大野一敏著『おやじの海 勝手のカズ』に疑問符

〜三番瀬埋め立て中止の原動力と堂本知事の評価をめぐって〜





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 元船橋漁協組合長の大野一敏さんが『おやじの海 勝手のカズ』を出版した。この本には疑問点もある。

 ひとつは、三番瀬埋め立て計画を白紙撤回させた市民運動にまったくふれていないことである。「(埋め立て計画は)堂本知事の出現であっさりと『白紙撤回』された」と書いている。いきさつを知らない人は、大野さんと堂本知事のがんばりで三番瀬の埋め立てが中止になったと受けとるような内容になっている。

 三番瀬保全団体は、埋め立て計画白紙撤回後も人工干潟造成や第二東京湾岸道路建設を食い止めたり、ラムサール条約登録の運動をつづけたりしている。こうした運動もまったく無視である。三番瀬を守っているのは漁業者というような書き方である。これは事実とかなり違う。

 三番瀬保全団体は、署名を30万集めるなど、埋め立て反対の世論を盛りあげた。その結果、2001年春の県知事選では三番瀬埋め立てが最大の争点になった。朝日、読売、毎日の新聞各紙が選挙中におこなった県民世論調査では、いずれも「埋め立て反対」が過半数を占めた。これをみた堂本候補は、選挙戦の途中で三番瀬埋め立て計画の白紙撤回を唯一の公約に掲げて当選した。埋め立て反対運動がなかったら堂本知事は誕生しなかったのである。

 さらに大野さんは、船橋漁協が2008年に三番瀬ラムサール条約登録賛成決議を採択したことを強調している。しかしその後、同漁協は賛成決議を撤回し、ラムサール条約登録反対に転じた。このことにはいっさいふれない。

 大野さんを紹介した『サライ』2012年2月号はこう記している。

    《大野さんは三番瀬の埋め立て反対やラムサール条約登録の推進など、環境保護活動を積極的に展開。平成13年、三番瀬の埋め立て計画を白紙に戻す原動力ともなった》

 これは事実とまったくちがう。大野さんは埋め立て反対の活動には参加しなかった。運動を静観していたのである。ちなみに、船橋漁協は三番瀬の埋め立てに賛成し、漁業補償金をもらって漁業権を全面放棄した。埋め立てが中止になったので、その後は1年更新の短期免許で漁業をつづけている。

 もうひとつの疑問点は、堂本知事を手放しで礼讃していることである。堂本知事について「開発指向を失速させた。その決断と勇気は称賛に値する」などと記している。

 しかし堂本知事は、埋め立て反対の強い声に押されて埋め立て計画を白紙撤回したものの、第二東京湾岸道路を三番瀬に通すことに固執した。三番瀬の猫実川河口域に第二湾岸道を通すため、この海域で人工干潟を造成することをめざした。

 堂本知事はまた、自民党や財界の支持を得るため大型公共事業を推進した。県収用委員会も「秘密会」というかたちで再開させた。その結果、それまで止まっていた外環道(東京外かく環状道路)の工事も急速に進むことになった。

 そんな堂本知事について、ジャーナリストの永尾俊彦さんはこう記している。

    《三番瀬の埋め立て計画だけは白紙撤回したが、逆にそれを隠れ蓑(みの)にするかのように堂本知事は、他の巨大開発をやめようとしない。(中略)堂本知事の就任以来の行ないは、権力の座にいること自体が目的になっているように見えてしまう。鈴木宗男議員型の利権政治屋は、今後淘汰されて行くだろう。警戒すべきは「市民派」を装いながら、利権構造を温存する政治家だ。》(『週刊金曜日』2003年4月4日号)
 残念ながら、大野さんの著作は歴史を改ざんするものとなっている。

(中山敏則、2018年3月)





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