臼打ちの翁

 冬の晴れた日に、社の広前で、白髪白髯の老人が大きな臼を彫っていた。すがすがしい木の香があたりにただよい、ちょうちょうと振りおろす鉈のひびきも。かたわらの清らかな池に遊ぶ水鳥を飛び立たせない。禅域は静かに明るかった。

 とつぜん、東の坂道から、美しいお姫さまが白い裳裾をみだし、領巾をなびかせながら走ってきた。老人を見かけると、転ぶように駆けよって、息も絶え絶えに、「悪いものに、追われております。どうぞ、お助け下さりませ。」

「言わでものこと。」

 老人は、かねて予期していたかのように、臼を逆さにして姫をその中に隠し、平然と臼の底を削っていた。姫を追いかけて来た悪ものが荒々しい語気でたずねたが、老人はおもむろに長い白髯をしごきながら、「わしは知らぬ。ここにおられるのは、神さまだけじゃよ。」

 悪ものは、老人の品位と威厳にうたれて、こそこそと立ち去った。

という伝説があって、この白ひげ3尺の老翁こそ白髭神社の神霊で、助けられたのはコノハナサクヤヒメということになっている。この神社は、出井(もとの桑村のうち)の白打というところにある。

 拝殿の前に、直径1メートルほどの泉があり、こんこんと、四季絶えることなく清水が湧き出ている。日照り続きのとき、近郷の農民たちは、青竹の筒を持ってきてこの泉の水をもらいうけ、一心にお祈りすると必ず雨が降った、と伝えられている。

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