裏切り御免!
<公演データ> 【神戸】 2002年11月6日(水)〜11月18日(月) 新神戸オリエンタル劇場 【東京】 2002年11月23日(土)〜12月25日(水) サンシャイン劇場
作 : 成井豊+真柴あずき 演出 : 成井豊+真柴あずき キャスト : 立川迅助 細見大輔 坂本竜馬 岡田達也 奥村大治郎 大内厚雄 笠原進八 菅野良一 須田幹兵衛 畑中智行 荒井藤太 三浦剛 美里 red:温井摩耶 green:小川江利子 るい 岡田さつき 升三 red:佐藤仁志 green:筒井俊作 もん 坂口理恵 梅 大森美紀子 ゆきの 前田綾 あやの red:岡内美喜子 green:實川貴美子 三吉 red:筒井俊作 green:佐藤仁志 山崎烝 西川浩幸
ひとことレビュー:誠実に想いを走り続ける男に拍手!
*開演まで* 今回はキャラメルとしては珍しく、主役のキャストがわかっている。「風を継ぐ者」で駆け抜けた男立川迅助の話。迅助が坂本竜馬に出会うところから始まるという。
迅助は「風〜」に引き続き細見大輔さん、竜馬は「また逢おうと竜馬は言った」以来の岡田達也さん。現在のところこの2役はこの人たちしか居ないだろう。劇団の人気男優の座を分けていると言ってもよいこの2人が主役なのだから、そりゃあ期待も高まろうというもの。しかも男ががんばる時代劇だ。
新作とはいえ、ある程度ベースの出来ている今回は、観るほうもそれなりに予備知識をもっているし、クリスマス公演でもあるし、6回も公演を行った2002年の締めくくりということでも有るし、観て楽しいものになっているのではないか。
これは既にシアターTVで東京初日が放送されているのだが、新作ということで、録画だけしてまだ観ていない。劇場での最初の感触を味わいたいから。劇場に行くのがこんなに待ち遠しいとは。ビデオは後でゆっくり観ることにしよう。千秋楽も生放送されるので。そちらもまた楽しみ。
*舞台を観て* 舞台上には、家の内部らしいセット。何となくいつものキャラメルらしくないような渋め・重めの色合い。ちょっと「TRUTH」を思い出した。
オープニングから”ZABADAKの音”が響く。これから始まるドラマを暗示するようなイントロ。思わずぞわっと鳥肌。これは本当です。「風を継ぐ者」でもそうだったけれど、ZABADAKの音楽はキャラメルの時代劇に本当によく合う。というか、音楽が芝居を、もっともっと盛り上げている。吉良さん自身がサムライなのでは?なんてね。
のっけから竜馬登場で、出し惜しみしていない。うれしいところ。慶応2年1月23日、寺田屋で竜馬が幕府方に襲われ、逃げるところから物語は始まっていく。ケガをして動けなくなっている竜馬を、通りかかった新選組の立川迅助が手当てしてやる。なるほど、ここで出会うのか。どんな形でこの立場を異にする2人が出会うのか、が興味のひとつの焦点だったので、まずは満足。
迅助のバカがつくほど正直で誠実な面をここでアピール。一方竜馬は襲撃に会って重傷を負っても、尚状況を見据える豪胆なところを見せる。ここで2人のキャラクターがよくわかる。主演2人の腕の見せどころだ。いい出だし。これから起こるであろう事件の前振りとして、楽しませてくれる。
今回は、ベテラン勢の実力を、これでもかと言わんばかりに見せ付けてくれた。西川浩幸さん、大森美紀子さん、坂口理恵さん、岡田さつきさん。この4人が舞台の空気を作っている。この人たちがしっかり脇を固めてくれるからこそ、メインで動く役者さんたちが自分の役柄に打ち込めているのだろうと思う。しかも、この4人がまた面白い!自分も楽しみながら、若手を引き立てる。舞台は全員で作るものだと、改めて教えられる。
話の主な場面は薬種問屋「泉州屋」と、その向かいの華屋という団子屋。泉州屋の蔵に居候している倒幕派の志士たち(奥村大治郎、笠原進八、須田勘兵衛、荒井藤太)を探れという命を受けて、迅助が彼らに接近する。ここまで観て、タイトルの「裏切り」とは、迅助が新選組を裏切るのか、それとも志士たちを裏切るのかな、と思った。これはクライマックスで(ある意味期待通りに)「裏切」られることになるのだが。
新選組隊士である立川迅助は、足の速さを見込まれて、山崎の命を受けて泉州屋に潜む志士をさぐる、つまり密偵である。この時点で、迅助には密偵は無理だろう、と見当がつく。およそ一番似つかわしくないであろう役目を負ったことから、迅助の難事が始まる、と言うわけである。迅助の性格からして、密偵をうまくやりおおせるとは思えない。何か事件が起こるに違いない。と、観ているこちらも期待が高まる。
ストーリはとてもわかりやすい。小むずかしいことを言うのではない。一生懸命に生きようとする人たちの姿を描いたもの、ということができるだろうか。新選組、勤皇の志士、竜馬、泉州屋や華屋といった京の「街」の人たち。それぞれの人たちの思いが、時に近寄り、時に対立し、反発し、すれ違っていく。あまり良い人間として描かれることの多くない山崎でさえ、人間くさい魅力ある人物に見えてくる。同郷の友であり同士である奥村に隠し事をしていた笠原にも、(また勘兵衛や藤太にも)その裏には、自分のやり場の無い思いをぶつける場所を探し続ける当時の志士の姿が見え、哀れささえ感じる。絶対の悪人は登場しないキャラメルらしい。どの人物にも感情移入できてしまう。
主役は迅助ということだが、最初に観たときの印象は、「これって奥村大治郎の話?」だった。奥村大治郎は、倒幕運動に身を投じるために妻美里とも別れ、江戸から京に出てきて泉州屋に世話になっている。そこへ、美里が大治郎を追って京にやってくる。冷たく突き放す大治郎。
一方、密偵として大治郎たちに接近している迅助にも、泉州屋の長女ゆきのとの淡い恋が芽生えるのだが、こちらはあまりよく見えてこない。むしろ奥村夫婦のやり取りの方が、よっぽど印象的で詳しく描かれている。これは私が既婚者なので受け取り方が違うのか、若い(!)人が観たら迅助のラブストーリーの方が主に見えるのかなぁ、とも思ったけれど、実際奥村の回想シーンとか笠原と奥村の会話など、大治郎&美里に関するモチーフが多い。これは、奥村の心情を描いておくことが後で必要になってくるから、だろう。が、この時点で、主役は迅助じゃなかったっけ?という疑問も同時に生じてしまった。
(・・・これは、キャラメルでは時々みかけるのだが(成井さんの手法?)主役とは言っても、その人の話が中心になるのではなく、周囲のできごとを次々と描いて見せて、最後に主役のことに帰ってくる、ということなのか。つまり、主役の人間の目から見た話、ということ?普通に言うところの主役ではなく、ストーリー全般に絡んでいる、という立場。もちろん、その人のことに最終的には収斂していくのだけれど。)
殺陣が、例によってかなりハード。飛び、回り、打ち込み、よける。これを毎回こなしているのだから、相当な体力だ。しかも、獲物を相手の体にまさに当たらんとするところで止める、寸止め。一歩間違えば、大怪我にもなりかねない。稽古の段階で充分呼吸を合わせていなければ、舞台でこうは飛び回れないだろう。実際、西川さん演じる山崎が、笠原(菅野さん)の頭を刀で払ったとき、菅野さんの髪の毛が数本、ふわぁっと浮いたのが見えた。それぐらい近いところを刀が通っていくのである。(稽古の時岡田達也さんが本当にケガをされたそうだ。やっぱりかなりアブナイことをしているんである)
今回の殺陣は、ひとつひとつの「決め」がはっきりしていたような気がする。殺陣にはあまり詳しくないけれど、刀を合わせるタイミングで形ができているのがよくわかる。殺陣としていいのか悪いのかわからないけれど、観ている方としては気持ちがいい。竜馬が藤太、勘兵衛、進八を次々に倒して見得切ってくれるところは、小気味良くてゾクゾクしましたな。
そして、タイトルの「裏切り」とは?
新撰組隊士ら幕府方を襲っていたのは、実は進八たち3人だったことが判明する。血を流すことを極力避けようと奔走してきた竜馬にとって、この行為は許さざるべきものだった。それまではじっと事態を見てきた竜馬だが、ここでついに刀を抜く。「裏切り御免っ!」と叫びながら。
同士として接してきた進八らに刀を向ける、これが今回の「裏切り」の意味。仲間ならば何をしても許容されるということは、竜馬の辞書には無い。道を異にした者とは一緒に進むことはできない。しかしそれは、別の見方をすれば、竜馬が彼らを見捨てた、ということでもある。「裏切」ったのである。言ってくれますな。こりゃあカッコ良すぎだよ、竜馬。男っぷりをいやでも見せ付けられてしまいました。
この芝居のテーマは何だろう。
色々なことが浮かんでくる。迅助の誠実さ、竜馬の気骨、奥村ら幕末の志士の苦悩、奥村と美里の心の通い合い、そして動乱の時代を見てきた女たち・・・etc.観る人それぞれに感じ取ることは違うかもしれない。でもきっと、懸命に生きることの大切さは伝わるのではないか。それぞれの立場で精一杯生きること。そして、大切な人を思うこと。日常のなかでは忘れてしまっているかもしれないその純粋な気持ちを舞台の上に見ることで、何かしら力をもらったような気がするのである。青臭いと笑わば笑え、である。
この作品のひとつの焦点でもある、方言。江戸弁、京都弁、大阪弁、土佐弁が入り乱れる(長州弁も少し)。実は一緒に観にいった友達は関西出身で、しかも身近に高知出身の人も居るという、まさに今回の方言チェッカーのような人だった。彼女によると、「ほぼ完璧」だったようだ。「風を継ぐ者」初演の時に大阪弁の不出来を散々に言われた、ということを知っていたので、まずはひと安心。これもやはり、ベテラン勢4人がとくにすぐれていたらしい。
ただ、竜馬の土佐弁は少しスマートすぎるとか。本当の土佐弁はもっと「田舎くさい」そうだ。その点、畑中さんの土佐弁の方が自然だったようだ。まあ、今回の竜馬は日本中を飛び回って「垢抜けた」のだということにしておこう。(でも、観た人から何かクレームがついた、ということは聞かないから・・・千秋楽終了時点…まずは成功だろう)
気になること。
竜馬が迅助に向かって何度か「殺す」という言葉を言うこと。もちろんこれが本心ではないことはわかるのだが、人の血を流すことを嫌った竜馬が、たとえ脅しでも簡単に「殺す」というだろうか。ここは「ただでは済まない」くらいが妥当なのでは、と素朴な感想。
時代劇というと、どうしても男の芝居ということになるが、今回はちょっと違う要素も加わり、女性の姿が見えてくる。男たちが国を憂うて剣を持って闘おうとしている傍らで、それを見守る女たち。泉州屋のおかみ「うめ」にそれがよく表れていると思う。あの時代の女たちであるから、自分で動くということはないが、時代の動きを敏感に感じとり、男たちの迷いや緊張を理解しようとする。そしてイザという時には毅然とした態度を見せる。そんな「一本筋の通った」女たちを、女優陣が素敵に演じている。これについては後で詳しく。
今回、この芝居を観る機会は4回有った。そのうち2回はTV画面でだが。1回目:東京初日(ビデオ)、2、3回目:劇場にて、4回目:東京千秋楽(生中継)。TVと生とを一緒にしてはいけないけれど、それを有る程度割り引いて、計4回を観た上での各役者さんたちについて感じたこと。
今回の主役立川迅助を演じる細見大輔さん。HPなどで書かれたものを目にしているので、どうしても迅助と細見さんとを混同してしまいそうになる。誠実で何にでも一生懸命で、でも不器用でウソがつけない…云々。こういう見方はあまり良くないと思うので、なるべく避けるようにはしたいのだが。
こういう純粋な人は、あの幕末には珍しかったのだろうか。いや、それは今の時代でも言える。細見さんは、こういう役がよく似合う。夏公演の「嵐になるまで待って2002」の時の幸吉と少しかぶるかな。ゆきのが惚れるのも無理からぬことと、うなづける。迅助は完全に細見さんのものになった。(「風〜」の初演の今井さんも良かったようだけれど、やはり迅助は細見さんでしょう。)細見さん、走り、ネタをとばし、殺陣で飛び回り、本当にハードな役だったと思う。その中で迅助という人物をこれだけアピールしたのだから、大健闘だ。
ただ、公演期間が進むにつれて体力的にも精神的にも疲労が見えてきて、後半の2回はちょっと「辛さ」が見えすぎてしまった。息がつづかない、体のキレが悪くなる、声がかすれる、ネタで笑わせるシーンで微妙にタイミングがずれる(なので笑えない)、等々。劇場へ観にいった2回目の時は、オープニングの迅助のセリフが聞き取りにくく、折角の竜馬との出会いの緊張が今ひとつ伝わってこなかったような気がしたのだ。千秋楽はTVで観たのだが、その限りにおいて、気迫はわかるのだが、それに体が追いつかないという感じだった。キツそうに見えた。そんな細見さんを周囲が助けようとしているのか、他の人は千秋楽に近くなるほど面白くなっていったのだが、ある意味逆に迅助のとの差が開いてしまったようで、ちょっと辛かった。キャラメルは公演期間が長いからなぁ。うむ。
そんな迅助とは対照的に、さっと現れて見せ場を存分に面白がらせてくれたのが竜馬を演じた岡田達也さん。ある意味おいしい。この人いつの間にこんなに貫禄がついたのだろうか。若い志士たちを率いて先頭に立つ男の役が、実際の状況とだぶって見えるような気がする。
司馬遼太郎の「竜馬がゆく」を読んだときの竜馬のイメージにとても近い。私が想像する竜馬と違和感ないのがうれしい。ただ、竜馬にしては少し「可愛い」すぎるような気もしたが。
何回かみるうちに、どんどん竜馬らしくなっていった。最初のうちはいかにも志士という感じで気合いのはいったところが目だったが、劇場で2回目に観たとき、そして千秋楽、と段々力が抜けていってその分竜馬らしさが増していった。泉州屋の母屋でおかみや奥村と話している時に、足を投げ出したり、ごろっと横になったり、「まるで子供のよう」と表現される竜馬の実際はこんな風だったかも、と思わせる。力が抜けていった、ということではオープニングもそんな気がした。
クライマックスの殺陣が一番の見せ場。ここをこんな風に見得きって立ち回ったらさぞ気持ちいいだろうと思わせる。本人はきっと大変なのだろうけど。奥村を倒したあと語りかける場面で、言葉がひとつひとつ聞こえてくる。こういうところは流石にうまい。
竜馬という人物を伸び伸び演じているのが、舞台全体の雰囲気を作っている。主役ではあるけれど、そういう意味では一種脇役的な要素も、この竜馬は持っている。余裕がある、というのか。これが次の舞台でどのように出てくるか、が楽しみだ。
ヒロインのゆきのは前田綾さん。正直言って、最初はあまり期待していなかった。細かいニュアンスを見せるのがあまりうまくないと思っていたから。でも、今回観て、これは撤回。ゆきのという、静かだが芯のしっかりした賢い女性の姿がよく見えた。妹のように人に甘えることはできないけれど、人を思う気持ちはあふれている。迅助への気持ちを抑えて、それでも抑え切れない切なさが伝わってきた。
いつもは声が高くて、時に耳につくこともあるのが気になっていたのだが、公演が進むにつれ、段々低くなってきた。かといって、調子が落ちる、というのではない。抑えた声でも充分気持ちはこめられる。蔵で笠原たちに話す場面が、段々力強くなっていったのが印象的。
ところどころ演技が一本調子になるところもあるけれど、今回はこの人の成長ぶりがとくに目を引いた。これまでやったことの無いキャラクターだろうと思うが、ヒロインとして遜色無いと思う。なんだか役者として一段階段を上がったように見えた。もっともっと細かい感情が表せるようになったら、本当にヒロインとして、素敵な人になるだろう。これからの期待度が一気にアップ!
ただ、残念なのはカツラ。もっと合うのはなかったのかな。
志士のリーダー奥村大治郎役の大内厚雄さん。この人はこういう「強面の男」の役が本当によく似合う。最初はこの芝居奥村の話だろうと思ったほどの存在感が有った。昨年からの他公演での客演で得てきたものが、ここで出ているのかもしれない。
厳しい顔をしていつも怒っているかのような奥村。それでいて、美里のことを忘れられない。回想から現実に戻って、美里が居ないことに気づく場面の当惑した寂し気な表情がいい。進八が幕府方を襲っていた犯人であったことがわかる時の、まさかお前がという声の調子とか、期待通りだった。いくつかネタも出していたけれど、ヘタに笑わせようとしない方がこういう役の時はいいのでは。
本公演は久しぶりの菅野良一さん。「賢治島探検記」の時よりは少しスマートになられたような。奥村の親友として、そして美里の兄として両方の思いがわかる立場の笠原、相変わらずうまい。場面場面で声を使い分ける人だが、時々わざとらしくなってしまうのが惜しい。でも、すごむ時の迫力はなかなかのもの。幕末というとこの人の冲田総司が定番化していたが、武士として「かっこいい」ことが今回よくわかった。よく言われている滑舌もあまり気にならなかった。研究生活がいそがしいだろうが、やはりもっと舞台で見たい人だ。
幕末の志士須田勘兵衛は畑中智行さん。声が太くておおきいし、動きも早い。舞台上で自然と目が行く人のひとりでもある。こういう荒っぽい役がよく似合う。「風を継ぐ者2001」以来、私の中では志士といえば畑中さん(と首藤さん)、という感じになっている。でも、これだけではつまらないので、もっと繊細な役とかもやって幅を広げて欲しい。ナイーブな少年とか似合いそうな気がするのだが。これから課題はまだまだあるだろうけれど、楽しみな人だ。
同じく志士を演じた三浦剛さん。この人も声が大きくて力強い。武士にはもってこいだ。背も高いし、見栄えがする。武士も似合うけれど、案外気弱でダメな男もイケルのではないかと、密かに思っている。今回はあまり繊細な演技は必要なかったようだけれど、これから色んな役をやっていく中で、自分はコレというものを見つけていけるといいな。
西川浩幸さんには、本当に楽しませてもらった。この人のエンターティンメント魂は根っからのものだ、と思う。こんな山崎蒸は、さすがの司馬先生も想像しなかっただろう。何しろ、赤い襦袢を着て出てきちゃうのだから。(あれはもっと観たかったなぁ)己の仕事に忠実、時と場合によっては人の命も惜しくはない。そんな冷徹な一面も見せながら、これだけ笑わせてくれるのだから、サービス満点である。根っからの浪花の商人(あきんど)のような、小ずるく立ち回りそうなヤツ。しかも、決めるときにはびしっと決める。大阪弁がとても板についていた。この山崎がいるから、迅助のキャラクターが際立って見えるのである。脇として、これほど頼もしい人はいないだろう。
でも、たまには西川さんが主役の作品も観てみたい。(以前のようにとはいかないまでも)舞台の真ん中で一番動いて一番光っている西川さんを是非観たいものである。(そういえば2001年の冬公演「ブリザード・ミュージック」では主役だった。あのミハルに語りかけるクライマックスの清吉、本当に若い青年のように見えた。絶品だ)
奥村の妻美里はダブル・キャストで、greenは小川江利子さん。つつましくてかわいらしい、でも武士の家の女らしくきりっと立っている。やっぱりこの人ウマイ。登場しただけで、ある程度美里のキャラクターがわかる。声の出し方もいい。大切な人を気遣う気持ちが切々と伝わってくる。回想シーンでは、本当に若くなったように見えた。奥村に話しかけるときのいたずらっぽい調子が、なんとも若い娘らしくかわいい感じでいい。今のところ、若手でヒロインをやるとしたら、私の中ではこの人がイチオシ。
redは温井摩耶さん。残念ながら、小川さんとくらべると、まだまだ硬い。実は今回はgreenを観たのは1回だけ。だから温井さんの美里は都合3回みているのだが、小川さんのたった1回の印象が強すぎて、ついつい比べてしまう。全体に一本調子だった。まだ「美里らしく演じている」という印象。でもかなり頑張っていて、千秋楽には随分いい感じになってはいたけれど。声を張り上げるところなどは、ただ大声、という風になってしまう。もともと少しきつめの声なので、聞こえやすくなれば、もっと受ける感じも違うと思うのだが。
西川さんに次いで楽しませてもらったベテラン女優陣。キャラメルっていい女優さんがいるんだなぁ、と改めて思った。いや、今まででもそうだったのだけれど、今回は特にひとりひとりの個性が際立って、面白かった。アテ書きされているのだろうけれど、それにしてもこんなはまっている配役は珍しいのでは。
泉州屋のおかみ、うめは大森美紀子さん。いかにも京の老舗のおかみさんだ。きっとこの店の娘で、旦那は養子なのだろう。店を守るということが身にしみついている。(旦那は登場しないしね)大事に育てられたのだろうが、商人としての気構えだけはしっかりと叩き込まれてきた、という感じ。出番そのものはそれほど多くはないが、彼女の後ろに沢山ストーリーが浮かんでくるのはさすが。はんなり。
泉州屋の上女中もん役の坂口理恵さん。この人の存在は大きい。今回は徹底して笑わせる役どころだったが、一瞬舞台に藤山直美さんが居るのかと思ってしまいそうになった。サンシャインが松竹になったような。いや、ほんっと面白い。笑いのタイミングをはずさない。この人のしゃべり方、間合いは独特のリズムが有って好きなのだけれど、今回さらに磨きをかけた坂口さんに出会えて、うれしかった。でも、これを機に段々年配の役が増えそうだなぁ。
団子屋華屋のおかみ、るいは、岡田さつきさん。大阪弁がよく似合う。抜け目ない大阪のおなご。でも人情は人一倍厚い。こんな風に生活力のある地に足の着いた人がきっと昔はたくさん居たのだろうなぁ、などと勝手なことを考える。部分的にナレーターとなって、場を転換するのもうまい。この人の語りは手紙を読むシーンで聞くことが多いが、客席に語りかけてくれるのもいい感じだった。細かいところまできちんと出来ている人なので、安心して観ていられる。升三との掛け合い漫才が随所で光る。舞台の端にいても、ちゃんと視界に入ってくるのはさすが。
ゆきのの妹あやのもダブル・キャスト。
greenは新人の實川貴美子さん。最初に観たのはこちらのあやの。ワガママな娘そのままだった。したい放題にしてきた大店(おおだな)のお嬢さんという感じ。迅助に迫るところも自然で、初舞台とは思えない落ち着きぶり。声で、岡内さんより少し得してるかも。今後が楽しみだ。
redは岡内美喜子さん。最初に観たのは、初日のビデオ。これは実はあまりよくなかった。というより、實川さんの印象がとても強かったため、どうしても比べてしまう。それらしくはあったけれど、本当はいい子なのにわがままぶっているという感じが残っていた。けれど、劇場で2回目に観たときは、随分変わっていて、あやのらしくなっていて驚いた。甘え声も板についてきて、迅助をからかう素振りもかわいい。短期間でこんなに変われるんだ。
ダブル・キャストの最後は華屋の主人升三。これは三吉と逆の配役になる。
greenはこれも新人の筒井俊作さん。ふっくらとした体型が団子屋の主人にぴったり。るいにいいようにされている様子が多分稽古場でもこんな風だったのだろうと思わせる。ご本人は多分いっぱいいっぱいだったかもしれないけど、初舞台にしては面白くて笑わせていただきました。これから沢山の役をこなして、光っていってほしい。
redは佐藤仁志さん。(今回本当は石原善暢さんが初舞台のはずだったが、直前でのキャスト変更。石原さんは、次の春公演までおあずけとなった。)「嵐になるまで待って2002」のところでも少し書いたけれど、この人いいもの持っていると思うのに、もう一歩何か足りない。確かに女房の尻に敷かれているというのは、はまりのキャラかもしれないけど。それがおかしみにつながりにくい。妙に本当っぽくなってしまう。筒井さんの升三が、ちょっととぼけた味を出していたのと、どうしても比べてしまう。う〜ん、もう一歩突き抜ければ、すごく良くなりそうなんだけどな。(ただし、筒井さんは初舞台ということで、たまたまいい役にめぐり会ったということかもしれないけど)
最後に
「風を継ぐ者」を踏まえた作品だということではあるが、内容的には全く違うものになっていると思う。「風〜」が闘う男たちの話だとすれば、こちらは苦悩する男たち。幕末の情勢の中でいかに生くべきかを悩み、答えを求めながら日々を過ごす。或いは、自分の使命と信念の間で揺れる男。迅助も奥村も他の志士たちもみな、苦しんでいる。出口を探してぶつかり合う。
竜馬という(キャラメルの中でも)「有名人」を出すことによって、楽しめる要素を増やし、観て面白いものに仕上げてはいるけれど。
やり方によっては、とても渋い芝居にもなり得る。もっとも、それではキャラメルではなくなってしまいそうだけど。ただ、こんな芝居が登場した、ということが、成井さんが意図したかどうかは別として、キャラメルの変化をある意味表しているのかもしれない。
<観劇データ> サンシャイン劇場 1) 日時: 2002年12月11日(水)14時 green 席 : 1階8列13番 2) 日時: 2002年12月18日(水)14時 red 席 : 1階12列30番