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▼沢のほたる▽和泉式部集 霧鼠本(巻一)▼




■ 巻一 ■


あらざらんこのよの外の思ひ出に今一たびのあふこともがな

私を許して、逢ってくださいますか・・・?

百人一首にある歌です。
誰に逢いたかったんでしょう?? 気になります。
自分は橘道貞さまであって欲しいなと思います。
やはり捨てきれなかった想いがあるような気がしてなりません。
「ダーリン。もう最期だから、何も言わずに聞いてちょうだいね。
あなたが好きよ。昔も、今も、これからもずっと。
それだけは知っておいてほしいの。
ごめんなさい。
あー。これでもう思い残すことはないわ!」
とまぁ、そんなところで。好き放題に創ってしまいました(笑)。
誰にせよ、和泉さまにこんな風に想われるなんて果報者です。

私はもうすぐ命果てるかもしれません。
この世での思い出に、もう一度あなたにお逢いしたい。



おもひきやありて忘れぬおのが身をきみがかたみになさむ物とは

この身体も思い出も、私だけのもの

心も身体も宮さまの思い出に染まっているんですね。
考えていたらすーっと涙がこぼれて泣けました。切ないです。
自分の体のちょっとした一部、
例えば風に吹かれた髪のひとすじ、ついと伸ばした白い指にも彼の魔法がかかっていて、
彼はあの時こうしていた、彼はそういえばこんなことをしていたっけ、
とかとか、感覚を伴って思い出してしまうわけです。
それは底なしに甘くて苦しい魔法です。もしこの魔法に色があるなら、もちろん「恋てふ色」!

思ってもみなかったわ。忘れることなくここにある、
この私自身の身があなたの形見になるなんてこと・・・



しら露も夢もこの世もまぼろしもたとへていへば久しかりけり

薄情な方ね。夢でも見ていたほうがマシだったみたい

コレは痛烈なイヤミ!? ・・・・・たとへていへばアナタよりマシ、みたいな(笑)。
逢いに来ない男を想って袖を濡らすというより、怒ってすねている和泉さまのイメージです。
それが微妙にセクシーで。
「私を捨ておくなんて、あとで後悔しても知らないわよ。ふふ・・・」
和泉さまのほうが一枚上手のようです。

白露も夢もこの世も幻も、
あなたとの短い逢瀬に比べてみれば、儚くなんて思えないわね。



くろかみのみだれもしらずうちふせばまづかきやりし人ぞ恋しき

優しくしないで。あなたに堕ちていく自分が恐くなるから

優しく髪をかきわけて彼女の耳を探り当て、甘く囁くのです。
「泣かないで。僕のいとしい姫君」
ま・た・は
涙に濡れた髪をかきわけ、彼女の顔を両手でそっと包み込みます。
「ほら。泣くなよ、な? その・・・どうしていいかわからなくなるだろう」

黒髪が乱れるのもかまわずうち伏している私を、
その髪を優しくかき撫でて下さったあなたが恋しい。



くらきよりくらき道にぞ入りぬべきはるかにてらせ山のはの月

私に必要なのは、太陽の恵みではなく、月の気高さ

先に行くほど暗くなる道。いつか月に辿り着くことを祈りながら歩む道。
和泉さまの足取りは、力強くもあり、か弱くもあり。
後戻りしようとは思わない。
それでも、ふと立ち止まってしまったとき見上げる先に白い月が在る。
「おまえのすべてを見守っていよう」
月は優しい微笑みで約束してくれる。
それがどんなに遠くて淡い光でも、「在る」ということが心の支えになるから。

冥い世の冥い道を進んでいく私です。
山の端の月のようなお上人さま、遙か遠くからでも私を照らして下さい。



よの中に恋てふ色はなけれどもふかく身にしむ物にぞありける

染められたい? 染まりたい? あなたの魔法の吐息に・・・

自分的には、「きみがかたみに〜」の布石の歌なのです。
こういう過程を経て、そういうことになる、みたいな。
しっとりとしたオトナの恋歌です。

恋ってものは、見えないのに形がありそうな気がします。
香りや色もありそうな気がします。気がするだけ。気のせいですけどネ。
その「気のせい」を現実にしたくて、目に見えるものに強引にこじつけちゃう。
例えば、手紙、日記、指輪、写真、花、・・・
何らかの「恋の証拠」がなければ満足できないわけで。
和泉さまの域には、まだまだ到達できない自分です。

世の中に恋という色はないのだけれど、
こんなにも深く身に染みる色なのよね・・・



春はただわが宿にのみ梅咲かばかれにし人も見にと来なまし

憶えていらっしゃるかしら? 梅の花の下、二人の時間を

ほころびかけた梅の花つぼみ。
その木肌に愛おしそうに指を滑らせる和泉さま。
小首を傾げて、ちょっぴり寂しそうに歌を詠みます。そして、
「あのお方には、この花がいちばん似合っていらっしゃった」と、ポツリ。
そこへ御文が届けられます。紅梅の折り枝に添えられて。
・・・そんなコテコテに甘ったるい情景を思い浮かべてしまいました。
ですが、このお歌、言ってること自体は小悪魔的。
「うちの梅だけ咲けばいーのよぉ。
花もあの方も独占しちゃえば問題ナシですもの」ってな(爆)。

春は我が家の庭にだけ梅の花が咲けばいいのに。
そうしたら、足の遠のいたあの方も見に来て下さるものね。



しのぶべき人なき身にはある折にあはれあはれと言ひやおかまし

生まれる時は一人。儚く消え逝く時はもっと一人

和泉式部さま、そんな風に思わないでください。
1000年の隔たりはあるけれど、
あなたのことを偲んでいる者がここにいますよ。

この気持ちを返歌にして素敵に詠めたらいいのに。
あーあ。自分に歌心がないのが悲しいカナ・・・。

私が死んでも偲んでくれる人なんていないもの。
だから、生きているうちに自分で自分をあわれんでおきましょ。



ものおもへば沢のほたるもわが身よりあくがれいづるたまかとぞ見る

この魂が蛍に生まれ変わるなら・・・

便りのない、あの方のもとへ飛んでいけるわ。驚くでしょうね、ふふっ。
夜、書物を読むあの方の、お手元を明るく照らして差し上げたい。
それとも、愛を囁く恋人達を、沢からそっと見守るのはどうかしら?
今は遠い地の、あの方のお袖の中に飛び込んで、そのまま隠れていられたら。

そして、高く高く、ずっと高く舞い飛んで、
天の空の遙かなる場所の、愛しい方のお側、とこしえに・・・・・

物思いをしていると、沢の蛍が私の魂のように見えるの。
この身からあくがれ出た魂のように・・・



あかざりしむかしのことをかきつくる硯の水は涙なりけり

瞳に溢れる涙。流れ落ちて、袖に、草紙に、硯に

このお歌には詞書がついています。
帥宮さまお形見の硯を欲しがる人がいて、
それを譲ってあげるときに詠んだ歌、ということです。
気前いいですね。自分ならグズグズ言い訳して手放さないと思います。
だって、その硯を前にして恋文を、恋歌を
したためて下さったかもしれないのに。
そんな大切なお品・・・。
うーん。心が狭いわ、自分ってヤツは。
和泉さまの帥宮さまを想う気持ちは、物質ではなく本質主義。
澄んだ清らかな涙で硯を満たしたことでしょう。

昔あったことを、あの方のことを書いている、
この硯の水は涙なのよ。




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