その警官は巡回区域の通りをこれ見よがしに歩いていた。これ見よがしなのは習慣的なものであって、だれに見せようというわけではなかった。というのも、見物人はほとんどいなかったからだ。時刻はまだ夜
行く先々の戸口を確かめながら、警棒をくるくると複雑かつ巧みに振りまわしつつ、ときおり急に首を回して公道に用心深い目を向け、若干ふんぞりかえって歩く体つきのがっしりした警官。平和の守り手のみごとな絵姿である。このあたりは夜早く寝静まり朝早く目覚める一画だった。煙草屋や終夜営業の定食屋の照明がときどき目につく。が、大部分が商業地区に属するため、戸口は軒並みとっくに閉ざされていた。
あるブロックの中ほどまできたところで、とつぜん、警官は歩くスピードを落とした。灯りを落とした金物屋の戸口に、葉巻をくわえた
「なんでもないよ、お巡りさん」と男は言った。「友だちを待ってるだけ。
「
戸口にいた男は葉巻に火をつけようとマッチをすった。その火灯りが男の顔を照らし出した。顔色は青白く、あごはしゃくれ、目つきはするどく、右の眉のあたりには傷跡があった。スカーフピンは妙なセッティングの大きなダイアモンドだった。
「
「かなり興味深い話です」と警官は言った。「再会までの時間がちょっと長すぎるような気もしますけどね。その友だちは、別れた後に手紙を書いてこなかったんですか?」
「まあ、しばらくはやりとりもあったんだがね。
待ちつづける男は凝った懐中時計を取りだした。上蓋には小さなダイアモンドがいくつもあしらってある。
「
「西部ではかなりうまくいったんでしょうね?」
「そのとおり! ジミーがおれの半分でもうまくやっててくれればいいんだが。あいつはこつこつやるタイプだったからな、いいやつではあるんだけど。おれはおれが積み上げてきたものを横取りしようとする頭の切れる連中と渡りあってこなきゃならんかったんだ。ニューヨークにいるやつはみんな型にはまっちまう。触れれば切れるような人間を育てるには西部にかぎるよ」
警官はくるくると警棒を回し、少し足を踏み出した。
「さて、私はもう行きます。その友だちがちゃんときてくれるといいですね。その時間きっちりまでしか待たないおつもりですか?」
「まさか! 少なくとも
「おやすみなさい」と警官は言い、巡回にもどって、行く先々のドアを確かめつつ去っていった。
空模様はいまや小雨になり、そっとひと吹きという案配だった風もびゅうびゅうと吹きつけはじめた。その地域に足を伸ばしていた数えるほどの通行人が、憂鬱そうに押し黙り、コートの襟を立てて両手をポケットに突っ込んだまま走っていく。金物屋の戸口では、若き日々の友人との、不確かで、馬鹿げているとさえ言えそうな約束を果たすために千マイルのかなたからやってきた男が、葉巻をふかしながら待ちつづけていた。
男は
「ボブか?」と男は疑わしげに尋ねた。
「ジミー・ウェルズか?」戸口にいた男が叫んだ。
「なんということだ!」と新来の男が大声を上げた。相手の両手をにぎりしめながら。「ボブだ、ほんとうにボブだ。おまえがまだ生きてるんならきっとここで会えると信じていたよ。なんと言ったらいいだろう!――
「最高だね。欲しいものはなんだって手に入る。おまえはずいぶん変わったようだな、ジミー。おれより
「いや、おれは
「ニューヨークではうまくやってるのか、ジミー?」
「まあまあだな。市役所に勤めてるんだ。行こう、ボブ。いい場所を知ってるんだ。そこで心行くまで昔のことを話そうぜ」
角には電灯まばゆいドラッグストアが立っていた。その灯りが
そのとたん、西部からきた男は立ち止まり、腕をふりはらった。
「おめえ、ジミー・ウェルズじゃねえな」とかみつくように言った。「
「善人を悪人に変えてしまうことはあってもね」と背の高い男が言った。「おまえはもう
西部からきた男は手渡された小さな紙切れを広げた。読み始めていたときはしっかりしていた手も、読み終わったときには少し震えていた。手紙はむしろ短かった。
『ボブへ。おれは時間どおり約束の場所に行ってきた。おまえが葉巻に火をつけようとマッチをすったとき、おれはその顔がシカゴで手配されている男の顔だと気づいた。なんにせよ、おれはおれの手でおまえを捕らえるのが忍びなかった。だからおれはその場を去り、仕事を私服刑事に任せたのだ。ジミーより。』