生命(いのち)の海・三番瀬を守ろう


三番瀬を守る署名ネットワーク 代表 石川敏雄



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1.生命を育む三番瀬

 先日 学生食堂で昼食をとったあと、隣の生協の書店で立ち読みしながら、いくつかの書棚を過ぎ、生物学の書棚に来て、急に憂鬱(ゆううつ)になった。そこには密林のゴリラの研究の本や、アリ、とり、その他いろいろな動物の本が並んでいた。小さいときから特に生き物に興味があった私には、どの本をとっても興味津々で、一気に読めそうな本ばかりである。ではなぜ憂鬱になったのか。

 最近、若い研究者(あるいは若くない研究者も)が盛んに外国の動植物の研究にでかけて行く。先日もカリマンタンで研究してきたばかりの信大のR.W.君(もう子供さんも大きいのだから、君づけは失礼か)が三番瀬の視察にきてくれたが、彼のようにどこかのファンドをもらってでかける例は沢山ある。そのことの是非をここで議論するつもりはない。ただ、熱帯雨林はこんなすばらしい自然です、こんな貴重な動植物があります、こんな不思議な生態系です、と発表しているそばから、熱帯雨林が次々と伐採されて、その珍しい生態系が、今この瞬間にも地球上から無くなっているのではないかと考えたら、急に憂鬱になってしまった。

 考えてみると、日本の自然も埋蔵遺跡も同様の運命である。日本国中ゼネコンを初めとする土建業者に引っかき回されて、出てくる遺跡のうち、超重要なものだけが保全され、それ以外は資料の調査保存だけで、跡形もなくなってしまう。どうしてこんなことがいつまでも許されるのだろうか。

 先日何気なくテレビを見ていたら、若き日の田中角栄が演説していた。「日本にはまだまだ手付かずの土地がある。これを何とかすれば、まだまだ日本も捨てたものではない。だから列島改造です」と。今になってみると、日本中を土建業者に引っかき回させて大儲けして、そのリベートで政治家も安泰、ということだったのである。東京湾も同様の思想(思想などという上等のものではないか)で埋め立てられてきた。
 もうはっきり目を覚まさなければ、行き着くところまで行ってしまうのは目に見えている。後悔先に立たず、である。


2.生命(いのち)の海三番瀬

 もう東京湾に残された自然の干潟は盤洲と三番瀬と2か所だけになってしまった。富津その他にすこしはあるが、あれは干潟のかけらでしかない。今存在する2か所の干潟だって、昔の干潟と比較したら、かなり違ったものなのかも知れない。こんなに広いんだから半分くらい埋め立てたっていいじゃないか、と県や市の役人は言うだろう。そう言い続けて30年間、千葉県の干潟を埋め立て続けてきたのだ。

 1971年、千葉の干潟を守る会を結成して、初めて県と交渉した時、県の役人は言ったものだ。「こんな干潟はどこにだってあるよ」と。そんなことを言い続けながら1万2千ヘクタールもの埋め立てをやってしまった。日本一の自然破壊である。

 その時でさえ私は思った。数百メートル、1キロメートルも干出する干潟は東日本、北日本には1か所もないことをこの人たちは知らないだろうか。現在はもっともっと貴重な干潟といえる。上州(群馬県)や信州(長野県)からバスを仕立ててやってくるほど潮干狩りは貴重な体験である。未来の子どもたちに干潟のかけらではなく、本当の、広い干潟を保存しておきたい。自分たちがぜいたくな、いい思いをして、将来の子供たちのことはまったく考えないなんて、エゴの塊でしなかい。


3.水の浄化と食物連鎖

 三番瀬には水深1〜2メートルの浅場が1200ヘクタールある。千葉県は船橋海浜公園の前面に砂をいれたため、三番瀬を人工干潟だなどとデマを飛ばしているが、1200ヘクタールもの人工干潟を作れるものではない。昔からの江戸川河口に溜まった砂からできたものである。

 干潟の砂はただの砂ではない。表面に微生物が繁殖していて、水中の栄養分を吸収する、つまり水の浄化に役立っている。ある研究者の話では1200ヘクタールの盤洲干潟は1日に60万トンのCOD(?)を浄化できるという。同じ面積の三番瀬も同程度の働きがあるだろう。砂の表面で繁殖した微生物はゴカイやカイやカニなどの小動物に食べられて、食物連鎖の一環をなす。トリやサカナたちはもう一つ上位の動物である場合が多いが、これらも食物連鎖の一員である。
 別の調査では、1平方メートルの干潟に棲むカイは1日約2トンの水をろ過するという。つまり水深2メートルまでの水を1日でろ過してしまうことになる。


4.河口は生命の源。干潟、浅場は酸素の供給源

 河口部は川から淡水が流入するため、塩分濃度が低く、多くのサカナやほかの小動物の繁殖や生育に好都合である。しかも干潟、浅場は潮の干満によって空気と水との接触を盛んにするため、酸素の供給に大いに役立っている。溶存酸素は水の浄化にも大きな貢献をしている。三番瀬が無くなるとアユの稚魚がいなくなると心配する人まで現われた。おそらくもっといろいろな影響が知らないところに現れる可能性がある。生物への影響は東京湾内だけとは限らない。

5.漁業資源

 三番瀬ではいまもノリやアサリの養殖が行なわれ、巻き網などの漁業も行なわれている。後継者不足という難敵があるが、将来の食料事情などを考えれば、漁業資源は確保されるべきである。
 東京湾内で今も相当の水揚げがあるのは、この盤洲干潟や三番瀬が残っているためと考えられる。また専業でなくても、釣りを楽しむ人たちや遊漁船のためにも貴重な場所である。10月31日こも約200艘(そう)の釣り舟が出ていた。


6.おわりに
  〜どうして資源や自然の食い潰しでしか生きられないのか〜

 日本は小資源国だ、だから貿易立国で、そのためには京葉港2期計画も必要なのだ、というのだろう。しかし私は日本が小資源国だったとは思っていない。資源を浪費してしまった国なのだ。

 その昔は黄金の国ジパングだった。これはマルコ・ポーロの幻想ではなくて、日本は本当に金の産地だったのだ。明治時代でも銅が輸出されて、日露戦争の武器購入の外貨になっている。そのツケが足尾鉱毒事件である。戦後の四大公害も千葉の大規模埋め立ても、現在の日本の繁栄の犠牲に違いない。しかし、「満ちれば、欠くる世のならい」で、早く絶頂を極めれば、あとは下落するだけである。先に奈落が見えているのに、駆け出すバカはいない。もっと慎重に進むべきである。

(1994年1月)


千葉の干潟を守る会の会報『干潟を守る』第58号(1994年1月発行)に掲載



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