三番瀬海域への土砂投入は事実上の埋め立て

〜三番瀬再生計画素案の問題点〜


千葉県自然保護連合事務局






 三番瀬再生計画検討会議(円卓会議)は(2003年)11月13日に「三番瀬再生計画素案」をまとめました。この素案は12月18日までパブリックコメント(一般意見の募集)にかけられます。

 円卓会議の目的は三番瀬の保全・再生でした。この視点から素案をみると、総論としては評価できる点をかなり含んでいます。「現在の海岸線は基本的に動かさない」とか「海域は狭めないことを原則として三番瀬の再生を実施する」ということがうたわれているからです。「東京湾では今後の埋め立てをきびしく抑制する」ということも書かれています。猫実川や行徳鳥獣保護区などから旧江戸川や江戸川の水を導入し、三番瀬沿岸域の汽水域化を図ることを検討するとも書かれています。


●猫実川河口域の大規模な人工干潟化が目標

 しかし他方で、市川塩浜2丁目地先の護岸を改修して石積み傾斜堤にし、その前面海域に「干出域(砂浜)」をつくるということが盛り込まれています。これは素案の最大の「売り」であり、来年度からすぐに実施される予定です。県はすでにその事業費(護岸改修費)の予算措置をおこなっています。

 この「石積み傾斜堤+干出域(砂浜)」は事実上の埋め立てです。これは猫実川河口域の大規模な人工干潟化を目標にしています。
 磯部雅彦委員(東京大学大学院教授)は、円卓会議を終始リードし、猫実川河口域での人工干潟(砂浜)造成を提案しつづけた委員です。その磯部委員は、この「石積み傾斜堤+干出域」について、猫実川河口域の大規模な人工干潟化をめざしたものであることを何度も強調しています。第8回「専門家会議」(9月13日)や第17回「円卓会議」(9月25日)、三番瀬再生計画素案「拡大編集会議」(10月9日)、第17回「護岸・陸域小委員会」(10月16日)などでです。磯部委員の提案要旨はこうです。
  • 猫実川河口域に砂を盛って大規模な人工干潟をつくるべきという漁業者(漁協)の主張は理解できる。
  • しかし、猫実川河口域はいまでも生物がいて、三番瀬全体の生物多様性に寄与している。
  • ただし、この海域は昔に比べると干潟がなくなっているので、夏になると酸化還元電位の値が下がる。貧酸素域にもなる。このようにベストな環境ではないので、もっといい環境にするために人工干潟をつくることが必要である。
  • しかし、いっぺんに浅くすると三番瀬の環境に影響がでる。そこで、塩浜2丁目の護岸を改修する際に、そこの前に土砂を入れ、その土砂が波の力などで侵食されて三番瀬に広がっていくようにする。
 つまり、いきなり猫実川河口域で大規模な人工干潟をつくれば、三番瀬の環境に影響がでるので、「順応的管理」の手法で、少しずつ土砂を人為的に供給するというものです。つまり、「石積み傾斜堤+干出域(砂浜)」は、この海域をつぶして大規模な人工干潟をつくための手段なのです。
 実際に、「護岸のイメージ図」に描かれているような高さ2.1メートル(AP2.1m)の砂浜を維持しようとしたら、その前面の200メートルくらいまで砂を入れなければならないといわれています。さらに、波の作用によって砂浜が浸食されるので、砂の投入を絶えず続けなければなりません。これは、千葉市美浜区の地先につくられた人工海浜「幕張の浜」や「いなげの浜」などをみても明らかです。ふなばし三番瀬海浜公園前も、県が50分の1の勾配で人工海浜をつくりましたが、波の作用で砂の大半は流出してしまいました。この点については、新聞もこう記しています。
 「かつて公園に面した遠浅の海を、沖合350メートルにわたって人工海浜とする計画が進められ、大量の土砂が運び込まれた。ところが、数年のうちに土砂は激しい潮の満ち干で削られ、いま残る砂浜はわずかしかない。自然の姿に戻ろうとする三番瀬の力強さの前に、人知はあっけなく敗れた」(『朝日新聞』1998年8月20日)













「石積み傾斜堤+干出域(砂浜)」の最終目標は人工干潟化







●「今の状態はベストではないから」は詭弁
   〜猫実川河口域は自然の豊かさを維持〜

 「今の状態はベストではないから、よりよい環境にするために人工干潟をつくべき」というのはまったくの詭弁です。
 猫実川河口域はもちろんのこと、三番瀬全体の環境が昔より悪くなっているのは当然です。三番瀬はすでに約1400ha以上も埋め立てられてしまいました。東京湾の干潟・浅瀬は9割も埋め立てられ、いま残る干潟・浅瀬は三番瀬などわずかだけです。これでは、三番瀬が埋め立て前よりも環境が悪くなるのは当然です。

 しかし、三番瀬は、東京湾奥部で奇跡的に残された海域です。猫実川河口域についていえば、1991年(平成3年)まで長年にわたって江戸川左岸流域下水道第二終末処理場の処理水が大量に放流されるなど、痛めつけたり汚されてきました。それでも、自然の豊かさを維持しています。ハゼの子どもなどがたくさん泳ぎ回っていて、稚魚の楽園となっています。魚のエサとなるアミ類なども泳ぎ回っています。市民調査では、アナジャコの穴もたくさん確認されています。それほど、ここは生命力豊かな浅瀬です。
 そして重要なことは、91年に下水処理水の放流先が旧江戸川に変更されて以降(大雨時は今も猫実川河口域に放流)、この海域の環境は安定していることです。

 県の補足調査を手がけた県立中央博物館副館長の望月賢二氏(三番瀬円卓会議委員)は、この海域についてこう述べています。
 「補足調査の委員会は、猫実川河口周辺がマイナス的な存在であるという認識は全く持っていない。(中略)特に猫実川河口周辺、あそこがヘドロの堆積、有機物の堆積等で今どんどん悪くなっているのだという発言があるが、補足調査のほうでまとめた三番瀬の推移のデータから見ても、少なくとも平成に入った前後からそれ以後は全体としては非常に安定した環境にある。ということで、補足調査のまとめの中でも、いろいろなデータを使って、かなり安定した状況にあると実感しながら進めた経緯がある。そういう意味で、今後、周辺の状況等が大幅に変わらないかぎり、あの自然環境はある程度安定した状態で推移するということは、補足調査全体のデータを見ていただければ理解いただけるのではないかと思う」(千葉県が設置した「環境調整検討委員会」の議事録より)


●猫実川河口域は三番瀬の水生生物の最後の生き残りの部分

 望月賢二氏は猫実川河口域についてこうも述べています。
 「猫実川河口域はつねに議論されるが、ここは、底泥データでみると平成に入ったあたりからほぼ安定している。この部分は三番瀬の水生生物の最後の生き残りの部分になっている。こういう点では、非常に貴重な部分である」(第7回三番瀬専門家会議での発言)
 「(三番瀬は)水循環系の仕組みが失われたため、放置した場合、大部分が中長期的には砂浜海岸化するとともに、それに対応した生態系に移行する可能性が高い。ただし、猫実川周辺は、波や流れの点での静穏性が高いことから、泥質域として維持され、干潟特有の生き物の生き残り場所になる可能性が高い」(第7回三番瀬専門家会議への提示資料)
 また、今回まとまった「三番瀬再生計画素案」も、この海域についてこうふれています。
 「(猫実川河口域は)猫実川からの淡水の流入とも関連し、汽水性泥質干潟生物や泥質域に適応したアナジャコなどの生物が、高い密度で生息している唯一の場所です。『平成14年度三番瀬海生生物現況調査(底生生物及び海域環境)報告書』でもウミゴマツボ、カワグチツボなどがこの海域のみに見られることが明らかにされており、三番瀬の生物多様性の保全において特に重要な場所と考えられます。また、その周辺域に生息する生物が、魚類を中心とする食物連鎖において重要な役割を果たし、三番瀬の生物生産においても役割を果たしている可能性が考えられます」


●三番瀬の多様な生態系を破壊することになる

 このように、猫実川河口域は三番瀬のなかで非常に重要な場所であり、いわばコア(核)に相当する海域です。それなのに、「ベストな環境ではないから、砂を投入して人工干潟をつくることが必要」というのはどうことことなのでしょうか。
 実は、その手段としての「石積み傾斜堤+干出域(砂浜)」については、円卓会議ではいっさい議論されていません。砂を大量に投入したり、大規模な人工干潟をつくれば、ほんとうに三番瀬の環境はいまよりよくなるのかということもいっさい検討されていません。
 また、三番瀬海域に影響をあたえるものは海域小委員会で議論することになっているのに、そこでもまったく議論されていません。それなのに、「石積み傾斜堤+干出域(砂浜)」が磯部雅彦委員や倉阪秀史委員らの主導で再生計画素案に盛り込まれたのです。

 素案の総論部分では、「海域は狭めないことを原則とする」とか「東京湾では今後の埋め立てをきびしく抑制する」ということが書かれています。また、猫実川河口域について「三番瀬の生物多様性の保全において特に重要な場所」と書いてあります。それなのに、提言(結論部分)ではまったく反対の方針を提起し、それを来年度からすぐに実行にうつすというのはどうなのでしょうか。
 猫実川河口域は、たくさんの生物が生息し、浄化能力も非常に高い海域です。三番瀬全体の環境の中で重要な役割を果たしています。そんな大切な海域に土砂を大量に投入しつづけることは、自然豊かな浅瀬やそこで生息しているさまざまな生物を殺すことになります。生物多様性や三番瀬の多様な生態系を破壊することになります。
 こんなことを決めれば、世界の笑い物になるでしょう。再検討を求めます。

(2003年11月)





海域に張り出して傾斜堤と砂浜をつくる「市川塩浜2丁目の護岸イメージ図」

三番瀬再生計画素案より





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