2000.1.30

心の理論     


 他人の考えや感情を理解する能力はどのように成長していくのかという事に関する研究である。
近年、自閉症児者には相手の欲求、意図や信念等の心理的な状態を把握する認知能力に特異的な弱さがあるらしいということがわかって来たのだのだという。

 自閉症児者に特有の社会性の問題(社会的相互交渉の障害)は、他との相互的なやりとりのできなさだけでなく、その心理状態を把握する能力の弱さや、そこからも派生するだろう共感性の弱さにも起因しているということである。要するに、他人の視点に立ったり、感情移入たりして、その立場になって考える事が苦手だという言うことなのだろう。

 又、それまでの関係の文脈の中からの種々の情報を統合して、その意味を読みとると言ったことも困難であると言われる。行動の意味を理解したり、予測したりする事ができにくい訳であるから、結果的に社会性やコミュニケーションに何らかの問題が生じるだろうことは想像に難くない。これらの能力は、現実から切り離された抽象的思考の場面で必要とされる能力でもある。
因みに、心の理論を必要としないコミュニケーションへの参加は容易であるということである。

 ウタ・フリス(1989)は、自閉症者は「他者には自分とは独立なこころ(信念、考えや感情)」があるということの理解とその獲得が難しいと主張している。それは普通、4、5歳前後で獲得されるが、自閉症児では精神年齢にして10歳前後になることが、ハッペ(1995)等の種々の実験課題から実証的に明らかになっているようだ。(これについては、同じく実証的な検討からの批判もあり、今後のさらなる検討が必要とされているということではあるようだが。)

心の理論のテスト課題 

●サリーとアンのテスト(自閉症者は思いこみを理解できないことを示すテスト)

(内容)
サリーとアンの二人が部屋で遊んでいる。サリーは、自分のおはじきをかごの中に入れて部屋を出る。アンは、サリーが出ていった後、そのおはじきを自分の箱の中に隠す。
 「部屋に戻って来たサリーは、まず、どこをさがすでしょうか?」
というのが問題である。

(結果)
自閉症者の約80%は、サリーは事実を知らないから、最初にかごを開けてみるということが予測できずに、「アンの箱をさがす。」と答えたのだという。一方、精神年齢ではむしろ調査対象の自閉症者よりも低かったというダウン症候群の子供達の誤答は20%に過ぎなかったという。


● うさぎさんとおおかみさんテスト(自閉症者は妨害はできるが、うそはつ
 けないことを示すテスト)

(内容)
うさぎさんは友達で、おおかみさんはどろぼうだよと教えておく。友達を助けても良いが、どろぼうは助けないようにと指示をする。
・その1 妨害テスト
  鍵のかかる箱の中にはキャンディが入っている。おおかみが来たら鍵を
  かけて妨害し、うさぎが来たら鍵をかけないという発想がうかぶかどう
  か。
・その2 うそテスト
  鍵のかからない箱の中にキャンディが入っている。おおかみが「この箱
  には鍵がかかっているの?」と聞いたら「かかっているよ。」とうそをつ
  き、うさぎには「かかっていないよ」と伝えることができるかどうか。

(結果)
自閉症者は友達にキャンディをやるにはどうしたらいいのかは理解できる。また、どろぼうに対して妨害をすることはできるが、うそをつくことはで
きないという結果が出るのだそうだ。

ところで、前述のサリーとアンの課題は「AはBという信念を持つ」という他
者の表象の認知であるわけだが、さらに


●「AはBという信念をもつとCは考えている」という他者の表象に関する表
 象の認知という課題が次にある。

(内容)
 メアリーとジョンは公園にいた。ジョンはアイスクリームが欲しくなったが
 お金がなかった。アイスクーリム屋が
 「ずっと公園にいるから家からお金を持っておいで」
 と言ってくれたので、ジョンは家に帰った。しかし、アイスクリーム屋は気
 が変わって、メアリーに「公園で待つのはやめて教会へ行く。」と言ってそ
 こを立ち去った。ジョンは、たまたまおじさんに会って教会のところに移動
 することを教えてもらった。一方、メアリーはジョンの家に行き、ジョンはも
 うアイスクリームを買いに出かけたと知った。
 この時メアリーは、ジョンはどこへアイスクリームを買いに行ったと考えた
 だろうか。

(結果)
 正解は公園であるが、自閉症者は教会と答えてしまう。つまり、ジョンが
 どう思っているかについてのメアリーの誤解を認知できないという結果に
 なるそうだ。

 この水準の課題は普通、6〜7歳の子がクリアーできるものだ。
この「心の理論」の課題の通過は言語性 IQと強い相関関係はあるようで
はある。しかし、それを差し引いても、自閉症スペクトル障害の子には他の
同じ精神年齢の子とは、通過率においてやはり差が見られたということで
ある。

  ところで注目すべきことは、同じ自閉症スペクトル障害の中でもアスペルガーの場合は、これら「心の理論」を使う課題のほとんどを正解するのだという。理由は、「心の理論」の障害の質的、量的な違いであり、アスペルガーの人たちは、それを一般的な手順とは異なる方法で、時期的にも遅れながらも獲得そのものはしていくのだというように解釈されているようだ。(脳機能画像診断法を用いた神経心理学的な研究でも異なった戦略が用いられている可能性が示唆されているという事だ。)
  
  しかし、「心の理論」課題の通過が「心の理論」の獲得とは必ずしも同一ではないというのも一方の事実のようで、「心の理論」の課題はできても、それが即、実際的な生活の中での"問題行動"の軽減ということにはつながっていないと言うことでもあるらしい。
 
 辻井正次先生の調査では、「AはBという信念を持つ」という他者の表象の認知の問題がクリアーできる段階で、学校のルールが理解できなかったり周囲を無視してしまうといったたぐいの問題行動は激減したという。その反面、逆に他の心を推し測ることが可能になったがために、自分に対する批判 も読みとれるようにもなり、又、他と自分との違い、すなわち"風変わりな自分"にも気がついてしまい、そのための二次的な問題行動が却って増えてしまうという事もあるのだと言う。

 
  「心の理論」にかかわってのこんなエピソードもある。
自閉症児者は、それを使うことが苦手な為、言葉を文字通りに受け止めてしまう。例えば、食事の時に「Can you pass the salt?」とたのむと、「Yes.」と答えはするものの、食卓塩を取ってくれようとはしない。取ってもらいたければ、「Pass me the salt.」のようにダイレクトに言わなければならないというのだ。
同じような話しはLDの人の例にもある。
たばこの火をつけたくて、「ライターを持っていますか。」と聞くと、その人は、「ええ、持っていますよ」と言うだけで貸してはくれないという話は竹田契一先生が良く話される。
       < ギクッ、私もタショウなりとも、いやカナリ…そのケが…A^^;

 又、自閉症児者は、象徴遊び(ままごとやごっこあそび)が苦手である。これらの遊びの中には事象を概念化したり、現実とみせかけ、みせかけとつもり等の使い分けをする必要があり、それには「心の理論」を使う必要があるからでもあるらしい。

以上、
「心の理論」について私なりに色々調べてはみたのだが、いつもながら疑問や今後の課題がいくつか残った。

・ アスペルガーの場合は、「心の理論」の課題を通常とは違ったルートではあるがクリアーできるということは、自閉症スペクトルの他の障害もそのルートを辿って「心の理論」をクリアーしていく可能性があるということか?

・ 「心の理論」課題の通過が「心の理論」の獲得とは必ずしも同一ではないという事だが、少なくとも他者の表象の認知の問題がクリアーできる段階で、学校のルールが理解できなかったり周囲を無視してしまうといったたぐいの問題行動は激減するのなら、ロールプレイ等でその辺の直接的な指導をすることは有効だと考えてよいのか?
 
・ 二次的な問題行動、すなわち自己不全感が認められるようになったと言う事態、その場合の指導の内容こそ重要だと思われるが、それにはどのような指導を考えていけば良いのか?

・ここで本音と弱音をば、ちょこっとだけ・・ A^^;
 ふ〜〜、
 結論は、私には「心の理論」は、ようわからん・・。
                             < おいおい


お願い
  このページの文については、今までに参加した研究会、学習会、ウエブ上、杉山登志郎、辻井正次先生の著書等で学んだことを元に、私なりのまとめや現在の思いを綴っています。勉強のための作文です。思い違いなどご指摘頂けると有り難いです。

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