ボクのポケットは星でいっぱい
<公演データ> 【東京】 2005年5月19日(木)〜6月12日(日) シアターアプル 【神戸】 2005年6月18日(土)〜6月26日(日) 新神戸オリエンタル劇場
脚本・演出 : 成井豊 キャスト : カシオ 大内厚雄 先生 小川江利子 ヒデトシ 藤岡宏美 スギエ 岡田さつき クリコ 前田綾 アリマ 坂口理恵 タカスギ 多田直人 キド 温井摩耶 オオトモ教授 筒井俊作 ヤマノウエ 阿部丈二 ヌカダ 左東広之 課長 岡田達也
今のキャラメルのメッセージを持ち、その上にタイムトラベル、追っかけ、次々に場面が変わる展開、等々、キャラメルの原点(?…私が想像し得る限りの。初期は映像でしか知らないので)がふんだんに盛り込まれた作品。クライマックスでのゆっくりしっかりと見せる場面では、思いっきり泣かされて。わずか1時間とは思えない内容の濃さと質の高さ。ある人が「3時間分以上の」と言っていたけれど、まさしくその通り。もちろん『銀河旋律』『広くてすてきな宇宙じゃないか』の内容を踏まえた上でのことではあるのだけれど、それだから尚更、そこに流れている数十年分の人々の時間全てが、この作品を観ながら次々に浮かんできて、本当に一緒にその時間を過してきて、共有してきて、今ここにカシオと共に立っているかのような気がしてくる。
やはりこれを観るためには、前2作を観てこなければ(ネタだけでなく)分らないところが多いのではないかと思う。という私も劇場で観たのは『銀旋』2002年版のみ(Bキャストだけ)で、それ以前は映像、『広くて〜』も映像だけ、なのだが。それでも、あのカシオが…あのはるかが…あのサルマルが…という想いが浮かんでくる。
作品そのもののインパクトとしては、「おとなしめ」かもしれない。これが単品で出されたら、ただ単に母を求める少年(へたすればマザコン)の物語として見えるだけかもしれない。そこに『銀旋』(と『広くて〜』)の内容が絡むことで、大切な人を想い、守ろうとする様々な人たちの姿が見えてくる。辛い事実を受け止め、それを越えようとする少年とそんな彼を思いやる周りの人の気持ち。そこに時間が絡んでくることで、尚更そういう気持ちが大きな不変のものとして感じられる。舞台の中心に向かって、皆の気持ちがぎゅっと凝縮されていく。その切なさと温かさがたまらない。
椅子を使ったり、サッとその場から何人か居なくなる(今まで理由もなく場面から人が減るというのはあったっけ?)ことで場が転換していくのは、そのスマートさからも『SKIP』を思い出す。(今回の『広くて〜』にも同じように『SKIP』で用いた手法が見られた)。スピーディでリズミカルで皆の呼吸がピタリと合っているから美しい。
少年のカシオ(役名ではヒデトシ)と大人のカシオが一緒にタイムトラベルするシーンは、1999年版の『銀河旋律』で柿本光介がタイムトラベルしたときと同じ音楽で、同じようにシルエットでその時の流れ(遡り)が表現される。ここも何度も観た者にとっては、ぞくぞくするほど嬉しいシーン。これもある人の言葉だが、「父と子が時を越えて同じことをする、一人の女性(片や恋人、片や母親、そして実は同じ人物)を助けに行こうとするシーンだ」と。なるほど〜。だから同じ音楽で同じ場面でないといけないんだね。
大切な人を守りたいという想いは、誰しもが持っている。それを貫くことは一見正しいことのように見える。だが、そのために運命を、時の流れを変えようとすることは間違っている。イヤだからやり直すなどということは人の命にはない。死にゆく定めにある命を引きとめることはできない。死は死として受け止めなくてはならない。
これは「死」という傷口を持つ人にとってはその痛みをなおさら増すように感じられるかもしれない。ある意味冷たい。成井さんの「死」の扱い方だなと思う。そしてその上で、でも、と続く。
「死」は本当に終わりなのか。終わってしまうことは本当に哀しいことなのか。死んでしまう人は不幸なのか。
…そうじゃないよ。命が終わってしまうだけでは、人は無くならない。そこには家族や周囲の人たちとのかけがえのない時間がある。何物にも代えがたい大切な時間、想いがある。それこそ人が幸せに生きた証なのだ。
おセンチな気休めと笑われるかもしれない。子供を言いくるめる方便にも見えるかもしれない。でもそう想うことで、喪ってしまった人との思い出がひときわ輝いて、これから先を照らしてくれるように思える。いつも一緒に居るのだと思えてくる。…やっぱり相当センチメンタルかな。いやいやそれのどこが悪い。
「(母さんは)幸せだったんだと、俺は信じる」と大人のカシオが言うのに答えて、少年のカシオが言う「…そうかな…」。2度繰り返されるこの言葉、自分に言い聞かせるような一生懸命耐えている声がいじらしく可哀想で仕方が無い。号泣。この痛みを乗り越えて強くなっていかなくちゃならない。今はこらえろ、カシオ。
劇中、はるか先生が歌を歌う。はるかが子供たちに聞かせていた歌だ。『広くて〜』でこの歌を歌いながらおばあちゃんが登場するシーンがあって、「ビデオでは歌っていなかったな」と思っていたら、ここで出てきたのでびっくりした。なるほどそういうわけか〜。これは『広くて〜』を先に観ていたほうがより印象深いかもしれない。詞は宮沢賢治、曲・歌はZABADAKと来てはジーンと来ないわけがない。エリーの歌声が伸びていく。目の前に星座の世界が広がっていくようだ。
その同じ歌を、病院ではるかが歌う。弱々しい声。病気の進行を思わせる。それを聞いているカシオ2人。
サルマルの登場は、実はやっぱりという印象。成井さんは、この男が実はすごく好きなんだろうと勝手に勘ぐっている。柿本よりもサルマルの方が気持ちが分るのではないか。いずれにしろ、1999年版の『銀河旋律』が好きな人にとっては、キャスティングも含めて嬉しい再来だ。
でも、このサルマル、14年の間にすっかりキバがとれている。険しそうな顔はしているがその実、情に流されやすい浪花節男かもしれない。少年のカシオを見る目は、まるで父親のそれである。おそらく彼は、柿本とはるかが結婚した後も、ずっと柿本家を見守ってきたに違いない。3人の子供たちもあたかも自分の子供のように思えてきたのかもしれない。サルマルは理科の先生だったはず。カシオが星に興味を持つようになったのは、もしかしたら元の世界に帰ったあとサルマルに教えてもらったせいかも、などとどんどん想像が膨らんでいく。
ところで、2035年のサルマルは何をしていたのだろう。自分がカシオを追ってこの時代に来ることは分っていたのだから、過去からやってきた自分に何らかの形でコンタクトを取ったことは充分考えられる。大人のカシオだって過去から来る自分を待っていたのだから。未来のサルマルは、カシオの好きなようにさせて見守っていてやれ、とアドバイスしたのかもしれない。はるかがやがて死ぬことも。カシオとヌカダがタイムトラベルしてからサルマルが現れるまで4時間のタイムラグ、それぐらいのことをする余裕はあっただろう。そう考えてくると、登場人物の中でことの成り行きや全ての事情を知っているのは、大人のカシオとサルマルの2人だけ、ということになる。なんと、いい役ではないですか。
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藤岡さんは少年そのものに見えた。ヒデトシ、実はカシオ。この人の少年役は既におなじみだけど、今回ほど12歳の少年が似合うと思ったのは初めて。男の子の声を出してちょっと乱暴で子供っぽい仕草をすれば、一応は男の子には見えるだろうが、不自然な感じは残る。でも、この少年カシオは、形ではなく、気持ちがまず男の子のように見えた。作った感じが少しも無く、そこに男の子が居た。繊細ではあるが芯には意固地なくらいの強いものがある少年。客席に背中を向けて泣いている姿が胸に迫ってきた。背中で見せてくれる役者さんに弱いんです。
大人になったカシオ役大内さん。しっかりと少年のカシオを支える役。母親に逢いたいために利用したと言っているけれど、本音はやっぱり心配でたまらなかったからじゃないか。少年のカシオが歴史改変を起こさないように見守り、彼が母の死を受け入れられるように助けてやり、無事に元の時代に送り返すことを自分の努めだと思っている。まるで本当のカシオの兄のようだ。『TRUTH』の時も思ったけれど、何だか本当に立っているだけで絵になる人だなぁ。素直にかっこいい。
はるかの病院に訪ねていくシーン。陰からそっと母を見る。その目が子供の頃に戻っているようで、一心で切ない。その一方、少年カシオの肩をしっかり抱いて支えてやることも忘れない。全体の中でも、特に好きな場面だ。
本当に『広くて〜』のカツラがそのまま大きくなったようなキド。温井さんのはじけっぷりがいい。はちゃめちゃで元気いっぱいであんまり考え深くは無いけれど、その底抜けの明るさで好かれていくタイプ。しんみりしたり険しくなったりしそうなところを、この人のかっとびぶりがそらしてくれるような。笑わせるタイミングが上手い!坂口さん、ももこさんに次ぐ「おもしろ」どころになるか?
はるか先生。最初のうちはその存在は謎なのに、少年のカシオを見る目はどこまでも優しい。
後で分かったことだが、これがエリーのキャラメルでの最後の舞台になった。
キラキラと輝いているはるか先生。優しくて可愛くて強くてけなげな。もっともっともっとこういう役を観たかった。
<観劇データ> シアターアプル 1) 日時: 2005年5月25日(水)16時 席 : 2列14番 2) 日時: 2005年6月1日(水)14時 席 : 9列15番 3) 日時: 2005年6月8日(水)16時 席 : 5列14番 4) 日時: 2005年6月11日(土)14時 席 : 3列2番 5) 日時: 2005年6月12日(日)16時 千秋楽 席 : B列5番(通路席)