2003年1月25日 
補遺 2003年8月 1日

毒キノコの話
<ドクタケで死なないために>

プロログ
 山野草を採りに行くのは大きな楽しみの一つです。でも、あまり夢中になって道に迷い遭難したり、谷に落ちたり、熊のエサになったりしないよう、装備と安全には十分に気をつけましょう。
 また、あなたが足を踏み入れたその場所は、もしかしたら個人の所有する山林かもしれません。特別な権利や資産があるところかもしれませんし、保護地区の指定がある場所かもしれません。世界中どこでも、陸でも空でも海でも、公私を問わず誰の権利もない空間などないのです。通常は縄張りなどをしていなくとも、あなたがそこに立ち入ることができるのは、持ち主のご厚意によるものに他なりません。
 そのことに思いを至し、決して非合法な行動を取ることのないよう心掛けましょう。特に、根こそぎ持っていってしまうような粗暴なことは、決してしないようにお願いします。動物や昆虫ですら、不毛になるまで草木を食い尽くすようなことはしないのです。そのような行為は、自分自身が自然の破壊者になって種の存続を危うくするようになってしまうことを知っているからです。
 今年は、メロンやスイカやサクランボやウメなど、他人の農園に侵入して大量に略奪して行くような事件が相次いで発生しました。ヤマユリも、もはや再生できないほど広範に、しかも球根だけを持ち去られてしまいました。このような、ギャングもどきの殺伐とした犯罪に彼らを走らせる罪悪感の欠如は、一体どこから来るのでしょう。山野草採りは、あくまであなたのリクリエイションの一つ。自然についての正しい知識と姿勢を持ち、山林やその持ち主に感謝しながら新しい発見を喜び合いたいものです。あなたのこころに感謝の気持ちがあれば、空き缶やゴミを残してくるようなこともないでしょうから。
 さて、もうすぐ秋――秋になったら、何といってもキノコ狩り。でも、山野草と同じように、ここでは毒を持つものを仕分ける眼力が不可欠です。悪いことに、猛毒を持つキノコほど食用のものに類似することです。必ずベテランに教わりながら、そして、判別に迷ったら触れないように、この鉄則を守りましょう。
 ちなみに、このページは、先に連載した小説『一途な証言』の『7』の末尾に添付した『ご参考』を基に、若干の手を加えたものです。しかしこのページは、あなたにドクタケを見分けるワザを伝授するためのものではありません。あくまでキノコ判別の間違った知識を正し、ドクタケの危険性を熟知して安易に食用にしないよう呼びかけるためのものです。
 なお、ここで示したドクタケの分類は、滋賀大学・横山和正先生の『理科教育講座(毒きのこData base)』を一部、参考にさせていただきました。また、死亡事故などの数値データは、今のところ至近年のものが手元にないので、少し古いことをお許しください。新しいものが手に入れば入れ替えますが、しかしこのページの主旨は、これらデータの新旧とは基本的に無関係であることもご理解ください。

1.毒タケ御三家を覚えよう
 厚生労働省によると、わが国におけるキノコ中毒事故発生件数はこの30年あまり大きな変化がなく、死者も毎年、平均2人くらい出る。例えば2000年で64件233人、うち1人が死亡した。キノコは秋だけのものではないが、事故の90%が9〜10月に集中する。自分で採ったキノコで軽い中毒を起こした場合は、体裁が悪いので保健所に届け出ない人が多いというから、実際数は更に大きいとみられている。
 現在、日本で見られる野生のキノコは約4,000種といわれるが、そのうち戸籍がはっきりしているのは2,000種ほど。最近は地方ごとのキノコ図鑑なども出版されているので名前も比較的調べやすくなったが依然として不明種が多く、また、2,000種全部の食毒性がわかっているわけでもない。キノコの同定はなかなか困難で、胞子を顕微鏡で見て判断しなければならない場合も少なくないらしい。つい先ごろ話題となって、とうとう『シイタケ』のラベルを貼られることで決着した『マツタケモドキ』も、こうして判別された。
 毒キノコは、細かく分類すると70種ほどで、うち一般の人が注意しなければならないのは約30種だが、『中毒御三家』を知っていれば事故の70%は防げるといわれる。
 先ず『中毒事故御三家』とは、誤食の多い順に、
  @ツキヨタケ                        40〜50%
  Aイッポンシメジ属(主にクサウラベニタケ、イッポンシメジ)20〜30%
  Bキシメジ属(主にカキシメジ、マツシメジ)     10〜20%
 そして『死亡事故御三家』に、
  @タマゴテングタケ属(特にシロタマゴテングタケ)60%
  Aコレラタケ(ドクアジロガサ)             30%
  Bニセクロハツ(ごく一部の地域に限られる)    10%
がある。ここの数字は、古いデータをわたしが適当に按分したもので、あまり信頼性はないが、信頼性の高低はこのページの主旨に大きな意味を持つ数字ではない。ただ傾向を知って、注意を喚起したい程度のものと思って欲しい。
 猛毒 ドクツルタケは『御三家』に入っていないが、元日本菌学会長を勤められた今関六也先生の『毒キノコ番付』ではシロタマゴテングタケとともに致命的毒性を持つ『横綱』にランクされていて、誤食の頻度も比較的高いとされる。ちなみに『張出横綱』にはコレラタケとニセクロハツが、『大関』にはドクササコがランクされている。『関脇』のツキヨタケ、『小結』のクサウラベニタケとイッポンシメジ、それに『張出小結』のカキシメジを加えたものは最も誤食頻度が高いとされ、まさに上記の『御三家』群と一致する。
 神奈川県内でも丹沢山系はキノコの宝庫で、400〜500種が知られ、うち20〜30種が毒キノコだという。話は古くなって恐縮だが、1958年9月、伊勢原市の64歳の男性がドクツルタケで死亡、1960年、厚木市では一命を取り止めるなど、年に2〜3件の中毒事故がある。他にもツキヨタケ、ニガクリタケ、キホウキタケなどが沢山見つかっている。
 横浜市内でも、ドクツルタケ、ニガクリタケ、クサウラベニタケ、カキシメジ、ツキヨタケなど数種類の毒キノコが発生する。ドクタケは、結構われらの身近にあるものなのだ。
 
2.キノコ毒と中毒症状
 キノコ毒の成分に関する研究は、ほんの一部を除いて十分に行なわれておらず、毒成分の不明なキノコは、まだまだ多いらしい。試薬などによる検定についても、方法が確立されていないという。
 主な中毒症状は、一つは腹痛、下痢、嘔吐など消化器系と、もう一つ、幻覚や精神錯乱など神経系を冒されるものがある。しかしながら、中毒症状は同じに見えても毒成分が同じとは限らない。そもそも、キノコ毒とは人間に対する毒性であるから、例えキノコに含まれる毒の成分を特定しても、多くの薬品開発のように、これを他の動物に与えて、その結果からヒトに対する影響を推定することは大変にむつかしいらしい。動物とヒトの代謝生理が同じとは限らないためで、例えば、キノコ中毒の典型的な症状である嘔吐をする動物はサルとブタ以外にはあまりみられず、小型動物ではカエルが嘔吐する唯一のもので、マウスは嘔吐中枢が欠損しているために試験に使えないという。ましてや臨床試験のように、人間に与えて毒性を確認することはできず、研究者自らが食べて試している例もあるらしい。
 症状が出るまでの潜伏期間は、先の小説『一途な証言』の中で憧子がいうように、毒性が強いほど一般に長い。下痢や嘔吐だけで済むようなものでは30分から2時間で症状が出るが、死亡するケースでは15時間程度で、一旦症状が出始めると脱水症状となり、衰弱してしまう。
 生死に関わるから、どんなキノコを食べたか、一刻も早く種類を正確に同定し、それぞれに応じた適切な処置を行うことが絶対に必要である。毒キノコに共通する『キノコ毒』というものはないからである。2日以内に適切な処置を施した場合は助かった例が多いという。
 中毒の完全な治療法はないが、吐・下剤の投与、胃内洗浄、かん腸などによって毒物を消化管から取り除いたり、血液の電解質バランスの確保、血液の人工透析、下痢による水分低下に対する水分の補給、血糖の低下にはブドウ糖の静脈注射、チオクト酸やビタミンCの注射などもある程度の効果がある。

3. 毒キノコ判別の迷信
 次のような俗説を信じることは危険である。
・塩漬けや干して乾燥させれば何でも食べられる
・茎が縦に裂けるものは食べられる
・ナメクジやハエがとまっていたり虫食いの跡があれば大丈夫
・色が鮮やかなものは毒、地味な色なら食べられる
・ナスと一緒に煮れば大丈夫
 死にたくなければ、どんなキノコでも、『つば』と『つぼ』のあるもの(右図)、また、傘の裏側の『ひだ』がピンク色や淡い肉色のものは絶対食べないと誓う方が安全である。もちろん、『つば』や『つぼ』があっても、中には食べられるものも少なくない。しかし、一番恐ろしいのは『知ったかぶり』と『このくらいなら』である。
 キノコ狩りは楽しい。発見の喜び、そして食べれば自然のものにしかない香りや味があって病み付きになる。しかし、外見だけでは見分けられないものも多く、ベテランでも時に間違うことがある。その大きな要因の一つは、発生の時期や成長が進むにつれて、キノコの形や大きさ、色などが変化することにある。おなじみのシイタケですら、自然のものは成長につれて外見が著しく変化し、しかも他に同じような食用キノコも多く、そしてドクタケもあって、判別は以外とむつかしいキノコの一つなのだ。だから、図鑑などのたった一枚の写真を片手に判断するようなことは非常に危険である。毒性番付『張出大関』のベニテングタケのように、時期が経つと赤い傘の表面にあったイボが落ちて、食用のタマゴタケのように見えるものもある。
 また、同じ時期、同じ場所に食用キノコと一緒に生えるものもある。小説『一途な証言』で憧子が殺害手段に使ったコレラタケとナラタケの例があるし、ツキヨタケはシイタケと一緒に枯木や倒木に生える。シイタケと違ってツキヨタケはブナにだけしか生えないが、同じ木に、色も形も似た食用のムキタケが混生する。ウラベニホテイシメジは美味であるが、この仲間には毒性の強いものが多く、クサウラベニタケやイッポンシメジは夏から秋にかけて、同じ頃、同じ林の中に生える。
 一方、最高の美味とされるホンシメジに似たシメジモドキもこれらの仲間であるが、ハルシメジの名のとおり4〜5月に庭先のサクラ、ウメ、モモ、ナシなどバラ科の植物の下に生えるので、こちらは間違えることはない。
 下に、不完全ではあるが『似たもの同士』を表にしてみた。安全なキノコ狩りのためには、最低、この程度の名は知っていてほしいものだ。毒キノコはもちろん、この他に沢山あるが、対応する類似食用キノコが見当たらないものは、この表に載っていない。
 どなたか、専門家が、この表をレビューしてくださると幸甚である
 
 


毒キノコ 食用キノコ
毒性   誤食頻度





 
ドクツルタケ
タマゴテングタケ
シロタマゴテングタケ
極多


シロツルタケ
 
コレラタケ ナラタケ
ニセクロハツ クロハツ
タマゴタケモドキ タマゴタケ




 
ドクササコ ホテイシメジ、カヤタケ
エノキタケ
テングタケ
ベニテングタケ

タマゴタケ、ガンタケ
ツキヨタケ 最多 シイタケ、ムキタケ
ニガクリタケ クリタケ
イッポンシメジ
クサウラベニタケ
極多
極多
ウラベニホテイシメジ
ハルシメジ(シメジモドキ)





 
ハナホウキタケ
キホウキタケ
コガネホウキタケ



ホウキタケ(ネズミタケ)
 
オオシロカラカサタケ
コカラカサタケ

カラカサタケ  
ニセショウロ ショウロ
 

4.毒タケのグループ分け
 次に、主として日本の毒キノコの中毒について、症状の激しい順に区分けしてみよう。
 
4.1 死亡する猛毒キノコ
 致命的な中毒を起こす猛毒キノコたちで、コレラのような激しい下痢と腹痛、嘔吐などから、心臓衰弱、瞳孔縮小、意識不明を併発する場合もあり、最悪、死亡する。ヒトの細胞膜など体内の膜が特異的に破壊されるため、それが血栓となって肝臓に多量の血液が急激に蓄積するなど、肝臓や腎臓に障害を与えるためという。キノコ中毒の中で最も危険なグループである。徴候が現れるまでに6時間以上、通常は10時間ほどかかる。
 このような猛毒キノコとして、ドクツルタケ、タマゴテングタケ、シロタマゴテングタケ、コレラタケ、ニセクロハツ、タマシロオニタケ、タマゴタケモドキ、コテングタケモドキ、フクロツルタケなどが知られる。わが国のキノコ中毒による死亡例は、ほとんどがこのグループのキノコによるとされるが、特にドクツルタケとシロタマゴテングタケはわが国に広く分布し、大部分の死亡事故がこのいずれかを食べたことによるという。両者はともにキノコ全体が白く、区別しにくいが、ドクツルタケは柄の表面に白い鱗片がある。
 このドクツルタケは『殺しの天使』の異名を持つほど死亡事故の多いドクタケである。夏から秋、特に広葉樹林の中に、6〜15センチほどの平たい傘で高さ8〜25センチの比較的大型の白いキノコが転々と生えているのを見付けたら、触らないことが無難である。なぜこれが『死亡事故御三家』に入らなかったのか、不思議である。
 先の小説『一途な証言』に出てきた『コレラタケ』(巻頭写真)は、以前はドクアジロガサと呼ばれ、コレラに似た激しい下痢による脱水症状を起こして、ときに死亡する。晩秋、エノキタケを栽培した使い古しの腐ったオガクズを捨てた場所に生えやすいため、長野県北部に多い。ごみ箱や朽ちた切り株などにも5〜10本ずつ束になって生える。傘は2〜5センチ、湿っているときは全体にくすんだ褐色で、乾くにつれて淡い黄茶色になる。柄は高さ5〜8センチ、太さ3〜5ミリで中空、淡い黄褐色かやや黒褐色をしていて、小型で味のよいナラタケに似る。
 致死量は、種類にもよるが、ドクツルタケやシロタマゴテングタケなどのテングタケ類、ニセクロハツなどの大型のキノコでは1〜2本といわれる。ある分析によれば、ある毒素成分の46%は『ひだ』に含まれており、『柄』の部分が23%、『傘』22%、『つぼ』9%であったという。
 
4.2 幻覚症状を起こす毒キノコ
 主に中枢神経系に作用し、食後15〜30分から酒に酔ったような興奮状態になり、精神錯乱、幻覚、視力障害などを起こすほか、吐き気を催すこともある。通常、1〜2本では生命に別状はないようだが、含まれる毒の成分の違いによって症状の内容が若干異なる二つのタイプがある。
 日本全国に広く分布するテングタケや、中部地方から北に分布するベニテングタケによる中毒は、筋肉の激しい痙攣や精神錯乱症状が強く出るが、食後の比較的早い段階で嘔吐すれば死亡することは比較的少ないらしい。大抵は4時間ほど興奮して大暴れした後、眠ってしまうことが多い。
 毒成分は大部分が傘の表皮に含まれ、症状は1本食べても出る。テングタケの方が、ベニテングタケよりやや症状が強い。ベニテングタケの致死量は10〜20本と推定されている。東北地方では昔からテングタケをハエ捕りに使うため、ハエトリモタシなどとも呼ばれている。同じようなキノコにハエトリシメジがあるが、食べすぎると悪酔いするといわれる。
 傘の表皮の色は、真っ赤なもの、オレンジのもの、黄色など、変種があるから注意が必要である。
 もう一つのグループはアイゾメシバフタケなどシビレタケの仲間で、幻覚を伴った中毒を起こす。前のグループに比べれば毒性はやや低く、死亡例は少ないらしい。
 以前、東北地方で相次いだヒカゲシビレタケなどによる中毒事故は、不快な酩酊感、幻覚などのほかに、しびれや瞳孔反射がなくなるなど視覚性の症状がで、最盛期は昏迷状態になったり錯乱状態を示す。中毒状態は4〜6時間続くが、死亡することは、まずないらしい。
 オオワライタケは、致命的というほどではないが、オドリタケとかオトコマイタケなどと呼ばれるように、中毒者は異常に興奮し、狂ったように踊り、笑い、歌うという。
 アオゾメヒカゲタケは熱帯性のキノコで、わが国では小笠原が知られている。バリ島やタイなどでリクリエイション的に使われているというが、外国で自分の判断でキノコを食べることは絶対にしないことである。
 そのほか同じような中毒症状を示すものに、オオシビレタケ、センボンサイギョウガサなどがある。
 少し変わったキノコにドクササコがある。主として竹薮に生える日本特産のキノコで、漏斗型の傘の表面と柄は茶色、ひだは白い。これを食べると手足の指先、ペニスなど身体の末端だけが赤く腫れて神経痛に似た痛みを生じる特異な紅痛症状が現れ、これがやがて焼け火箸を突き刺したような激痛となり、七転八倒の苦しみが1か月以上続くという。昔は冷たい清水に手足を浸して激しい痛みを我慢したというが、長期間水に手足を漬けるため、肉はふやけ骨が現れることがしばしばあり、老人や子供は死亡することもあったらしい。回復してもケロイド状態になるため、ヤケドキン(火傷菌)とも呼ばれる。特効薬はない。発症には4〜5日以上かかり、神経興奮もみられる。
 
4.3 胃腸障害を起こすキノコ
 主に胃腸を刺激して腹痛、下痢、嘔吐などの胃腸障害を引き起こす。食後30分〜3時間後に発症する。中毒症状は、種によって多少異なる。わが国のキノコ中毒の大部分は、先に紹介したように、ツキヨタケ、クサウラベニタケ、カキシメジの3種が占める。
 ツキヨタケとカキシメジは激しい腹痛と下痢、嘔吐を起こすが、クサウラベニタケは下痢が主体で腹痛はあまりない。ツキヨタケは主として山地のブナ帯の倒木に生え、傘の色はシイタケに似ているが柄を割ると基部に紫黒色のしみがあり、臭いも異なるので区別できる。また短い柄が傘の側方につき、ひだは発光する。
 クサウラベニタケのひだは、初めは白色であるが成熟するとピンク色になる。柄は細く、中空で折れやすい。傘は淡褐色でやや肉色を帯びる。
 ニガクリタケを食べると消化器系統が冒され、腹痛、下痢、嘔吐のほか、神経系統の麻痺による視力減退やしびれなどを併発し、重症では死亡例もある。枯れ木に生え、全体が硫黄色で、ひだは黄色ないしオリーブ色、後に紫褐色となる。ほとんど一年中群生する。肉は、噛めばひどい苦味があるので判別できる。
 オオワライタケも枯れ木に生え、全体が黄金色ないし褐橙黄色で苦味がある。幻覚幻聴を伴う強い興奮や狂騒状態は、前グループのシビレタケ類の症状に近い。
 わが国ではワカフサタケ属による中毒の例はこれまでにはないようだが、北米ではオオワカフサタケを生で食べると下痢や嘔吐、けいれんを伴う中毒を起こすことが報告されている。また、アカヒダワカフサタケにも神経障害系の致死毒性があるともいわれる。しかしワカフサタケ属のキノコは分類が困難で、まだ不明のものが多いから、食べないのが最善である。
 そのほか、マツシメジ、コガネホウキタケ、ハナホウキタケ、ドクベニタケ、ドクヤマドリ、オオシロカラカサタケ、ドクカラカサタケ、ニセショウロ類などがあるが、毒成分もまだ解明されてないものが多い。

4.4 悪酔い症状を起こす毒キノコ
 主に自律神経に作用する毒で、悪酔いや発汗をもたらす。発症が食後20分〜2時間程度と早いのが特徴で、二つのタイプがある。
 一つはヒトヨタケやホテイシメジなどで、酒を飲む前後にこれらを食べると、顔や首、胸が紅潮し、不快感、激しい頭痛、めまい、嘔吐、呼吸困難などで苦しむことになる。この種のキノコに含まれるコプリンという毒成分がアルコールの分解を阻害して血液内にアセトアルデヒドを蓄積させるためだそうで、特別に処置は必要としないが、これらのキノコを食べる前後の数日間はアルコール類を飲まないことである。
 ヒトヨタケ(一夜茸)は、ワラなどの有機物を入れた庭や畑の土などに、夜間、一気に成長し、明け方には溶けてしまうので、こう呼ばれる。ヒトヨタケ属には多くの種類があるが、その中でヒトヨタケは比較的大型のキノコなので、わかりやすい。
 酒さえ飲まなければ一般には食用とされるホテイシメジは全体の形が漏斗状で傘は灰褐色、ブナ林やカラマツ林に多い。同じくウラベニホテイシメジも歯切れのよい美味のキノコであるが、この仲間は有毒なものが多く、また同じ時期に同じ林に生えるので、よほどの自信がない限り、できれば採らない方が無難である。
 一方、発汗中毒を起こす毒キノコにはアセタケ類とカヤタケ類がある。ともに比較的小型のキノコで、国内に非常に多くの種が知られている。食後15〜30分以内に発症し、唾液と汗が増加し、続いて嘔吐、下痢などの症状が現れるほか、瞳孔の縮小による視力障害、不規則な脈、血圧低下、ぜんそくのような呼吸、更に、ひどい場合は心臓麻痺、あるいは呼吸が弱まり、死亡することもあるらしい。
 分類が大変困難な仲間で、選別がむつかしいから、いずれの種も警戒した方が無難であろう。

5.毒タケを食べる
 先に述べた『迷信』には反するが、生で食べると致命的な中毒を起こすものの、よく料理したり塩漬けや乾燥すれば食べられる毒キノコも、実はある。
 例えば張出大関級のドクタケであるテングタケやベニテングタケでも、水や塩水に晒して表皮を剥げば大変に味がいいものらしい。ベニテングタケは、長野県菅平などで、乾燥したものを調味料にしていると聞く。シベリアやインド、中米などでは、古くから宗教儀式などに利用されていた記録があるという。
 シャグマアミガサタケも調理して食用に供せられるが、欧州では、料理中に、立ちのぼる湯気を吸い込んで料理人が中毒し倒れた例があるというからご注意のほどを。また、この乾燥キノコを食べて、時に中毒することがあるらしい。
 その他、ドクベニタケ、ヒダハタケ、ガンタケなどもこのような例である。
 非常に強い辛みを持ち、胃腸の粘膜に炎症を起こすヒメチチタケやクロチチタケなどチチタケの仲間も、水で晒したり、カラハツやトビチャチチタケなどは水に晒した後、油で揚げたりすると食べられるようだ。
 毒の成分の中には、加熱によって破壊されたり、乾燥や貯蔵、水洗などによって毒がある程度失われたり消えたりする場合があるらしい。毒素の中でも、イボテン酸のような比較的不安定な化合物は、乾燥などによって毒性が失われるという。
 いずれにしても、あらゆる毒タケが乾燥したり料理すれば中毒を避けられるわけではない。このことは絶対に銘記しておくことである。また、ドクツルタケやシロタマゴテングタケのような横綱級の猛毒を持つものは、煮ても焼いても食えない。

6.食用キノコでも中毒する
 最後に、食用キノコの注意事項にも触れておこう。
 先ず、食用キノコであっても腐敗したものは有毒となるから、新鮮なものだけを食べることだ。例えば古くなって腐り始めたマツタケを食べると、20〜30分後から胸がむかつき、激しい嘔吐を伴う中毒症状を起こす。しかし、嘔吐すると治るものらしい。普通、腹痛や下痢、発熱は伴わないようだ。
 シイタケについては、採取後にかゆ味を伴った皮膚炎を起こしたり、胞子を多量に吸い込むと喘息のようなアレルギー症状が出ることが知られている。また、焼いて食べて赤い発疹が出ることもあるらしい。
 胞子を吸ったことによると思われる中毒ではナメコの例もある。その他のキノコについても、密閉されたビニールハウスや栽培室内で栽培キノコの胞子を多量に吸い込むことは避けた方がいいようだ。
 小説『一途な証言』に出るナラタケはキノコ狩りの入門キノコといわれ、地方によってアシナガ、サワモタシ、ハリガネタケなどと呼ばれる。シメジ科だけあって味に申し分はないが、柄の部分は消化が悪く、食べ過ぎると消化不良を起こす。一緒に生える猛毒 コレラタケには、くれぐれもご用心を。
 一般には食用に分類され、歯切れよく味もよいウスタケ(ラッパタケ)やフジウスタケも、1979年の長野県など、時に腹痛や下痢、嘔吐を伴う中毒者が出ることがある。調理では表皮を取り除き、十分に煮こぼすか油で炒めるのがいいらしい。
 いずれにせよ、採ってきたキノコは、その日のうちに処分しよう。ベニタケやイグチの仲間は一晩で虫が発生して食べられなくなるし、腐ったキノコは有毒と考えた方がいい。たくさん採って食べきれない場合は、キノコを水洗いし、軽くゆでてからザルで十分に水を切り、漬物のように塩漬けにしておくとよい。調理の際は十分に塩出してから使う。こうすると、ウラベニホテイシメジなどでは苦みが消えて、かえって美味しくなる。乾燥すると風味が増すことは、シイタケの例で理解できる。

エピログ
 小説の中で憧子がいっているように、キノコは採りたてを炭火で焼き、スダチやレモンを搾って醤油で食べるのがイチバンだと、わたしは信じています。しかし最近は人工的に工場で栽培されたものがほとんどで、香りも、歯触りも、味も、皆同じになってしまったことは残念です。それだけに、自然の山野で採れた山菜やキノコは個性を保っているので、その味はまた、格別のものです。
 しかし、そこには『毒』という大きなリスクがあります。繰り返し申しますが、このページの主旨は生半可の知識でキノコを採ったり、素人がフグを調理するように、
「ナーニ、平気さ。滅多に中るものじゃないよ」
と、何となく脳天気でキノコを食べたりしてしまうことに対して警告するためのものです。このページの知識だけで毒タケを見分けることは、絶対にできません。素人の山野草採りは、そんなに安直なことでは危険です。是非ともそのことを認識したうえで、自然を満喫して欲しいものです。

Top Pageに戻る