「Figaro Japon」アクチャリテ
シュタイナー&レンツリンガー インタビューより(一部加筆)

取材、文=川上典李子

旅好きの人は発見上手だ。行く先々の魅力を心の奥ですっとすくいとる。  
スイスのアーティスト、ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガーの作品にも、そうした旅の発見が素材として巧みに含まれている。

1967年生まれのゲルダ・シュタイナーと1964年生まれのヨルク・レンツリンガー。5年前から共同制作を始め、展示の場にじっくり滞在してつくるインスタレーションに取り組んでいる。2003年のヴェネツィア・ビエンナーレにはスイス代表として参加、教会の天井から様々なものを吊った作品で脚光を集めた。2004年4月、ワタリウムで幕をあ けた「エンプティ・ガーデン2」展にあわせて来日中の彼らに話を聞いた。

まずは作品について、ヨルクが語ってくれた。
「全体のストーリーもあるけれど、それぞれのものに出会った状況をふまえながら、バランスを考えて組み立てていく。あ らかじめイメージを固定してしまうのではなく、自由な心でね。日本古来の庭のつくり方も同じだと最近聞いて、興味を持っているんだ」。
新作インスタレーションの中心を成すのは、天井からモビールのように下がるオブジェだ。会場を訪れる人々の体温や呼吸で空気に流れが生じ、それによって作品が静かに動く。
「題名は、『くじらのバランス』。壁に映る影は海中のようでしょ?」。
そう言いながら、ゲルダが瞳を輝かせる。

思わず首をかしげてしまう不思議なものが含まれているのも彼らの作品の魅力のひとつだ。
「これはアフリカで見つけた鳥の巣、あれはスイスの庭にあった昆虫の死骸……でも日本に持参したのは旅行鞄ひとつ分だけ、他はすべて日本で手に入れたものばかりなの。富士山の近くに2週間滞在して、森を歩きながら集めた枝もあ るわ。100円ショップで買ったものもあるし、道ばたで拾ったゴミもある」(ゲルダ)。
「僕たちが興味を持っているのは、自然の世界と人工の世界とをいかに融合させられるのか、ということなんです。たとえば大都市の街は人工の世界かもしれない。けれども『第2の自然』と考えることもできるはず」(ヨルク)

正反対とされるものの接点を見いだし、異なるもののバランスを模索する行為は、違いを知る目とオープンな心があ れば不可能ではないのだ。世界が均衡を失ったまま動き続ける今、彼らの作品が教えてくれるものは少なくない。

そもそもふたりが「異なる世界に興味を持つ」相手にひかれていったのも、未知の国々への旅においてだった。
「インド、アジア、オーストラリアと一年半の旅をして、世界には様々な美しさが存在し、可能性も多様であ ることを体感したわ。同時に、私たちの共通点も見いだしていったの」(ゲルダ)

展覧会のための旅行も含め、現在も一年の半分は海外へ。残り半分を過ごすのはチューリッヒ郊外の自宅だ。
「美しい森があり、夏がくれば、澄んだ湖で泳ぎます。僕たちにとって、こうした日常生活と作品とは隔たりなくつながっている。作品制作は、眠ることやシャワーを浴びるのと同じ。この作品も、そうだな……ふたりで料理をつくるのを楽しんだようなものなんだ」

 
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