これで東京湾の環境改善につながるの?

〜「東京湾干潟ネットワーク化」報告書に疑問符〜


石井伸二



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 国土交通省と環境省は今年(2003年)6月、東京湾の干潟をネットワーク化するという報告書を発表した。
 この報告は「東京湾の干潟等の生態系再生研究会」がまとめたものである。報告書の概要は、国交省のホームページをご覧いただきたい。
 報告書には次の内容が盛り込まれている。
  1. 干潟や藻場の面的再生で、東京湾の水質改善、水遊び・環境学習の場の確保をめざす。具体的には、(1)埋め立て地前面海域に底質を入れ、干潟・浅場を造成する。(2)未利用の低地を一部掘り込み、潟湖干潟を創出する。(3)護岸や堤防の直前域を砂質化し、アサリの生息場を創出する──などの方策をすすめる。
  2. 東京湾の生物のつながりを確保できるような干潟ネットワークを形成する。これによって、一部の干潟環境が悪化し、そこの生物相が減少・死滅しても、ほかの干潟や浅場に生活する生物からの移入が期待され、個々の干潟において生物相の再構築を望むことができる。

 要するに、東京湾のあちこちで人工の干潟や浅場をつくろうというものである。はっきり言えば、新たな公共事業を創出するためのものであり、「自然再生事業」の一つである。


●東京湾に流入する汚濁負荷をどう軽減するかなどは
  まったくふれられていない

 報告書の内容は、問題大ありだ。国交省事業にかかわっているある方は、このネットワーク化構想についてこう指摘してくれた。
 「報告内容は予想どおりの結果だ。というのは、報告書をまとめた研究会には、国交省の河川部局や下水道部局の関係者が加わっていないからだ。とりわけ河川部局がかかわっていないのは致命的だ。当然の結果として、報告書(概要版)のなかには、東京湾に流入する汚濁負荷をどう軽減するかなどはまったくふれられていない。あちこちで人工干潟をつくれば豊かな生態系が再生されるかのように書かれているが、それは甘い。結局、国交省港湾局の仕事を確保するための新たな公共事業となるのが関の山だと思う」
 ズバリの指摘だと思う。まず、この報告書をまとめた研究会のメンバーが問題である。


 〈「東京湾の干潟等の生態系再生研究会」名簿〉

 座長 近藤健雄  日本大学理工学部海洋建築工学科教授
 委員 石丸 隆   東京水産大学海洋環境学科教授 
    灘岡和夫   東京工業大学大学院情報理工学研究科教授 
    西村 修   東北大学大学院工学研究科教授 
    古川恵太   国土技術政策総合研究所沿岸海洋研究部海洋環境研究室長
    中村由行   (独)港湾空港技術研究所海洋・水工部沿岸生態研究室長
    市川大倫   千葉県土木部港湾整備課長 
    安藤哲士   東京都港湾局参事(環境対策担当)  
    佐藤 敬   横浜市港湾局港湾整備部企画調整課担当課長 
    結城隆章   川崎市港湾局港湾振興部企画振興課主幹 
    成田 實   横須賀市港湾部港湾企画課長
    岩瀧清治   国土交通省港湾局環境整備計画室長 
    今井泰男   国土交通省関東地方整備局港湾空港部地域港湾空港調整官
    田部和博   環境省自然環境局自然環境計画課長


 ご覧のように、国交省は港湾部局(旧運輸省)のみである。関係自治体は、東京都、神奈川県、千葉県、横浜市、川崎市、横須賀市というように、東京湾内の港湾管理者だけである。つまり、港湾行政当局が環境省の協力を得て、東京湾で自然再生事業を推進しようというのが、この「東京湾干潟ネット化」構想なのである。
 もっとはっきり言えば、東京湾内の港湾施設はどこも過剰になっていて、従来型の公共土木事業(埠頭建設など)はやりにくくなった。そこで、予算や仕事を確保するために、「東京湾の生態系再生」などをうたい文句にして新たな公共土木事業を推進しようというものである。


●環境庁の報告書『かけがえのない東京湾を次世代に引き継ぐ
  ために』と比べてみてもお粗末

 環境庁(現環境省)の水質保全局は1990年、『かけがえのない東京湾を次世代に引き継ぐために』という名の報告書を発表した。副題は「東京湾の望ましい水域環境を実現するための方策について」である。
 この報告書はなかなかのもので、高く評価されている。報告書は、湾の水面の広がりや容量の確保が最も基本的な条件であり、開発を目的とした埋め立ては抑止すべきとし、次のように述べている。
 「自然の浄化作用や気候調節作用を維持するという観点から、必要な海水の流れや湾の水面の広がりと容量を適切に確保する。この湾の水面の広がりや容量の確保は、海が海として存在しうるための最も基本的な条件である」
 「東京湾が限られた貴重なオープンスペースであり、かけがえのない自然環境であることに鑑み、今後、臨海部における新たな空間需要に対しては、この未利用地の有効利用により対応し、開発空間確保のための埋め立ては抑止することを基本とすべきである」
 また、東京湾の水質保全策として、次のような施策を提案している。
  1. 湾に生活排水が未処理のまま流れ込まないようにするため、地域住民の自覚と協力のもとに、関係行政機関が連携して、公共下水道、コミニュティ・プラント、農業集落排水施設、合併処理浄化槽などの生活排水処理関連施設の整備・普及を地域や流域の特性に応じて、総合的、計画的に推進する。
  2. 下水処理場、工場排水処理施設、浄化槽など排水処理施設の規模や種類に応じた窒素、りんのなどの栄養塩水の流入負荷削減を図る。
  3. 流域の都市の身近な河川を親しめる、生き生きとした水辺として蘇らせることをめざした施策を展開する。その中で、「いかに汚さずに流すか」あるいは「いかにゴミを捨てる量を減らすか」といった一人ひとりのライフスタイルの転換をはかる。
  4. 水域環境管理に係わる国・自治体の関係行政機関、調査研究機関の連携を強化し、全水域環境を一体のものとして取り扱う体制や仕組みの整備を段階的に進めていく。
 こうした視点を欠落させた今回の「東京湾干潟ネット化」の報告は、はっきり言ってお粗末である。
 報告書作成にかかわった環境省も環境省である。13年前に『かけがえのない東京湾を次世代に引き継ぐために』で提言したことは何だったのか、と言わざるをえない。今までコンプレックスをいだいてきた公共土木事業に自然再生事業という形でかかわることができ、遠慮しているのだろうか。それとも、目がくらんでしまったのだろうか。

(2003年7月)   






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