| 和泉式部集 霧鼠本 |
- ■巻一
- ● あらざらんこのよの外の思ひ出に今一たびのあふこともがな
- ● おもひきやありて忘れぬおのが身をきみがかたみになさむ物とは
- ● しら露も夢もこの世もまぼろしもたとへていへば久しかりけり
- ● くろかみのみだれもしらずうちふせばまづかきやりし人ぞ恋しき
- ● くらきよりくらき道にぞ入りぬべきはるかにてらせ山のはの月
- ● よの中に恋てふ色はなけれどもふかく身にしむ物にぞありける
- ● 春はただわが宿にのみ梅咲かばかれにし人も見にと来なまし
- ● しのぶべき人なき身にはある折にあはれあはれと言ひやおかまし
- ● ものおもへば沢のほたるもわが身よりあくがれいづるたまかとぞ見る
- ● あかざりしむかしのことをかきつくる硯の水は涙なりけり
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- ■巻二
- ● 夕暮れはものぞかなしき鐘の音あすも聞くべき身とも知らねば
- ● ながめつつことありがほにくらしてもかならず夢の見えばこそあらめ
- ● 岩つつじ折りてもぞ見るせこが着し紅染の衣に似たれば
- ● 枕だに知らねばいはじみしままに君語るなよ春の夜の夢
- ● ねざめする身をふきとほす風の音に昔は袖のよそにききけん
- ● ありとしもたのむべきかは世の中をしらするものはあさがほの花
- ● つれづれと空ぞみらるる思ふひと天降り来んものならなくに
- ● 語らひし声ぞ恋しきおもかげはありしそながらものもいはねば
- ● いたづらに身をぞ捨てつる人をおもふ心や深き谷となるらん
- ● 身よりかく涙はいかがながるべき海てふ海は潮やひぬらむ
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- ■巻三
- ● わりなくも慰めがたき心かな子こそは君が同じ事なれ
- ● 頼めたる人も無けれど秋の夜は月見で寝べき心地こそせね
- ● 竹の葉に霰降るなりさらさらに独りは寝べき心地こそせね
- ● 数ふれば年の残りもなかりけり老いぬるばかり悲しきはなし
- ● いかにしていかにこの世にあり経ばかしばしも物を思はざるべき
- ● 友さそふみなとの千鳥声澄みてこほりにさゆる明け方の月
- ● 越えもせむ越さずもあらん逢坂の関守ならぬ人なとがめそ
- ● 見えもせむ見もせん人を朝ごとに起きては向ふ鏡ともがな
- ● 身の憂きも人のつらきも知りぬるをこは誰が誰れを恋ふるなるらん
- ● 世の中にあやしきことはしかすがに思はぬ人を思ふなりけり
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- ■巻四
- ● ともかくも言はばなべてになりぬべし音に泣きてこそ見すべかりけれ
- ● 中空にひとり有明の月を見て残るくまなく身をぞ知りぬる
- ● 空見れば雨も降らぬに音ぞするただ月の漏る雫なりけり
- ● あはれ我が心にかなふ身なりせば二つ三つまで名はも見てまし
- ● 別れても同じ都に在りしかばいとこのたびの心地やはせし
- ● 何事も心にしめて忍ぶるにいかで涙のまづ知りにけん
- ● 思ひあらば今宵の空をとひてまし見えしは月の光なりけり
- ● なく虫のひとつ声にも聞こえぬは心々に物やかなしき
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