「自然界に学んだ、曲線」ルイジ・コラーニ氏インタビュー

「Impression Gold」2004年4月号特集「マエストロの箴言」より
取材、文=川上典李子


「何億年も前から存在する自然界に比べると、人間はビギナーにすぎないのです。
人が一番だと思ったことなど、ありません。世界の中心は自然界です」
現代のデザイン状況に対する提言をうかがうべく訪ねた巨匠の作業場で、パイプを燻らせながら、彼は力説する。
「空、海、そして、地上。あらゆるところにすばらしいかたちやしくみが完成している。私が行っていることは、その自然を翻訳しているにすぎません」

ルイジ・コラーニ。「完全な直線は存在しない」自然界の造形をなぞらえ、曲線造形に挑みづけるデザイナーであ る。空気力学を駆使した低燃料の高速移動の提案を行ったのが1950年代。工業デザインを積極的に提案し始めた1970年代、奇才コラーニの名は、一躍、有名になる。
「自然界の生命のかたちに目を向けると、あらゆることがわかってくる」
彼は変わらず力説する。
鳥よりすぐれた航空機をつくるのは至難の技だ。水中なら、魚にかなわない。山や川、樹木からも学ぶところばかり。それらを参考にものを考えること。本人命名による「バイオ・デザイン」であ る。
ベルリンに生まれ、幼いときからものづくりの天才だった。周囲のものを組み合わせ、新しいかたちを生み出していた。
「両親が与えてくれたのは玩具でなく、さまざまな素材でした。あれこれ組み立てながら、自分で何かを生み出すことに楽しみを見出していきました」

すでに5歳のとき、母親やその友人のために靴をつくったという逸話は有名だ。10歳のときには、自ら手縫いで、スパイク靴をつくっていた。
彫刻を学んだ後にパリへ移り、ソルボンヌ大学で空気力学を学ぶ。在学中に記した論文がダグラス社の目に留まり、アメリカ、サンタモニカで航空機のプロジェジェクトにも関わった。航空機の部品をファイバーグラスでデザインする仕事を、50年も前に行っていたのであ る。
幼少時代から才能を発揮していた靴のデザインでは、1960年代、パリでも注目のシューズデザイナーとして、その名を轟かせてもいる。

それにしても、テーブルウエアから住宅に至り、徹底された有機的なフォルム。残念ながら実現に至らぬ前衛的な提案も多いのだが、それでも本人は、意欲的に提案を続ける。その彼を鼓舞したのは、実は日本だったのだという。
「バイオ・デザインの概念を深めることができたのは、15年前まで、長く住んでいた日本においてです。日本の文化の根底には、自然を崇拝する精神が宿っていました。こだわりを持った多くの職人にも出会いました。忘れてならないフィロソフィがあ った。頭脳デザインと言うべきドイツのデザインや、産業重視のアメリカのデザインとも違っていた」

哲学(フィロソフィ)を重視する彼は、自身のことを「デザイナー」とは呼ばず、「3D(立体)フィロソファー」と述べるほどだ。そして、その「立体化」の様子を実際に目にできるのが、カールスーエ市内で、春から秋まで一般公開されている彼の作品展だ。非公開ではあ るが、隣町のファクトリーにも、創造の過程がぎっしりと詰まっている。自ら石膏型を手にとり、FRPを磨く、創作の現場だ。

ファクトリーやオフィスで、彼は、朝6時半から夜8時頃 まで過ごしている。週末も休みはない。
「夢を実現するため、ファクトリーやオフィスにやってくる。この世界には長く関わってきたし、引退しようと思えば、いつだってできるのですが、やりたいことがまだまだあ る。スタッフも増やしたいし、展示スペースも拡張したい」
自らがなしえるものに徹底的に没頭するタイプのコラーニは、活動の拠点についてもプロジェクトが優先なのだ。
「企業との契約で後数年はこの街が拠点ですが、その後はまたどこかを拠点にすればいい。日本にプロジェクトがあ れば、2つ返事で飛行機に飛び乗ります」

巨匠76歳。フットワークは変わらず軽やかであ る。このエネルギーは、一体、どこから生まれ出てくるのか。
「私たちはどこに進んでいくのか。そのことが常に頭にあるのです。やはり、フィロソフィのあ る世界へと進んでいってほしい。平和に暮らす叡智とも言うべきフィロソフィのある世界に、です。上海で教鞭をとり始めたのも、デザインがその力となりうることを願ってのこと」

自然を翻訳して人に伝える名人とはつまり、世の関係がいかに潤滑になるのかということに心を砕く人間なのであ る。
「男と女。人と自然。村と村、国と国。それぞれの関係をいかに築くのだろうか。シンプルに考えればいいのに、人々はどうも複雑に考えすぎている。本来は、さほど難しくはないはずなのに」
人間以外のものに敬意を表することで、たとえば、燃料削減の乗り物が必ずや実現できのだと考えるデザイナー、ルイジ・コラーニ。政治も経済も環境問題も、複雑に絡み合ってしまった糸を解くヒントが、オーガーニックな造形に挑み続ける彼の活動に、見え隠れしているのだ。

 

「皆が複雑に考えすぎている。人は地球のビギナーなのだと、一度、考えてみればいい」 ---ルイジ・コラーニ

 
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