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陽炎の街にて
会社からの帰り道。
いつもはMDを聴いているが、たまには街の雑踏を感じてみたいと思い、ヘッドフォンを外してみた。
車の群れから吐き出された熱気と騒音が街の活気を彩って、華やかなネオンと雑踏が孤独を忘れさせてくれる。
道行く人は足早で、歩みを止めれば死ぬかのようだ。
道端に落ちていた空き缶を拾い上げて空き缶入れに入れた時、そばに座っていた浮浪者に言われた。「気取りやがって」
無視してその場を後にした。
大通りは人で溢れかえっている。
寄り添いあって歩く恋人たち。
仲の悪い兄弟と叱ってばかりの親。どこにでもある当たり前の家族。
自分に家族がいたらどんなだろう?
どこでなにを間違えたのだろうか?
今が、これが、最良の道筋なのだろうか?
今歩むこの道の先に、愛はあるのか?夢はあるのか?
そう思ってみてももう遅い。
あの家族は、僕のものではない。
大通りにはいかがわしい連中も多い。
キャッチセールス。ポン引き。キャバクラのスカウト。マッサージの客引き。
そしてそれに引っ掛かる人。
いくら値引き交渉したって無駄だ。元値がヨソの5割増しなのだから。
この通りには部活帰りの高校生も、疲れて帰路につく僕もいるが、ほとんどは買い物客や遊びに来た人たちだ。
ここでは誰もが着飾っている。
横浜でも最大の繁華街の一つなのだ。当然だろう。
ほとんどの人にとってはここは「出掛ける」場所なのだ。
誰もがよそ行きの格好でよそよそしくて、誰もが他人に無関心で、自分のことで精一杯。誰も僕のことなんか知らないし、誰も他人と繋がってなんかいない。
でもこの場所はいつも人が溢れていて、いつも騒がしくて、いつも虚飾に溢れている。
汚れた都会が優しく僕を包み込む。
この場所には寂しさも孤立感もない。
在るのは共感への飢えと、下らない予定調和。
ここは陽炎の街。僕の帰る場所。
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