これは、三番瀬問題の核心をついています。つまり、「今の干潟・浅瀬は保存すべき」という主張と、「過去の姿の戻すために、浅瀬に土砂を入れて大規模な人工砂浜(干潟)を造成すべき」という主張の対立です。
「保存」を強く求めているのは、埋め立て反対運動をすすめてきた環境保護団体です。
 一方、市川側海域の浅瀬に土砂を入れて大規模な人工砂浜(干潟)をつくるべきと主張しているのは、行政(県、市川市)や地元漁協、そして一部のNPO・環境団体です。この「人工砂浜造成派」はこぞって、白紙撤回された101ヘクタール埋め立て計画を推進したり、埋め立てに賛成していました。
 この対立が三番瀬問題のポイントです。これを見ぬけないと、三番瀬で何が起こっているのかがわかりません。また、「三番瀬再生会議」のウラも見えてきません。


■環境保護団体(牛野さん)の主張
  〜陸側を削って人工海浜を造れないのなら、現状維持が「保全」の姿だ

 記事は、環境保護団体の主張として、牛野くみ子さんのコメントを紹介しています。
    「環境保護団体は、人工海浜が海側にせり出すのを懸念する。県自然保護連合の牛野くみ子代表は『三番瀬を守るという円卓会議の精神に反する。陸側を削って人工海浜を造れないのなら、現状維持が「保全」の姿だ』と指摘する」
 牛野さんのコメントは、環境保護団体の姿勢や主張を言いあらわしています。すなわち、東京湾の干潟が9割も埋め立てで消失したなかで、湾奥部にわずかに残された貴重な干潟・浅瀬はこれ以上つぶすべきないという主張です。“人工海浜をつくるのなら陸側を削るべき”ということです。


■自然は人間が勝手に考えるほどたやすくは改造できない

 しかし、市川側海域の人工干潟(造成)化を主張している行政や漁協、一部NPOなどは、三番瀬海域を現状のまま保存するのはよくないと言います。積極的に手を加えて(つまり土砂を入れて)人工的に干潟をつくり、“昔の姿に戻すべき”と主張するのです。また、人工干潟をつくれば潮流が良くなり、アサリが増えて漁場も改善されると言います。
 しかし、「昔の姿に戻す」というのはどういうことでしょうか。三番瀬は、「市川一期地区」(市川市)と「京葉港一期地区」(船橋、習志野市)の埋め立てで1034ヘクタールが埋め立てられてしまいました。このほかに、浦安市地先の埋め立てでも広大な面積が消失しました。いま残っているのは、約1800ヘクタール(水深0〜−5m)です。
 本当に「昔の姿に戻す」のであれば、こうした埋め立て地を海にもどすべきです。しかし、「人工干潟造成派」は、陸地は削るべきでないと言っています。
 そこで、浅瀬に土砂を入れて人工干潟をつくるべきと主張します。そうすれば、昔の姿に近くなる。また、アサリが増え、漁場再生にもつながると言います。
 これは、自然を思いのままにコントロールできるという、思いあがった発想です。かのレイチェル・カーソンはこう述べています。
     「自分たちの満足のゆくように勝手気儘(きまま)に自然を変えようと、いろいろあぶない橋を渡りながら、しかも身の破滅をまねくとすれば、これほど皮肉なことはない。でも、それはまさに私たち自身の姿なのだ。あまり口にされないが、真実はだれの目にも明らかである。自然は人間が勝手に考えるほどたやすくは改造できない」(『沈黙の春』新潮文庫)
 まさにそのとおりです。土砂投入や人工干潟造成などによって「かつての豊かな三番瀬をとりもどす」ことなど、絶対にできるはずがありません。反対に、現状より悪くなるのは確実です。だから、私たちは、安易な土砂投入に反対しているのです。


■人工干潟は成功例がない

 すでに埋め立てられて場所で人工干潟や人工砂浜をつくるのならわかります。しかし、市川側海域(猫実川河口域)の浅瀬は、ドロクダムシ、ホトトギスカイ、エドガワミズゴマツボ、ニホンドロソコエビなど、三番瀬の他の環境条件には存在しない底生生物が多く生息しています。アナジャコもたくさんいます。このアナジャコや、約5000平方メートルにわたるカキ礁が、多様な生き物の生息や水質浄化などに重要な貢献をしていることも「三番瀬市民調査」で明らかになっています。
 県の三番瀬補足調査や三番瀬円卓会議の三番瀬現況(生物調査)を手がけた望月賢二氏(千葉県立中央博物館副館長)も、次のように述べています。
     「猫実川河口域はつねに議論されるが、ここは、底泥データでみると平成に入ったあたりからほぼ安定している。この部分は三番瀬の水生生物の最後の生き残りの部分になっている。こういう点では、非常に貴重な部分である」(三番瀬円卓会議「専門家会議」での発言)
     「猫実川周辺は、波や流れの点での静穏性が高いことから、泥質域として維持され、干潟特有の生き物の生き残り場所になる可能性が高い」(上記「専門家会議」への提出資料)
 見られるように、この海域は三番瀬全体の環境の中で重要な役割を果たしているのです。生物多様性の観点からも、ここを保存することは重要です。そんな海域をつぶせば、三番瀬の生態系は大きな打撃を受けます。
 そんな大切な海域をつぶして人工干潟を造成すべきということが声高に叫ばれているのです。「昔の姿に戻す」は、そのうたい文句になっています。
 そもそも、アサリ漁場の整備という名目で造成された全国各地の人工干潟は、一つも成功例がありません。


■非生産的な疑似自然を造成し、
  いかに市民の目をごまかすか、という発想

 こんな状況をみると、つぎの言葉を思いだします。
     「この提案の最大の問題点は、現実に存在する豊かな干潟生態系をいかに保護・保全して活用を図るかではなく、非生産的な疑似自然を造成し、いかに市民の目をごまかすか、という発想です」「日本の官僚や政治家たちは、貴重な自然環境を徹底的に破壊し、それに代わるものとしての疑似自然を莫大な税金を使って造成し、『自然と人間の共生』であると強弁しています。これでは国際的な非難を受けるのは当然でしょう」(山下弘文『西日本の干潟』南方新社)
     「今日に至るまでそうした古典的な設問がときどきむし返されるのは、先の生態的最適域のような高いレベルの法則性について正しい理解がないからである」(沼田真『自然保護という思想』岩波新書)
     「自然破壊に鈍感なることを基本認識とするこのような民族にあっては、地球の生態系とか、それぞれの地域の在来種とか、自然界のバランスといった『高度な』問題など考える能力がなく、したがってその破壊を悲しむ能力もない」(本多勝一『日本環境報告』朝日文庫)
 もしも山下弘文氏(JAWANの元代表)や沼田真氏(千葉県立中央博物館名誉館長)が生きておられたら、三番瀬の人工干潟造成論についてどう言われるでしょうか。


■「人工干潟造成」のウラに第二湾岸道路

 最後に、朝日新聞の記事は重要なことを指摘しています。第二湾岸道路にかんする指摘です。
     「計画案の中で『再生計画に影響のない形とする必要がある』とされた第二湾岸道路建設の課題も残る。市川、船橋などルートになる周辺市は建設促進を求める。堂本知事は『通すだけの重要性があると思う。いずれは考えなければならない』と明言するが、本当に三番瀬再生との両立が可能なのか、具体的な方向性は定まっていない」
 県が、市川側の護岸改修や「漁場再生」を「三番瀬再生」の優先事業としている本当の理由は、ここにありそうです。すなわち、第二湾岸道路を建設するためには、猫実川河口域をいまのまま残すわけにはいかないということです。
 県は、その意図を隠しながら、護岸改修と漁場再生の2つの事業を再生会議と無関係にどんどん進めています。私たちは、こんなやり方に強く抗議します。

(2005年2月)







三番瀬再生事業の柱は「砂護岸」造成と漁港建設
〜ウラに第二湾岸道あり〜





「砂護岸」造成着手を報じた『千葉日報』(2004.4.26)





第二湾岸道の予定ルート







漁協代表委員が三番瀬円卓会議に提案した「三番瀬再生イメージ図」








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