海老川の水循環と生物多様性を考える

〜「ちば生物多様性県民会議・戦略グループ会議」に参加して〜


公共事業と環境を考える会



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 8月25日、「ちば生物多様性県民会議・戦略グループ会議」の船橋プログラムが開かれました。
 今回のテーマは、「都市の水辺の景観と生物多様性」です。船橋市内を流れる海老(えび)川の景観をよくし、また、川の生物多様性を再生するためにどうするか、というものです。


■市民一人ひとりの努力がカギ?

 船橋市女性センターでおこなわれた第2部「講演と討論」では、講師のS氏と県のY氏からこんな話がされました。

◇S氏(講師)
     「これまでは、川は治水と利水が重視された。今後は、親水をどうするかも大事だ。市民が川を楽しめるようなものにすべきだ。海老川の場合は、水辺を散策できる空間づくりが求められている。こうしたとりくみでは市民の役割が大きい」

     「水循環をよりゆっくりすることも重要だ。水源地を大事にするとか、降った雨を地下に浸透させるなど、その地域にあった仕掛けが求められている」

     「環境問題は、市民一人ひとりの努力が重要だ。ゴミの排出を減らすなど、一人ひとりが努力すれば、大きな効果が得られる」

◇Y氏(県)
     「海老川は10年前、国の水循環再生モデルに指定された。そこで、海老川流域水循環再生推進協議会も立ち上げた。これまで、(1)下水道整備、(2)合併浄化槽の普及、(3)雨水浸透施設の整備・普及──などのとりくみをしている」

     「水循環は市民一人ひとりの努力がなければ実現できない。川を汚す原因の大部分は生活排水である。したがって、皿のひどい汚れは紙でふきとるなど、汚れをできるだけ川に流さないようにしてほしい。また、家に雨水浸透施設をとりつけるなどもしてほしい」

     「行政は今後も、市民の意見を取り入れながらハードの整備を進める。一方、親水まつりのようなソフトのとりくみは市民にやっていただき、それを行政が支援するようにしたい」

 このほか、NPO法人からは、海老川に水草を増やしたり、親水市民まつりを開いているとりくみが報告されました。
 講演や報告の論調は、水循環や生物多様性を保全・再生するためには、「汚れを川に流さないようにする」とか「各家庭で浸透ますを設置する」など、市民一人ひとりの努力がカギ、というものでした。


■肝心な点にふれない

 率直にいえば、講演や報告は肝心な点にふれないものでした。それはなにかというと、行政の責任です。具体的にはこんな問題です。
  • 海老川の流域では、いまも斜面林や空地などがどんどん開発されています。あちこちの斜面林が伐採されつづけ、マンションの建設ラッシュがつづいています。船橋市はこうした開発を許可しつづけています。
     この問題に目をつぶって「水循環の再生」とか「生物多様性の回復」などと言っても、ただのお題目になってしまいます。むしろ反対に、行政の悪事(環境破壊への荷担)から目をそらす役割を果たすのではないでしょうか。

  • 海老川は、水質が非常に汚れています。最新版の『千葉県環境白書』でも、海老川は「よごれている」とされています。東京湾に流れ込む千葉県内の河川で、「よごれている」とか「とてもよごれている」とされているのは、船橋市内と市川市内を流れる川だけです。これらの汚れた川が三番瀬に流れ込み、三番瀬に大きな環境負荷を与えているのです。
     なぜ海老川が汚れているかというと、下水道整備が非常に遅れているからです。下水道普及率(最新データ)をみると、全国平均69.3、千葉県平均63.7にたいし、船橋市はわずか54.2です。これは、近隣の浦安市98.8、千葉市95.9、習志野市80.9、市川市64.6と比べ ても格段の低さです。
     こうした行政の怠慢にふれないで、「市民一人ひとりの努力が大事」ばかりを強調するのは、問題のスリカエです。下水道整備の遅れを放置したまま、「できるだけ汚れを川に流さないようにしましょう」とアピールしても、水質がよくなるはずはありません。  「一人ひとりが汚さない努力をしましょう」と言われても、市民ができることには非常に限界があります。海老川が非常に汚れているのは、根本には行政の責任があります。決して市民ではありません。

  • Y氏は、県による海老川水循環再生のとりくみを紹介しました。しかし、その目玉は、印旛沼流域下水道の花見川第二終末処理場(千葉市の埋め立て地)の処理水を延々24キロメートルにわたってポンプアップし、海老川上流に還元するというものです。この工事に数十億円以上をかけています。ポンプアップの理由は、下水道の整備にともない、海老川などの水量が減少し水質悪化が深刻になっているからです。
     しかし、こんなものを水循環再生というのでしょうか。水循環を本当に復元するというのなら、小規模の下水処理場を内陸部に数カ所設置し、その処理水を川に放流すべきです。また、下水道整備が当面見込めない地域では合併浄化槽の普及・整備に切り替えるべきです。そうすれば、莫大なカネをかけて埋め立て地からポンプアップする必要などありません。


■「下水処理水のポンプアップは本来の水循環ではない」

 質疑・討論で、1については会場からTさんが発言しました。2と3についてはNさんが発言しました。

 1の斜面林伐採については、講師のS氏がこんな回答をしました。
     「海老川流域の斜面林がいまも伐採・開発されつづけ、それを船橋市が許可しているとのことだが、これは議会の姿勢や対応にもかかわる。結局は、市民の民度の問題でもある」
 2と3については、県のY氏がこんな回答をしました。
     「たしかに船橋市の下水道普及率は非常に低い。それは、県が進めている流域下水道に船橋市が加わらず、単独で下水整備を進めているからだ」

     「花見川第二終末処理場の処理水をポンプアップして海老川に還元するというのは、たしかに本来の水循環のやり方ではない」
 この中で、船橋市が単独で下水道整備を進めているため普及率が低いというのは、一面的です。
 たしかに同市の下水道は、形式上は「流域下水道」ではなく「単独公共下水道」です。しかし、実態は“ミニ流域下水道”あるいは“かくれ流域下水道”というべきものです。処理場や管渠の規模が過大で、流域下水道方式をそっくり真似たものとなっているからです。

 具体的には、排水処理の手段は下水道しかないと考え、すべての区域に下水管を張り巡らし、大量の下水を1力所に集め、そこで処理をして海(三番瀬)に捨てるという計画です。

 この方式は、管渠も処理場も過大で、カネがかかります。そのため、下水道整備費が市の財政を圧迫することとなり、なかなか整備が進まないのです。
 過大な計画をたてず、また、人口密度が低いところでは合併浄化槽やコミュニティプラントで処理するというように、効率的で柔軟な計画をたてれば、下水処理はもっと進み、海老川の水質は今より格段によくなっていたはず、と言われています。

 実際に、全国的に見ると、流域下水道方式を採用せずに「人口密集地では公共下水道、住宅がまばらな地域では合併浄化槽」というように、柔軟な整備を進めている自治体のほうが下水(排水)整備は効率よく進んでいます。

 船橋市の下水道計画策定にかかわったある職員は、こう語っています。
     「策定当時、宇井純さんたちが流域下水道方式を批判していたことは知っていた。しかし、私たちは、“大きいことはいいことだ”という発想にとらわれていた。その後、10年以上ぐらいたってから、この方式では整備がなかなか進まず、市の財政を圧迫することがわかってきた。しかし、大規模な管渠や処理場建設がかなり進んだあとに方式を変更するのはなかなかむずかしい」
 海老川の水循環や生物多様性を考える場合は、こうした下水道の問題や下水整備事情も視野にいれなければならないと思います。

(2007年8月)






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