三番瀬再生計画素案の問題点


千葉県自然保護連合事務局



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 三番瀬再生計画素案には、立派なことがたくさん書かれています。たとえばこうです。
  • 「三番瀬などわずかに残された東京湾のすべての干潟・浅海域をこれ以上狭めることなく保全し、漁業と一体になった生態系を安定して維持する」(77ページ)
  • 「流れや酸素供給を活発にするためには海域面積ができるだけ大きい方がよいので今後の埋立てを厳しく抑制する」(77ページ)
  • 「海域をこれ以上狭めないことを原則として三番瀬の再生を実施する」(87ページ)
  • 「干潟や浅海域を埋立てて土地を作り出す時代は終わりました。今こそ、干潟や浅海域を再生することによって、健全な沿岸の生態系と生物多様性を取り戻し、断ち切られた人と海との関係を修復する時代となったのです」(45ページ)
  • 「三番瀬はラムサール条約(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)の登録湿地となることを目指していることから、その再生にあたっては、2002年の締約国会議において採択された『湿地復元の原則とガイドライン』に沿ったものでなくてはなりません(41ページ)
  • 「行徳湿地の大水深部の浅水化、湿地への淡水導入、三番瀬との連絡水路の開渠化」(156ページ)
  • 「猫実川の後背湿地・干潟化」(156ページ)
  • 「市川市塩浜2丁目の現護岸の一部撤去とその陸側区域の湿地化」(156ページ)
  • 「浦安市日の出地区の現護岸陸域側区域の後背湿地・干潟化」(156ページ)
  • 「江戸川から小河川や水路を通じた三番瀬への淡水導入」(156ページ)

 こうした理念や方策は立派なもので、高く評価されます。素案だけを読むと、多くの方がすばらしいものだと思われるでしょう。
 しかし、残念ながら、これらは単なる美辞麗句に終わる可能性が大きいのです。というのは、結論部分にあたる「提言」には、市川塩浜護岸を改修して、海に張り出した石積み傾斜堤をつくり、その前面に「干出域」(砂浜)をつくるということがしっかり盛り込まれているからです。これは事実上の埋め立てです。
 堂本知事は12月5日の県議会答弁で、護岸改修は緊急課題なのですぐに実施するが、ほかの課題は10年先、20年先になるとの考えを表明しました。堂本知事は3選出馬はしないと表明していますので、10年先は別の人物が知事になっています。つまり、護岸改修(干出域の創出を含む)以外の課題は、少なくとも自分はやらないということです。

 円卓会議が来年1月に知事に提出する「三番瀬再生計画案」は、あくまでも提案です。提案のどの部分を予算化し、実施に移すかは、あくまでも県が決めます。しかも、県は財政再建団体に転落寸前で、カネがありません。自然再生事業として国(国土交通省)から補助金をもらってやるしかありません。要するに、県と国土交通省が認めたものしか実施されないのです。
 さて、県は、緊急課題ということで、市川塩浜の護岸改修だけはすでに国に予算確保を要望しました。しかし、県庁関係者の間では、「行徳湿地と三番瀬との連絡水路の開渠化」はむずかしいという見方もされています。「猫実川の後背湿地・干潟化」も同じです。
 「浦安市日の出地区の現護岸陸域側区域の後背湿地・干潟化」にいたっては、浦安市や都市基盤整備公団(地権者)などが了承しない方針です。浦安市議会は、すでに圧倒的多数で反対の意向を示しました。県も否定的です。だから、この事業は実現不可能とみられています。



素案の問題点




【1】「石積み傾斜堤+干出域」は埋め立てと同じ

 素案の結論部分にあたる「提言」に「市川市塩浜2丁目の改修護岸前面の干出域化」が盛り込まれています(156ページ)。これは埋め立てとおなじです。
 「干出域」というのは、人工干潟あるいは人工砂浜です。海域に砂を投入して砂浜(干潟)をつくることについて、「養浜」とか「砂浜」「さらし場」という言葉が使われてきましたが、最終的には「干出域」という言葉に統一されました。一種のごまかし言葉です。
 その絵が、109ページに掲載されている「市川市塩浜2丁目の護岸イメージ」です。この絵をみればわかるように、海に約15メートル海に張り出して「石積み傾斜堤+干出域」をつくります。
 この絵には、「このイメージは初期の代表断面である」と書かれています。つまり、「順応的管理」によって砂を投入しつづけ、「干出域」を拡大するということです。
 じっさいに、イメージ図に描かれているような高さ2.1メートル(AP 2.1m)の砂浜を維持しようとしたら、その前面の200メートルくらいまで砂を入れなければならないといわれています。イメージ図には1:3程度の勾配と書かれていますが、こんな勾配の砂浜や海浜はありえません。これは常識です。要するに、勾配が1:3程度というのは、土砂投入の範囲を狭くみせるためのごまかしといえます。さらに、波の作用によって砂浜が浸食されるので、砂の投入を絶えず続けなければなりません。

 事業推進の際は環境アセスメントとモニタリング(検証)を実施するとなっていますが、これは多くの公共事業でやられている事業アセスです。本来は、事前に円卓会議でさまざまな問題を検討すべきなのに、「あれこれと議論しても進まない。まずは着手することが必要。実施しながらモニタリングなどを行えばよい」ということから、実施が盛り込まれました。
 海域に張り出して傾斜護岸をつくったり、その前面に土砂を投入して「干出域」(人工砂浜)をつくることは、事実上の埋め立てです。素案には「海域を狭めないことを原則とする」と書かれていますが、これと矛盾します。

 「石積み傾斜堤+干出域」がつくられる塩浜2丁目の護岸は、ハゼ釣りやカニ釣りのメッカとなっています。「石積み傾斜堤+干出域」がつくられれば、それができなくなることから、ハゼ釣り客は土砂投入などに強く反対しています。
 また、この海域は猫実川河口域とつながっています。猫実川河口域は、素案の「三番瀬の現状」でも書かれているように、汽水性泥質干潟生物や泥質域に適応したアナジャコなどの生物が高い密度で生息している唯一の場所であり、「三番瀬の生物多様性の保全において特に重要な場所」です。
 猫実川河口域は浅海域(浅瀬)ですが、大潮のときは広大な泥干潟があらわれます。東京湾に生息する魚類を育てる「いのちのゆりかご」であり、また東京湾の浄化を支えています。90%の海岸が埋め立てられてしまった東京湾で、わずかに残った貴重な干潟や浅瀬は首都圏全体にとってきわめて大切な自然です。
 そんな大切な場所につながる海域に大量の土砂を投入しつづけることは、生き物を生き埋めにし、ひいては三番瀬の生態系や環境を破壊することにつながります。

 そもそも、この「干出域化」については円卓会議でほとんど議論されていません。砂を大量に投入して「干出域」をつくれば、ほんとうに三番瀬の環境がいまよりよくなるのかということもいっさい検討されていません。また、三番瀬海域に影響をあたえるものは海域小委員会で議論することになっているのに、そこでも深く議論されていません。
 三番瀬はいま、数十年来のアサリの豊漁にわいています。それほど自然の豊かさを維持しているのです。いまはアサリ豊漁の原因分析など現状調査をしっかりやるべきであり、土砂投入などを急いでやるべきではありません。


【2】「石積み傾斜堤+干出域」の必要性があいまい

 三番瀬海域に張り出して石積み傾斜堤をつくり、その前面に「干出域」をつくることことがどうして必要なのかがあいまいです。三番瀬の自然の保全・再生との関係もまったくわかりません。


【3】猫実川河口域の人工干潟化が目標

 素案にはあいまいにしか書かれていませんが、「石積み傾斜堤+干出域」は猫実川河口域の大規模な人工干潟化を目標にしています。
 磯部雅彦委員(東京大学大学院教授、海洋工学)は、円卓会議を終始リードし、猫実川河口域での人工干潟(砂浜)造成を提案しつづけた委員です。
 その磯部委員は、この「石積み傾斜堤+干出域」について、猫実川河口域の大規模な人工干潟化をめざしたものであることを何度も強調しています。第8回「専門家会議」(9月13日)や第17回「円卓会議」(9月25日)、三番瀬再生計画素案「拡大編集会議」(10月9日)、第17回「護岸・陸域小委員会」(10月16日)などでです。磯部委員の提案要旨はこうです。
  • 猫実川河口域に砂を盛って大規模な人工干潟をつくるべきという漁業者(漁協)の主張は理解できる。
  • しかし、猫実川河口域はいまでも生物がいて、三番瀬全体の生物多様性に寄与している。
  • ただし、この海域は昔に比べると干潟がなくなっているので、夏になると酸化還元電位の値が下がる。貧酸素域にもなる。このようにベストな環境ではないので、もっといい環境にするために人工干潟をつくることが必要である。
  • しかし、いっぺんに浅くすると三番瀬の環境に影響がでる。そこで、塩浜2丁目の護岸を改修する際に、そこの前に土砂を入れ、その土砂が波の力などで侵食されて三番瀬に広がっていくようにする。
 つまり、いきなり猫実川河口域で大規模な人工干潟をつくれば三番瀬の環境に影響がでるので、「順応的管理」の手法で、少しずつ土砂を人為的に供給するというものです。だから、109ページに掲載されている「市川市塩浜2丁目の護岸イメージ」には、「このイメージは初期の代表断面である」と書かれています。
 要するに、「石積み傾斜堤+干出域」は、この海域をつぶして大規模な人工干潟をつくための手段なのです。


【4】120回以上におよぶ円卓会議の議論などが生かされていない

 円卓会議は、親会議、小委員会、専門家会議、ワーキンググループなど、この2年間に120回以上の会議が開かれました。そこではさまざまな議論がかわされました。
 円卓会議が昨年秋に実施した意見募集などでは、市民などからたくさんの意見が寄せられました。また、三番瀬保全団体は三番瀬の市民調査を定期的に実施しました。
 しかし、素案には、こうした議論の成果が十分に生かされていません。市民意見にいたっては、ほとんど無視です。
 たとえば、猫実川河口域については、アナジャコなどの生物が豊富に生息し、浄化能力も高く、三番瀬の生物多様性の保全において特に重要な場所であることが市民調査などにより確認されました。これは、県が実施した補足調査や円卓会議が実施した現状調査でも明らかにされています。
 こうしたことから、望月賢二委員(県立中央博物館副館長、水生生物)は、この海域について「三番瀬の水生生物の最後の生き残りの部分になっている。こういう点では、非常に貴重な部分である」とまで言い切っています。また、こうも述べています。
「三番瀬は非常に狭くなっており、このことなどからいろいろ問題がでている。さらに海域を狭くするということは、その傾向をより強くする。これはまちがいないことだ。したがって、三番瀬の再生にとっては、マイナスの方向性になる」(海域小委員会)
 しかし、素案に盛り込まれた「石積み傾斜堤+干出域」は、こうした議論をまったくふまえないものです。市民調査の結果発表も、とうとう機会を与えられませんでした。


【5】なぜ、貴重な三番瀬海域で土砂投入の実験をおこなうのか

 市川塩浜2丁目の「石積み傾斜堤+干出域(砂浜)」について、素案は、「順応的管理を行いながら干出域や砕波帯を実験的に作っていく」と書いています(98ページ)。
 しかし、どうして、三番瀬の生態系にとって非常に重要な部分でこんな実験をおこなうのでしょうか。
 素案は、市川塩浜2丁目の市川市所有地の一部を削り、「この区域に、環境学習・研究施設を設け、施設敷地で自然再生を行うべき」(98ページ)としています。108ページには、その「環境学習エリアのイメージ」が掲載されています。三番瀬海域の重要な部分でいきなり実験を行うのではなく、まずは、この「環境学習エリア」で干出域創出の実験をおこなうべきです。


【6】ラムサール条約登録に消極的?

 三番瀬はラムサール条約登録の要件を十分に満たしており、三番瀬保全の重要な制度的担保です。しかし、素案には、「関係者の合意を形成していきます」(143ページ)と書かれていて、登録をめざすという強い意志がみられません。
 そんなことではいつまでたっても登録されません。次回のラムサール締約国会議が開かれる2005年に登録すべきということを「提言」に明記すべきです。


【7】市川漁港の移転問題

 行徳漁港などは、市川漁港を市川突堤ゾーンに移転させ、そこで海域に大きく張り出した漁港をつくるという構想をもっています。素案は、その漁港移転問題を「県、市、漁業者からなる公開の連絡協議会」で検討するとしています(82ページ)。
 この漁港移転は、三番瀬の自然環境に大きな影響をあたえるものです。したがって、移転問題は県、市、漁業者のみの連絡協議会で決定するのではなく、円卓会議の後継組織できちんと審議すべきです。


【8】第二東京湾岸道路(第二湾岸道)との関係

 素案は第二湾岸道について、「三番瀬再生計画に影響のない形とする必要があり、三番瀬の再生・保全の理念に反する形で第二東京湾岸道路の計画を行わないよう要望します」と述べています(152ページ)。
 しかし、第二湾岸道は猫実川河口域のど真ん中を突っ切る形で構想されています。すでに浦安市の埋め立て地では50メートル以上幅の第二湾岸道用地が確保されていて、この用地が猫実川河口域につきあたります。
 堂本知事は、「第二湾岸道は必要」と県議会などで強調しています。また、国に対しその建設促進を要望しつづけています。
 こんな中で、「三番瀬の再生・保全の理念に反する形で計画を行わないよう要望します」だけでよいのでしょうか。三番瀬の真ん中を通ることが確実な第二湾岸道が三番瀬の再生・保全の理念に反しないなどありえるのでしょうか。
 第二湾岸道を具体的に計画する際は、円卓会議の後継組織できちんと審議することを明記すべきです。


【9】江戸川第一終末処理場建設の「支持」はおかしい

 江戸川第一終末処理場計画については、次のように書かれています。
 「江戸川放水路と行徳湿地を結ぶ生態系ネットワークを創出するとともに、周辺地域の健全な水循環の復活に資するよう計画が検討されているところです。これらは三番瀬再生計画の目指す方向と合致するものとして、これらを支持します」(152ページ)
 これは、とんでもないことです。
 この大規模下水処理場はつくる必要のない施設です。既設の第二処理場を機能アップすれば、必要ありません。また、この処理場は、建設費が1950億円と算定されており、県や関係市の財政破たんに拍車をかけるものです。
 素案は「周辺地域の健全な水循環の復活に資する」と書いていますが、じっさいは水循環に逆行です。関宿(野田市)から延々60キロメートルも管渠を通して市川の埋め立て地に持ってくるということは、管渠という名の新たな大河川をつくることになり、既存河川の水量を減少させます。これは河川の水質悪化につながり、三番瀬への汚濁負荷を増やしています。
 現に、県は、印旛沼流域下水道の花見川第二終末処理場の処理水を延々24キロメートルにわたってポンプアップし、市川市内の大柏川や船橋市内の海老川上流に還元するという工事をすすめています。その理由は、流域下水道の整備にともない、海老川などの水量が減少し水質が悪化しているからです。埋め立て地に大規模な処理場をつくり、そこの処理水を莫大な金をかけてポンプアップするなどというムダづかいはやめるべきです。処理場をどうしてもつくるのなら、最初から内陸部に処理場を分散してつくるべきです。
 このように、水循環に逆行し、壮大なムダづかいとなる大規模下水処理場の建設を支持するなどとは書くべきではありません。そもそも、この下水処理場の建設計画については、必要性も含め、円卓会議でほとんど議論されていません。


【10】ラムサール条約「湿地再生ガイドライン」の記述はお飾り

 素案は、「再生にあたっては、2002年の締約国会議において採択された(ラムサール条約の)『湿地復元の原則とガイドライン』に沿ったものでなくてはなりません」と書いています(41ページ)。
 しかし、これはお飾りです。本当にラムサール条約のガイドラインに沿うのならば、自然の豊かさを維持している三番瀬をこれ以上つぶすべきではありません。
 とくに猫実川河口域は、望月賢二委員(県立中央博物館副館長、水生生物)が「この部分は三番瀬の水生生物の最後の生き残りの部分になっている。こういう点では、非常に貴重な部分である」と強調するほど大切な場所です。そんな重要な場所につながる海域で護岸を張り出し、その前に大量の土砂を投入するというのです。
 しかも、それがどういう目標をもったものかが素案では明確にされていません。本当に三番瀬の自然環境をよりよくすることにつながるのかもあまり検討されていません。こんなものがラムサール条約の「湿地再生ガイドライン」に沿うものといえるでしょうか。


【11】「三番瀬の歴史」から埋め立て反対運動を抹殺

  「三番瀬の歴史」には、三番瀬の二期埋め立て計画(市川二期・京葉港二期地区計画)をめぐる重要な出来事や白紙撤回にいたった経過がほとんど書かれていません。
 第一に、千葉県が1993年に発表したこの埋め立て計画にたいし、「千葉県環境会議」が次の3点を提言したことはたいへん重要でした。
  1. 三番瀬の自然環境と埋め立ての影響について生態系を中心とする補足調査を行うこと
  2. 土地利用の必要性を吟味すること
  3. 専門委員会を設置すること
 しかし、「歴史」ではこのことがまったくふれられていません。
 第二に、三番瀬保全団体(三番瀬を守る署名ネットワーク、千葉の干潟を守る会、三番瀬を守る会など)の埋め立て反対運動も、埋め立て計画の白紙撤回に大きな役割を果たしました。とりわけ、埋め立て計画の白紙撤回を求める署名が30万人に達したことは決定的な意義をもちました。
 こうした結果、2001年の知事選挙で三番瀬埋め立てが最大の争点になり、白紙撤回を掲げた堂本知事が当選したのです。
 それなのに、「歴史」記述から埋め立て反対運動は抹殺です。30万署名の存在も無視です。たとえば、「三番瀬を守る署名ネットワーク」の今関一夫さんは、円卓会議の岡島成行会長あてに要望書を提出し、埋め立て計画の白紙撤回を求める署名が30万人から寄せられたことを「三番瀬の歴史」の記述のなかに加えるよう強く求めました。今関さんは要望書のなかで次のように書いています。
 「近年の埋立と保全運動の歴史が記述されてないことは、どういうことでしょうか。この歴史を抜きにしては、堂本知事の『埋立計画の白紙撤回』表明を語ることはできません。30万署名に寄せられた声を、何とか残してほしいものです。かつて、三番瀬のあちこちで、巨大な浚渫の工事機械がうなりをあげて、海や干潟の砂を吸い上げ、押し流していたあの轟音は、忘れません。1973年『東京湾埋め立て中止と干潟保全』請願の国会採択に始まる三番瀬の保全運動は、『埋立計画白紙撤回』を求める30万名署名達成に至り、堂本知事の『埋立計画白紙撤回』表明に結実しました。これらの事実は、少しでもこの運動にかかわった人々にとって涙なしでは語れません。ぜひ三番瀬と保全の歴史を記述してください」
 しかし、こうした要望はまったく無視され、最終素案でも書き加えられませんでした。


【12】埋め立て工業開発を礼賛

 「三番瀬の歴史」から埋め立て反対運動を抹殺する一方で、産業界や漁協、行政から要請があったものは要請どおりに盛り込まれました。たとえば、産業界代表の委員が、「埋め立てが経済面で果たした評価をもっと書いてほしい」と要請したら、ただちにとりいれました。「歴史」にはこう書かれています。
 「工業化による経済の向上や都市化も進みました。三番瀬に面する人工化された海岸は、港湾開発され大型船舶が出入港可能な大型航路が開削されました。港湾として活用され、大量の物資が出入りする場となりました。同時に埋立てにより確保した工業用地に第二次産業の企業が誘致され、多くの県民が働く工場が建設されました。その結果、三番瀬の背後地の企業は、千葉県の経済を牽引するエンジンとしての役割を果たしてきました。現在でも、京葉臨海部では約5万人が働き、年間出荷額が5兆6千億円に及んでいます。現在の千葉県は、県民の平均的所得が全国7位となり経済的な豊かさを手に入れました」(6〜7ページ)
 埋め立てによる工業開発の手放し礼賛です。しかし、こうした評価はまちがいです。埋め立て地に建設された京葉工業地帯の年間出荷額が5兆6千億円といっても、この工業地帯は大部分が鉄鋼や石油といった装置型産業で占められているため、経済波及効果はたいへん小さいものです。
 たとえば、県企業庁が1975年に民間研究所に調査を委託して作成した『臨海地域開発の影響調査』は、臨海工業開発が千葉県にもたらした波及効果について、立地企業の協力も得てくわしく分析しています。その結果、波及効果は意外に小さいという結論がでました。県全体の経済活動を臨海工業、内陸工業、農林水産業、県外通勤者の4部門に分けてそれぞれの寄与度をみると、臨海工業関連による波及雇用量はわずか10%でしかありません。自治体税収への臨海工業関連の寄与度は、県税が12%、市町村税は19%でしかなく、4部門のうち最低です。県民所得への寄与度についても19%でしかありません。
 この調査時期は第一次オイルショック直前の1972年で、素材型重化学工業の最盛期です。そんな時期でも、県が最重点課題としてとりくんできた臨海工業開発の波及効果は非常に少なかったのです。素材型重化学工業に偏った工業政策を推しすすめたことは失敗だったと言っても過言ではありません。
 東京湾岸の干潟をかたっぱしから埋め立ててコンビナート(京葉工業地帯)をつくった結果はこんなふうだったのです。
 「三番瀬の歴史」は、こんな重要な調査分析結果を調べもせずに、「現在の千葉県は、県民の平均的所得が全国7位となり経済的な豊かさを手に入れました」などと書いているのです。

 結論をいえば、東京湾の貴重な干潟・浅瀬を片っ端から埋め立ててがつくられた工業地帯は、表面的には活気を呈した時期もありましたが、それはあっけない一幕にすぎなかったのです。
 反対に、負の遺産は膨大です。たとえば市原市の海は臨海部工場を原因とするダイオキシンにより全国最悪の汚染にまみれています。川鉄公害訴訟にみられるように、公害の被害もひどいものでした。
 こういうことなので、埋め立て工業開発の評価にかかわる部分は削除すべきです。そもそも、過去の埋め立てをどう評価について、円卓会議ではまったく議論されていません。


【13】公有水面埋立法を「天下の名法」と評価

 「三番瀬の歴史」は、公有水面埋立法を「天下の名法」と評価しています(6ページ)。
 しかし反対に、湿地保全運動関係者の間では、公有水面埋立法は「天下の悪法」あるいは「湿地破壊型乱開発の元凶」などとよばれています。
 たとえば、JAWAN(日本湿地ネットワーク)は、2002年9月16日に発表した見解「『自然再生推進法』案についての考え方」のなかで、「公有水面埋立法については、湿地破壊型乱開発の元凶となってきたものであるから、早急に廃止すべきである」と述べています。
 また、「2001 国際湿地シンポジウム in 東京湾三番瀬」(2001年9月に市川市で開催)で採択された「三番瀬宣言」にはこう書かれています。
「日本の湿地は、いまなお多くの問題点を抱え、政府と自治体は、いまだに時代遅れの法や政策に固執している。21世紀を本格的な保全の世紀にするためには、干潟の開発を野放しにしてきた公有水面埋立法を廃止して、それに代わる湿地保全法を制定しなければならない」
 公有水面埋立法が「湿地破壊型乱開発の元凶」とよばれている理由はつぎのとおりです。
  1. 海は漁民だけのものではないのに、漁民の同意だけで埋め立てができることになっている。しかも、場合によっては漁民の同意さえ不要とされている。
  2. 埋め立て計画をたてる者と埋立許可権者が同一人物であることが多い。千葉の埋め立ての大部分は、千葉県知事が申請し、自らが許可した。
  3. 海を埋め立てて陸地にすると、それが埋め立てた事業者のものになる。つまり、誰のものでもない公有水面が埋立事業者の所有地となる。
  4. 埋立事業者は埋立免許料だけを納めればいいことになっているので、それを時価(市場価格)で転売することによって莫大な利益をあげることが可能になる。
 じつは、京葉海岸の干潟や浅瀬がかたっぱしから埋め立てられたのは、この公有水面埋立法の存在があったからです。千葉市の「千葉港中央地区」から浦安市までの埋め立ては、まさに転売で巨利を得ることを主な目的としておこなわれたものでした。
 それはともあれ、公有水面埋立法を「天下の名法」と評価している素案の記述は削除すべきです。そもそも、これについては円卓会議で一度も議論されていません。

(2003年12月)









三番瀬の現況図





「石積み傾斜堤+干出域(砂浜)」の最終目標は人工干潟化



















浦安市の埋め立て地には50メートル以上の幅をもつ
第二湾岸道の用地が確保されており、
それは猫実川河口域の真ん中につきあたる。



猫実川河口域の護岸からみた第二湾岸道用地


海域に張り出して傾斜堤と砂浜をつくる「市川塩浜2丁目の護岸イメージ図」

三番瀬再生計画素案より





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