「自然が大切か、人間が大切か」

〜三番瀬円卓会議に持ち込まれた“開発側の切り札”〜


公共事業と環境を考える会



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●三番瀬円卓会議は浅海域の人工海浜化が焦点に

 三番瀬の自然環境をよりよくするために設けられたはずの「三番瀬再生計画検討会議」(円卓会議)では、予想どおり、浅海域の人工海浜化(=埋め立て)が声高に叫ばれています。

 県は、円卓会議で猫実川河口域の人工海浜化を早急に決めてもらいたいとあせっています。その理由は第二湾岸道の用地を確保すること、といわれています。
 そうした県や一部の専門家委員が突然もちだしたのが「高さ8mの堤防必要論」です。これは、「市川塩浜地区を高潮から守るためには直立護岸を改修して高さ7.5〜8mの堤防を築くことが必要。もし、前面海域(猫実川河口域)を人工海浜(人工干潟)にすれば、堤防の高さは6mですむ」というものです。
 直立護岸は強固なものに補修済みなので、改修を急ぐ必要はありません。また、工業専用地域となっている塩浜地区の後背地には立派な防潮堤が設置ずみです。
 それなのになぜ、これを唐突に持ち出したのかというと、「自然が大切か、人間が大切か」という二者択一をせまることです。

 これは、開発側が自然破壊の公共事業を強行する際に、きまって持ち出す“切り札”です。
 じっさいに円卓会議では、何人かの委員がこの主張に同調し、「人命第一なので、人工砂浜とセットになった強固な堤防を早くつくってほしい」ということを強く主張しています。


●「自然が大切なのか、それとも人間なのか」は
  自然破壊を正当化するための屁理屈

 根深誠氏(作家、登山家)は、「白神山地の自然を守る会」や「青秋林道に反対する連絡協議会」を組織し、白神山地のブナ原生林を寸断する青秋林道の反対運動を展開した方です。その根深氏が、「自然が大切か、人間が大切か」という主張を次のようにきびしく批判しています。
 「人目につかぬ奥山の伐採現場に行けば一目瞭然だが、経済を優先した開発行為によって自然は無残にも破壊されているのである。しかもそうした自然破壊と軌を一にして、人心までも荒廃する時代状況が一方では進行しているようだ。自然までも食いものにするカネもうけの論理。この悪循環ともいえる状況にあって、たいていの開発推進派は『自然が大切なのか、それとも人間なのか』という強制的で、二者択一の理屈をつくりだすことで、自然破壊を正当化し、自分たちに都合のいいように地域社会を支配してきたといえる」(『白神山地 立ち入り禁止で得するのは誰だ』つり人社)
 三番瀬の場合もまったく同じです。「自然も大切だが、人命のほうがもっと大切。高潮から人命から守るためには、浅海域の砂浜化はやむを得ない」ということが叫ばれていますが、これは、自然破壊を正当化するための屁理屈です。


●「ムツゴロウも大事だが、人間が一番大事だ」

 ご承知のように、諫早湾を閉め切る際もこの主張が“切り札”として使われました。「ムツゴロウも大事だが、人間が一番大事だ」という論理です。
 これを言いだしたのは亀井静香建設大臣(当時)です。1997年5月9日付けの『朝日新聞』(夕刊)は、こう報じています。
 「亀井静香建設相は9日、長崎県・諫早湾の干拓事業について『世界の食糧事情がトータルでひっ迫していけば、日本だけ食糧があふれるということはあり得ない。長期的に良好な農地を確保することは意味がないとはいえない』と述べて干潟干拓事業を進めることに理解を示した。記者会見で質問に答え、『自然環境は守らなければならない。ムツゴロウも大事だが、人間が一番大事だ』とも語った」
 結果的に諫早湾は閉め切られてしまいました。その結果どうなったかというと、閉め切り以降、有明海は大異変が生じています。品質が良かった有明海産ノリは、色落ちを伴う未曾有の大凶作になりました。“宝の海”と呼ばれた有明海は深刻な状態に陥っています。「ムツゴロウも大事だが、人間が一番大事だ」はまったくのデマゴギーだったのです。


●自然破壊は人間を追いつめる

 ノンフィクションライターの深井一誠氏は、週刊誌『Yomiuri Weekly(週刊読売)』(2002年9月29日号)で、歌手の加藤登紀子氏についてこう述べています。
 「登紀子は昨年、1年を通して琵琶湖にこだわった。湖沼会議に参加して、地元の漁師、農家の人たちと、直接会っていろんな話を聞いた。『いまは魚が捕れなくなった。致命的だったのが、内湖の干拓だった」と話してくれた。琵琶湖には以前、たくさんの沼地、湿地帯があった。それを干拓して湖岸をコンクリートで固めて整備してしまった。それが大きなダメージになった。浅瀬の沼地に魚が卵を産みつけ、稚魚がそこで育っていたものが、干拓によって生態系を破壊され育たなくなった」
 この点について加藤登紀子氏は、「諫早湾も同じことなんです。人間にとってとっていいと思ってやったことが、自然をずたずたにし、結局、人間を追いつめる」と述べています。



●猫実川河口域の人工海浜化は三番瀬の生態系を破壊する

 三番瀬も、猫実川河口域をつぶして人工海浜にすれば、同じような結果が生じることは必至です。三番瀬の生態系は、多様な環境と生物、漁業などの人間活動が微妙なバランスを保ちながら成り立っているからです。しかも、猫実川河口域は、小魚のえさとなるドロクダムシやアミ類が大量に生息するなど、三番瀬でもっとも生き物が多い浅瀬です。

 諫早湾の現実や教訓などをまったく無視し、「自然が大切か、人間が大切か」という使い古しの手法を恥ずかしげもなく持ち出すとは……。呆れてしまいます。
 三番瀬円卓会議をときどき傍聴しているジャーナリストの羽室音矢氏は、円卓会議について“器は新しいが中身は古い”と感想を述べました。残念ながら、同感です。
 前述のように、市川塩浜地区の直立護岸は強固なものに補修済みです。工業地域の後背地には、伊勢湾台風並みの高潮に備えた防潮堤がすでに設置ずみです。ですから、急いで護岸を改修し、高さ7.5〜8mの堤防をつくったりする必要はありません。
 円卓会議の初心に返り、三番瀬の自然環境をよりよくするために科学的な議論を進めてほしい――これが私たちの願いです。

(2002年10月)






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