ロナン&エルワン・ブルレックのレ・チュイール、ペイサージュに関する2つの記事
文=川上典李子


ペイサージュを編みあげるデザイナー
『hhstyle.com 2006/2007』より

ロナン&エルワン・ブルレックのデザインには、詩心とインダストリアルの可能性の双方が宿っている。数年前、hhstyle.com店内で2人が自分たちの作品集に添えてくれたサインにも、そのことはしっかりと現われていた。兄のロナンが描いたのは植物の絵。ピンク色のつぼみが枝を彩る。一方、弟のブルレックは工場の絵を添えていたのだ。こうした2つの世界を結びつけながら、彼らは、脈々と息づく日常の生活のありかたといったものに、しっかりと目を向けている。
たとえばヴィトラのオフィスファニチュア「Joyn」は、一枚の大テーブルを複数で用いる仕組みだが、それはどこか大家族のテーブルのようにも感じられる。テーブルの一角である人は新聞を読み、有る人は夕食の下ごしらえをし、子どもたちのひとりは宿題をし、ひとりはノートに絵を描く。そんな風景だ。またパーティションや照明器具などを自由に付けられるこのシステムは、つぼみ、花、茎、葉などから成る植物のようにも見える。(オフィス用のこのJoynをもとに、彼らは後に「Joyn Table」もデザインしている。こちらは、オフィスからダイニングまで使用できるシンプルなものだ)
使う人が選択肢を付け加えられる家具としては、アタッチメントのランプやトレーが用意されたソファ『Late』も同様だ。鮮やかな色のパーツで構成される棚『Self』もしかり。フランス語で「海草」を名に持つ『Algue』も自由自在にモジュールを組み立てられる彼ららしいデザインで、その結果、私たちは美しい影さえ手に入れることができるのだ。
ロナンとエルワンは、色や塗装の仕上がりにも人一倍神経を注いでいる。彼らにとって家具の仕上がりは、物の「肌」をデザインすること、なのだという。2001年に東京のMDSギャラリーで行なわれた二人の個展の際には、クルマの塗装がいかに美しいのかを語ってくれたが、『Metal Side Table』も自動車用塗料にインスピレーションを得ているという。彼らの飽くなき探究心を物語る一例である。
2006年、澄んだ光に包まれた初夏のストックホルムを訪ねた際、ブルレック兄弟が内装を手がけたクヴァドラ社のショールームを訪れてみた。「瓦(レ・チュイール)」と二人が呼ぶ色とりどりの布地パネルを5,000枚以上連ねてつくられた壁がつくられ、点描画による美しい風景のように見えたからだ。この瓦パネルの芯材は高密度の発泡素材。表面素材はウールやポリエステル。布地を芯材に貼付け、高熱圧縮が施されることで強化される。空間の音質を変える役割も備えるという、機能面もきちんと考えられている。
彼らと再び話をしてみると、「ペイサージュ」という単語が何度もでてきた。彼らは家具や空間のデザインを通して。「ペイサージュ(風景)」を創出している。それもただ自然を真似るのではない。大切なのは、「自然に備わったオープンな可能性」だと言う。「石や切り株はテーブルにもなる。樹木の下は昼寝に最適。自然のなかには、人が直感的に使いこなせる機能が潜んでいる。ペイサージュの果てしない可能性を、僕たちなり探求できればと考えている」と。
風景にも似た視線の広がりを描くと同時に、自由に使いこなすことのできる柔軟な機能やシステムを実現すること。生活に溶け込む家具によって、ブルレック兄弟は、心地よい空気をつくり続けているのである。(hhsytle.com発行の書籍のための原稿に一部加筆)


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Mudamにおける「レ・チュイール」
『SD』2006年号より 

2006年7月にルクセンブルク市内に誕生したMudam(Musee d'Art Moderne Grand-Duc Jean、ジャン大公近代美術館)でも、ロナン&エルワン・ブルレックは、ファブリックタイルを用いた空間を実現させている。
I.Mペイの設計による同美術館は、巨大なガラスルーフが特色的に設けられているが、ブルレック兄弟に依頼されたカフェ、レストランのコーナーでは、飲食のために滞在する人々のために、自然光を遮ることがひとつの課題でもあった。2人の解決策はまさに「空間内の小空間」だったのである。布瓦の小さな家、と彼らが述べるこのデザインでは、来館者の心理面に及ぼす効果も計算されており、パネルを青系統で統一しているのは、広がる空を表現してのことだ。ファブリック素材の「瓦」は吸音の役割も果たし、結果、空間に響く音を柔らかくする機能も持っている。
ここではまた、カフェ、レストランという場に対するブルレック兄弟の考えが強くある。食事をする場所としての機能はもちろん確保しながらもやってくる人々の目的は様々であるとして、つの大テーブルがデザインされたのである。「瓦」同様に、Mudam内のこの空間デザインにも変化のしくみが内包されている。
彼らは強調する。「建物の完成から5年、10年が経過し、空間を一新しようとするとき、簡単に変更できるしくみをつくりたい。他の仕事にも共通することだが、工業デザイナーである自分たちにとっては、デザインしたものが様々な環境で使われることが重要。さらに時の経過をふまえ、パーツを柔軟に組み替え、必要な機能を人々が手に入れられることが大切なのだ」
「組み立てる」手法における彼らのストラテジーは次の通りだ。
第一に、「適応性」。個々の空間に対応し、目的に応じたカスタマイズが可能であること。次に「オープンであること」。組み立ての構造は可能な限りシンプルにし、開かれた構造システムとすること。「人々が予め用意された工業製品で空間をつくろうとするとき、技術ではなく、機能にまず注がれるべき」というのが彼らの持論である。「自分に必要なものは何かを思考でき、色彩や構造に自由に考えを巡らせることができることが大切なのだ」。
かつてジャン・プルーヴェがコンストラクチュールとしてもののつくり方を探ってきたように、先人たちも時代時代の生活に適応しうる家具や建築のあり方を探ってきた。工業素材を組み立てるファブリケーションとは、未完の可能性を含む素材によって、各状況に適する環境デザインを目ざして、創造力を発揮できることでもある。そして現在、30代の若いデザイナーが、自由で汎用性のあるシステムにさらに色彩の自由ももたらし、より軽い素材であるファブリックを生かした現代的なしくみを探り続けている。

(鹿島出版会発行の建築専門誌、川上典李子が監修した特集記事より。「レ・チュイール」に関する部分を一部抜粋」


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