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ナシのつぶて |
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明治の末のころ、稲葉郷の奥の烏というところに、広いナシ畑があった。白いナシの花が一面に咲くと、白雲がたなびいたような見事な眺めだったので、近在の人たちがナシの花見に集まるほどだった。それよりも、この農園のナシといえば、おいしいナシの代名詞になっているほどで、遠近の人々が毎年売り出される日を待ちかねていた。 さて、ある年、ナシの最盛期に入ったとき、暗くなってからその農園のそばを通るとナシのつぶてが飛んでくる、といううわさが町中に広がった。ナシのつぶてならば、受けとめて食べてしまえばよいのだが、どこから飛んでくるのかわからないのだから、そううまいわけにはいかなかった。おれもだ、わしもだ、という体験者が増えて、ナシのようなこぶを見せる人もあった。 被害者が出たとあっては捨ててもおけず、おまわりさんが調査に乗り出した。ふしぎなことに、おまわりさんにはつぶてのお見舞いはなかった。けっきょく、雲をつかむような話で、犯人をあげる方法がなかった。そして、だれもがおまわりさんではないのだから、つぶての活動は続いた。 ある年寄りが、これは何かのたたりだから、富士浅間さまにお願いして、悪魔退散の祈祷をしてもらうがよい、と言い出した。ほかに方法もなかったから、町内の代表が浅間さまに行き、ご利益のある祈祷をして下さい、と頼んだ。先達さまは、一度や二度の祈祷ではききめがあるまい、ひと月くらい続けなさい、と答えた。ナシ畑の主人とは知り合いだからひとごととは思えない、とも言った。こうして、ひと月がかりの祈祷が済んだとき、ナシのつぶてはあとを絶った。 「あれは、年を経た白狐のしわざであった。これで、キツネさまもナシのつぶ てになるだろう。」と、先達さまが言った。 |
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