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スタンド・バイ・ミー(前編)

中学1年といえば、初めて制服に袖を通し、それまでよりも格段に大人に近い社会に入った気分で学校に通い始めた頃です。そんな新しい出会いの中で、僕がよくつるんでた友達にコン太(仮名)というヤツがいました。背が低くて、キツネみたいな顔をしているヤツだったのですが、特に喧嘩が強くもないのに、何故か周りから一目置かれているという不思議なヤツでした。僕はそんなコン太に興味を持ち、彼と彼の友人のチャリとよく遊ぶようになりました。

チャリはコン太の小学校の頃からの友人なのですが、中学では他のクラスの僕でも悪い噂を耳にする存在でした。特に不良でもないのに、何故か周りから敬遠されている存在だったのです。実際に話してみても何を考えているのか解らなくって、普段は無口なんだけどキレると想像もつかないような行動を起こすのですが、何故かコン太の言う事だけは良く聞いてました。

僕も彼は不気味だったのであまり親しく話をしなかったんですが、コン太が僕ら3人のリーダー格のような存在として何でも引っ張っていってくれたので、チャリがいても違和感を感じる事もなく、僕らはいつも一緒に行動するようになりました。

コン太の家は大きな一軒家でしたが、大きい割りにはあまり金が掛かっているとはいえない代物でした。しかし、僕の住んでた市営住宅なんかとは比較にならないその広さは、僕の目にはとても魅力的に映り、「コン太の家ってスゲーな。広いからどんなに散らかしても散らかって見えないんだもの」と、素で羨ましく思っていました。ちなみにチャリの家も一軒家だったのですが、学校から遠い新興住宅地の方だったので、そっちへはほとんど遊びに行ったことはありませんでした。ただ、コン太に聞いたところ、「チャリの父ちゃんは会社社長だからアイツの家の方がスゲーよ」という返事が返ってきたので、母子家庭の貧乏人の僕にはこの二人の家庭環境は羨望の的でした。

そして何故か二人とも妙に金回りが良く、特にチャリはゲームセンターに遊びに行くといつも1,000円ぐらい奢ってくれたので、コイツやっぱりちょっと普通じゃないんじゃないの?と思いながらもお金の魅力には勝てない小市民の僕は、平気で奢ってもらってました。

そして彼らと一緒に遊んで親しくなっていくうちに、彼らが学校に内緒でアルバイトをしている事を知りました。
コン太もチャリも中学1年生だというのに新聞配達のアルバイトをやっており、その為に金回りが良かったのです。「13歳なのに働いているなんて大人だなー」と思った僕は、ますます彼らを羨望のまなざしで見るようになりました。

ちなみにチャリは母親に「友達と遊んでくる」と言うと、いつも小遣いを
¥3,000もらえるそうで、ゲーセンで僕にオゴるのはその小遣いからだと言ってました。バイト代はどうやら他の事に使っているという口ぶりでしたが、それが何なのかは教えてくれませんでした。それを僕が知った頃には何もかも手遅れでしたし…。

ほどなくして、コン太に「ブンタツ(新聞配達の略)辞めたいって言ってるヤツがいるんだけど、R8が変わりにやらないか?」と持ち掛けられた僕は、一も二も無く飛びつきました。これでコン太達に一歩近付ける、そう思った僕は難色を示す母親を説得して新聞配達を始めました。

コン太の話は、大袈裟な自慢話が多かったのですが、聞いてる内に楽しくなってくるようなホラ話が多かったし、僕の知らない遊び場所やいろいろな想像もつかない話をしてくれて、一緒にいるだけで楽しかったのです。チャリはたくさんオゴってくれたし。

ただ、いつまでも楽しいだけでは関係は長続きしませんでした。
彼らは僕が大きな問題に直面した時も、真剣に困った時も、救いが欲しかった時も、ただただ下らないホラ話で誤魔化して自分のメンツを取り繕うだけでした。その時、友人としての心のつながりなどは欠片も感じることが出来ませんでした。

僕を助けてくれたのは、配達所の大学生だったり、他のクラスメートや先生だったり、母親でした。
あの頃、最も一緒の時間を過ごした彼らは、僕には何もしてくれませんでした。

そんな事もあって徐々にツルむ事もなくなってしまった僕らは、2年生のクラス替えで3人とも別々のクラスになってしまい、それ以後はほとんど会うこともありませんでした。

その後の彼らの事はほとんど知りませんが、3年の時にコン太は引っ越して、チャリは公立高校に落ちて私立に入ったと聞きました。もう彼らのことなどすっかり忘れて高校に入った僕でしたが、想像を絶する再会が待っていようとは思いもしませんでした。いや、これが再会と言えるのかどうか…。


スタンド・バイ・ミー(後編)

僕の入った高校は、家から徒歩10分という近さが魅力の工業高校でした。

新たな生活に期待を膨らませながら高校生活を送り初めて1ヶ月が経った頃、僕はクラスメートの一人と共に校長室に呼び出されました。「ヤッベー。昨日の下校途中に近所のスーパーでパーラメントを買ったのをチクられたかな?」とビビリ気味の僕でしたが、一緒に呼ばれたクラスメートは品行方正で温厚な好青年だったので、そんなことで呼び出されたワケではないんだろうな、と気付きました。
第一、タバコで呼び出しなら校長室じゃなくて職員室だしね。

いやしかし、なんで僕らが呼ばれたんだろうか?
僕と彼との接点と言えば、同じ中学だったという事、二人とも高校の近くに住んでいるという事、成績が優秀だという事(自慢)ぐらいしかないもんなー。

と、二人で話しながらも、軽い緊張感に肌を突き刺されるような感覚を感じつつ校長室に入った僕らを待ち受けていたのは、校長と教頭と担任の3人でした。

『ある意味オールスターじゃねえかよ。何の話だ?』
と持ち前のビビリ根性に押しつぶされそうになりつつも、先生方の神妙な面持ちにただならぬ雰囲気を察した小動物の僕は、勧められるままに椅子に腰掛けて校長の話に耳を傾けました。

校長:「実は今、TV局の人が取材に来ていて、キミ達にインタビューを受けて欲しいと言ってるんだ」
僕  :「???」
校長:「まだ知らないのも無理はないね。昨日、キミ達の中学で同級生だった
    チャリ君が事件を起こしてね。彼はまだ逃走中だそうなんだが、同じ
    中学だったという事でキミ達に彼のことを聞きたいそうなんだよ」
僕  :「事件て…?ナンスカ…?」
校長:「あー、そのー、言いにくいんだが、すぐにわかる事だしねー。
    なんというか…、昨日の夜、チャリ君が御両親を殺害して、妹さんにも
    大怪我をさせて意識不明の重体になってるんだよ」

僕は驚きませんでした。

というか何も感じませんでした。ただ放心状態で自分の心臓の鼓動だけを聞いていました。
その後も校長の、特に彼のことを知らなければ知らないと言ってくれるだけでいいし、無理にインタビューを受ける必要は無いんだよ、という言葉は耳には入っていたのですが、それよりもその時は、ただ自分の鼓動に耳を傾ける事に精一杯で、校長の話を理解したのはインタビューを受ける直前でした。

ただ、僕はこれだけはきちんと先生に言いました。
「僕はチャリ君と一緒に遊んだ事があります。少しは彼のことを知っています」と。その時、何故か先生方は、困惑の表情を浮かべていました。

インタビューでは、ちゃんと受け答えできると思っていたのですが、色々な事が頭に浮かんで、逆にあまり大したことは言えませんでした。「ゲーセンとかによく遊びに行って、ちょっと変わってる奴だった」という感じです。金の事とか、たまにワケわかんない状態だったとかは言えなかった。言っても何の解決にもならないし、チャリの名誉を傷付けるだけだから。

その後、チャリは1週間もの間、北海道中を逃げ回り、捕まったのは函館でフェリーに乗って逃げようとしたところでした。その1週間の間、チャリが家に来たりしたらどうしよう?と思っていたのですが、やはり地元に戻ってくるのは危険だとわかっていたようで、ほとんど北海道を一周するような感じで逃げ回っていたそうです。

後で聞いた話だと、チャリは昔からシンナーをやっていたらしくて、特に高校に入ってからは全然学校にも行かずに昼間っからラリってたそうです。
そういえばアイツ、金だけはたくさん持ってたからガラの悪い先輩達と仲良くしてたもんなあ。

そして凶行に及んだ時も、夜中にラリって幻覚を見た状態で両親をバットで撲殺し、妹のあごの骨を砕いて、逃げたそうです。
意識不明の重体だった妹は、その後数ヶ月して回復したそうですが、記憶喪失になっていたそうです。学校に戻っても、クラスメート達は、彼女が事件を思い出さないように気を遣っていると聞きました。そんな記憶なら、失ったままの方が良いかもな…。

 



さて、話は強引に進みます。その2年後の高3です。

僕の高校は工業高校だったので、女の子がとても少なくて、シャイで引き篭もりだった僕にはマッタクもって彼女が出来ませんでした。ところが、僕の彼女出来ないっぷりを心配してくれたクラスメートのシゲ(自分に彼女が出来たので舞い上がっていた)が、同じ中学の女の子を紹介してくれると言って、中学の卒業アルバムを持ってきました。

「なにオメー?チューボーん頃からパーマ掛けてたの?金持ってんなー」などと談笑しつつ、よさげなコを物色していた僕は、思いも掛けずに見覚えのあるキツネ顔を見付けました。

僕 :「あれ?コン太じゃんか?シゲの学校に転校したんだ?」
シゲ:「あー、コイツな。3年の時に転校してきたんだけどさ、マジありえない
    くらいにイジメたよ。普通ならぜってー死ぬべっていう勢いでクラス全員
    で毎日イジメたおしたよ。あはは」
僕 :「ハァ?なんでヨ?」

シゲ:「だってアイツ、チョンだもん。名前でわかるじゃんか」

この言葉を聞いた時、僕は何も言えませんでした。言葉が浮かびませんでした。身体が動きませんでした。その時の僕は、シゲの言った言葉の持つ破壊力に、ただ蝕まれるだけの無力な存在でした。あえて表現するならば、僕がその時感じたのは『絶望』だったと言うのが一番近いかもしれません。

「なんでそんな悲しくなるような事が言えるの?あなたに何を否定する権利があるの?」
僕の頭の中はその疑念で一杯でした。

僕はそれまでそんな事を考えて人に接した事は無かったし、なんでそんな事を馬鹿にするのかもわかりません。そういう事を言う人は、自分がもしその人の立場だったら、どんな気持ちになるか考えてみた事は無いのかな?と思います。無いから言うんだろうけどさ。

ただ、中学でコン太がなんとなく皆に一目置かれるような扱いだったのは、その事が原因だったんだという事。そもそも一目置かれていたのではなくて敬遠されていたんだという事。下らない自慢話が多かったのもきっと自分の自尊心を保っていたくてやっていた事なんだろうなという事。

疑問、同情、共感、憤り、色々な感情が僕の心臓を破裂させんばかりにせめぎ立て、蘇ってくる様々な思い出は僕の頭を完全に支配する暴君と化していました。その時の僕は、ただただコン太とチャリとの思い出に支配されるだけの石ころのような存在で、シゲには何も反論できませんでした。



『思い出』は月日と共に美しくなるけれど、僕達を待っているのは、
いつも全てをぶち壊しにする『現実』なのかもしれない。それでも僕らには『現実』しか無いんだ。そこからは逃げられないんだ。

だからこそ、自分はどうあるべきか考えよう。『現実』に負けない自分になろう。

ただ、それだけ。
 
 

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