卒論執筆マニュアル 2005年版

宮川 雅

 

卒業論文作成でよくある間違いや疑問について注意を喚起しておきたい。原則的に日本語の論文について書くことにする。英語の論文については『MLAハンドブック』で足りるから。

 

(1)表紙・原稿用紙

★学科指定の表紙(水色)と原稿用紙を生協で購入しておかなければならない(しかし正規に売り出すのは11月ごろかららしいので,店頭にはそれまでは出ていないかもしれない)。ただし英語原稿の場合とワープロ原稿で感熱紙しか印字できない場合は,原稿用紙ではなくA4判の厚めの白紙(タイプ用紙あるいはワープロ用紙)でよい。★表紙には表と背にペンで必要な事項を丁寧に書く。提出が2006年でも2005年度なので注意。自分の論文のタイトルに「   」はつけない。副題がある場合,ダッシュ(――)で導入する。――

 

“The Fall of the House of Usher” Poe の構成の哲学

Ormond におけるpicturesqueな意匠をめぐって

Toni Morrison における個と伝統――Sulaを中心にして

 

あるいは1行におさまらなければ――

 

Toni Morrison における個と伝統

――Sula に見られる黒人女性の姿勢について

 

といったぐあい。作家・作品名は日本語でもよい(が後記(3)-①も参照)。――

 

トニ・モリソンにおける個と伝統――『スーラ』を中心にして

「アッシャー家の没落」とポーの構成の哲学

『オーモンド』におけるピクチャレスクな意匠をめぐって

 

(2)本体の構成

実のところ卒業論文の構成は、本体も含めて、一冊の本をミニチュアにしたようなものだと思ってもらってもいい。だから目次が必要なだけでなく、目次の前に★タイトル・ページがつく(これはそこらへんの本を手にとってもらうとわかるが、表紙をベタにして繰り返すデザインが多い)。表紙に書いた内容(年度、論題、学籍番号、氏名)を書くことになる。★目次は正確に頁を記すこと(ただし「p.」とか「ページ」とか、あるいは「1~5」などとは書かない)。

 

目次

 

                         Morrisonと黒人の歴史・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

第1章                  Sula における共同体・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

第2章                                       Song of Solomon における黒人文化の伝承 ・・・・・・・・・・・・25

第3章                                       黒人女性作家と現代文明 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39

結論                     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44

引用文献     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47

 

といったぐあい。なお、アラビア数字の頁は一般に本文から勘定し、それ以前はローマ数字でカウントするのだが、卒業論文の場合、タイトル・ページと目次ページにはそれ自体の頁番号はローマ数字であれ記入しない。

 

(3)本文

具体的な例を提示して問題点を説明することにする。

最初の例は20字×20行で所定の原稿用紙と合わせた場合(もちろん見た目は縮小されている),あとの例はワープロ用紙を使うことを想定したものだが,まだできてません。注の付け方については『英文学誌』はある程度参考になると思います。

歴史の重要視は,アメリカの黒人女性作家             

の多くに共通する特徴である。トニ・モリソ             

(Toni Morrison)は,長篇小説の『スーラ』              |①固有名詞

(Sula)執筆中に,歴史に注目することの重要               |①

性を,雑誌記事で訴えた。                                         

The point is [. . .] to recognize and rescue          |②省略(文中)

those qualities of resistance, excellence and          

integrity that were so much a part of our              

past and so useful to us and to the genera-            |③分綴

tions of blacks now growing up [. . .].  The           |②省略(文末)

deeper the conviction that something valu-           |③

able is slipping away from us, the more                

necessary it has become to find some way            

to hold on to the useful past without block-            |③

ing off the possibilities of the future.  (“Re-           |③

discovering Black History” 14)                                |④引用

 

モリソンは,過去の抵抗の歴史に学ぶことに          

より未来の可能性が阻害されなくなるのだと          

----------------------------------------------------------------------

言い,敗北の事実も有用であると指摘してい          

る。70年代に登場した黒人女性作家の多くが,     

黒人であり女性であるという,アメリカ社会          

の中で二重に阻害された集団に,積極的に自          

己のアイデンティティーを求め,集団的アイ          

デンティティーの拠り所を,その伝統,彼女          

らが「狂気を生き延びることができた理由」          

に求めた(後藤12)。1970年に出版されたア         |④

ンソロジー『黒人女性』(The Black Woman)          |①

においても編者のトニ・ケイド(Toni Cade)が,      |①

偏見に対する反発に終わらない歴史観に根ざ          

した,黒人女性としての自画像を創造する必          

要性を説いている (Cade vii-viii)                         |④(間接的引用)

『スーラ』は前半で女の共同体を描いてい              |①

る。主人公のスーラは,片足の祖母エヴァ              |①

(Eva),未亡人の母親ハナ(Hannah),それに          |①

多数の下宿人や居候とともに、大きな3階建          

ての家で育つ。ハナは「毎日少しのふれあい」      

(some touching everyday)(44)がなくてはいら        |④(日本語・英語併記)

れない性分で,不特定多数の男と関係を持っ          

----------------------------------------------------------------------

ている。スーラは一つの感情を3分ともたせ          

ることのできない,気まぐれな少女で,母親          

“I just don’t like [Sula]” (57)と言うのを聞         |④(代名詞の指示)

いて,他人をあてにすることができなくなり,      

幼い遊び友達をあやまって溺死させた事件の          

ために,自分もまたあてにできないと思うよ          

うになる(88)                                                         |④(間接的引用)

 

 

 

 

     固有名詞

引用は英文,というきまりに関連して,作品・作家名,作品中の登場人物や地名などの原語を示す必要が生じる(実際にある地名や実在の人物については必ずしも示す必要はない)。示し方には3通りほど考えられる。

a)      すべて英語で綴る。

b)      初出時に英語,以降は日本語(カタカナ)。

c)       初出時に英語と日本語を併記,以後は日本語。さらにこのやり方は2種類考えられる―― c-1 日本語の後に英語 〔トニ・モリソン (Toni Morrison)〕,c-2 英語の後に日本語 〔Toni Morrison (トニ・モリソン)〕。

★いずれでもよいが,自分の論文のなかで統一することが大事。

 

     省略

★英文の省略はピリオド〔ドット〕3個で示す。かつてはそれだけだったが,MLAは近年ドットをブラケット〔brackets  [   ] 〕で囲むことで,省略が原文自体にあった場合との区別を立てることにした。だから,引用した文章にもとからあった省略ではなくて新たに省略を設ける場合は [. . .] という表記になる。文末に省略がある場合は省略部分のピリオド3個とセンテンスの最後のピリオドとあわせて [. . .]. となる。日本文ではいまのところこれにならうような習慣は少なくとも一般化していないが,省略はいわゆる中黒(なかぐろ)を6点打つ――「モリソンは……指摘している。」 「……とモリソンは説明した……。」

 

     分綴

単語の綴りの途中で行を変えるとき,むやみに切っていいわけではない。★syllable(シラブル,音節)の切れ目で切ってhyphen(ハイフン)でつなぐというのが原則。辞書にはsyl-la-ble のように音節が区切って記述されている(gen-er-a-tionspos-si-bil-i-ties)。ハイフンは行末のみで,2行目の行頭につけてはいけない。1字や2字を残すというのは普通やらない。読みやすさが優先されるため,すべての行で分綴すべきではない。スペースがあいても次の行に単語ごと送ってよい。

 

     引用

これについてはいくつも問題がある。

第一.   ★論文の地の文に入る短い引用は引用符に入れる(英語はquotation mark,日本語はカギカッコ)。★長い引用(通例3行以上程度)は引用符に入れずに地の文から切り離し,前後1行あけ,引用の段落全体を1マス分下げる(すなわち日本語1字分)。

第二.   引用文献(works cited)方式では引用文に脚注や尾注は付けず(結局いわゆる注は付けない),頁や著者名や文献名についての最低限の情報だけを本文中の引用後の丸カッコ内に入れる。つまりひとりの作者を扱う論文ではその作家名を入れる必要もなく,頁だけということになる。さらに原則として,文脈中に情報が書かれていれば,その情報はカッコ内からは省略できる(たとえば “Rediscovering Black History” はモリソンの文章であることは文脈から明らか)。なお,最近の傾向は簡略化であって,頁の前のカンマも省略する。

第三.   直接の引用でなくても、研究書の示唆的な記述や作品の重要な箇所に頁(あるいはときに章)でreferすることが必要。

第四.   引用しっぱなしにしない。長い引用には必ずコメント(説明・分析・解釈)を付せ(そのための引用)。

第五.   質的にも量的にも適切な引用を心がけること。長い引用が続くと効果が薄れる。

第六.   引用の導入の文章に注意すること。文脈がわかるように説明しておかないと読者は考え込んでしまう。

第七.   引用中の代名詞の指示がわかるようにする。上記六も利用できるし,明確にするにはbrackets [  ]  を使って代名詞に換える。かつては her [Sula] という書き方もされたが,最新のMLAハンドブックは代名詞を残さず [Sula] という書き方を推奨している。

第八.   引用の英文に日本語訳は不要とされているが,日本語を示したほうがよい場合も――内容・形式において――出てくる。その場合は,必ず原文の英語も併記すること。細かいことを言えば,日本語訳を引いても35枚に達するようにすればよい。

 

     その他――

★章の始まりは改頁。引用文献も頁を改める。

★句読点は行頭にこないというのは日本語の文章の常識。

★閉じる括弧 ( 」)も行頭にはこない。

★手書きの場合,丁寧に清書すること。常識。

★鉛筆書きは認めない。常識。

 ★斜体のフォントを現在のワープロはふつう備えているので,イタリックを敢えて下線にする必要はない(ワープロの場合)。しかし手書きの場合はアンダーラインを使用する(表紙も含めて)。

 

(4)引用文献

★引用文献表には,作品も研究書・論文もあわせて,論文に使用した文献のすべてを著者の名前のアルファベット順に並べる。

             引用文献

 

Cade, Toni.  Introduction.  The Black Women: An Anthology.  Ed. Toni Cade.  New York: New American Library, 1970.  iii-xvi.

Dubois, W. E. B.  The Souls of Black Folk: Essays and Sketches.  1903.  Rpt. Greenwich, CT: Fawcett 1963.

後藤一彦 『黒人女性作家の世界』 秋津書店,1999.

Harris, Joel Chandler.  “The Wonderful Tar-Baby Story,” “How Mr. Rabbit Was Too Sharp for Mr. Fox.”  Complete Tales of Uncle Remus.  Boston: Houghton Mifflin, 1955.  6-8, 12-14.

ロレンス,D. H.  『アメリカ文学論』 永松定訳弥生書房, 1974.

Morrison, Toni.  “Rediscovering Black History.”  New York Times Magazine.  11 Aug. 1974.  13-14.

----------.  “Rootedness: The Ancestor as Foundation.”  Black Woman Writers (1950-1980): A Critical Evaluation.  Ed. Mari Evans.  Garden City, NY: Doubleday, 1984.  143-55.

----------.  Song of Solomon.  1977.  Rpt. New York: New American Library, 1978.

----------.  Sula.  New York: Knopf, 1976.

楢崎寛 「『重力の虹』の解釈ゲームは無駄か」 『英語青年』140,5.  19948.  19-20.

立石貴樹 「スーラとネルの同性愛的友情――『スーラ』のひとつの歴史的背景」 渡辺一馬編『アメリカ黒人作家と時代変貌』 変人社出版,1999.  86-102.

 

といったぐあい。なお,架空のタイトルが含まれていることをお断りする。