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* Football Report (2002 FIFA Worldcup)

いつの時代も人々を魅了するFIFAワールドカップ。それはサッカーが好きな人間にとっては一生に一度は生で観てみたいイベントだ。4年に一度の開催であるので、僕も含めて一般人の生観戦は、基本的に様々な条件が合わなければ実現しづらいものである。今回、チケットの問題や金銭的・時間的な問題を幸運にもクリアしたため観戦が実現したのだが、最大の幸運は開催国が日本と韓国だったことである。試合のチケットは韓国でのものであったが、このような幸運は再び訪れないだろうという判断から、二つ返事でOKした。3泊4日で3試合の観戦予定である。
 韓国へは羽田空港から2時間半の行程。地球上で、まだ広島県から西へ行ったことが無い僕は、もちろん韓国初上陸である。

6月10日 Portugal : Poland

韓国は、祭りのあとだった。ポーランドとの初戦において歴史上初勝利をあげた彼らは、当然のように夜を徹してのお祭り騒ぎ。翌日の遅刻を懸念した会社や学校が軒並み半休を即決してしまう辺りは、さすがとしか言いようがない。その熱気もまだ覚めやらぬ今日、彼らはアメリカとの第2戦を控えているところだった。
 ソウル・金浦(キンポ)空港に到着したのは正午を少しまわった頃。東京と比べてやや高めの湿度に少し違和感を感じつつも、そのままバスで南の全州(チョンジュ)へと向かった。かの地でポルトガル対ポーランドの試合が行われるのだ。
 ひとくちにソウルから全州へといっても、実は結構な距離がある。東京から浜松だとか松本に行くのとそんなに変わらない距離なのだ。高速道路を利用しても、最低4時間はかかる。朝が早かったので車内で少し眠ってもよかったのだが、車窓の風景が予想以上に新鮮で、なかなか眠れなかった。とはいっても、農村だとかヒュンダイ自動車ばかり見ていたのではあるが。

休憩のために立ち寄ったサービスエリアでは、テレビ中継で韓国の試合が始まろうとしていた。売店でアイスコーヒーを買ってきて、餅のようなスナックを食べる。ちなみに、アイスコーヒーのことを韓国語では「アイスコピー」と言う。韓国語では"F"の音が"P"に変化するため、外来語の"coffee"が「コピー」になるのだ。「コーヒー」のように、"F"が"H"に変化する日本語と比べるとなかなか興味深い。だから有名なサッカー選手の名前、ルイス・フィーゴも、韓国ではルイス・ピーゴとなる。やや拍子抜けの感ありだ。

試合前から大声で歌い歩くポーランド人御一行様。韓国の中西部に位置する内陸都市・全州は石焼ビビンパの発祥地である。それだけでもここへ来た甲斐があるというものだ。だいぶ薄暗くなった全州で、石焼ビビンパの店に入った。いや、入ろうとして驚いた。店内は7割がポーランド人、2割が韓国人、残りがポルトガル人でほぼ占拠されていたからだ。さすがにスタジアム周辺ともなればワールドカップモード全開である。店内ではそれぞれの国のユニフォームを着た老若男女が、韓国戦のテレビ中継を食い入るように観ていた。ちなみにこの時、すでにアメリカが先制していて韓国に1点のリード。
 基本的に韓国の飲食店では席に着くと、通しとして数種類のキムチがサービスで出てくる。日本に行ったことのある韓国人に言わせれば、キムチ単品でしっかりと金を取る日本の焼肉屋は「ボッタクリ」なのだそうだ。ここではタダ。食べきるとおかわりが出てくるほどである。珍しいキムチばかりなので、好奇心の赴くままに食べているとそれだけでもうお腹がふくれてしまう。初めての人は注意しなければならない。これ、本日の教訓なり。石焼ビビンパはボリュームがあるが、色々な具が入っていて非常に美味しい。しかし満腹。しばし格闘。

残してはイカンと、汗をぬぐいながら一生懸命食べている最中に、韓国のオバサンパーマ選手・安貞桓が同点ゴールを決めた。もちろん店内の韓国人は大爆発。先日こっぴどくやられたポーランド人はすかさずブーイングで返す。ラッパやら太鼓やらが店内で鳴り響き、もはやただのドンチャン騒ぎと化している真っ只中で、周囲に目も暮れず必死にビビンパをほおばっている日本人。かすかに頭の中で声がした。
「ようこそ、ワールドカップの世界へ!」

国旗の右下あたりのブロック一帯は全てポーランド人。記念すべきワールドカップ初戦の天候は、予報どおりの雨模様。頭上の屋根を叩く雨音と会場のざわめきがそれとなく醸し出す淡い緊張感の中、まず最初にピッチに姿を現したのはポーランドのデュデクだ。途端に上がる大歓声。リバプールの正ゴールキーパーでもある彼にひときわ大きな声援を送るのが、例のビビンパ店にいたポーランド人御一行様だ。実力的にはポルトガルの方が上だろうが、サポーターの数は文句無しにポーランドの圧勝である。その声援は、ウォーミングアップが終わった後の選手紹介で、エマニュエル・オリサデベが紹介された時に最高潮となった。このナイジェリアから帰化した「東欧の黒豹」は、今大会の注目選手の一人である。会場全体での「OLI(オリサデベのこと)」コール、「POLSKA(ポルスカ:ポーランドの意)」コールを聞いているだけで、もう震えが止まらなくなってきた。というよりも、屋根付きなのにもかかわらず容赦なく吹き込んでくる雨のおかげで、寒くて震えがどうにも止まらないのだ。ここの設計、欠陥ではないのか?

キックオフから試合序盤は、互いに様子見の格好。ポルトガルは中盤の守備で上手にポーランドをつぶしていて、オリサデベに対してはフェルナンド・コウトとジョルジェ・コスタの両ストッパーがしっかりと対応している。流れは次第にポルトガルへ傾いてゆく。
 ポルトガルの先制点はまもなく生まれた。ポーランド守備陣の裏に出されたロングボールを受けたパウレタが、左サイドでひとりを交わして右足でシュート。フランスリーグで頭角を現したポルトガルのストライカーによって、試合の均衡は破られた。この試合に負けてしまうとグループリーグ敗退が早々に決まってしまうポーランドは、大声援にも後押しされて攻めに出る。サイドに起点を作って、そこから前線の長身選手にクロスボールを送ろうという作戦だ。ところがクロスボールの精度が悪く、なかなかゴール前でチャンスを作ることが出来ない。前半はそのまま終了した。
 後半に入って間もなく、ポルトガルはカウンターのシーンで右サイドのルイス・フィーゴにボールが渡った。ベッカムと並んで世界一の右サイドとまで評されるこの男により、それまでのポーランドの攻撃をあざ笑うかのような正確なクロスが放たれる。グラウンダーでパウレタの足元に収まったボールは、次の瞬間にはゴールの中へ。2−0。もう後がないポーランドはリスクを犯さざるを得なくなってしまった。半ば守備を捨てて果敢に攻めに出るのだが、試合巧者の相手によって逆にカウンターで2失点を喫してしまう。ポルトガルは、パウレタのハットトリックと途中出場のルイ・コスタによる得点で4−0の完勝。中盤の手堅い守備と小刻みなボール回しで終始ポーランドを圧倒した。これがポルトガルのサッカーである。逆に、ポーランドは攻撃に幅がなかった。中央で組み立てられないときに、ロングボールを使用するという方法もあっただろうがそれをせず、サイドからの組み立てにこだわりすぎた。ボールが来なければオリサデベもただの人だ。
 そして最後に、フィーゴはさすがにうまかった。怪我の影響もあってかベストの調子からは程遠かったが、それでも雨の中での素晴らしいボールコントロールやパスの数々を披露。彼を観るだけでも韓国まで来た甲斐があった。

試合が終わったのは夜の10時頃。ここは全州、ホテルはソウル。そう、すっかり忘れていたが、これから4時間かけて引き返さねばならないのだ。雨後に立ちこめたひどい濃霧の中、高速道路を引き返す。さすがに帰りの車内は、心地良い睡眠時間になっていた。
 2時間ほど走ったところで、往路と同様にサービスエリアで休憩を入れたのだが、バスを降りる際にどこか運転手の様子がおかしいことに気付く。やけに眠そうだ。大丈夫だろうかと思いきや、実はさっきまで本当にウトウトしていてかなり危なかったらしい。夜も12時を回っているとはいえ、これにはたまげた。バスを運転しながら普通にウトウトしてしまうのが韓国人気質なのか、それを乗客にあっさり白状してしまうのが韓国人気質なのかは知る由もないが、あやうく見知らぬ半島の地で果てるところであった。おそらく今日いちばん震えた瞬間だ。ポーランドの大声援なんてどこへやらだ。
 おかげさまで寝起きだった頭も一瞬で冴え、小腹を少し満たそうとそのままサービスエリアの建物に向かったのだが、建物に入った瞬間に再び仰天することに。レジのお姉ちゃんが立ったまま爆睡していたのだ。今なら万引きしたい放題。それくらいの爆睡。もはや「ガン寝」という言い方のほうが相応しいかもしれない。直立不動の彼女を前にして、ひとつの結論が出た。
「韓国人、夜に弱すぎ。」
 その後バスの中ではついに眠れず、ソウルに着いたのは夜中の3時半。韓国人よりは幾分か夜に強いと思われた日本人もさすがに眠く、遅ればせながらベッドの上でようやく爆睡するのであった。