第72話 酒は薩摩か札幌か
今回のテーマは薩摩の芋焼酎と札幌のウイスキーの飲み比べである・・・というような事はない。ちょうど南と北の酒で語呂合わせが出来ただけである。薩摩は新婚旅行で行ったが芋焼酎は味わっていない。札幌は銀婚旅行で行き、こちらは地元のビールを充分に頂いて来た。ちょうど真ん中の我が家ではその季節になると奥三河の酒「蓬莱泉」が出る。やはりこれが一番さ。
その「さけ」とはいかなる意味なのか。どんな時に出来た言葉なのか。例えば古代のある日、果物が変に発酵しかけているのを見つけた者が「さけ!」と叫んだのかも知れない。もちろんそれは例えば「何だかわからんがいい匂いがするぞ」というような意味の古語なのであるが、まだ「その物体の名前」にはなっていない。
果汁を搾って放置し、上澄みと淀みが分離しはじめた時、驚いて叫んだ言葉が「さけ!」だったのかも知れない。その場合の意味は「神のお導きだ!」となる。大急ぎでお断りするが、これは例えばの話であって、「そんなバカな!」「こんな事初めて!」その他どんな発言でもよい。
もう少し後になると、その液体の効能がわかって来て、これを飲めば「憂さを忘れるぞ」「さけ!」と呼びかける者が現れるかも知れない。ただしその場合は、それ以前すでに別の名前が決っていたはずなので、この後「さけ」が優勢になって行き、前の言葉は死語になったか、どこかの地方に方言として残ったと説明しなければならない。「以前の別の名」とは例えば前記「神のお導きだ」その他である。
酒の原料は「米・麦・芋・果物・その他」いろいろある。それらの原料が最初に変化を起こしてから、いくつかの工程(自然または人為的)を経て液体となり、最後に呑んべえが酔いつぶれるまで、あらゆる場面で「さけ」と名が付く機会があるのだ。どんな瞬間に発言されたのかはまだ不明であるが、重要な事実は、その場に3人以上の人つまり「発言者・その相手・第三者」がいた事である。
発言者は「これを飲むと憂さを忘れるぞ」と言い、相手はその意味を理解してその液体を飲み、第三者(子供)はその言葉は液体の名を指すのだと思いこむのだ。その第三者から見れば、発言者が何を言おうと、それが液体の名であると思うはずである。3人の人物が必要だと書いたが、いきなり相手が誤解すれば、その相手が第三者レベルとなり、2人だけでその言葉は成立する。
もしその時、子供が年長であって「憂さを忘れるぞ」を理解出来たならば、彼は第二者と同等になり「液体の名=さけ」は成立しない。そしてその子供の弟か妹が第三者となって「液体の名=さけ」を成立させるまで、いくらか時間がかかるが、必ずどこかで成立するはずである。
最初の発言者が自分だけの納得で「液体=さけ」を使っても、相手は理解出来ないはずであるが、第三者には上記と同じ効果をもたらす。だが自分だけの納得で「何の意味もない音」を使って言葉を製造する事は不可能ではないが、言葉というものが出来始めた頃の古代社会で実行されたとは考えにくい。
「さけ」という名は50音図表からランダムに音を選択して会議で決定したわけではない。それ以前の何かが、その言葉の原材料となっているのだ。その例が「神のお導きだ」「憂さを忘れるぞ」などであると−仮に−したのであるが、考え方としては「般若湯」であっても「キチガイ水」であっても同じ事だ。
さてその「さけ」は前記原材料の変化から呑んべえ男が倒れるまでの、実際はどの時点で名付けられた、どんな意味の言葉であったのかが問題となるわけだが、このページの主張はその「さけ」という言葉自体に、その解答が隠されているとする。その手がかりは既に前回でも述べたように「さけ」を「SAKE」あるいは「THACE」などと記述し、その意味をローマ象形文字の意味に当てはめる事から得られて行くのだ。
SA さ 危険の終焉。 やがて事は終わる。 事は落ち着く所へ落ち着く。
THA さ 事は反復して成立。
KE け 情報不足の発生。
CE け 情報不足はカバーされる。 情報不足は覆われる。
日本語「さ」と「け」の表記に使えるローマ文字及びその意味は上記の通りである。これを組み合わせて得られる「さけ」は全部で4種類だけとなり、意味はそれぞれ下記のようになる。
1.SAKE 事はやがて終わり、情報不足が発生する。
2.SACE 事はやがて終わり、情報不足も解消する。
3.THAKE 事は反復して成立し、情報不足が発生する。
4.THACE 事は反復して成立し、情報不足も解消する。
実は日本語「さけ」には「A.酒」以外にも「B.鮭」「C.咲け」「D.裂け」「E.避け」「F.叫ぶ」などがある。このABCDEFそれぞれが、上記4種のどれかと組む権利を主張するはずである。何なら適当に分配してもよいとソシュールなら言うかも知れないがそうは問屋が卸さない。当然何かしらの関係はあり、古代社会において彼等(A−F)の権利は正しく行使されたと思われる。
ここで賢明なる読者諸兄にお薦めするが、ただちに以下の文章を伏せ、独自に組み合わせを考えて頂きたい。眉にツバ付けながらでもよろしい。
結果はいかがであろうか。話を続ける事にするが、まず「鮭」と「咲け」を見よう。これは明らかに「反復して成立」概念を持っている。鮭は毎年その季節になると同じ川に戻って産卵するが、その遡上風景は驚くに足るものだ。古代人はこれを目撃し「さけ!」と叫ぶ。当てはまるのは上記4「THACE=事は反復して成立し、情報不足も解消する。」である。もちろん「鮭の遡上がいつ始まるか」は古代の部落ではきわめて重要な情報であり、最初の鮭を発見した瞬間、情報不足は解消するのである。「B=4」という組み合わせが成立する事に異存はあるまい。
次ぎは「咲け」であるが、この現象が「毎年の反復」である事は誰でも知っている。咲く時期はどうか。毎年その時期の新聞には「桜の開花情報」が掲載されるが、古代ではもっと身近な自宅の庭に咲く桜が対象だ。いつ咲くのか、花びらが開いた瞬間に情報不足は解消する。その花「さくら」は当然「反復して成立」であるから「THA CU LA」となる。「CU」は「判断不能の解消」、「LA」は「導かれた事」である。つまり「さくら」は「これで例年通りだ!」という言葉なのである。「C=4」という組み合わせも成立する。
「裂け」はどうか。自然界でこれが起きるのは「乾燥した木材が裂ける」「落雷で樹木が裂ける」「岩の裂け目」「湖の氷が裂ける」「あかぎれで皮膚が裂ける」などであろうか。「絹を裂くような女の悲鳴」もある。だがこれらの現象には「反復」概念が感じられない。長野県の湖では毎年「御神渡り」と呼ばれる自然現象があるそうだが、あまりにも一地方の特殊な出来事であるから、これが起源だとは考えられない。
言葉というものは相手に向かって話しかけるものだから、この「裂け」の場合にも相手があるはずだ。しかも「裂け」現象は二人の目の前で起きている。もしこの場合に「裂け」が「あかぎれ」だったならば、「さ=危険はやがて終わるよ」「け=いつまでに治るとは断言できないが」という意味で「さけ!」という事は可能だ。もちろんその言葉は「あかぎれに生ミソをすり込む」というような古来の治療法(歌の文句だから真偽は不明だが)を施しながら話される。この時もし相手が幼児だった場合には、真の意味は理解されず「さけ=裂け」と誤解される。この例は「D=1」という組み合わせになる。
「避け」はどうであろうか。日本語「避け」は「危険を事前に察知して回避する事」である。「おーい、山が崩れるぞーっ」と叫んで被害を避けるような場面は古代でも現代でもあるはずだが、この例が「F.叫ぶ」であり「声は短く終わるが、情報不足は解消する」という意味だ。すなわち「F=2」の組み合わせである。「叫ぶ」という行為の主な目的は目前に迫った危険を「避ける」ためだ。
古代ではもう一つ「避け」行為が行われた。それは目の前で起きる災害に対してでなく、将来あるかも知れない災害に対応するものである。つまり「何らかの前兆」があった時、それを神の怒りと感じ、その怒りによる(かも知れない)災厄を避ける行為である。その場合の「避け」行為は「SA=危険を終焉させ」「CE=情報不足も解消させる」ためのもの、つまり「占い及びその結果に従う祭事」である。「E=2」の組み合わせとなる。
奈良に「酒船石」という遺跡があるが、これは水占いのための道具だ。すなわち「避け行為、避け活動」のための設備である。よってその正しい名は「さけふね石」としなければならない。この時「ふね」は「FUNE」となり「FU=判断不能の中断」「NE=情報の強調」つまり「疑いが晴れて全てがはっきりする」という意味になる。「災厄を避ける方法がわかる石」これが「さけふね石」なのだ。漢字「酒船」は当て字である。
酒
さて本題の「酒」であるが結局どの工程で呼ばれた名前なのか不明だ。しかし酒本来の役目、最大の効果・特徴は飲んだら「酔う・気分が高揚する」事である。他の食物・飲料でこれに匹敵するものは試してはいないが大麻くらいのものであろう。「さあ!一杯飲めば気分もスッキリするぞ!」と病人に薦める言葉が「さけ!」であるとすれば、それは「やがて危険は終わり、情報不足も解消する」つまり上記2の例に該当するはずだ。「情報不足の解消」とは「意識がはっきりする」事である。この場合「A=2」という組み合わせになる。
以上の解釈を加えて上記の表をもう一度書き直してみよう。
1.SAKE 事はやがて終わり、情報不足が発生する。 裂け。 酒?
2.SACE 事はやがて終わり、情報不足も解消する。 叫ぶ。 避け。 酒?
3.THAKE 事は反復して成立し、情報不足が発生する。 −−−−−−−
4.THACE 事は反復して成立し、情報不足も解消する。 鮭。 咲け。 酒?
「酒」が「4」の意味であった可能性もないとは言えない。つまり「何度やっても成功するようになった。ノウハウも充分得た」と発言した場合だ。招待した連中に酒を注いでまわりながら「さけ!」と叫んだのである。「得たノウハウに従って何度でも同じ品質の製品が出来るようになった」場合には、その製品が液体でなくても「さけ」と呼んでよいのだが、結局「醸造に成功した者が得た液体」だけが「酒」と呼ばれる事になったのである。他の者が作った液体が飲める代物ではなかった場合「これじゃ酒とは言えない!」と判定されるが、その言葉は比喩ではなく、起源の意味そのままなのである。「A=2」「A=4」どちらが真の起源なのか不明だが、読者諸兄の判断はいかがであろうか。
上記で「3」の実例が存在しないのは前半「THA」概念と後半「KE」概念が矛盾しているからである。このような場合「言葉」は成立しないのだ。成立した言葉には(成立しない言葉にも)すべて理由があり、そこには恣意性など全く存在しないのである。
その季節になると鮭が遡上し桜が咲き凍った湖の氷がとける。これは毎年繰り返す恒例の自然現象だが、「氷や雪がとける」を英語で「THAW」というのは、その言葉が上記「THA」概念に従っているからである。以下の英語はすべて同様の「反復成立」概念を持っている。
THAMES テームズ川。 毎年ある時期に洪水を起こす。
THAN ・・・に比べて。 前回、前々回との比較。前提に「反復」概念がある。
THANK 感謝。 度々の親切、その反復に対して起きる心の様相を言う。
THAT あれ。それ。 同じ事や物の名をいちいち反復する不便さを解消する単語。
THATCH 屋根葺き材料。 一枚一枚動作を反復して施工する。
THAW (氷などが)とける。 毎年繰り返す恒例の自然現象。「W」は「大量」概念を示す。
「酒」を「ささ」と呼ぶのは古い女言葉(女房詞)であるが、これは「酒」とは関係のない「さあ どうぞ!」という意味であろう。だがその「さあ」は明らかに「危険の終焉」つまり意訳すれば「まあカタイ話はやめて・・・」の意味となるから少なくとも「さ=SA」概念には違いない。
しかし「さあ もう一杯!」と言うと、その場合は「さ=THA」概念つまり「反復して成立=次々と杯をあける」を要求した言葉なのかも知れない。上記「3」の概念は存在しないと書いたが、もし「さあ、もっと何杯も飲んで、何もかも忘れようぜ」という意味なら「A=3」が成立する。ほんとはこれが正解なのかも知れない。「4」が成立する機会は酒造り創成期だけであるが、「3」の意味ならその後の日本国内で非常に多くの機会があったはずであるからだ。
再び「SA=さ」に戻るが、もし「ちょっと一杯呑めば、みんな忘れるさ」と酒を薦めた場合には「A=1」の概念となる。酒の効果を強調したこのような発言はよくある事だ。しかしこれでは一体どれがほんとの起源なのかわからない事になってしまうが、まあ「酒は何にでも効く」と解釈しておく事にし、これ以上の追求はやめておこう。
今回は季節には似合わない「酒」の話になってしまった。この暑さにビールは欠かせないが、毎夕350cc缶を妻と分けあって飲むのであるから安いものだ。だがその意味は上記「3」にきわめて近いのである。今日もバベルの塔に乾杯さ!