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2013年9月1日
今月の花(28)
9月の花――タマスダレ
プロログ
去年に続き今年も、連日の暑さと乾燥のためか、いろんな花が遅れました。その中で、フェンス際や玉ツゲの隙間でタマスダレがやっと咲きました。
ところで、このページは、ほぼ一年前の『つれづれ日記』の巻頭(日付は、そのページの月末)『つれづれの花』に載せた我が家の庭の花の話題を再編集したものです。この原本である『つれづれ日記』は、あくまで『日記』であって『花の章』とは性格が違うので、内容的に特性や栽培方法などについてはほとんど触れていなかったため、これに手入れの方法なども加筆してここ『花の章』に移し、充実することにしたものです。また、『つれづれ日記』は原則、6か月から最長11か月でネット上から削除することにしているため、折角の花の記事が失われて勿体ない、と頂戴したメールにも動かされた次第です。ただし、これまでのとおり、発行した過去(大抵は1年前)の『つれづれ日記』の記事を編集する形になりますので、重複する部分があることをお断りしておきます。
というわけで今回のページは、昨年2012年10月1日版『つれづれ日記』の中の『つれづれの花――9月』(2012年9月30日分)に掲載した『タマスダレ』に加筆、復活させたものです。

タマスダレの概要
タマスダレ。普通『玉簾』と書きますが、『珠簾』と書くこともあるようです。英名も『rain lily』といい、いずれも涼しげです。新エングラー体系ではヒガンバナ科(Amaryllidaceae)タマスダレ属(ゼフィランサス属:Zephyranthes)。種名はタマスダレ(Zephyranthes candida)です。ちなみに英名『レインリリー』というのは、雨の後に一斉に咲き始めることからだとか。日本でも別名を『夏水仙』といい、他人の名を借りたにしても涼しげで逸品ではありませんか。
属名のゼフィランテス(Zephyranthes)は、ギリシャ神話にある西風の神ゼフィロス(Zephyros)の名と花(anthos)を組み合わせたものだそうで、また種名のカンディダ(candida)は純白の意味。つまり、タマスダレの花色の基本は白花、ということでしょうか。最近では薄い黄色や薄いピンク、濃いピンクなどがあるそうですが、はて、わたしの好みには合わないようです。
流通では、この属名であるゼフィランサスを使っていることがあるようですが、これまでこのページで何度もいい続けたことですが、タマスダレ (玉簾)という優雅な名前を貰っていながら、今更なぜ安直に学名を使うのでしょう。カタカナで売れば新鮮味が出て客が付くとでも流通業者が思っているとすれば腹立たしい限りですが、買う側の勉強不足による責任もあるでしょう。
ところで、このタマスダレ。その名はご存じ、古来、歴史ある日本の伝統的大道芸の一つ「何が南京 玉簾」から出たという説が有力なようですが、はて、この花の姿からこの名を思い付いた御仁はどんなに豊かな感性と発想の持ち主だったのだろう、と感嘆します。しかし、『広辞苑』によれば、『玉簾』とは本来、玉で飾った簾(スダレ)あるいは簾の美称、とありますので、語源はこちらにある、と、わたしは考えます。花茎の先端に咲く白花を玉に見立て、線形の細い葉が茂っている様子が筒状に束ねた簾のようだ、という話には説得性があるので、初めは確かに『簾』を指していたのが、後日、その語感から転じて『南京玉簾』になってしまったと、わたしは考えるのです。現に、箱根湯本には『玉簾(たまだれ)神社』と『玉簾の瀧(たまだれのたき)』があり、日立にも同様にお寺や滝があります。どうみても南京玉簾の時代の方が新しいのです。御賛同、いただけたでしょうか。
ま、折角ですから、ここで話のついでに、『南京玉簾』をご存じない世代の人に少しばかり説明しておくと、江戸時代に始まった大道芸で、大道に立った演者が、長さ30cmばかりの(あるいはもっと長いかも知れない。実はわたし自身、実演を見たのは、遠い昔の子供時代、小学校の校庭にやってきたドサ周り芸人以外にないので)竹製の『簾(すだれ)』を両手で持ち、
「あ、さてぇ。あさてぇ。あ、さてさてさてさてぇ。さては南京玉すだれ」
と軽快なリズムに乗って謡い踊りながら、その簾を自在に操り、(浦島太郎の)釣竿から太鼓橋(瀬田の唐橋)へ、(おらが在所の)ご門から炭焼き小屋へ、また蕎麦屋の看板、鯉のぼりから東京タワーへ、天橋立から浮かぶ白帆へ、日米国旗からしだれ柳へ、また波打つ海、鳥、などに見立てた形に次々と連続的に変化させる芸です。簾を『伸ばす、返す、捻る』というたった三つの動作でこれらの形を作るもので『見立て芸』と呼ばれます。今では『日本南京玉すだれ協会』というものがあり、各地には保存会や同好会があって、全国に愛好家が2万人とも3万人あるとも聞きます。なぜ頭に『南京』という名が付いているのか知りませんが、全く日本オリジナルの『国産芸』といわれています。
さて、最近はつい、名前の話が長くなってしまう傾向がありますが、ま、これも花を見るときの一つの思い入れとして、ご容赦。名前の由来を考えるのも面白いではありませんか。ちなみに中国名では『葱蓮』というそうですが、確かに葉はニラやネギに似ていると思います。
そのタマスダレは、この季節、ヒガンバナ(彼岸花)と同じように道端や公園で白い6弁花を一茎に一花ずつ咲かせる半耐寒性常緑多年草(球根植物)です。ネット上で『春に咲く植物ですが秋にも帰り咲きします』という記事にも出会いましたが、それはいかがでしょう。当家では春に咲いたという記録がありません。『広辞苑』にも『晩夏』とあります。
原産地は南アメリカ、メキシコやペルー、西インド諸島などで、西半球に35種ほどあり、日本には明治の初めに伝わって、10種ほどが観賞用に栽培されているようです。しかし現在では各地で、しばしば野生化しているのが見受けられるようになりました。
冬の寒さにも強く、暖地では常緑で越冬します。環境の変化に強く、痩せた土地でも放置しておいてもよく増え、育てやすい植物で、花の寿命は短いのですが花壇の縁取りなどにも好適です。土質も特に選ばず、毎年球根を堀上げる必要も植え替える必要もありませんが、目覚ましく増え続ける、といったものでもなさそうです。
ところで、初めに述べたように、ヒガンバナ科に分類される、この清らかな純白の植物にも、鱗茎や葉にはリコリン(Lycorine)というアルカロイド成分が含まれています。誤って食べると嘔吐や痙攣などを起こすので気をつけましょう。
タマスダレの形態と特徴
扁平で細長い線状の葉は濃緑色で、地下の鱗茎から数本が筒状に土から直接出ています。しかし右の写真のように葉の数が少なく、これを簾(すだれ)と呼べるかどうかは、可成り主観の問題があるでしょう。7月から10月ごろ、束になったその葉の中を花茎が伸び、直径3〜5cmほどの6弁花を上向きに咲かせます。一本の花茎に咲く花は1個だけです。純白の花弁と均等に開いた雄蕊(おしべ)の黄色の配色が美しく個性的です。白い雌蕊は中央に一本、長く伸びます。左上の写真では見にくいので、よく確認して下さい。上方に伸びている白い線がそれです。花は夜になると閉じ、曇天の日は全開しません。
葉は花後も伸び続け、最終的な草丈は15〜30cmほどになります。右の写真に見られるように、花が咲いている間には、むしろ葉の方はあまり目立たないのです。この点ではサフランに似ています。それとも、昔のタマスダレは花の期間にも葉が茂り、『玉簾』に近い姿だったのでしょうか。
タマスダレの花には種子が付かない、ということを聞きましたが、当家では一応付きます。右の写真でも3個は見えます。しかし、これが完熟して落ち、自然発芽するようなことは、少なくとも当家では経験していません。
タマスダレの魅力は何といっても輝きのある純白の花弁ですが、薄黄や濃・淡のピンクなどがあります。
花言葉は『汚れなき愛』『純白な愛』『潔白な愛』『純潔の愛』『清純で純粋の愛』『期待』など、清楚な花の感じを表したものばかりです。
9月8日、9月13日、9月30日、10月23日の誕生花です。
タマスダレのニセモノ
キバナタマスダレ(黄花玉簾)という花があります。タマスダレにも黄色いものがありますから、くっきりとした印象的な花色は黄色いタマスダレと紛うほど似ていますが、同じヒガンバナ科でもステルンベルギア属(学名:Sternbergia lutea)と種が異なり、雌蕊や苞葉の形で区別できます。花期は、キバナタマスダレの方も秋9〜10月で、夏の終わりに咲くタマスダレよりも若干遅れる程度です。花はタマスダレ同様、花茎1に対して1個付けます。
トルコ、中央アジア、ギリシャ、小アジアなど地中海沿岸が原産地で、日本へは大正時代に渡来しています。
属名の Sternbergia は、19世紀のオーストラリアの植物学者 K.M.von Stemberg(シュテルンベルグ)に因んで名付けられたそうです。
タマスダレの手入れ
環境の変化に非常に強く、放置しておいても球根で増え、群生すると見栄えがします。花の寿命は短いですが、増えると次から次へと咲き続け、結構長期間楽しめます。
【入手】
球根を入手するのが正道でしょう。植え付けは3〜5月頃でもいいですが、いい球根を選ぶには秋の方がいいかもしれません。
【植え付け場所】
日当たりと水はけのよい場所を好みますが、耐陰性があるので半日ぐらい日光が当たるぐらいの半日陰でも育ちます。南米原産なので寒さに弱い感じがしますが、マイナス5度以上で育つ半耐寒性球根植物ですから冬の寒さには強く、暖地では常緑で越冬します。
【用土】
露地では土質は特に選びませんが、鉢植えの場合は赤玉土(中粒)6、腐葉土4程度で、特別に難しいものは必要ありません。
【植え付け・植え替え】
育てやすい植物で、4〜5年ぐらい経って球根が増え過ぎ、混んできて花の咲きが悪くなったと思うまでは放置して構いません。植え替えは3〜5月頃に葉を付けたまま分球し、植え広げます。露地では植え付け深さは2cmくらい、間隔は3〜5cmほど。腐葉土と堆肥などを混ぜ込んで植え付けます。
ただし、わたしはこれまで(何年経ったでしょう)一度も植え替えたことがありません。
鉢植えの場合は4号鉢(直径12cm)に5〜7球を目安とし、球根が隠れる程度に浅く植え付けます。
【水遣りと肥料】
露地では特に水の心配はありませんが、あまり雨が降らないようなら、他の植物と一緒に与えましょう。鉢植えでは鉢土の表面が乾けばたっぷりと与えますが、多湿を嫌うのでやり過ぎないよう注意します。葉が枯れて休眠に入ったら止めます。葉が枯れずに越冬するものには、通常の水遣りを続けます。
常緑性のため肥料を欲しがります。露地植えでは春と開花後に即効性の化成肥料などを、鉢植えでは緩効性の化成肥料などを春と開花後に与えます。ただし、量は株数によって変わりますから、やり過ぎないよう注意しましょう。2〜3球に一つまみ、といったところでしょうか。
【花後の作業】
秋、花が咲いた後は葉だけになり、更に伸びて姿が乱れますが、球根を太らせるためには葉を切らないようにしましょう。これは、どの球根植物にも共通のことです。
その他は、特別することはありません。
【殖やしたいときは】
分球して増やすのが一番です。時期は春3〜4月中旬頃か秋の花後に、葉を付けたまま分球して植え付けます。
【病害虫】
特別、気になるものはないようです。
【毒性】
昔は秋の田圃の畦に群生したりお墓を賑わせた、あの赤く燃えるヒガンバナ(彼岸花)。球根に毒があることは有名です。こちらも同じヒガンバナ科の仲間。この純白の清純な花にも毒が隠されていることをお忘れなく。
ノビルと間違いやすい葉や鱗茎にリコリン(Lycorine)というアルカロイド成分が含まれていて、食すると嘔吐、痙攣の症状を起こすので気を付けましょう。
ま、自分の庭に咲いている花を食べようという人は少ないと思いますが、何でも食べてみるという人もいるので、老婆心まで。
エピログ
この花には、特別な記憶がありません。わたしも妻も、買ってきたのか、どこからか頂戴したのか、全く記憶がないのです。だから――というわけではありませんが、花が咲いて初めて、「あ、咲いた」という程度で、申し訳なく思っています。
でも、植えっぱなしの中には、そうやって存在感を示すものも、中にはあるのです。花は、『咲いてナンボ』です。
人間と同じです。
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